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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
435/503

老兵『はぐれの黒鉄』戦




【※残酷なシーンが描かれています。

苦手な人は、読まないようにしてください。】






「んんっ、ゴホッ! 何十年も風邪などひいたことがなかったが、

やはり歳かのぅ・・・ゴホゴホッ! 呼吸がいちいち乱れる。

んんっ! しかし、俺が本調子でなくとも、貴様の片腕を不能にできたから、

貴様の実力は、その程度ということだな。げひゃひゃひゃ!」


相手の顔が分かると、言葉の伝わり方も変わる。

菊池の、他人をバカにした言動と表情が

こちらの気持ちを逆なでてくる。


こいつ・・・! 本調子ではないだと!?

いちいちカンに触るやつだ。

いや、これは挑発か。


「殺す前に教えてやろう。ゴホッ!

『ソウルイーターズ』は、実力主義だ。

みんな、組織の中でのし上がるために日々鍛錬している。

俺より強いやつらは、番号で呼ばれていてな。

それぞれ能力を高める仮面を与えられている。

強いうえに仮面のチカラで、さらに強さを引き出せるわけだ。

分かるか!? ゴホゴホッ! 

俺にすら勝てない貴様は、組織の中で生きていけない!」


「はぁ! はぁ!」


あまりお喋りをしたくないと言っていたくせに、

やたらとベラベラ喋るじゃないか!

苛立いらだたしい・・・!

いや、もう勝利を確信しているから気が緩んでいるのか?


「貴様は『ソール王国』の騎士だと聞いていたから、

少しは腕がたつのかと思えば・・・ゴホゴホッ!

貴様は、ここで死ぬがいい。

俺たち『ソウルイーターズ』に、鍛錬を怠るような弱いやつは要らん。」


圧倒的な実力の差は、やつの言う通りだ。

オレの鍛錬不足だ。

今まで、この『特命』の旅に出るまで、

変わることが無い仕事をこなし、

繰り返される毎日をダラダラと過ごしてしまった。

そのツケが、これか。


左腕の痛みがジンジンと、心臓の鼓動とともに強まっていく。

じりじりと剣の間合いへと入ってくる、菊池。

緊張感が増していく。


「はぁ、はぁ!」


考えなければ・・・!

この先、さらなる強敵に出会うことになっても、

今は、目の前の敵を倒さねば!

『カラクリ人形』のおかげで『カラクリ兵』の脅威はなくなった。

あとは、こいつだけだ。

しかし、オレの剣が通じない!

あの両手の鋼鉄は、やつの魔法によって保たれている。

やつの魔力は一定の高まりのままだ。

やつの集中力を乱すことが出来れば・・・

もしくは、持久戦でやつの魔力が尽きるまで・・・

しかし、この片腕だけでは、やつの攻撃を防ぎきれないだろう。

どうすれば・・・!?


「ゴホゴホッ! どりゃぁ!」


ギィン! ガィン! ガガィン!


「ぐっ! くっ!」


菊池が攻撃を再開した!

オレに息つくひまを与えないように、

考える時間を与えないように、

攻撃の手を休めずに鋼鉄の拳を打ち込んでくる!

片手だけで剣を握っているから、やつのチカラに負けている!

一撃ごとに剣が弾かれる!


防ぎきれないのだから、攻めなければ!


「はっ!」


ガィン! ギギィン!


「げひゃひゃ! ゴホゴホッ!」


反撃しても、簡単に弾かれる!

攻撃に回れば防御が遅れて、危険になっていく!

動くたびに、左腕が痛む!


ギャィン! ガァィン!


緊張感が増していく!

いや、これは・・・


ドジャッ


「ぐぁっ!」


やつの攻撃が、オレの左腕をかすった!

激痛が走る! 反応が遅れる!


ガィン! ガィン!


慌てて、やつの攻撃を剣で弾く!

オレが感じているのは、緊張ではなく恐怖だ!

徐々に、じわじわと『死』が目前に迫って来ているのを感じる!

体が強張る!


「げひゃひゃひゃ! ゴホッ!

貴様は弱い! 戦場では弱いやつから死んでいく!

それは、俺たちの組織に入っても同じこと!

ゴホゴホッ! はぁ、はぁ!

いい加減、諦めて死ねぃ!」


ガッ


「ぐあ!」


やつの右拳を半身でかわせたと思ったが、オレの左肩をかすった!

左肩から腕へと走る痛みで動きが止まってしまった!


「は、ゴホッ!」


ズシャッ!


「・・・っ!」


やつが咳をしたおかげで、

やつの攻撃のタイミングが遅れた!

オレの腹をえぐるように繰り出された左拳を、

身をよじってかわした!

だが、それでも至近距離から放たれた攻撃を

完全にかわすことは出来なかった!

やつの左拳がオレの脇腹をかすった!

たったそれだけで、重い衝撃とともに息ができなくなるほどの痛み!


「がはっ! ・・・は、はぁ! は、はぁ!」


すぐに後方へ退いて、やつとの距離をとって

呼吸しようとするが、うまく息が出来ない!


「んんっ! んんっ! ゴ、ゴホゴホッ!

あああーーー!! んんっ! おのれ・・・!」


すぐ攻めてくると思われた菊池だったが、

本当に本調子ではないようだ。

喉にタンがからんでいるらしく、しきりに咳払いして苛立いらだっている。


これはチャンスだ!

まだ諦めるわけにはいかない!


やつを倒すには・・・竜騎士の剣技しかない。

やつの鋼鉄の拳や鎧ごと斬り裂くしか。

仲間たちが倒れている今なら、巻き込まずに済むはず。

しかし、先ほどの『火竜殺し・胴薙どうなぎ』のような

真空の刃を飛ばす技は、じゅうぶん引き付けてからでないと避けられる。

そして、この剣技は連発はできない。避けられたら終わりだ。

やつは接近戦を得意としているようだし、

くっつかれて攻撃されれば、オレが連続して気を練るヒマはない。


「ゴホホッゴホゴホ! あぁ、うっとおしい!

さっさとケリをつけてしまうか! あぁ!」


「!」


やつが、両腕を腰の位置で構え始めた!

チカラを溜めている!

あれは、たしか・・・『連綿連撃れんめんれんげき』!

相手に反撃の隙を与える間もなく、両拳の連打を浴びせる大技!

あんなものをくらったら、確実に潰される!


「はぁ・・・ぐはっ、っはぁ、はぁ! お、惜しいな!」


「ゴホッゴッホ! な、んんっ、だと!?」


こいつに勝つには、オレが最も苦手としている

竜騎士の剣技『竜殺し・絶滅殺ぜつめっさつ』しかない。

一発一発、赤い真空の刃を放ってしまう他の剣技と違って、

剣に、赤い真空の『気』をまとわせる剣技。

呼吸、集中、気・・・それらを持続させる難易度の高い技。

集中力が途切れれば、剣に纏わせた真空の『気』が暴発・・・

他の剣技と同じように、飛んで行ってしまう。

意図せず飛ばしてしまったら、倒れている仲間を巻き込む可能性がある。


「は、はぁ、はぁ・・・お、お前ほどの実力がありながら、はぁ、

ぐっ・・・なぜ、第二騎士団の団長なんだ? は、はぁ、はぁ!

第一騎士団の団長は、はぁ、お前より強いというのか!? はぅ、はぁ!」


確実に、成功させねば・・・!

呼吸を整えなくては・・・!

気を練る集中力を高めなければ・・・!

時間を・・・稼がねば・・・!


「んっ、ゴホゴホッ! 言ってくれるのぅ、貴様!

俺より第一騎士団の団長が強いって!?

げひゃひゃひゃ! そんなわけあるか!

そうか、貴様は第一騎士団の団長が誰だか知らんのか。

げひゃひゃひゃ! ゴホッ!」


「はぁ、はぁ・・・はぁ、はぁ・・・。」


呼吸を整えて・・・集中・・・!


「ゴホッ、第一騎士団の団長は、この国の第三王女様だ。

女だぞ? 女。この俺が劣っているわけが無いだろ?

初めに言った通り、俺は近々、第一騎士団の団長になる。

現在の第一騎士団長様は、近々・・・不慮ふりょの事故でお亡くなりになるからな。」


集中・・・ん!?


「はぁ、お、おい! なんだ!? 不慮の事故だと!?」


「んんっゴホッ! あぁ、無駄になるが教えてやろうか?

この帝国全土に広がって暴れている『小鬼』どもは、

ある『鬼』の仕業によるものだ。まぁ、その『鬼』は、

俺たちの組織とは無関係な犯罪者だが、今は契約をして

『小鬼』どもを操っておる。」


「はぁ・・・はぁ・・・!?」


な、なんの話だ!?

『小鬼』って、『ゴブリン』のことか!?

『ゴブリン』を操っている『鬼』がいるだって!?


「ゴホッ! この国の『ヒトカリ』に圧をかけ、

この国から『ランクA』以上の傭兵を国外へ追放した。ゴホッ!

げひゃひゃ! 並みの傭兵たちでは

全土に広がった『小鬼』どもを討伐しきれない。

おかげで騎士団も人手不足だ。

すぐそこの小さな『クリスタ』なんぞ、

税収が乏しい町なんか守っている状況ではない。

当然、国へ高い税金を納めている大きな街を

優先的に守ることになっている。げひゃひゃっゴホゴホッ!

皇帝がどう思っているかは知らないが、大臣たちは

『小鬼』討伐を理由に税率を上げられるから

『小鬼様様』だと浮かれているやつがいるほどだ。げひゃげひゃ!」


「はぁ・・・はぁっ!」


こいつッ!

オレは怒りがフツフツと湧きあがってくるのを感じていた。

この国の『ゴブリン』騒動は、こいつが黒幕か!

こいつのせいで・・・!!


「ゴホっ、しかし、そろそろ『小鬼』どもを全滅させねばならん。

この国の民どもが減り過ぎたら、それだけ税収が減ってしまうからな。

あの『鬼』には、一生ラクして暮らせるって話で

『小鬼』どもを操ってもらっていたが、いよいよ契約終了・・・

いや、一方的に契約破棄ってやつだ! げひゃひゃひゃ!

やつは犯罪者だしのぉ! 犯罪者との約束を守る道理は無い!

『小鬼』どもを操って、この国に甚大な被害を及ぼした悪の首謀者として、

近々、討伐することになっている! げひゃひゃひゃ! ゴホゴホッ!」


「はぁっ! はぁっ!」


「ゴホォ・・・んんっはぁ、

その『鬼』は『小鬼』の住処を根城にしているからな。

鬼退治には、この国の全騎士団が総力をもって挑まねばならん。

計画どおりにいけば、『小鬼』と騎士団の数は互角だから、

いい勝負になるだろう。そこで・・・第一騎士団の団長であられる

第三王女には、討伐戦の混乱に乗じて、事故に遭ってもらう!

げひゃひゃひゃ! あの小娘は、いつも魔道具の鎧を身に着けているから、

俺と肩を並べていられたが、その鎧が普通の鎧にすり替わっていたら・・・

果たして『小鬼』どもに勝てるかのぅ? げひゃひゃひゃ!」


「はぁぁ・・・! はぁぁ・・・!」


悪者の企てた作戦など、聞くものではない。

ただの絵空事ならば、どうでもいいことだが、

この悪夢のような作戦を、本当に実行しているのだから

聞いているだけで気分が悪くなる!


「俺が考えたわけではないが、ゴホッ!

どうだ? この完璧な作戦!

貴様が『カラクリ兵』どもを壊さなければ、

もっと早く作戦が進むはずだったが・・・まぁいい。

鬼退治と、反乱軍を全滅させた功績によって、

俺は、晴れて第一騎士団の団長となる!

あとは、俺より老いぼれの皇帝を

退任に追い込む段取りも出来ているからな。

この作戦を計画したやつが皇帝となる。

げひゃひゃひゃ! 『ソウルイーターズ』の全世界制覇がまた進む!」


「はぁ・・・はぁぁぁ・・・!」


こいつは・・・!

こいつだけは・・・絶対に・・・!


「皇帝がさっさと俺を第一騎士団の団長に選んでおれば、

あの小娘も死なずに済んだものを・・・。

いや、あの小娘がさっさと他国へとついで行かなかったせいだな。

男に興味が無いとか、女のくせに皇帝を継ぐなんて妄想を捨てておれば、

俺もこんな回りくどい作戦を実行せずに済んだのに。

んんっ、ゴホゴホッ!

あの小娘が『小鬼』どもにはずかしめられて

死にゆく様は、さぞかし見物みものだろうなぁ!

げひゃひゃひゃひゃ!」


「はぁぁぁぁ・・・すぅぅぅぅぅぅ・・・っ!」


絶対に許さんっっっ!!!


ブォォォン・・・ゥゥゥゥン・・・!


「ゴホッ!???」


オレは竜騎士の剣技『絶滅殺ぜつめっさつ』を発動した!

できた!

菊池は完全に油断していた。さっきまでの構えが崩れていた。


ダッ!


一気に菊池との距離を詰め、

赤い真空をまとった剣で、菊池へ斬りかかる!


「っ!」


「こんなものっ!?」


菊池は、左拳の鋼鉄で

オレの剣を弾こうと、左拳を突き出したが


ズッ!!


オレの真っ赤な剣が、菊池の鋼鉄の左拳を

まるで豆腐のように切り裂く!


ジャァァァァァァァ!!!


オレはそのまま菊池の左拳から左肩まで

剣を滑らせるように切り裂いた!

鋼鉄の小手も、肩当ても、物ともしない!


「ぎっ! ぎゃああああああ!!」


左腕が二つに割れて、ダラリと垂れ下がり、

大量の血が噴き出している!

左腕の激痛によって、

菊池の魔法への集中力が途切れたようだ!

両拳の鋼鉄が、まるで氷から水になるように、溶けて消えていく!

オレは、攻撃の手を休めない!

こっちの集中力が途切れる前に、こいつを!


ズッシャアアアアアア!!!


やつの右腕を斬り落として!


「うぎゃああああっ!!!」


「っ!」


もうダメだ! 集中力が途切れる!

オレは、咄嗟に低い姿勢になり、下から上へ斬り上げるようにっ!!


「っはあああああああ!!」


ズシャアアアアアアアア!!!


「ゴッ」


渾身こんしんのチカラを振り絞って、菊池を股下から斬り上げた!

剣にまとっていた赤い真空が、

刃と化して、そのまま上空へと飛んで行った!

真っ二つになった菊池が派手に血飛沫をあげて・・・


ドシャアアアアア・・・!


倒れた。

はるか上空へ飛んでいった赤い真空の刃も、

程なくして消えて行った。


「っぷっはぁ!・・・はぁ、はぁ!」


息を止めたからと言って、気をとどまらせることが

できていたわけではないが、昔から、なんとなく息を止めたほうが

集中力が増して、上手くいく気がしていたから、

今回も息を止めて挑んだ『絶滅殺』。

本当に、成功してよかった!


しかし、菊池の体から噴き出た血を、頭からかぶってしまい、

なんとも気持ちが悪い・・・。


「っ! ぐぅ・・・! くっ!」


途端に、左腕の激痛を感じて、その場に座り込んでしまった。

攻撃するたびに左腕にチカラが入ってしまって、

痛みを感じていたが、集中力が途切れた今は痛みが増した気がする


「はぁ・・・はぁ・・・ふぅぅぅぅ・・・。」


剣技を使った右手、右腕が少し熱くなってきている。

やはり、この技は両手で使ったほうが、

体への負担が少なかっただろう。

いや、この技に耐えられるだけの体に、

オレが鍛えてなかったツケだろうな・・・。


目の前に転がっている菊池を見た。

すでに気配はない。絶命している。

大量の赤い血溜まりの中、両腕を切り裂かれていて、

身体が右と左で真っ二つに分かれて転がっている。

こいつが魔物でない限り、よみがえることは無いだろう。


一応、周りの気配を探ったり、

遠くのほうも目視で確認してみたが、

もう敵はいないようだ。


オレは・・・オレたちは・・・生き残ったんだ!


「はぁ、はぁ・・・はぁぁぁぁぁ・・・。」


ガラン ドサッ・・・


オレは脱力してしまって、剣を放り出して地面へ仰向けに倒れ込んだ。


「いっ・・・!」


倒れ込んだ時に、左腕が地面に当たって激痛が走ったが、

痛みで飛び上がるようなチカラも残っていない。

その痛みを感じたまま、地面の温度を感じている。


「はぁ・・・はぁ・・・。」


なんとか・・・死地を乗り切った・・・。





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