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定年間際の竜騎士  作者: だいごろう
第五章 【エルフの赤雷と怠惰の赤鬼】
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『ゼーレ』の入手




夕食後、オレたちは食堂から宿泊部屋へ移動したのだが、

二階への階段を上がる前に、ふと、受付のカウンターが

華やかになっていることに気づいた。

宿泊部屋にある花瓶と同じ、青銅で出来た立派な花瓶に、

綺麗な青色の、小さな花がたくさん生けてあったのだ。

今朝までは、空っぽの花瓶だけだったのに。


ちょうど受付に、あの年老いた女性店員がいて、

目が合ったので思わず話しかけてしまった。


「さっきは世話になったな。おかげで助かった。」


「いえいえ、お客様が無事に戻られて何よりです。」


「そこの花、綺麗な花だな。」


「えぇ、この時期に咲く花でございます。」


玄関先で汚れを拭いてもらったお礼も兼ねて、

花瓶にある花を褒めてみた。

年老いた女性は、柔らかい笑顔で答えてくれた。

この時期の花か・・・今まで花を生けなかったのは、

この花が咲くのを待っていたからだろうか?

いや、そこまで聞く必要はないか。

とにかく花があるだけで、受付の印象が全然違う。

いい雰囲気だ。




部屋へ戻ってから、オレは

3人に、洞窟であったことを話した。

元・採掘場らしき広場を3カ所巡り、

最初の広場では採掘作業が出来たが、

次の広場は、魔獣の住処だったので断念し、

その次の広場は『ゴブリン』の休憩場所になっていて、

なんとか命がけで、その場の『ゴブリン』を討伐できたこと。

そして、ファロスの刀を回収し、

『炎の精霊』が宿っている魔鉱石の場所も確認してきて、

精霊が出てきたから、全力で走って逃げてきたことを伝えた。


ここでも、ペリコ君に助けてもらったことは言えない。

全て一人でこなしたことにするしかない。

何かツッコミを入れられたら、

とてもじゃないが、オレでは良い返しが思いつかない。

だから報告しながら、内心ドキドキしていたが、


「やっぱ、おっさん、つえぇなぁ。」


「すごいね、おじさん。あたしもがんばらなきゃ。」


シホとニュシェからは、特に怪しまれることなく信じてもらえたようだ。

・・・それはそれで、2人をだましているから心苦しい。

木下は、すでに真実を知っているのだろう。

自分が『スパイ』の仲間に頼んだのだから。


「おじ様、お疲れさまでした。

とにかく無事に帰ってきてくれてよかったです。」


「あ、あぁ。」


木下が労ってくれているが、

その表情が、どことなく「私のお陰ですよね」と

言っているような気がするのは、さすがに気のせいか。


「それにしても、洞窟の天井にあんのかよ。

『炎の精霊』の魔鉱石。

どうりで数百年、討伐できてないはずだよなぁ。」


「・・・数百年前に『炎の精霊』を召喚した人は、

相当、頭のキレる人だったようですね。」


シホも木下も難しい表情で、そう言った。

はっきり言って、どうやって攻略すればいいか分からないが、


「しかし、今回で『炎の精霊』が出てくる条件が

なんとなく分かった気がするんだ。」


「え! 本当かよ!」


「どういう条件なの?」


シホとニュシェが驚きの表情で聞いてくる。

木下は「本当か?」という疑いの目をしている。

やはりペリコ君は、木下と直接会って話していないようだ。


オレは、ペリコ君が教えてくれた憶測の条件を

3人に伝えてみた。

昨日と今日、『炎の精霊』が出現した時の状況・・・

そして、その広場では、ほとんど空気の流れが無いこと・・・

それらを踏まえて導き出された条件は、


「空気・・・ですか・・・。」


オレから伝えた、ペリコ君の憶測を聞いて、

さっそく、木下が難しい表情で考え込んでいる。


「よく気づけたなぁ、おっさん。」


「ぅっお、おぅ・・・まぁ、な。」


「?」


シホに感づかれたかと思ったが、

そうではなく、素直に感心してくれたようだ。

これも、ペリコ君の手柄なのに、

自分の手柄のように話してしまって罪悪感を感じる。


そして、もうひとつの憶測。

『炎の精霊』が名乗るとともに合い言葉を問うていたということ。

当時、幽閉された『エルフ』たちの様子を

帝国軍が見に行く際に、その合い言葉が必要だったのでは?

ということを、3人に伝えてみた。


「合い言葉・・・ねぇ?」


「そういえば、そんなことを言ってた気がするね。」


「・・・。」


シホは思い出せない様子で、

ニュシェは、かろうじて憶えていたようだ。

木下は思い出そうとしているというよりは、

オレから伝えられた情報を整理してから、


「もし、合い言葉によって『炎の精霊』との戦闘を

避けられるのなら、ありがたいのですが、おそらく

数百年前の術者との契約でしょうから、

現在、その合い言葉を知っている人は

この世にいないと思われます。」


「んー、出鱈目でたらめに何か叫んでも通用しないだろうなぁ。」


「そうだろうな。」


木下は、合い言葉は分からないと、結論付けた。

ペリコ君と同じ結論だな。オレも同意見だ。

シホが言うように、出鱈目の合言葉を叫んだところで

正しい合い言葉を言い当てられる気がしない。


「では、今度はユンムの番だな。

図書館で得られた情報を教えてくれ。」


「はい。

まずは『魔鉱石採掘』の件ですが・・・

ニュシェちゃん、昨日、

洞窟で見つけた綺麗な赤い石を見せてくれる?」


「ん? ちょっと待ってね。」


「?」


なぜかニュシェに石を見せろと言う木下。

ニュシェは、自分の服のポケットから

昨日の石を取り出した。


だが・・・


「え!? あれ!?」


「ん?」


「それは!?」


しかし、ニュシェがポケットから取り出したのは、

赤い石ではなく、紫色の石だった!


「なんで!? あれ!?」


ニュシェが驚きながら、自分のポケットの中を探っているが、

取り出した石以外、何も入っていないようだ。


「まさか、それがグルースが求めている魔鉱石か!?」


「えぇ? え!? そうなの!?」


「それ、魔鉱石だったのかよ!」


オレもシホもニュシェも驚いている。

たしかに昨日見た時は、

赤い色の、何の変哲もない、魔力もない、小さな石だったはずだ。

驚いているオレたちとは対照的に、

木下は落ち着いた態度で、説明し始めた。


「グルースさんからの依頼である『魔鉱石採掘』ですが、

『ヒトカリ』では、詳細を依頼主に聞いてほしいと言われ、

依頼主であるグルースさんからは

明確な魔鉱石の特徴を教えてもらっておらず、

『ゼーレ』という名前と紫色であるとしか聞いていなかったので

図書館で調べてみたのです。

魔鉱石『ゼーレ』は、特殊な魔鉱石で

土や岩の中にある間は赤色をしていて、

掘り出すと空気中に漂っている微弱な魔力を取り込んで、

一日経てば紫色に変色して、魔力を帯びるようになるそうです。」


「へぇ~、そんな魔鉱石もあるんだなぁ。初めて聞いたぜ。」


「ほ、本当だ! この石、魔力を感じるよ!

昨日までは何も感じなかったのに! ほら!」


木下の説明を受けて、ニュシェが興奮気味に

そう言って、石をオレに渡してきた。

石が小さいからか、それとも、これがこの魔鉱石の特徴なのか、

手の平に乗せると、たしかに弱い魔力を感じる。

こうして触れなければ感じられないほどの微弱な魔力だ。


「こ、これが、その『ゼーレ』だったのか。」


「はい。魔鉱石『ゼーレ』は、魔力を込めると、

石の中に魔力を溜めておける性質があるようですね。

その小さな石では、魔力を溜める量は小さいでしょうが、

石が大きければ魔力を多く溜めておけるようです。」


「あー、魔力を物に込める魔法は聞いたことあるぜ。

俺はそういう魔法、使えないけど。」


なるほど。そんな魔鉱石だったのか。

たぶん昔は、あの洞窟で、炭鉱夫たちが魔鉱石を採掘した後、

魔力を込める専門の魔術師がいたのだろうな。


「おっさん、オレにも貸してくれよ。」


「お、おう。」


シホにせがまれて、魔鉱石をシホに渡す。

シホは魔鉱石を手の平に乗せて、まじまじと観察したり、

ランプの前にかざしたりしている。

小さい魔鉱石だが、キラキラ輝いているようだ。


「ということは!」


オレは、今日の洞窟で採取してきた石を思い出し、

自分の荷物から、それらを取り出した。


「おぉ、おっさんも採ってきたのか!」


「わぁ、おじさんの、おっきいね!」


オレが出した石を見て、ニュシェが驚く。

ニュシェが採掘した石よりも一回り大きな赤い石が3個。

ニュシェとシホだけじゃなく、木下も覗き込んで

オレが取り出した石を見ている。


「どうだろう? こいつも明日には紫色になるんだろうか?」


「正直、私も図書館で知識を得られましたが、

石を見て、それが本物かどうかは分かりません。

明日には分かると思いますが、ニュシェちゃんの石と

かなり似ている気がします。」


木下からは、あまり自信が無さそうな返事が返ってきた。

それもそうか。本を読んだだけで専門家になれるわけでもないしな。


「おー、ほかにも綺麗な石を見つけてきたんだな。」


「わぁー、きれぇー!」


シホとニュシェが、他の石にも興味を示している。

オレが採ってきた石は、赤い石3個と、

光沢のある黒い石と黄色の石が1個ずつ。

そして、魔力を帯びている、濃いオレンジ色の魔鉱石が1個。


「こっちのオレンジ色の石は、魔鉱石ですね。

昨日、グルースさんが採掘した物と同じ物のようですね。」


木下が、魔鉱石に気づいた。

そっと手で触れて、魔力を感じているようだ。


「あぁ、そうみたいだな。

それ以外は、普通の石のようだ。」


「でも、分からないぜぇ?

この『ゼーレ』って石と同じで、

他の石も、明日には魔鉱石に化けてたりしてな!」


シホがそんなことを言う。


「その可能性は低いかと。

『ゼーレ』のような性質の魔鉱石は、

そんなに種類が多くないですから。

この国で採れるのは『ゼーレ』だけでしょう。」


「それもそうか。」


木下の指摘に、苦笑いのシホ。

『ゼーレ』のような珍しい魔鉱石が、そうそうあるわけないか。


「しかし、他の綺麗な石は

稀に、宝石かもしれませんから、

ただの石だと判断するのは早いかもですね。

この町にあるか分かりませんが、宝石商のお店へ

持って行けば、もしかしたら高値で買い取ってもらえるかもしれません。」


「おぉ、一攫千金も夢じゃない!?」


「おいおい。」


木下の助言を真に受けて、喜ぶシホ。

そんな高価な宝石が、こんな簡単に見つかるわけがないと思うが。


「魔鉱石の方は売ってしまおうと思うが、

そっちの綺麗な石の方は、ニュシェにやろうと思っていた。」


「あたしに!? いいの!?」


オレがそう言うと、綺麗な石よりも目を輝かせたニュシェ。


「あぁ、宝石商で売るなり、好きにしていい。」


「売らないよ。これ、すごく綺麗だもん。

ありがとう、おじさん。」


大切そうに石を眺めているニュシェ。

年頃の女の子への手土産として、どうなんだろう?って

少し不安でもあったが、オレの選択は間違っていなかったようだ。

よかった。

シホも、なんだか物欲しそうな目をしているから、

シホにも・・・と思ったが、こいつは、ただ単に

売ることしか考えてなさそうな目だな。


「とにかく、おっさんが採ってきた

この赤い石が、明日、紫色になっていれば、

依頼達成ってことになるよな?」


「そうだな。どれだけの量が必要なのかは

聞いてないから、もしかしたら、

これだけで依頼達成かもしれないな。」


オレは、シホの言葉に賛同したが


「そうですね。とりあえず持って行くといいですね。

ただ、『カラクリ人形』には大量の魔鉱石が必要だと

聞いているので・・・グルースさんなら、追加で採掘の依頼を

お願いされてしまう気がしますね。」


「な、なるほどな・・・。」


木下の指摘がすごく当たっている気がした。


「でも、これが採れた場所へ

もう一度行って掘ってみれば、もっと手に入るかもしれないし。

とりあえずは、達成できそうだよな。」


「そうですね。」


シホの意見に木下もうなづく。

シホらしい前向きな意見だ。少し安堵あんどした。

これで、グルースの依頼『魔鉱石採掘』を

達成できる目途めどがついた気がする。





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