五人目の証言者:王子妃ロジーヌ
何故わたくしがこの場に呼ばれなければならないのかしら。マリアンヌ様のことは残念でしたけれど、わたくしとは関係ないことですわ。お話しできることは何もなくってよ。
はぁ……。形式とはいえ面倒ね。わたくしの名前も身分もわかっているでしょうに。どうしていちいち名乗らなければならないのかしら。
……うるさいわね。細かい男は嫌いよ。わたくしはフェリックス殿下の妻にしてカルティエ家の娘、ロジーヌ。これでいいんでしょう?
不愉快だわ。手短に終わらせてくださらない? どうせわたくしには、あなたの望む話なんてできないもの。
このわたくしがあらぬ疑いをかけられて尋問されるなんて、この高貴な血にあるまじき侮辱よ。なによりお腹の子に悪いわ。当然、あなたも相応の覚悟を持っていらっしゃるのよね?
司法の番人がどうしたの。調子に乗らないでちょうだい。あなたなんて、わたくしがお父様に頼めばすぐに路頭に迷うことになるんだから!
マリアンヌ様が亡くなったとき、わたくしはお茶会をしていたわ。プティ・ペルル宮殿でね。そう、わたくしに与えられた離宮よ。たかが寵姫風情に与えられるようなプティ・サフィール宮殿とは比べものにもならないほど由緒正しい、すばらしい場所なんだから。
お茶会に参加していたのは、わたくしの女官長のランヴェイ公爵夫人よ。護衛としてお兄様もいたわ。嘘だと思うなら二人をここに呼んでごらんなさい。きっとわたくしの無実を強く証明してくれるでしょうね。
アルフォンス様。あなたはわたくしを疑っているようだけど、わたくしだってつらいのよ? このお腹には殿下の御子がいらっしゃるのに、殿下ったら素性の知れない女のことばかり考えていらっしゃるんですもの。ひどい侮辱だと思わない? あんな女、死んで当然なのに。
……なによ、その目。今すぐあなたの首を斬ってもいいのよ? 不敬罪で訴えてさしあげようかしら。わたくしは王子妃で、カルティエ家の娘なのよ。そのわたくしを侮辱してただで済むとは思わないことね。
ああもう、嫌になったわ。どうしてわたくしがあなたごときに時間を使わなければならないのかしら!
司法院からの召喚なんて無視してやればよかったわ。王子妃であるわたくしを司法院ごときがいいように呼び出すなんて、やっぱり許されるようなことではないのよ。そんな前例を作るから司法院ごときが調子に乗るの。寛大に振る舞ってあげてもつけあがられるだけなら、最初から慈悲など与えないほうがいいわ。
わたくしは帰らせていただくわね。何だか気分が悪いの。お腹の子が心配だわ。きっとこの不愉快な時間のせいね。
うるさいわね。気分が悪いって言ってるじゃない。ねえ、アルフォンス様。あなたは理解していらっしゃるの? わたくしのお腹には、フェリックス殿下の御子がいらっしゃるのよ?
この子に何かあったら、あなたの命だけでは償い切れないわ。それでもわたくしを止めるおつもりなの、アルフォンス様?
(証言者が途中で退出してしまったため、これ以上の聴取は不可能。)