親父の夢
「・・・健一・・・。」
誰かが・・・呼んでいる。
「ぉぃ・・・! 健一・・・!」
あぁ・・・親父の声だ。
聞こえてるよ。
ここは・・・オレの家か。
「まったくお前ってやつは!
人が話している時は、ちゃんと人の顔を見るもんだ!
ほら、見ろ! 健人のやつは、ちゃんと聞いてるだろ!」
健人? 本当だ、健人がそこにいる。
なんだか幼いな。小学生ぐらいか。
ちょこんと座って、親父の方を見ている。
こいつは昔から、人の話を黙って聞くやつだったな。
相づちを打つことも返事をすることもないから、
本当に人の話を聞いているかは疑問だったが。
「まぁ、香織ちゃんは興味が無さそうだな!
わっはっはっは!」
香織もいるのか? 本当だ、香織だ。
こちらも幼い。幼稚園児のようだ。
寝転がって、絵を描いている。
懐かしい・・・よく虹の絵を描いていたっけ。
親父の豪快な笑い声・・・久々に聞いたな。
よく見れば、親父も若いな。オレと同じぐらい?
いや、オレより若いんじゃないか?
ところで、話ってなんだよ?
「なんだよって、なんだ!
ご先祖様の英雄譚だ! ありがたく聞け!」
あぁ、また始まった・・・。
遠いご先祖様がドラゴンを討伐したって話だろ。
何度も聞いたから、もう聞きたくないんだよ。
でも・・・聞かないと怒るからなぁ、親父。
めんどくせぇ・・・。
「遥か昔~! あらゆる種族は~、仲良く暮らしていた~!」
普通に語ればいいものを、ヘタクソな歌っぽい口調で語るから、
いまいち内容も聞き取りづらいんだよ・・・。
たしか、旅してる吟遊詩人のマネだとか言ってたっけ。
「創造する神が~、あらゆるモノに命を与え~、
混沌を望む悪魔が~、命に魔力を与えた~!」
そのへんのくだりは、学校の歴史の教科書にも、
似たようなことが書かれているぐらい、誰でも知ってる話だ。
人間が魔法を使えるようになったのも、その悪魔のおかげだとかで、
悪魔を崇拝する邪教もあるとか。
でも、その悪魔のせいで・・・
「魔力の暴走! 理性が乱れ~秩序が乱れ~!
獣は魔獣と化し、獣でないモノは魔物と化した~!」
そうだった。魔獣は、元々は獣だったんだ。
獣でないモノが魔物になって・・・
「大きな争い~絶え間なく~!
英知を授かっていたドラゴンたちの中にも~、
魔力の暴走を止められないモノが出た出た~!
あらゆる種族を食い荒らし、あらゆるモノを壊し続ける悪いドラゴン!
その名も悪龍~!」
そうそう、ドラゴンは魔獣じゃなくて魔物なんだ。
でっかいトカゲみたいなイメージだから魔獣みたいに感じるけどな。
人の言葉を喋るドラゴンもいるとか。
「ドラゴンたちだけでは討伐できない悪いドラゴンを~、
神から特別に~太陽のチカラを授かった~、我らがソール~!」
え? 太陽? そうだったか?
ソウルって魂の事じゃなかったのか?
あれ? オレの勘違いだったのか?
「それこそ、我らがご先祖様たち、ソール竜騎士団~!
北の魔鉱石を手に~、南の槌で聖剣誕生~!
西で従者と合流し~、東の大地で大決闘~!
世界を旅して大暴れ~~~!」
ソール竜騎士団・・・。
そうだ、そうだ、そうだった。
ドラゴンが栄えていた時代には、ドラゴン討伐が当たり前で、
竜騎士団ってものがあったんだ。
・・・というか、なんだ? 北の魔鉱石?
南の土? 西で合流?
親父、ご先祖様は西で誰と合流したんだ?
「仲間の△◆騎士たちが、悪龍の翼を捕え~! 足を捕える~~~!」
え? なんの騎士だって? ただの騎士じゃないのか?
なんて言ったんだ、親父?
「悪龍の吐くブレスが~、大地を潰す~!
仲間たちもどんどこ潰される~!」
物語が佳境に入る。どんどこって・・・。
悪龍は、どんなブレスを吐いたんだろう。
幼い頃から、それが疑問だった。
親父は答えてくれなかったけど。
「飛べなくなった悪龍を、我らがご先祖様たちが、
えいや~! お得意の必殺技で~、どんどこどーーーん!」
「ははっ・・・。」
なんだよ、変な擬音だな。
でも・・・このくだりを歌っている時の親父は、
竜騎士の動きを見せてくれて、それが本気でかっこよくて。
小学生の頃は、夢中になって話を聞いていた。
中学生の頃には、めんどくさく感じて・・・
それでも、親父が話し始めたら、
最後には夢中になって聞いていたっけ。
「見事~悪龍を討ち取った~! どどん!
盟約によって、我らがご先祖様たちは~・・・哀れ・・・!」
懐かしい・・・。
本当に懐かしいな、親父。
亡くなった時には、げっそり痩せ細ってたけど、
こんなに元気な頃があったんだよな。
「・・・ドラゴンの・・・会う時は聖剣・・・!」
騎士団に就職できても、隊長にはなれなかった親父・・・。
普段は、仕事以外の話をしてくれなかったけど、
酔っぱらった時だけ、上機嫌でご先祖様の英雄譚を話してくれた・・・。
オレが隊長になった時、すごく喜んで、褒めてくれたよな。
「健一・・・△▼年後には、盟約・・・!」
親父・・・。
「悪龍は・・・また・・・。」
オレにも、ドラゴン、倒せるかな?
「健・・・一・・・。」
ドラゴン倒せたら、親父は、また褒めてくれるか?
「もう時間だよ、おじさん。」
えぇ!?
「起きて、おじさん。朝だよ。」
「んん? ふぁ・・・んーーーおはよう、ニュシェ。」
「おはよう、おじさん。」
突然、親父がニュシェの声で話しかけてきたと思ったが、
どうやら、夢から現実の世界へ、ニュシェに起こされたようだ。
まだ外が薄暗いようだが、陽が昇る前の早朝か。
・・・不思議な夢だった。
起きても夢の内容を鮮明に憶えているなんて珍しい。
忘れかけていた、ご先祖様の話も
少しは思い出せた気がする。
これは、親父からの何かの知らせだったのだろうか?




