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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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不安な仲間




集中治療室のドアの前には誰も居なかった。

ファロスとシホは、どこまで行ったんだ?


それにしても・・・


「ぁぁ・・・ぁぁ・・・!」


「っ!」


ドアの前にいると、治療室の中の声が、少し聞こえてきてしまう。

オレは慌てて、誰もいない廊下を歩きだした。


それにしても・・・失敗した。失言というべきか。

居たたまれなくなって、さっさと話を切り上げるために

相手の要望を無条件で受け入れてしまった。

あいつめ・・・。

そういえば、クラリヌスは大昔、

当時の騎士団長みたいな男に鍛え上げられたんだったか。

無詠唱で魔法を発動できるほどの実力があるし、きっと頭もいいのだろう。

あれが、あいつの交渉術か。

あからさまな色仕掛けだったが、まんまとしてやられた。

あの医者が黙々と作業していたのが信じられない。

本当に、医療行為として毎日、患者の裸を見ているから

あんな色仕掛けも、へっちゃらということか。


しばらく長い廊下を歩いていくと、この病院の受付前にある

待合室で、ファロスとシホが椅子に座っているのが見えた。


「お? おっさんも出てきたのか?

それとも、もう契約書の焼却は終わったのか?」


シホに話しかけられたが


「いや・・・途中で抜けて来た・・・。」


なんだかバツが悪くて、オレはうつむきながら答える。


「あははっ! なんだよ、おっさんもか。

ファロスといい、おっさんといい、女への免疫力が無さ過ぎだろ。」


シホに笑われたが、言い返す言葉もない。

オレもファロスも、うつむくだけだった。

ファロスがあの場にいたら鼻血は避けられなかっただろうな。


「ま、まぁ、だからってマジマジと見過ぎるのもアレだしな。

ファロスの行動は間違ってないと思うぜ?」


シホは、ファロスだけ励ましている。

当のファロスは、


「面目ない・・・。」


すっかり落ち込んでいて、床を見つめている。

オレが来るまで、シホが励まし続けていたのだろうか?

落ち込むほどではないと思うが、ファロスはファロスで

こんなことで恥ずかしがってしまう

自身のことを情けないと思っているのかもしれない。

それを励ますシホも健気けなげだな。


さっきクラリヌスと話していたことを、

今、この2人に言うべきか?


いや、クラリヌスとの話は、

仲間たちに何も相談せずに決めてしまったことだ。

まだ決定したわけじゃないと言い張れば、なんとかなるか?

まずは、この2人の意見を聞いてみるか。


「じつは、さっきクラリヌスに

パーティーの加入をお願いされたのだが・・・。」


「え!? あのクラリヌスさんがパーティーに!?」


シホが驚きの声を上げているが、表情から察すると、

クラリヌスの加入に前向きな感じがする。


「あー、いや、まだ決まったわけではないというか、

決めてしまったというか、決めさせられたというか・・・。」


仲間に相談もせずに決めてしまったことを後ろめたく感じて、

素直に言えず、逆に変な言葉を口走ってしまった。


「どっちなんだよ? 返事を保留にしてるってことか?」


「あー、そう、そんな感じだ。

シホやファロスの意見も聞きたくてな。」


「そうなのか。慎重だなぁ、おっさんは。

俺が言うのもなんだけど、

『ドラゴン討伐』を目的としたパーティーに

自ら入ってくれるやつなんて、なかなかいないと思うぜ?

それに、クラリヌスさんは無詠唱で魔法を発動できる実力者だろ?

長生きしている分、経験も豊富だろうし、大歓迎じゃねぇか。」


シホが明るい声でそう言った。

そうだよな。シホの言うことは一理ある。

オレたちの旅の目的を知りつつ、パーティーへ加入するやつは、

たしかに、そうそういないだろう。


「しかし、その・・・。」


それまで黙っていたファロスが口を開く。


「クラリヌス殿のお体は、大丈夫なのでござろうか?

つい数日前までは、餓死がし寸前のような状態だったはず。

これから普通に歩けるようになるには、どれだけかかるのでしょうか?

それに、拙者たちパーティーは、『ソウルイーターズ』たちに

命を狙われている身ですし、普通のパーティーよりも危険な旅でござる。

果たして、クラリヌス殿に、そこまでのご覚悟があるかどうか・・・。」


「お、おぉ! そうだな! そうだよな!?」


さすがファロス。オレよりも慎重な性格だな。

そして、たしかにこちらも一理ある。

あの脆弱ぜいじゃくな体で、まともに歩けるようになれるのは、

いったい、いつになるのか?

はっきり言って、待ってやれる時間は無い。

そして、例の組織に命を狙われているのも確かだ。

普通の傭兵パーティーではないのだ。

ファロスが言ってくれた問題を、

あとでクラリヌスへ突き付けてやれば断れるかもしれない。


「そんなの、とっくに覚悟の上だろう?

俺たちが、あの騎士のやつにやられそうなところを

誰に救ってもらったんだよ?

移動は、ファロスかおっさんがクラリヌスさんを

背負ってやればいいじゃねぇか。

だいたい、馬車での移動になるからな。

そんな手間にはならないんじゃないか?」


「あ・・・。」


「そ、そうでござった・・・。」


シホに言われた通りだった。


菊池という騎士に襲われていたところを

医者とともに助けに来てくれたのが、クラリヌスだったし、

あの時、相手が例の組織だと知らなかったにしても、

すでに帝国軍と事を構える覚悟があったのは間違いない。

つまり、今さら旅の危険度を伝えたところで

クラリヌスに諦めさせることは無理だろう。


そして、体にしても、一生歩けないわけではないから、

回復するまで背負って移動することも可能だろう。

女性一人、背負うぐらいは苦ではない。


オレもファロスも、シホに返す言葉が見つからなかった。




しばらく待合室にいたら、あの医者と

木下とニュシェが廊下を歩いて来た。


「6つの『呪いの紋章』の契約書焼却が無事に終わったよ。

契約書の効力は、はるか昔に切れていたけど、

完全に無効化するための焼却で、これほど影響があるとは・・・。

やはり、呪いというのは恐ろしく強力だね。

体への負担は大きかったようだが、

彼女は奇跡的に持ちこたえたみたいだ。」


医者が、やりきったような表情で、早口で言う。

実際、契約書を焼却するごとに患者の体調を

気遣わなければならないのだから、キツい作業だっただろう。


「残った紋章は『魔法発動無効』の呪い。

クラリヌスさんの背中の、

トゲトゲした形の紋章だけが残りました。」


「そ、そうか。」


木下がそう説明してくれたが、

紋章がクラリヌスの体のどこにあるかなんて、

別に知りたいと思ってなかったから、聞きたくなかった。

クラリヌスの裸体を思い浮かべそうになってしまった。


「契約書の一件で、面会時間はとっくに過ぎてしまっている。

出入り口を閉めるから、君たちは早々に帰ってくれ。

あの患者は予定通り、明朝、別の病室へ移ってもらうから、

面会希望の場合は、受付で案内を聞いてほしい。」


「あ、あの!」


医者が帰るように促してきたが、木下が呼び止めた。


「クラリヌスさんは、いつ退院できますか?」


「!」


そうか、クラリヌスがオレたちの旅について行きたいと

願っていても、退院が決まっていないのだから、

それを理由に断ることが・・・。


「我々が予想する退院は、今のままなら数か月先といったところかな。

怪我や病気の回復なら奇跡的に薬や魔法で回復出来るけど、

筋力の回復、骨の強度は、薬では回復できないからね。

縮小してしまった胃も、毎日の食事制限で少しずつ大きくしていかねばならない。

一人で立って歩き、一人でまともな食事ができるようになるまでは、

入院し続けて、根気よくリハビリしてもらうことだね。

しかし、何度も言うが、我々医者は患者の意志を尊重する。

意識不明の重体の患者なら、無理にでも入院させておくけれど、

意識がある者、自分の意思を示せる者の、自由を奪う権利は誰にもない。

あの患者がそこまでの回復を待たずして退院すると言われれば、

我々にそれを引き留めるような、強制力はないからね。

入院費と治療費さえ払ってもらえれば、いつでも退院できるよ。」


「・・・。」


医者の早口な説明でも理解できた。

そ、そうか。いつでも退院できてしまうのか。

意識が無かった状態ならまだしも、意識を取り戻したクラリヌスを

無理やり入院させ続けることは、もう無理だな。


オレたちは、医者に見送られながら病院を後にした。




宿屋へ戻る間、みんなは

思い思いに喋っていたが、オレは闇夜に浮かぶ月を見て歩いていた。

正確に言うと、雲に隠れた月だった。

街灯がなければ、どこを歩いているかも分からないほど

灯りが届かない場所は真っ暗になっている。

しかし、雲に隠れていても月の輝きが分かる・・・。

あんなふうに、どんな難題が立ち塞がって来ても、

答えが光り輝いて見えていれば、見失うことなく、迷うこともないのに。


・・・クラリヌスを受け容れるか、どうか。


クラリヌスの目的は、恋人の遺骨を故郷の土へ埋めることと、

自身も故郷へ帰ることだ。

どの道、クラリヌスはこの国にとって罪人であり、

それが冤罪えんざいだったとしても、この国では暮らしていけない身。

頼れる人もいないなら、国から出て行かねばならないだろう。

『エルフ』の国が、オレたちの目指している『未開の大地』の中にあるなら、

お互いの旅の目的は合致している。

契約書の焼却時には、冷静になって話し合えなかったが、

今、よくよく考えてみると、クラリヌスが提示した利点にも納得がいく。

果てしなく広い『未開の大地』では、ドラゴンを探すのも倒すのも至難の業。

オレの遠いご先祖様も、『エルフ』の国を頼って討伐にのぞんだらしいし。

クラリヌスじゃなくても人間を嫌う種族だと聞くから、

『エルフ』の国へ入るなら、クラリヌスと一緒にいた方がいいだろう。


では、何が問題なんだ?


シホの言う通り、何も問題ではなかったのか?

オレやファロスが変に考え過ぎだったのかもしれない。




「私は、クラリヌスさんの加入に反対です。」


「!」


オレたちが宿屋へ戻った時、ニュシェはすでにウトウトしていた。

だから、ニュシェには先に寝てもらったのだが、

ニュシェが寝たあとで、木下がそう切り出して来た。

てっきり木下はクラリヌス加入に賛成だと思っていたが。


「何か問題でもあるのかよ、ユンムさん?」


シホは、オレとファロスを納得させたように

クラリヌスが加入する利点を、木下にも話したが

木下は首を縦に振らなかったのだ。


「シホさんの言う利点も一理ありますが、

クラリヌスさんには、最大の難点があります。

それが、二重人格です。」


「!」


「あ・・・そうか・・・たしかに。」


木下の言う最大の難点を聞いて、オレたちはすぐに納得した。

そうだった。クラリヌスには二つの人格があって、

その一つの人格が、人間を憎んでいるのだった。


「ヴィクトワル先生のいう『Aの彼女』は、

私たちに友好的で、理知的で、物腰も柔らかく、

パーティーに加入しても、即戦力になる実力もあり、

すぐに私たちに馴染めるでしょう。

しかし、『Bの彼女』は人間を憎んでいて非友好的、

かつ暴力的で、突然、私たちの敵になる可能性が高いのです。」


「・・・。」


誰も反論できない。

『Bの彼女』と聞くと、すぐに、

あの装置の中で、殺気がこもった目でガラスを叩いていた、

クラリヌスを思い浮かべられる。


「ヴィクトワル先生は、ある言葉によって

クラリヌスさんの人格が入れ替わるみたいなことを

おっしゃっていましたが、今日みたいに

ある言葉とか関係なく、

感情のたかぶりで、突然、入れ替わることもあるようです。」


たしかに、今日の人格の入れ替わりは突然だった。

泣いている途中で人格が入れ替わっていた。

ある言葉というのは「エギー」だったか。

たぶん、旅の途中で、その言葉を使うことは、ほぼ無いだろう。

しかし、今日のように号泣したり、何かのキッカケで

人格が入れ替わられたら・・・どう対応すればいいか分からない。


そういえば、ペリコ君も

クラリヌスは信用できないと言っていたな。

・・・あの時のトイレの一連を思い出したら、少しムカムカしてきた。


「? おじ様、何か反対意見でもあるのですか?

私としては、パーティー加入を断るに十分な理由だと思いますが?」


「ん? あー、いや・・・そうだな。」


木下がオレの不機嫌な表情を見て、

反対意見があるのかと勘違いした様だ。

しかし、ペリコ君との会話で思い出したこともある。


「ユンムの話も、もっともだ。

人間も『エルフ』も関係なく、パーティーの加入に関しては、

お互いが信頼し合えるかどうかが、一番重要だと思う。

『A』も『B』も、まだその全ての性格を把握できているわけではないから、

疑いの目で見るのは当然だ。」


「だったら・・・。」


「しかし、初めから疑ってかかっていたら、

信頼関係というのは、いつまでも築くことはできない。

信頼関係は、信じることから始めなければ。

今のオレたちパーティーが、そうだったように。」


「・・・。」


あの時のペリコ君にも、同じように答えたはずだ。

まずは信じることから。

もし、相手が裏切った時には・・・。


「もし、クラリヌスがオレたちパーティーを裏切って、

危害を加えてくるようならば、その瞬間から相手は敵だ。

その時は、容赦なく斬る。オレが仲間を守る。」


「佐藤殿・・・。その時は拙者も、お供しますぞ!」


「お、俺もいるぜ!」


オレがそう言い切ったら、ファロスもシホも賛同してくれた。

シホのやつは、ファロスに賛同した感じだな。


「ふぅ・・・そうでしたね。

おじ様は、そういう人でした。」


「ん?」


「いえ、分かりました。

では、クラリヌスさんのパーティー加入は

みなさん承諾ということで・・・。」


「いや、待て。」


「え?」


「パーティー加入をお願いしてきたのは、『A』のクラリヌスだろ。

だから、明日、『B』のクラリヌスとも話し合いたい。

返答次第では断ることもある。」


面倒なことだと自分でも思う。

しかし、人格が違えば考え方が違う・・・のであれば、

もうひとつの人格とも話し合う必要が出てくる。

そこで、しっかり相手の目を見て、顔を見て、判断したい。

上辺うわべだけの話術で、パーティーに加入して

のちのち裏切るつもりなのかどうか・・・

その腹の内を、オレが見抜けるかどうか・・・。


「そうですね、たしかに、もう少し話し合いが必要ですね。

ですが、私たちには時間がないのも確かです。

『ソウルイーターズ』に目を付けられているわけですから、

いつまでも、この町に留まっていられません。」


「じゃぁ、明日のクラリヌスさんの返答次第では、

明日そのまま退院させて、即出発って感じだね。」


「その方が良さそうですね。」


木下とシホがそう言った。


話し合いが終わり、オレたちは旅立つ準備をしてから眠った。

いよいよ、明日はこの町をつ。

その時に、仲間が増えているかどうかは、

これも明日、はっきりするだろう。





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