『炎の精霊・ジャファーフ』討伐戦
ボッ! ボォン! ボボォン!
「くっ!」
「はぁ! はぁ!」
木下の作戦通り、オレとファロスが囮として
『炎の精霊』の周りを走り回る!
近すぎず、遠すぎず、2人が重なるように並ぶこともなく、
お互いとの距離と『炎の精霊』との距離を
うまく保ったまま、やつの攻撃をかわしていく!
『炎の精霊』の攻撃は、拳大の火の球だ。
まるで初級の火の攻撃魔法のようなものが、
詠唱無しで、連続で繰り出されてくる!
初動も分からない。予想よりも攻撃の回転が速い。
手のようなものを振りかざして、その手から球を発していたと思ったら、
いきなり背中から球が飛び出してくることもある。
やつは体のどこからでも球が出せるのだ。
気が抜けない!
ボボッ! ボヒュッ ボヒュン!
それを必死に避けながら、やつを中心に周りを走り続ける!
やつをその場に留めるように、
そして、木下たちが攻撃の目標にならないように
やつの意識をオレたちに集中させる。
「はぁ! はぁ!」
「ふっ! くっ!」
年寄りにとっては一番キツい戦法だ。
「ボォッハッハッハーーー!!」
時折、『炎の精霊』が声高らかに笑う。
まるで楽しそうに。
オレたちが必死に攻撃を避けている姿が、そんなにおもしろいのか?
やつに踊らされているような気がして、なんとも腹立たしい。
「トルバ・ラウハ・カストロ!」
ゴッ ズズズズズンッ
通路側から木下の声と音が聞こえてきたから、
そちらの方をちらっと見たが、その時にはすでに
土の壁が出来上がっており、通路は見えなくなっていた。
ここからの距離だと、木下とシホの魔力を微かに感じる程度だ。
木下の土の魔法は、木下の魔力で維持しているらしく、
木下の魔力は高まったままだ。
これで、シホの魔法が発動するまでは、
女性陣3人の安全が確保できたわけだ。
オレたちが避けた火の球が、通路へ飛んでしまわないように
通路側を背後にすることなく攻撃を避け続けてきたが、
もう木下たちを気にせず、動き回れる。
とりあえず、木下の作戦はうまく進んでいる。
「ボォァハッハッハーーー!!」
ボボボンッ ボボボンッ
「はっ! くっ!」
「うぅっ! はぁ、はぁ!」
オレたちの思惑を知ってか知らずか、
『炎の精霊』は木下たちに目もくれず、
ただただ楽しそうに笑いながら、オレたちに火の球を繰り出してくる!
ボヒュッ ボヒュン ボッボッン!
「は! はぁ、はぁ!」
「うっ! はぁ!」
オレたちに、よそ見している余裕はない。
心なしか、やつの火の玉が
徐々に速く、大きくなってきている気がする!
ボヒュッ チリチリチリ
ギリギリにかわしすぎて、服が焼けそうになる!
オレは早くも息切れしそうになっている。
「ボォアッハーーー!!!」
ボッ ボッ ボボボボボボボォ
「!」
「!?」
急に『炎の精霊』の攻撃が止まったかと思えば、
両手に小さな火の球を作り出し、やつのエネルギーが高まっていくと、
その球がみるみる大きくなっていく!
あんなモノ、くらったら・・・
「はぁ!!!」
ボヒュンッ!
このまま攻撃されるのを待つだけというのが
我慢ならなかったオレは、背中の鋼鉄の槍を取り出し、
一気にやつの間合いへ駆けつけ、やつの脇腹を薙ぎ払った!
しかし、やはり『炎の精霊』の実体は炎でしかない。
鋼鉄の槍は全く手ごたえが無く、やつの体をすり抜けた!
攻撃するためにやつへ近づいたが、それだけで熱い!
「佐藤殿!!」
ボヒュォッ!
同じくファロスも腰の刀を抜き、やつの間合いへ踏み込んで
斬りかかったが、ただ空を切っただけに過ぎないようだ。
ダメージを与えられない!
『炎の精霊』のエネルギーの高まりが止まらない!
「ファロス、離れろ!」
「っ!!」
攻撃するために近づきすぎたオレたちは、すぐさま
おのおの『炎の精霊』から左右に離れた!
「ボォッハァァァーーーーー!!!」
ボッ ボヒュッ
先日、ファロスを襲った炎の球と同じ大きさ!
その炎の球が、やつの左右にいたオレたち目掛けて、
それぞれ飛んでくる!
「くぉ!」
「ぬぁっ!」
ボッ ボォォォン!!
ガシャッ
間一髪、炎の球を避けたオレだが、
鋼鉄の槍をその場に落としてしまった!
いや、もはや鋼鉄の槍は荷物でしかない。
落とした位置さえ覚えておけば支障はない。
ファロスのほうも炎の球をうまく避けたようだ。
避けた炎の球はオレの後ろ側の壁へ向かって飛んでいき、
壁にぶつかり盛大な炎になって燃え盛った!
ファロスが避けた炎の球も同様だ。
「はぁ、はぁ!」
炎の球がぶつかった壁は、とりあえず崩れることは無かった。
案外、やつは壁が崩れない程度に火力を抑えて
攻撃しているのかもしれない。
この広場全体が崩落すれば、やつも困るからか。
しかし、あんな炎の球をまともにくらったら
地面に転がって消せるようなモノではない。
一瞬で消し炭になってしまう。
「ボァッハッハッハーーー!!」
ボボッ ボボボボボボボォ
「くっ!」
やつが勝ち誇ったかのような笑い声で、
さっきと同じことを始めた!
また火の球ではなく、大きめの炎の球を作り出して
攻撃してくるつもりか!
ボンッ! ボヒュッン!!
「ぬぁ!」
「っ!」
ジジジッ チリチリチリッ
「あっつ!」
またギリギリでかわせた!
服だけじゃなく肌まで焼けたかのような熱さ!
ファロスも、なんとか、かわしている!
炎の球がオレたちの背後の壁で燃え盛る!
「ボァッハーーー!!」
ボボッ ボボボボボボボォ
こちらに休む間を与えてくれない!
やつの攻撃は、どんどん速く、大きくなっていく!
「はぁ、はぁ!」
旅を始めた頃よりは体力がついてきているが、
やはり、これはツラい!
付かず離れず、うまく攻撃を誘導しつつ、
その攻撃を避け続けるというのは、年寄りには無理がある。
『炎の精霊』自体の熱もすごいから、
こうして対峙しているだけで体力が消耗していく!
熱い!
シホは、まだか!?




