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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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脅威のカラクリ




「ファロス!!」


「ファロスさん! ダメー!」


シホやニュシェの声も届いていない!

ファロスは、真っすぐに菊池という騎士へと走っていく!


「げひゃひゃ! しつけのなっていないやつが、もう1人。

こんな分かりやすい挑発に乗ってくるとはな。

だが、貴様のようなバカは嫌いじゃないぞ。

さてと・・・『ナンバー、1! 2! 3! 起動! 俺を守れ!』」


「!?」


菊池が笑ったあとに、何か意味不明なことを言ったかと思ったら、


ドスン! ドスン! ドシン!


「あ、あれは!」


「『カラクリ人形』!?」


菊池の後ろにあった2台の馬車のうち、

一台の馬車の荷台から、真っ黒で、大きな樽のような形の物体が現れた!

そして、それらは、まるで生きているかのように、

人間と同じぐらいの速さで、菊池のところへ走ってくるではないか!


ドシン ドシドシッ ドスン


しかし、その『カラクリ人形』たちよりも、さらに速く、

ファロスが菊池の目の前まで迫っていった!

あの『カラクリ人形』たちでは間に合わない!


「!」


一瞬にして、菊池の魔力が上がった!

いや、その前に、ファロスの刀が菊池を斬る!


「はぁ!」


「ヴェルドゴ・カリュプス!」


ガキィィィンッ!


「!」


「なんだ!?」


ファロスの刀が菊池を斬ったと思った瞬間、火花が散った!

菊池が!? ファロスの刀を片手で弾いた!?

まるで剣同士がぶつかり合ったような金属音がしたが!?


「くっ! それは!?」


ファロスが後方へ跳び、距離をあける!

少し遠いから、ここからでは見えにくいが、

先ほどまで素手だった菊池の両手が、黒っぽい物に包まれている!?


「あ、あれは土の補助魔法です!

体に鋼鉄をまとわせて、防御力を上げる魔法!

中級の魔法を、まさか無詠唱むえいしょうで!?」


「無詠唱って、マジかよ!」


土の補助魔法!? 無詠唱だと!?

以前、『レスカテ』で戦ったバンパイアを思い出す。

魔法と似たような『法術』を無詠唱で使ってきていた・・・。

あれは、厄介やっかいだ。


ズン ズズン ドスン ドスン


「っ!」


オレたちが菊池の魔法で驚いているうちに、

菊池の後ろの馬車から、黒色の『カラクリ人形』3体が

菊池とファロスの間へ割って入ってきた!

こちらの『カラクリ人形』と同じ造りのようだが、

動きや速さが全然違う。あれが現代の『カラクリ人形』か。

大きな樽のような体から、手や足のような部分が出ていて、

3mほどの高さがある。顔らしき部分には、

ひとつだけ白い光が灯っていて、まるで一つの目で

オレたちを見下ろしているように見える。


その3体の『カラクリ人形』に囲まれている菊池も、

オレたちを見下すように立っている。

そして、今、気づいた。

最初に菊池を見た時の違和感・・・

やつは、剣を装備していない!?

武器らしきものを装備していない!


「んっ! ゴホッ! まぁ、そんなに警戒せんでもいい。

俺もよぉ、魔法は得意じゃねぇんだ。

離れた所からチマチマと攻撃するなんて性に合わんし、

どうにも長ったらしい詠唱やら魔法名やら覚えきれん。

だから、俺が使える魔法は、これひとつ。

これひとつでじゅうぶんなんだよ。

男はやっぱり、こぶし同士で殴り合うのが一番だ!

げひゃひゃ、ゴホッゴホッ!」


ガイン! ガキィン!


そう言って菊池は、自分の拳と拳をぶつけ合った。

魔法によって鋼鉄をまとった拳がぶつかりあって、金属音が鳴り響く。

やつの魔力は高まったままだ。

あの鋼鉄を維持するためなのだろう。


「っ! 作戦変更だ!

ユンム! シホ! ニュシェ! グルースを守れ!」


「は、はい!」


「おう!」


「うん!」


オレたちは、少し離れていたグルースの元へと駆け出した!

グルースに名前を呼び合うなと言われていたが、

先にファロスの名前を叫んでしまっていたから手遅れだ。

それに、もうすでに当初の計画とは違ってきている。

相手は、オレたちを皆殺しにするつもりでいる。

逃げたいところだが、グルースとファロスを置いて行けない。


「ちくしょう! あーーー!

『エギー、あの騎士を止めろ』おおおお!」


グルースがイライラしながら、あの説明書をめくり、

特殊な命令を叫んだが、


「・・・。」


オレたちの後ろに突っ立っていた『カラクリ人形』は、

微動だにしない。魔鉱石の魔力がなくなったのかと思うほどだが、

相変わらず、顔の部分、一つ目のような白い光は灯ったままだ。


「くそっ! 『あの男へ向かって進め』!」


ガガッ ガガッ ギギギギィ・・・


グルースは、菊池を指さしながら、

特殊な命令ではない、普通の命令を叫んだのだろう。

やっと後ろの『カラクリ人形』が反応して、

一歩ずつ、ズリズリとすり足で動き出した。

案の定、のろまな亀の如き歩みなので、50m先の

菊池のところまで、どれだけかかるのやら。


「げひゃ、げひゃひゃ! ゴホッ!

おー、おー! 知っておるぞ! そいつが

『クリスタ』の『カラクリ人形』だな!?

たしか数百年前から放置されてたやつだろ?

そんなオンボロ、よく動いたな! げひゃひゃひゃ!」


こちらの『カラクリ人形』を見て、笑いだす菊池。

現代の『カラクリ人形』を目の当たりにしているから、

笑いだすのも無理はないと感じる。圧倒的に速さが違う。


「んっんっ! 貴様ら、もしかして、こっちにあるのが

そこの『カラクリ人形』と同じだと思っているのか?

ここにあるのは『カラクリ人形』ではなく『カラクリ兵』だぞ?」


「なにっ!?」


「その証拠に・・・『止まれぇ』!!!」


ギギ、ギィ・・・


「え!?」


「!!」


菊池の大声に反応して、こちらの『カラクリ人形』が止まってしまった!


「ゴホっ! 『カラクリ人形』と『カラクリ兵』の

決定的な違いは、声の認証だそうだ。

『カラクリ兵』は、最初にあるじの声の認証を行う必要があってな。

こっちにあるやつらは、俺の声にしか反応しない。

どんな仕組みなのかは知らんが。

対して、そっちの『カラクリ人形』は、声の認証をしなくとも、

誰の声でも反応してしまう。

つまり、貴様らの声じゃなくても、俺の声でも命令できてしまうんだ!

げひゃひゃひゃ!」


「くそっ! くそっ! くそっ!」


笑われたグルースが拳で地面を叩いている。

キレて我を失って、菊池へ立ち向かっていかないから、

まだ冷静なほうなのか。

いや、自ら戦うことを諦めているのかもしれない。


「わが魔力をもって、風の盾と成し・・・。」


シホの魔力が高まり出し、魔法の詠唱を始めた。

あの詠唱は、おそらく風の壁の魔法だろう。


「どれ、『ナンバー1、あの『カラクリ人形』を倒せ』!」


ズシ! ズシン、ズシン!


菊池の命令に反応して、1体の『カラクリ人形』・・・

いや、『カラクリ兵』が動き出し、こちらへ向かって走り出した!


「貴様らの声で、止めてみろ! げひゃひゃひゃ!」


「くっ! 『止まれ』!」


ガィン! ガガン!


菊池のすぐそばで刀を構えていたファロスが、

走り出した一体の『カラクリ兵』に斬りかかりながら、命令した!

だが、『カラクリ兵』は止まらない! そして斬れない!

ファロスの連続攻撃も、

空洞の金属を叩いたような音が、虚しく鳴り響いただけだった!

そのままファロスの横を通って、こちらへ向かってくる『カラクリ兵』!


ズシン、ズシン!


「来るぞ! 無理に戦うな! 避けろ!」


オレは叫んだ。

オレたちの後ろの『カラクリ人形』へと

真っすぐ走ってくる『カラクリ兵』。

その間にいるオレたちを無視して、突っ込んでくる勢いだ!

『カラクリ兵』が一歩近づくたびに、地面から響いてくる!

まるで大型の魔獣が走ってくるかのようだ!


「シルフ・シールドォー!!」


シホが風の防御魔法を発動させた!

オレたちの前に、緑がかった半透明の半球の壁が現れた!

あの『カラクリ兵』の突進を受け止めるつもりか!?

いや、よく見ればグルースがこの場にうずくまっている。

完全に戦意喪失か。この状態では逃げられないとシホは判断したか。

ニュシェとユンムが、グルースを早く立たせようと

肩を貸そうとしているが、

グルースは、もはや立つチカラすらないようだ。


このまま突っ込まれたら、強い衝撃がくる!

オレは、シホの後ろから、シホの体を支える!


「!」


ドシン! ドシ、ドシ、ドシ!


シホの風の壁に『カラクリ兵』がぶつかる、その直前で、

『カラクリ兵』は、風の壁を右側から避けて、

オレたちの後ろの『カラクリ人形』へ向かっていく!

菊池の命令を確実に実行するため、余計な衝突を避けたというのか!?


「『ナンバー1! 止まってぇ』!」


ニュシェが菊池のマネをして『カラクリ兵』へ命令してみたが、

『カラクリ兵』は、やはり止まらなかった!

そのまま、


ガッシィィィーーーン!!


『カラクリ兵』が、『カラクリ人形』へ体当たりした!

金属同士がぶつかり合い、火花が散った!


「あっ!」


「エギーが!」


ドスゥーーーン!


『カラクリ人形』は、いとも簡単に倒されてしまった!

3mもの物体で、どれほどの重さなのかは分からないが、

この場の人数だけでは起こすこともできないだろう。

それに、今の衝撃・・・

古い『カラクリ』で、あんな衝撃をくらえば、

もはや中身が壊れてしまっても、おかしくない。


そして、『カラクリ兵』のチカラが、とんでもないものだと分かった。

あんな突進を人間が受ければ、即死だ。


「・・・!」


グルースが、倒れた『カラクリ人形』を呆然と見つめている。


「んんっ、『カラクリ兵』の敵ではなかったな。

貴様らの切り札は、まさか、その『カラクリ人形』ではあるまいな?

そんなオンボロに自分の命をかけるとは酔狂なやつらだぁ。

げひゃひゃひゃ! ゴホゴホッ!」


「このっ!!」


ガキィン!


菊池の挑発に乗って、また攻撃をしかけたファロス!

しかし、菊池は、また簡単に片手だけで

ファロスの刀を弾いてしまう!

間違いない。

菊池という騎士は武器で戦わず、素手で戦う格闘家のようだ。

一見、武器を持っている側が攻撃範囲が広く、有利に思えるが、

菊池の動きは、完全にそういう相手と戦うことに慣れている。

武器を持っている分、ふところへ入られてしまえば・・・


「ファロス! 戻れ!」


ドッ!


「ぐっ!」


菊池の拳がファロスの脇腹へ!

いや、ギリギリのところでファロスが菊池の拳を蹴って

後方へと退いたようだ。危ない。

ファロスが簡単に懐へ入られてしまうとは。


ファロスは、こちらへ戻ってくる様子が無い。

オレの声が届いていないのか!?


「ぜぁ!」


ギィン! ガキキキン!


またファロスが菊池へ攻撃を! 得意の連続攻撃!

一撃だけ菊池の肩をかすったようだが、

ちょうど鎧で守られている部分だったようだ。

そのあとの攻撃は、両手の拳で防がれてしまった。


「はぁ、威勢がいいな、貴様。

若いゆえか、体力もありそうだ。

しかし、貴様ばかり相手にしていられないからな。

そろそろ『兵』に働いてもらおうか。

『ナンバー1、2、3! 黒いバンダナをしているやつらを殺せ』!!」


「!!」


ズシン! ドシン! ドシッ!


菊池の声に反応して、菊池のそばにあった『カラクリ兵』2体が動き出し、

オレたちの後ろ、『カラクリ人形』を倒した『カラクリ兵』一体も、

オレたちへ向かって動き始めた!





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