21 恐怖
「まず、俺は八代力。Cランク探索者だ。俺の地獄は入寮日、同室になったやつに俺のランクを話した時から始まった。」
田中が話の邪魔をしないよう静かに冷蔵庫から持ってきた麦茶を人数分注ぎ始めた。頼人は田中が3つ目のコップに注ぐのを制止してねりねりねりね入りの水筒を渡す。
「あいつは、俺のランクを聞くなり質問攻めにしてきた。得物、趣味、家族構成に至るまで。」
水筒の中身を一気飲みした田中はソファーに自分の座るスペースが空いていないことに気づき、頼人をどかしにかかる。
「最初は仲良くなれるかもと思ったんだ。でも担任からパーティーの話をされてからって聞いてるか?」
八代はソファーの上に座る田中の膝に座る頼人を見て話しを止めた。田中の太ももの弾力は高級ソファーのクッションに勝らずとも劣らない。
「聞いてる聞いてる。その後のパーティーの勧誘がしつこすぎて困るってやつだろ?割とよくある話じゃん。」
頼人が気楽そうに笑いながら手をひらひらさせた。
「休み時間のトイレについてこられてもか?部屋の風呂場に使用中に入って来られてもか?寝室に押し入られてもか?」
「おまえけつの穴無事?」
「無事に決まってんだろ!」
頼人と田中は八代に同情の視線を向けた。3人の間に気まずい空気が流れる。その空気のなか、田中の脳内にはある人物が浮上した。
「そいつ長門喜明って名前じゃないか?」
「何で知ってんだ?」
八代が驚いたような顔をし、頼人は納得がいったように頷いた。
「そいつ頼人のとこともう一人のCランク、藤堂のところにも来たんだよ。『ぼくのかんがえたさいきょうのぱーてぃー』作りたかったみたいだな。」
「俺も藤堂も撃退に成功してるけど方法聞く?藤堂のほうは俺らがその場にいたわけじゃなくて本人から聞いた話だけど。」
頼むと頷いた八代に頼人はその時のことを語りだした。
***
放課後の訓練を終え、頼人たちパーティーは寮一階の大浴場に来ていた。決められた時間内ならいつでも入れるそこは、草津や伊香保など有名な温泉地がある群馬にあるだけあって温泉が引かれている。部屋の風呂でも十分なのだが、特に女子生徒は好んで大浴場を使用する。ちなみに浴場自体は男女隣り合ってはいるが、露天風呂がないため覗きなどの事件は起こらない。
そいつがやってきたのは髪も体も洗い終えた頼人たちがのんびりと温泉につかっている時だった。
「お前雨宮頼人だよな?おれはDランクの長門喜明。そんなデブとチャラい奴やめて俺とパーティー組めよ。」
「お断りします。」
頼人は相手の不遜な態度にむかついたわけでもパーティーメンバーを貶されたことに憤ったわけでもなく、初対面のくせに全裸で隣に座ってくる男に恐怖を感じて即答した。それにも関わらず黒髪黒目の男、長門は自分がいかに剣の扱いがうまく優秀であるかを一方的に話し続けている。そしてなぜか変に距離が近い。
いくら同じ男でも、いや、男だからこそ自分よりも大柄な男に迫られたら怖いだろう。関わらないようにとそっぽを向いていた速水が、いつも飄々としている頼人がかわいそうなくらいに震えているのに見かねて口を出そうとした。しかしその前に、長門のボディーランゲージで動かしていた手が偶然にも頼人の脇腹をかすめ、恐怖が爆発する。
「わかった!お前の言いたいことはよーくわかった!
つまりはデブの胸がもみたいんだろ!?そうだろ!?しゃーねーなぁ、揉ましてやるよ!
デブ!! GO!!!!」
***
「で、デブがフルチンで追いかけたら逃げてった。」
「それ俺はまねできなくね?」
まだ藤堂の話があるさと田中が八代の肩をたたく。
夜はまだ長い。




