20 思わぬ出会い
「あっ教室に水筒忘れた。」
夜九時、頼人は寮の部屋の台所でつぶやいた。
「それ今気づいたのか?普通実技授業の後とかに気づかねえ?」
田中が夜食のカップラーメンにお湯を注ぎながら聞く。
「いやそれがさ、その水筒ねりねりねりね入れてたんだよね。この間深夜テンションでネットで箱買いしたやつ。10袋くらい入れて水注いでねりねりーって。行けるかなって思ったんだけど無理だったわ。あれは飲むもんじゃない。」
「テラワロス。お前ねりね氏に謝れよ。」
田中がポテチの袋を空けながら言う。ラーメンのできる3分が我慢できないようだ。
「俺も捨てるのは忍びないと思って後で木下あたりに飲ませるつもりだったんだ。で、アイテムボックスにしまわずに机に突っ込んでそのまま忘れた。そうだ、トッピング残ってんだけどいる?」
「いる。ラーメンにかけて。」
頼人は言われるままに「群馬ご当地焼きまんじゅうラーメン」にねりねりねりねのトッピング10袋分を入れる。ファミレスのドリンクバーでコーラとわかめスープを混ぜた時のような背徳感があった。
「お茶とかならまだしもねりねはまずいから今からとってくるわ。」
「いてらー」
部屋着のパーカーのまま頼人が出ていく。一人取り残された田中はラーメンをすするとゴフッと吹いた。
***
夜の校舎は昼間とは違う雰囲気がある。転々とする非常灯の赤い光に心霊的なものを一切信じていない頼人ですら心細く不安に感じる。小学校の時にはやった替え歌メドレーを歌い、気を紛らわしながら教室の前へとたどり着いた。教室のドアのパネルに学生用ブレスレットをあて開錠すると、薄く扉を開いて滑り込むように侵入する。
夜はすべての教室が施錠されているが、自分で開錠すれば入ることができる。誰が開錠したかは記録に残るため、学園側も防犯面での心配はなく、頼人のように忘れ物をした生徒には寛大なのだ。
頼人は水筒を何の問題もなく回収すると教室を出てそっと扉を閉めた。扉が再び施錠される音が静まり返った廊下にやけにうるさく響いた。
「あれ?」
5組の教室明かりがついている。頼人は仲間がいるかもしれないとその場に行ってみることにした。
「・・・何してんの?」
頼人の目に飛び込んできたのは予想外の光景だった。長身の黒髪青目の男子生徒が教室の後ろのほうに寝袋を敷いている。頼人はこの生徒のことを知っていた。
「・・・同室のやつが無理すぎて。」
もう一人の1年生のCランク、八代力が気まずげに目を泳がせた。
***
「で、拾ってきたと。」
「うん。ちゃんとお世話するから飼っていい?」
「俺は犬かよ・・・」
頼人は八代を自分の部屋に連れ帰った。教室で寝るのは気の毒だと思ったのだ。断じて一人で帰るのが怖かったわけではない。
「ひとまず寝るのにはソファー使えよ。」
田中が黒い革張りのソファーを顎で示す。ユニークモンスターの魔石のことでごねた際に理事長室から強奪した高級感あふれるこのソファーは座り心地も寝心地も抜群だ。下手したらベットよりも心地よい眠りを体験できるかもしれない。
「じゃあ、問題の同室者のこと聞かせてもらおうか。」
ソファーに座った頼人が自分の隣をぽんぽん叩きながら言った。




