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逃避行

……笑えないな。ここに来て道がわからないなんて、ジョークにしても悪辣すぎる。


シノはじーっとコータのことを見つめる。まるで、どっちに進むか決めてくれることを懇願するかのように。


いや、そんな見られても道知らないし。勘で行けと?……はぁ、ほんとにこの駄女がm……ごほんごほん。これでも神様なんだ。我慢しよう。


「で、それでこの先どうするんで?もし間違えたら異世界に行けないどころか、見つかって処罰を受けるのでは?消滅だけは嫌ですよ。」


「いや、そのだな、コータなら分かると思うのだ。」


この神様はほんとに何を言っているんだろう。来たこともない俺に分かるわけないだろう。


「えーっと、どういうことですか?」


「手を自分の前にかざして手の平に意識を集中させて見てくれないか?」


言われるがままに手をかざし、手の平に意識を集める。すると、神格を受け取ったときの見た燐光が自分の手を包んだ。


「その状態で、異世界までの道を教えてくれ、と強く念じてくれ。」


目を閉じ、異世界に行くための道を示すように燐光に念じる。すると、手の回りに集まっていた燐光は右の道へとふわふわと飛んでいく。


「うむ。右に進むのが正しい道順のようだな。では行くぞ。」


と、コータはシノに手を引かれる。何故、自分でやらなかったのだろうか。もやもやとした気分であるが、とりあえず今は先に進むことに集中する。


この後も十字路だったり、道が三本に分かれていたりと迷宮顔負けの造りをしていたが、同様に正しい道順を選んで進んだ。道中に何柱かの神様らしきものに遭遇したが、気付かれることなくやり過ごせた。


このまま天界にいても平気そうだな。リスクがあまりありそうに思わないんだが。と思った矢先、鐘をついたような大きな音が建物中に響き渡る。そして、


『神の眷属と擬似的に神格を得た人間の霊体が紛れこんでいる模様!発見したものは即座に捕らえ、烏天狗に引き渡されたし!』


「とても、まずいことになりましたね……」


「あぁ、早急に転移せねばならんな……」


固く握っていた手をほどき、二人は燐光の示す方へとひたすらに走った。が……


「そこの二柱の眷属らしきものたちよ!止まりたまえ!」


と、後方から怒声が上がる。ちらりと振り向くと、黒い羽の生えた、烏と人間を足して二で割ったようなものが立っている。恐らくこいつが烏天狗とやらであろう。


「神様……」


「コータ……」


「「逃げるぞぉぉおおおお!!!」」


と、自分の持てる限りの力を振り絞り走る。

さすが神様と言うべきか、韋駄天の如く速さで走っている。自分も神格の一部を受け取ったためか、同じぐらいの速度で走れる。まるで風になったかのような気分だ。


後方では、やはり烏天狗が怒声をあげ続け追いかけれてきたせいか、かなりの数の烏天狗が追い掛けている。


速度は自分達の方が速いのか、徐々にその差は開いていく。


……?他の神様に追い掛けられていない。恐らく神様であるなら自分たちに追い付くなどわけないことであろう。


ふと道の端を見ると、神主のような服を着た青年がゲラゲラと笑っている。……なるほど、他の神様から見ればただの娯楽に過ぎないようだ。


「この辺りに見覚えがある!恐らくもう少しで着くはずだ!」


よし!このまま駆け抜ける!


……!?後方から爆音が響いてくる。嫌な予感がする……!


「シノぉ!貴女は何を勝手なことをしているのですかぁぁあああ~~!?」


と、巫女服を着た高校生ぐらいの娘が青く煌めく髪をたなびかせながら、まさに神速とも呼べる速さで近づいてくる。


「神様!?後ろから追い掛けてくるのはお知り合いですかぁ!?」


「別の分社の眷属だ!くっ!迎え撃つぞ!」


と言い、シノは麻袋から神器というにふさわしいような鈍色に怪しく光る剣を取り出した。


「あくまで敵対の体勢をとるんですのね……!

それならこちらにも考えがありますわぁ!」


とその眷属が言うやいなや、青白い燐光を収束させ剣を形作り、やがて真剣へと変わった。


「ちょっ、神様!?ここで戦ってる場合ではないでしょう!?」


ここで戦った場合、先程まで後ろを追ってきていた烏天狗もすぐにここに集まるだろう。もしそうなった場合、異世界へと転移するのは困難を極める。


「私のことは案ずるな。すぐにコータの元へ向かうさ。先に転移の部屋に行って待っていてくれ。」


シノはコータの方に振り向き、凛とした涼やかな笑みを浮かべた。そして、再び追手の眷属に向き直り、剣を構える。


「悪いな。ここで通す訳には行かないんだ。剣を捨て諦めてくれるかな、カノン?」


追手の眷属───カノン───はシノをキッと睨み付け、剣先を向けた。


コータはシノを信じ、一人転移の部屋へと向かった。

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