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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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これからのルート




広大な草原の中に、ポツポツと田畑が見え始め、

やがて広大な農地に囲まれた、大きな町の外壁が見えてきた。

すっかり陽が傾き、夕陽に照らされた外壁は、

一国の王城を囲っているのかと思うほどに高く大きく、

あらゆる外敵を拒んでいるように見えた。


その町が『メトレイオフロン』。

昼間、立ち寄った小さな町『プラテリーア』に比べたら雲泥の差だな。

外見の立派さ、町の規模、町民の多さ、何よりも活気が溢れている。

ほかの町と違って、外壁の周りに、貧しそうな者たちがいない。

田畑を彩っている緑の作物に囲まれていて、景観がいい。


「町の外に、誰もいないな・・・。」


シホが独り言のようにポツリとつぶやいた。

それは、つまり・・・税金を払えない者たち、

町の中で住めない者たちは、きっと

町のそばで暮らすことも許されず、排除されてしまったということだろう。


町の出入り口には、帝国軍の騎士たちがいた。

特に検査などは行われず、馬車は通過していく。

町の中も、とても広い通路だ。

こげ茶色のレンガの家が多く、町中の雰囲気もいい。

大勢の町民だけじゃなく、商人たちがあちこちで露店を広げており、

どこを見ても、何かしらのお店が目に映る。

町というより大きな街という感じだ。


大型馬車が数台並んでいる大広場に到着した。

ここが停留場らしい。


「やっと着いたな。大丈夫か?」


「うぅ・・・はい・・・なんとか。」


馬車が止まってから、オレは立ち上がり、

アルファとニュシェに話しかけた。


「さ、アルファさん、あたしの肩につかまって。」


「え、えぇ、ありがとう。」


ガクン


「! アルファさん!?」


「お、おい!」


アルファがニュシェの肩に掴まって、立ち上がろうとしたが、

そのまま片膝をついて倒れそうになった。

とっさにオレがアルファの体を支えた。


「ご、ごめんなさい・・・チカラが・・・入らなくて・・・。」


「分かった、もういい。喋らなくていい。」


オレは、アルファを抱きかかえて馬車を降りる。

なんとも軽い、アルファの体。

これほどまで弱ってしまうとは・・・。


「お、お客さん、大丈夫かい?

病院なら、ここから南の方角にあるからな。

まだ開いている時間だと思うから、行ったほうがいいぞ。」


馬車の御者ぎょしゃが、心配そうに、そう言って

病院の場所を教えてくれた。


「ご迷惑をおかけしました。大丈夫です。

それより、今から宿泊できそうな宿屋はありますか?」


木下が、すかさず謝りながら御者に運賃を払った。

御者の勧める通り、アルファを病院へ連れていきたいところだが・・・

アルファは普通の病人ではないから、安易に病院へ連れて行けない。


「あぁ、この町の宿屋は、どこもかしこも大きいからな。

どこの宿屋も、いつでも泊まれるはずだぜ。

ただし、この町の宿屋は、ほかの町より高額だけどな。」


御者がお金を受け取りながら、木下の質問に答えてくれた。


どこの宿屋もいつでも空いているなら、ありがたい。

オレたちは御者に礼を言って、

この場から一番近い宿屋へと移動した。


木下が受付で値段交渉したようだが、

さすがに値下げはできなかったようだ。

今は、じゅうぶんな旅の資金があるし、

弱り切ったアルファを早く休ませたかったので、この宿屋に決めた。

宿屋『サリール』。立派なレンガ造りの3階建て。

なんと屋上が青空食堂という名の食事処で、

天気によっては、各部屋で食べることになるらしい。

木下は、一部屋だけ用意してもらうつもりだったらしいが、

部屋に設置されているベッドの数以上の

人数で宿泊することは禁止されていると説得されたらしい。

さすが高額の宿代をとる宿屋らしい対応だな。

仕方なく、3つの宿泊部屋に分かれることに。


オレたちは、2階の宿泊部屋へ移動した。

ニュシェにばかり任せていられないと感じ、

アルファはオレがずっと抱きかかえて移動し、部屋へと運んでやった。

そうして、オレとファロス、木下とアルファ、シホとニュシェ、

それぞれの部屋に分かれた。


「お、こっちも似た感じの部屋なんだな。」


オレたちは、一旦、各部屋で荷物を置いてから、

木下がいる部屋へと集まった。


「しー・・・。」


「あ、すまねぇ。」


ニュシェが人差し指を口に当てて、シホに注意を促す。

部屋にある2台のベッドのうち、片方のベッドでは

アルファが疲れ切って眠っているところだった。


「つらそうでしたからね・・・。」


「あぁ・・・。」


木下が、心配そうな声でそう言った。


「それにしても大きな町だな。

いろんな店があるから、見て回りたいところだけど。」


シホが窓から外を眺めながら、さっきよりも小声で言った。

少し暗い空気を察して、あえて違う話題を振ったように感じた。


「ここ『メトレイオフロン』は、この国の東部では

最大規模の町とされていて、ここより東には

この町より大きな町はないようです。

ここから西へ向かえば、国の中心部『帝都・ソウガ』があるため

東から来る人たちは、必ずここを通るので

おのずとこの町が栄えてきたのでしょう。

ですが、ほかの町よりも税金が高くて、

どこのお店も高値で取り引きされているようですね。」


木下が地図を開き、シホの話に応えているようだが、

実際は・・・無駄な買い物を控えるようにと

注意しているように聞こえる。

木下が一番無駄な買い物をしそうだが。


「わ、分かってるよ。節約だろ。」


「はい、その通りです。」


2人の話が落ち着いたのを見計らって、

オレは話を切り出した。


「さて・・・アルファが寝ているが、大事な話をしたい。

これから、どうしていくかについてだ。」


オレがそう切り出すと、みんなが真剣な顔つきになった。

アルファとも話し合いたかったことだが・・・

もしかしたら、ブルームが目を覚ますかもと思ったが、

ひとつしかない体の体力が、ここまで消耗していては

人格が切り替わっても起き上がってこれないのだろう。


「このまま東へ向かって行けば、

町『ノースス』、その次に『シワン』村を経て、国境の町『バーティング』、

そうして、隣国『ヴェルブリュート王国』へ・・・。」


木下が地図を見ながら、そう説明してくれた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。」


そこでシホが割って入る。


「おっさんたちが早く『未開の大地』へ辿り着きたいのは分かるけどさ。

今日みたいな移動の早さで進んでいくのは、ちょっと待ってほしい。」


「あ、あたしもそう思う・・・。」


シホの意見にニュシェが小さな声で同意する。


「・・・分かってます。」


「え。」


「クラリヌスさんの体調のことでしょう。」


木下がそう言って、眠っているアルファを見つめた。


「シホさんやニュシェちゃんが心配しているとおり、

今日のような移動の早さでは、

クラリヌスさんの体への負担が大きいことが分かりました。

おじ様と話し合ったのですが、この先、

大型馬車に乗る時間を減らしたいと思います。

もちろん、ずっとその移動方法だと目的地へ辿り着くのが

1年以上かかってしまいそうなので、

クラリヌスさんの体力次第、ということで、

しばらくの間だけ・・・ということにしたいと思います。」


木下が、そう説明し出した。

木下がオレと話し合ったというのはウソだ。

馬車内で目と目が合っただけ。

でも、オレも、ゆっくり移動しなければならないと思っていたから

木下が説明してくれてよかった。


それにしても、相変わらず、さらりとウソをつくのだな。

パーティーのリーダーが同じ意見であるということを

強調しておいて、自分の意見を話し始めれば、

シホたちに同意を求めやすいわけだ。

木下がそのつもりなら・・・

オレからの大事な話もしやすくなったというもの。


「よかった。」


木下の説明を受けて、ニュシェが小さく微笑んだ。

どこへ移動するにしても

アルファの世話をしてくれたニュシェだからこそ、

アルファのことを一番心配していたんだと思う。


「それで、オレからの大事な話というのは・・・

これは、木下と相談して決めたことだが、

これからの旅のルートを少し変更したい。」


「え!?」


だれよりも驚いたのは木下だった。

その顔が見たかった。


「このまま東へ向かうのは変わりないが、

方角を少し北へ・・・北東に進みたい。

そうして、この先の・・・。」


オレは木下が広げている地図を指さす。


「魔法大国を経由して東へ進みたい。」


「ま、魔法大国って、『ウィザード・アヌラーレ』か!」


「魔法たいこくって?」


シホが驚き、ニュシェが不思議がっている。


「お、おじ様?」


「アルファの体に残っている『呪いの紋章』を消してやりたい。

たとえ今は効力が無くても、奴隷のあかしみたいな紋章が

この先、ずっと体に残ったままというのは、残酷な話だ。

聞けば、その魔法大国へ行けば、

『呪い』の類いに詳しい者が多く住んでいるという。

『未開の大地』にあるという『エルフ』の国へ行く前に、

どうせなら、アルファの体をキレイにしてやって

母国へ帰してやりたい。」


これは、今思いついたわけではない。

アルファを・・・クラリヌスを仲間にすると決めた時から

考えていた事だった。


「な? ユンム?」


「ぅ・・・そうですね。」


オレが念を押すと、木下が少し強張った作り笑顔でうなづいた。

多少、強引な話の進め方をしたが、

どの道、木下なら賛成してくれていたと思う。


「おじさん、いいね、それ! そうしよう!」


「へぇ、おっさんにしては、いいこと考えたな。」


「拙者も同感でござる。」


ニュシェたちも賛成してくれた。

ちらりと木下を見たが、一瞬するどい目つきになった後で、

「仕方ないですね」みたいな軟らかい表情になっていた。


「では、そのようにルート変更するとして・・・

明日は・・・。」


そう言って、気を取り直して地図を見始めた木下。


「と、ちょっと待ってくれ。

明日は、アルファ・・・クラリヌスさんの体調の様子見として、

ここに一日だけ滞在しないか?」


「うーん・・・。」


立て続けに、相談も無しにオレの意見を言ってみた。

木下は即答せず、迷いながらクラリヌスのことを見て、


「そうですね。明日は一日、お休みしましょうか。

ここから『帝都』が近いので・・・また『ソウルイーターズ』の

刺客が、いつ襲ってくるとも分からないから、

私としては、早く移動したい気持ちもあるのですが・・・。」


木下は迷いながらも、オレの提案を飲んでくれた。

木下の急ぐ気持ちも分かる。

また、いつ『例の組織』に、町ごと襲われるかと思うと、

一日たりとも、この町に滞在していてはいけない気がしてくる。

しかし、クラリヌスは、

本来、まだ入院していなければならない体なのだ。

これだけ体調を崩してしまったクラリヌスに

また早い移動を強いるのは避けたい。


「そうだな。ユンムさんの気持ちも分かるけど、

今は仲間の命を優先させて、一日だけ、

しっかり休んだ方がいいと思うぜ。」


「うん、あたしもそう思う。」


シホもニュシェも賛成してくれた。

ファロスも力強くうなづいてくれている。


「ありがとう、みんな。」


オレは、素直にお礼を言った。


「おいおい、おっさんのためじゃねぇぜ。」


シホに茶化ちゃかされてしまったが、

そんなシホも嬉しそうな顔をしている。


「では、明日はお休みをいただくとしましょう。

変更後のルートについては、私が調べておきますね。」


「あぁ、頼む。」


木下がそう言って、地図を見始めた。

木下に任せておけば、すぐにルートが決まるだろう。





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