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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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ニュシェの旅日誌(1)





入院生活5日目。


今日までオレたちは、クラリヌスと同じ病室だったが、

怪我がほぼ回復したため、一般の病室へと移されることになった。

クラリヌスの病室は、重症の患者を治療するための集中治療室だから、

いつまでもオレたちだけに使わせるわけにはいかないらしい。

オレたちは、クラリヌスを置いて病室を移動した。


ドタバタ ドタバタ


「回復魔法、開始! アドナ(止血の薬液)を持ってこい!」


「はい!」


オレたちがゆっくり廊下を歩いていると、

大きな怪我をした患者が、簡易的なベッドで寝かされたまま

医者や看護婦によって慌ただしく運ばれていく。


傷を見たわけではないが、傭兵っぽい服装だったから

戦って怪我をしたのだろう。

きっと相手は『ゴブリン』・・・。

『ゴブリン』による被害がずっと続いている。


「・・・。」


住処を叩かないと、この国は、このまま最悪な状態が続く。

そして、近々、例の組織の計画が実行されれば、

『ゴブリン』の被害は収まるかもしれないが、

その代償として、この国の王女が命を落とす・・・。

そして、いずれ、最悪な計画を考えたやつに、

この国を乗っ取られてしまうのだ・・・。


計画を知っているのは、例の組織とオレたちのみ。

オレたちのような、ちっぽけな傭兵のパーティーが、

そんな巨大な裏の組織の計画を、どうやって止めるというのか。


昨夜は幸か不幸か、薬液が溜まるタイミングで

クラリヌスの依頼を保留にできたが、

今夜も面会する予定だから、その時には

昨夜の話の続きをすることになるだろう。

クラリヌスを『ゴブリン』の住処へ連れて行けば、なんとかなるのか?

あの『カラクリ人形』を使えたら・・・

いや、帝国軍の目の前で、あんなモノを使ったら

すぐにクラリヌスの正体がバレてしまう。

過去の罪が冤罪えんざいだったとしても

過去の上層部たちの悪事を証明することは不可能だろう。

あいつは回復してきているとはいえ、まだまだ一人で歩けない状態だし、

『ゴブリン』の住処に連れていくことさえ難しそうだ。




オレたちは、それぞれ診察室で検査を受けてから、

一般の病室へ移動してきた。

3階まで昇る階段では、多少、なまっている体を感じた。

木下に至っては息切れを起こしていた。

これは、また体力作りのやり直しだな。


普通は男女別々の部屋になるはずだが、

オレたちだけの5人部屋を用意してくれたらしい。

それとも、どこの病室も満員でこの部屋しか用意できなかったのか。


「もう退院していいなら、

今日、退院しちゃってもよかったのにな。」


シホが窓際のベッドに座り、窓の外を見ながら言った。

午前中の検査の結果で、オレたちは明日退院していいことになった。

完全回復したわけではないが、筋力を取り戻すための

リハビリなどは、退院後、各患者の自己責任でやらせる方針のようだ。

ファロスが腕を火傷した時と同じだな。

そうでもしないと病室が空かないからだろう。


「夕食のあとで、クラリヌスさんとの

面会を許可してもらったのですから、病院側としては

このほうが都合がいいのでしょうね。」


ニュシェが日誌を書いている、その横に座っている木下が答える。

たしかに、退院後に面会しようとすれば、

わざわざ受付で医者を呼ぶことになる。

しかし、あの穏やかな人格のクラリヌスならば、

話はできそうだが、粗暴なほうの人格が出てきたら、

また話ができなくなりそうな気がする。


「おじさん、見てみて。」


「ん?」


ニュシェが雑記帳のようなものを手渡してくる。


「ニュシェちゃんが一生懸命、書いたものです。

見てあげてください。」


木下に言われて、それがさっきまで

ニュシェが書いていた日誌なのだと分かった。

少々、字が汚いようだが読めそうだ。

オレも字は汚いし苦手だから他人のことは言えない。


「では、読ませてもらおう。」


「うん。」


ニュシェの日誌は、この『ソウガ帝国』へ入国してからの出来事を

ニュシェの感想を交えて綴られていた。




【ソウガ帝国 1日目】


長いトンネルをぬけて、『カシズ王国』から『ソウガ帝国』へ来た。

まっ黒いよろいのキシの人たちがいっぱいいた。

国きょうの村『ゾフル』で一泊。

宿屋『ライゼ』は、どこかなつかしいにおいだったよ。

夕食の時、おじさんが男の人に話しかけられてた。

その男の人が、グルースさんだったみたい。

お肉がおいしかった。

夜はユンムさんとシホさんと3人の部屋。

おじさんとファロスさんとは別々だったよ。ちょっとさびしい。

ユンムさんとシホさんが体型について話し合っていたよ。

私としては、2人ともあこがれのお姉さんって感じ。


【ソウガ帝国 2日目】


朝食、おいしかったです。

午前中に、大型馬車に乗った。

馬車の中で、おじさんとシホさんはお勉強。

私はユンムさんから良い薬と悪い薬の話を聞いた。

とてもこわい話だった。

お昼過ぎに『クリスタ』町に到着。

大きな山に囲まれた町で、町の出入り口に

青緑色の大きな『カラクリ人形』が立ってたよ。

町の広場にたくさんのお店が並んでいて、

そこでお昼を食べた。お肉がおいしかった。

ユンムさんが連泊する宿屋を探してくれた。宿屋『リュンクス』。

受付のおばあちゃんが、やさしくて好き。

みんないっしょの広い部屋。よかった。

夕方、『ヒトカリ』へ。ファロスさんのよう兵登録と

『まこう石採掘』の依頼を引き受けました。

事むいんのエリーさんのお話を聞いて、『ゴブリン』というま物が

本当にこわくて、でも、ゆるせないって感じた。

いらい書を持って、町長さんの家へ。そこでグルースさんと会う。

グルースさんとうす暗いお店で話し合ったから、

さいしょはこわい感じだったけど、グルースさんは反らん軍のリーダーで、

たくさんの人間のことを考えて活動している人でした。

いらいは、グルースさんといっしょに

『エルフのどうくつ』へ行くという話になった。

宿屋『リュンクス』のお料理がおいしかったです。

夜は、ユンムさんがセイレイについてお話ししてくれた。


【ソウガ帝国 3日目】


おじさんとファロスさんと3人で早朝特訓。

おじさんにオノの使い方を教えてもらった。

私が知っていることもあった。

お父さんに教えてもらったことを思い出していた。

おじさんたちのテアワセはすごかったよ。

朝食後に『ヒトカリ』でグルースさんと待ち合わせして

山の『エルフのどうくつ』へ向かいました。

グルースさんから黒いバンダナを借りたよ。

顔をかくして、ワルモノさんになった気分。

後ろからついて来た人たちはグルースさんの仲間でした。

どうくつは暗くて、あまり好きじゃないけど、

みんなで土を掘ったり、かべに穴を開けたり、楽しかったよ。

私は小さくてキレイな赤い石を見つけた。

この時は、まさかこれが、まこう石だとは思わなかった。

帰る頃になって、どうくつの奥から声がするから行ってみたら、

本当に悪い人たちがいて、初めて『ゴブリン』たちを見た。

戦うことになったんだけど、私は人に向けて矢を射るのがこわくて、

逃げ出したいほどだった。本当に悪い人たちだって分かっていても、

やっぱり私は誰も傷つけたくないって思ってしまった。

おじさんたちのおかげで、ころされそうになっていた男の子は

助けることができたけど、悪い人たちのバクダンのせいで

『ホノオのセイレイ』がいる場所に、通路がつながってしまった。

私たちを逃がすために、ファロスさんが大ケガをしてしまった。

町の大きな病院で、ファロスさんは入院。シホさんが付き添い。

命は助かったけど心配だったよ。

おじさんとユンムさんと3人で宿屋へ帰った。

どうくつでの失敗を2人に謝った。

おじさんにはげまされて、ユンムさんにハグしてもらった。

私、もっとがんばらなくちゃ。

3人で、ドレイ商人という悪い人たちから

子供たちを助けてあげようって話し合った。

明日は、みんなばらばらに行動することになった。


【ソウガ帝国 4日目】


おじさんと早朝特訓。

オノの使い方。基本を何度もくり返す。

そういうとこ、お父さんの教え方と似てる。

朝食もおいしかったです。

『ヒトカリ』でグルースさんとあいさつ。

いそがしいグルースさんは、今後、いっしょに行動できないみたい。

3人で病院へ向かった。ファロスさんは元気だったよ。

先にグルースさんがお見まいに来てたみたいで、キレイなお花がおいてあったよ。

シホさんは、つかれた顔をしてた。

おじさんが鳥のヒナの話をしてた。

かんたんな話のような気がするけど、ファロスさんはむずかしそうな顔してた。

おじさんは、ファロスさんの大事な刀をかしてもらって、

一人でどうくつへ向かった。ユンムさんは図書館へ。

シホさんは一日宿屋でお休み。私はシホさんと交代してファロスさんのお世話係。

ずっとファロスさんとお話ししてた。

私とファロスさんは、両親をなくしているから、あまりその話はしなかった。

まえにファロスさんがお手紙を送った相手は、おさななじみらしい。

ちょっと顔を赤くして話していたよ。

私にはお手紙を送るお友達がいないから、ちょっとうらやましいな。

10時ぐらいにファロスさんはシュジュツ室へ運ばれていった。

5時間後? 6時間後?ぐらいにファロスさんは病室へ戻ってきた。

ヒマしてたから、私はファロスさんのベッドでちょっと寝ちゃってた。

戻ってきたファロスさんは右うでを薬の液体にひたしていて身動きがとれない状態。

シュジュツは、すごく痛くて、すごくつかれるらしい。

お世話係としてがんばろうとしたけど、気をつかうし、早めに寝たいと言われたので、

お医者さんやかんごふさんたちに任せて、私は宿屋へ戻った。

宿屋の受付でいい香りがしてて、キレイな青い色の小さなお花がたくさん花びんに入ってたよ。

シホさんがまだ寝ていたし、ちょっと体を動かすつもりで

一人でオノや弓の練習をした。ちょっと集中してやりすぎて手が痛くなっちゃった。

陽がおちる前にユンムさんが帰って来て、シホさんが起きた。

陽がおちて暗くなってから、おじさんが無事に帰ってきた。

おじさんには悪いけど、ものすごく血のニオイがしてて気持ち悪かった。

夕食後、おじさんのどうくつ探検の話を聞いたよ。

一人でたっくさんの『ゴブリン』をやっつけてきたって。すごい。

おじさんの情報で『ホノオのセイレイ』について、いろいろ分かったことがあったし、

ユンムさんからの情報も合わせて作戦を話し合ったよ。

私が見つけた小さな赤い石が、むらさき色になっていて、びっくりした。

これがまこう石だったんだね。すごい。

おじさんが、この日に見つけてきた大きめの赤い石も、まこう石だったみたい。

私が持っていた小さいまこう石をユンムさんに渡して、

おじさんが、見つけてきた黒色の石と黄色の石を私にくれた。

ピカピカでキレイな石。おじさん、ありがとう。

ユンムさんがすごい作戦を説明してくれた。

私の弓が役立つらしい。役に立たなきゃって思った。すごいキンチョーした。

夜は、先に寝たおじさんといっしょのベッドで眠れた。

やっぱり、くっついて寝ると落ち着くなぁ。かなしい夢も見なかったよ。


【ソウガ帝国 5日目】


この日の朝も、おじさんと早朝特訓。

この日からオノではなく弓の練習に集中する。

昨日の手のケガはまだ治ってなかったけど集中できた。

朝食がおいしかったです。

午前中に、ファロスさんが無事に退院しました。よかった。

今日一日はユンムさんの作戦を実行するため、みんなで特訓する日になった。

午前中に、ユンムさんとシホさんは、ま法の特訓。

おじさんとファロスさんはオトリになる特訓。

私は上空へ向けて矢を射る特訓をしたよ。

感覚はつかめてきている気がするけど、

何も目標がない空へ向けて射るから、いまいち手ごたえがなくて、

これで合っているのか不安しかなかった。

午後からは5人で作戦のための動きを合わせる予定だったけど、

シホさんのま法がうまくいかなくて、できなかった。

私も弓の練習を続けていたけど、やっぱりうまくなっているっていう手ごたえがない。

夜、シホさんとファロスさんの2人だけでま法の特訓して、

シホさんは、ま法を習得したみたい。すごいね。

夜、寝る前に、外から雨のニオイしてたから少し雨がふっていたのかも。

明日はいよいよ『ホノオのセイレイ』に、いどむ日。

キンチョーして眠れないと思っていたけど、私はつかれて寝てしまった。


【ソウガ帝国 6日目】


この日も早朝から、おじさんとファロスさんと3人で特訓。

やっぱり雨がふった後があったよ。

ファロスさんは何かむずかしそうな顔をしてた。

まだケガが痛むのかな。それとも私といっしょできんちょうしてるのかな。

私は弓の特訓。おじさんがほめてくれるけど、

ユンムさんの作戦どおり、うまくできるか不安だった。

この日の朝食もおいしかったです。肉が。

朝食後に町長さんの家へまこう石をとどけに行ったよ。

グルースさんはお出かけ中。町長さんもお出かけしていた。

そして、また、山の『エルフのどうくつ』へ向かいました。

『ホノオのセイレイ』と戦ったよ。

ユンムさんの作戦どおり、ユンムさんが土のま法でカベを作って、

その間に、おじさんとファロスさんがオトリになってくれて、

シホさんがゆっくりと風のほじょま法をとなえていたよ。

シホさんのま法が成功して、私が天井のまこう石へ矢を放った。

真っ暗な中、赤く光っているまこう石は、ねらいやすかった。

でも、たぶん、ぜんぜん私の矢は届いてなかった。

シホさんのま法のおかげで、早く矢が飛んで行ったから、

『ホノオのセイレイ』は、あわてていたんだと思う。

そして、作戦どおり、おじさんがヤリを投げて、

天井のまこう石をこわしたよ。あんなところまでヤリを

投げられるおじさんは、本当にすごいです。

でも、まこう石がこわれたのに『ホノオのセイレイ』は、

また出てきちゃったんだ。もうだめだーって時に、

ファロスさんが、お父さんのカタミのカタナを使ってくれて、

『ホノオのセイレイ』をやっつけてくれた。

そのあと、たくさん、人がころされている場面を見た。

『ホノオのセイレイ』をたおせてよかった。

そのあと、どうくつの奥で、悪い人たちをやっつけて、

たくさんのドレイの人たちを助けた。

私より小さな子たちが多くて、私よりやせていて、

本当に、悪い人たちがゆるせないって思ったよ。

みんなを病院へ運んだ。その間に、おじさんとユンムさんは、

どうくつの奥から『エルフ』の人を助けていたみたい。

病院へ運ばれた『エルフ』の人は、もうホネしかない感じだった。

あれでよく生きていられるなーって思ったけど、

『エルフ』の人も、ドレイの人たちといっしょで、

悪い人たちに『のろいのもんしょう』をつけられちゃったらしい。

夕食がすごくおいしかったです。

どうくつまで行くと、お昼食べないから、よけいにおいしく感じる。

この日の夜、私はかなしい夢を見た。

お父さんとお母さんに夢の中でも会えるのはうれしいけど、

どうしても、かなしい夢になってしまう。


【ソウガ帝国 7日目】


早朝の特訓は、ファロスさんと2人でやった。

おじさんは腰が痛いみたいだったから寝ててもらった。

ファロスさんのすぶりの音がずっとひびいてきていた。

私も弓の練習してた。

朝食も肉がおいしかったです。

午前中に町長さんの家へ行きました。町長さんもグルースさんもいなかった。

そのあと、『エルフ』の人の様子を見に、病院へ行きました。

大きなガラスのつつの中に、ピンク色の液体が入ってて、

そこに『エルフ』の人がはだかでうかんでました。

ホネみたいに細くて、シワシワで、髪の毛もなくて。

むねのあたりにピンク色に光っている『のろいのもんしょう』がないと

生きていられないんだって。本当につらそう。

お医者さんのお話は早すぎてむずかしすぎて分からなかった。

ドレイだった人たちのけいやく書をお医者さんにあずけました。

『ヒトカリ』のエリーさんにも会ったよ。子どもが早く見つかるといいな。

お昼は宿屋で。やっぱりお肉おいしいです。

午後から『ヒトカリ』で『ゴブリン』たいじを引き受けました。

ユンムさんが言うにはお金がないからだって。私も早く役に立ちたいな。

おじさんの指示どおり、手分けして『ゴブリン』を探すことになったけど、

なかなか見つからないと思っていたのに、おじさんたちと分かれたら、

すぐに見つかった。ユンムさんやシホさんが、ま法をえいしょうしている間に

私は近づいてくる『ゴブリン』をこうげきしてた。

相手をこわいと感じると、よけいなチカラが入って、うまくいかないって

むかし、お父さんに言われたことを思い出していた。

ユンムさんのま法がうまく当たらなかった。

ユンムさんでも失敗することがあるんだなぁ。

おじさんたちと合流して、さらにたくさんの『ゴブリン』たちをやっつけたよ。

やっぱり、おじさんとファロスさんがいると安心しちゃう。

でも、たよってばかりじゃだめだよね。もっと役に立てるようにならなくちゃ。

私たちのお金のためではあるけど、これで少しでも町へのヒガイがへるといいな。

夕方、『ヒトカリ』でグルースさんに会ったけど、

グルースさんはホウタイをまいてて、たくさんケガしてた。

またカビくさいお店で話し合った後で、宿屋で夕食。

なんか、少しおいしくなかった。なんでだろう?


【ソウガ帝国 8日目】


この日は陽が出ない内から起きて、宿屋を出た。

受付のおばあちゃんがしんぱいしてくれてたよ。

町の出入り口には、グルースさんが先に来ていたよ。

そして、あの『カラクリ人形』が動いた。

でも、すごく遅かった。やっぱり古いからかな。

帝国ぐんをむかえうつ場所まで移動して、

私たちはバンダナで顔をかくして、まちぶせした。

陽が出てきたころに、帝国ぐんの馬車が来た。

そこで、グルースさんのお父さん、町長さんが悪い人にころされちゃった。

それから悪い人が『カラクリ兵』をたくさん動かして、おそってきた。

町の『カラクリ人形』よりも早く動いてくるし、

自分より大きな体が向かってくるからこわかった。

『カラクリ兵』たちは私たちのこうげきがきかなかったから、

私たちは逃げることしかできなかった。

ケガで動けないグルースさんをかかえながら逃げ続けて、

ファロスさんやシホさんが悪い人におそわれて、

ユンムさんも『カラクリ兵』におそわれちゃうって時に、

赤い馬車がやってきて、ホウタイだらけの女の人と、

お医者さんが助けに来てくれた。

ホウタイだらけの女の人が『エルフ』さんだった。

『エルフ』さんが町の『カラクリ人形』にめいれいしたら、

『カラクリ人形』が赤く光って、

相手の『カラクリ兵』たちよりも早く動いて、

あっという間に『カラクリ兵』たちをたおしちゃった。すごい。

でも、『エルフ』さんも『カラクリ人形』も、

それ以上、動けなくなってしまった。

それから、おじさんが一人で、悪い人とたたかった。

何かむずかしそうな話をしながら、たたかってた。

最後におじさんが勝った。なんか、すごかった。

それから、『エルフ』さんやお医者さんたちに

私たちは助けてもらって、病院へ運ばれた。

足がすごくいたかったけど、お医者さんに薬をもらったら、

すぐにいたいのが消えた。やっぱりお医者さんってすごいね。

ファロスさんもシホさんもグルースさんもユンムさんも、

そしておじさんも、みんな無事だった。よかった。

この日から私たちは入院することになった。

みんな『エルフ』さんと同じ病室。

部屋が少し広すぎて、みんなのベッドがはなれているけど、

みんなと同じ部屋にいることが、私にとってはうれしい。


【ソウガ帝国 9日目】


入院生活、一日目?二日目?

昨日から入院しているから、今日が二日目になるのかな?

昨日の大変なたたかいがウソのように、静かで、平和な日だった。

お薬のニオイがする病室。好きじゃない。

お医者さんに検査してもらう時やおトイレ以外、ベッドから動かなかった。

入院しているから、体が元気になっていても

動き回れないのはたいくつだった。

みんな、なぜか、しゃべらなかった。

なんていうのかな。気まずい?空気だった。

いつもお喋りしているシホさんやユンムさんが

何もしゃべらないのは、とてもふしぎな感じ。

話しかけたらだめな空気だったから、私も話しかけなかった。

病室に窓がなくて、何時なのか分からなかったけど、

朝昼晩の食事が運ばれてきてて、だいたいの時間を知った。

食事は、まぁまぁだった。お肉がもっとほしいです。

すごくひまだったけど、よく眠れた。


【ソウガ帝国 10日目】


入院生活、三日目。

この日もベッドから動かない。だれもしゃべらない。

食事は少なく感じるから、もっとお肉を。

ずっと、こんなじょうたいが続くのかなと思っていたら、

夕方の食事のあと、それまで動かなかった

『エルフ』さんがこわい顔しながらガラスをたたきはじめた。

お医者さんたちがあわててかけつけて来た。

ずっと、あんなお薬の中に、動かずに入れられていたら、

私もイヤになってガラスをたたくと思う。

お医者さんのお話がむずかしかったから、

よく分からなかったけど、少しだけ『エルフ』さんと

お話ししていいことになった。

でも、短い間だけだから、この日は

『エルフ』さんの昔のお話を聞くだけになった。

すごくむずかしいお話だったけど、すごくすごく、

イヤな思いをして生きてきたんだってことは伝わった。

すごくイヤで、すっごく悲しい。

ガラスがなかったら、『エルフ』さんをだきしめてあげたいと思ったよ。

『エルフ』さんのお話のあと、私は

ユンムさんに言葉の読み書きを教えてもらうことをおねがいした。

今までの旅の中で、ずっと感じていた私自身のみじゅくなところ。

それは、たたかうこともそうだけど、

ユンムさんとシホさんのお話にしても、

グルースさんや『エルフ』さんのお話にしても

むずかしすぎて、私一人だけがとりのこされている感じだったから。

もっとみんなのことを、もっと世界のことを知りたいって感じた。

だから勉強しなきゃって思った。

そのあと、おじさんがしんけんな顔で、むずかしい話をし始めた。

ウソをついていたって言うけど、

おじさんは、まじめにお仕事をしていただけだもんね。

おじさんがどこの生まれでも、おじさんはおじさんだし。

でも、おじさんが本当の話を話してくれたから、

みんなもやっとふつうに話し始めた気がする。


【ソウガ帝国 11日目】


入院生活、四日目。

昨日の『エルフ』さんのお話のあとから、

みんながふつうにおしゃべりするようになった。

たいくつな時間も、たいくつじゃなくなった。

この日から、ユンムさんからのしゅくだいとして、日誌を書くことになった。

むずかしい言葉は、あとで教えてくれることになっている。

まずは、ぶんしょうを自分で考えて、書いてみることが大切みたい。

ユンムさんが言うには、あの悪い人がおじさんと話していたことは、

とてもこわい話だったとか。おひめさまがねらわれているって。

そんな話をしている時に、あの『エルフ』さんが起きた。

なんか、せいかく?じんかく?が、ちがう人になったみたい。

昨日の『エルフ』さんのほうが優しそうでいいな。

この日の『エルフ』さんは、おこりっぽくて、ちょっとこわい。

自己しょうかいして、『エルフ』さんの話を聞いた。

『エルフ』さんは『のろい』のせいで、こまっているみたいだった。

この国のおひめさまを助けたいって話は、私もさんせいだ。

だけど、おじさんやユンムさんは引き受けないって。

500年以上、一人で生き残っていた『エルフ』さんは、

私といっしょで、今、たよれる人がいないんだと思う。

私たちが助けなかったら、だれが『エルフ』さんを助けるんだろう?




・・・ニュシェの日誌は、そこで終わっていた。

入国してから昨日までの出来事を、こんなに事細かく。

途中、オレが知らなかった情報も書いてあった。

とにかく、よくこれだけ思い出せたなぁと感じる。

若いから記憶力がいいのか、元から頭の良い子なのか。




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