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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
422/502

足搔くことは恥だろうか




「わが魔力をもって、相手の位置を知らせよ・・・

サーチリング!!!」


ブゥゥゥゥン・・・


オレたちの準備が整い、木下が魔法を発動させた。

木下の魔力が高まり、木下を中心に魔法のエネルギーが辺りに広がっていく。

見渡しの良い場所で、どこまでも草原が広がっているから

半径100m以内なんて『ゴブリン』どころか、

動くようなモノはいないと思われた。


「どうだ、ユンムさん?」


「あ・・・あ・・・!」


「!?」


シホの問いに木下が答えることなく、表情が瞬時に青ざめる。

辺りを見渡せば、その意味がすぐに分かった。


「おいおい・・・。」


「か、囲まれてる!」


「「「ギャギャギャギャーーー!!」」」


「「「ギャギャッギャッギャ!!!」」」


丈の高い草原から、いきなり姿を現した『ゴブリン』たち!

半径100m以内に、こんなに『ゴブリン』が潜んでいたとは!

オレの前方に5匹が2組、左に6匹、右に5匹・・・

ファロスが見据えている後方は、10匹以上・・・

ざっと見渡して、30匹以上いる!

想定していたのは、せいぜい10匹程度だったが

予想が外れてしまった。木下の『サーチ』の範囲が広すぎた。

どの『ゴブリン』たちも50m以上離れているが、

一斉に襲われれば、簡単に囲まれてしまう!


「ユンム、『サーチ』は、もういい!

お前たちは臨機応変に! 無茶だと思ったら防御に徹しろ!」


「は、はい!」


「お、おう!」


「うん!」


スラァァァ・・・


オレは女性陣に指示を出して、剣を抜く。

ファロスも刀を抜いている。

もう『サーチ』の魔法を使わずとも、『ゴブリン』たちが

オレたちを見つけ、オレたち目掛けて向かってきている!

一番近いやつらは、60m先まで迫って来ている!


「わが魔力をもって、空を漂う風よ、大きな刃と成れ・・・!」


「わが魔力をもって、風の盾と成し、われらが前に顕現せよ・・・!」


木下とシホが同時に魔法の詠唱を始め、2人の魔力が上がっていく。


「すぅぅぅ・・・。」


もう『ゴブリン』たちの実力は分かり切っているオレだが、油断は禁物だ。

深く息を吸い込み、体内の気に集中する・・・体内の気を剣に込める。

一番近い『ゴブリン』たちが、50m以内に迫ってきた!


「ぅりゃああああああ!」


ズバァァァァァァァァァ!!!!!


『竜騎士の剣技』、『火竜殺し・胴薙どうなぎ』!

横一文字に薙ぎ払った剣から放たれた

真っ赤で巨大な真空の刃が地面すれすれに

『ゴブリン』たちへ目掛けて飛んでいく!


「おぉ!」


「ギャギャッ!?」


「ギャーーーー!!!」


ザシュ! ドシュ! ザザンッ!


ファロスが思わず声を上げていた。

ファロスの前では、あまり『竜騎士の技』を使っていないからか。

まずは5匹。

距離があったから『ゴブリン』たちは咄嗟に避けようとしていたが、

オレの技の方が速かったようだ。

真空の刃が草原の草といっしょに

『ゴブリン』たちの首や胴体を切り裂いて、空中に消えていった。

ちょうど密集していたから一網打尽にできたが、

あまり離れた場所から技を放ったら避けられる可能性があるな。


キュイ キュン


「ギャガ」 「ギッ!」


弓矢独特の音を立てて、ニュシェの矢が次々に放たれる!

本当にうまくなったな、ニュシェ。


キュイッン


「ギャッ!」


洞窟内でもシホの補助魔法があったとはいえ、

50m以上離れている上空へ放てる強さがあった。

この草原の50mなど苦にもしていない。正確に当てている。

連射も、いつの間に体得していたのか。

もしかして、父親に習っていたのだろうか。

矢1本を口にくわえ、弓に掛ける矢片手に1本持ちつつ、射る。

矢を放った瞬間に、片手に持っていた矢を弓に掛け、射る。

矢筒へ手を伸ばさず、口にくわえている矢を取り、射る。

その際、弓を構えている手は、ほぼ動かさず、

標的へ向けたままだからこそ連射しても精度が落ちない。

姿勢を崩さない3連射。本当に上達している。


「その風の牙で、目前の敵を切り刻め! ブリヒスモス・ガスト!」


バヒュオオオオオオ!!!


「ぬぉ!」


木下の魔法が発動して、突風が巻き起こった!


ズバババッ


「ギャギャ!」 「ギャー!」


目に見えないカマイタチのような風が

右側から迫って来ていた『ゴブリン』たちへ襲い掛かった!

そっちは、まだ50m以上離れていたからだろうか、

魔法は当たったようだが、威力がイマイチだ。

数匹の『ゴブリン』が倒れたが、痛がっているだけで

すぐに起き上がってきた。傷が浅い!


「シルフ・シールドォー!!」


タイミングを合わせたように、シホの魔法が発動した。

オレたちの背後に、緑がかった半透明の半球の壁が現れた。

これで、背後から襲ってくる『ゴブリン』たちを防げる。

襲ってくるとしても、シホの魔法の壁を

左右のどちらかへ回り込んでくるしかない。


キュイ キュイ


「ギャ!」 「ィギッ!」


前方から向かってくる『ゴブリン』たちを

一匹ずつ確実に仕留めているニュシェ。

人間相手には、ここまで冷静に射ることはできないだろうが、

魔物相手には容赦ないな。頼もしい。


「ギャギャギャギャッ!」


「ギャーギャギャッ!」


ヒュン ヒュン ガチッ


だいたいの『ゴブリン』たちが、50m以内に入ってきて、

遠くから小石を投げてきている。

それを剣や小手で弾き落とす。

ここまで近くなってくると、いよいよ多勢に無勢。

攻撃魔法や弓矢では対処しきれなくなってくる。

オレの『竜騎士の技』も仲間を気にしながらだと乱発できない。


「そろそろだ、ファロス!

相手は小物だが、油断はするな!」


「御意!」


接近戦は、オレたちの出番だ。


「ふぅぅぅぅ・・・すぅぅぅぅ・・・。」


オレは大きく深呼吸して、体内の気に集中する。

『竜騎士の技』のひとつで、オレが最も苦手とする技の、

その練習がてら、体内の気を意識して戦ってみよう。


「ギャッホ! ギャギャギャー!」


「さぁ、こい!」






オレたちの『ゴブリン』討伐の依頼は、無事に達成した。

あの数の『ゴブリン』たちに囲まれて

全員無傷で討伐できたのだから、上出来だろう。


接近戦になってからは、ほとんどファロスが斬り捨ててくれた。

シホの魔法の壁が要らなかったほどだ。

縦横無尽に暴れ回る働きぶりだった。

しかし、ファロスの表情は優れない。

まだ右腕のチカラに違和感があるのだろう。


「はぁ・・・。」


落ち込んでいるやつが一人。木下だ。

攻撃魔法が不得意なうえに、実戦でいきなり中級魔法を使ったのだ。

いろんな属性の魔法を習得しているようだが、

『ゴブリン』たちは、あとで首を回収しなければならず、

大きな火柱などの攻撃魔法は使えなかった。

木下としては、風の魔法で『ゴブリン』たちの首を

狩り取ってやるつもりだったらしい。

しかし、使うタイミングが難しかったようだ。

もう少し敵を引き付けてから使えれば・・・

しかし、接近されてから中級の魔法を外してしまった場合、

パーティーの危機に繋がる。

だから、木下は遠距離から攻撃したのだろう。


「ふぅ・・・。」


こっそり落ち込んでいるやつが、もう一人。オレだ。

オレの苦手とする『竜騎士の技』・・・

それを試しに使おうとしていたが、うまくいかなかった。

結果、討伐は出来たが・・・技がうまく出せなかったのはヘコむ。

みんなは、オレが落ち込んでいる理由は分からないだろうが。


「なんだよ、ユンムさん。元気ねぇなぁ。

それよりも、見ろよ、この『小鬼』の首の数!

おっさんが一人で討伐してきた数よりは劣るかもだけど、

じゅうぶん、金になるんじゃねぇか!?」


シホがそう言って、ファロスが背負っている大きな袋を指さす。

シホが木下を元気づけようとしている?

いや、そういう気遣いをしているわけではなく、

単純に報酬金が見込めることが嬉しいようだ。

たしかに、相当な数の『ゴブリン』の首だ。

オレとしては、無事に依頼達成できたことに

少しホッとしている。


「ユンムさんの魔法、すごかったよね!」


「はい、あの魔法のおかげで『ゴブリン』が弱っていたでござるから、

拙者は難なく討伐できたでござる。木下殿のおかげでござるよ!」


ニュシェとファロスが、木下を元気づけているようだ。

今回の討伐で、一番活躍していた2人に元気づけられると、

木下も素直に喜べないだろうけどな。


「おじ様は、どうして落ち込んでいるのですか?」


「え? いや・・・。」


「おっさんは疲れただけだろ。」


「あぁ・・・。」


木下に何か感づかれた気がしたが、

シホの素っ気ない言葉で片づけられて助かった。

『竜騎士の技』・・・

結局、仲間たちに隠していてもいっしょに戦っていれば、

いつかはバレてしまうことだが、『スパイ』である木下に

自ら弱点みたいなことを話してしまうのは気が引けた。


いや、それだけの理由で黙っているわけではない。

オレは・・・弱い自分を知られたくないのかもしれない。

こんな歳になって、苦手なことがあって、

それを克服しようと、もがいて、足搔あがいて。

こんな必死になっている姿を知られたくない。

この歳になっても恥ずかしい・・・いや、この歳だからこそか。

しかし、いずれ気づかれる。

役に立たないジジィであることがバレて、

必死になって、足搔いていたことがバレて・・・

落胆されたり、笑われたり・・・

そして、最終的にはリストラ・・・。


「おじさん、今日もお疲れ様だったね!」


「あ、あぁ。」


オレの弱い心を知らずに、ニュシェが笑顔で労ってくれた。

感づかれぬように笑顔で応えた。

午後の日差しで、オレの疲れた笑顔が少しでも明るく見えただろうか。

まだまだ弱気になっている場合ではない。

本当の役立たずになってしまう前に、苦手を克服せねば。




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