その10 勝利
「おう! 見つけたぞ! 新時代のマナ使いとその精霊よ」
新しい壁を破壊しようとしていた大男がこちらを振り向く。俺はすぐに立ち上がって、マリナを引き起こす。
「ふむ、もう一人の精霊が見当たらないようだが……触媒がなければ居ても同じことか」
片手の短剣を構える大男。魔法の力も宿っているようだが、そもそもその隆起した腕で斬られれば致命傷になるような気もする。
本当に何故こいつは魔法士の道を選んだのか。終わったら聞いてみたい気もした。
「では終わりにしようか」
俺たちの背後は壁で左右は瓦礫で埋もれている。逃げる道はない。
つまり――――迷っている暇も、祈っている暇もない。やれることは可能性に賭けることだけだ。
「マリナ!」
「は、はい!」
俺は僅かに血が染みた布きれを握りしめ、詠唱を始めた。
『ご主人様に手コキ』『ご、ご主人様に手、手コキします……!』
恥ずかしそうにマリナが復唱する。
「馬鹿め! 触媒もないのに詠唱をしてもブラフにはならんぞ! 無駄なあがきである! 砕けよ!」
大男が短剣を構え突進したのと、言霊がマリナに伝わったのは同時だった。
『そのままお口で咥えて! 白いのをたくさん出してください! 全部ごっくんしますから! ……だからわたくしにご奉仕させてください!』
マリナが真っ赤になって叫んだ、その瞬間。手にした布切れが熱くなった。
俺はこの手のひらに伝わる熱さを知っている。
一度目はマリナを庇ったあの日。
二度目はリーフとユキ、それにマリナと魔法を練習したあの日。
どちらも第六属性を生み出した時に感じた熱さと同じだ。
そして三度。それは再現された。
つまり――――第六属性真光が、マリナによって生成されたのだ。
放った魔法は、もういい加減使い慣れた小さな発火だった。
だが第六属性によって「術式」を捻じ曲げられた炎は、もはや炎ではなく光だ。
本来は波打つ炎だが、光に近しい存在となったそれは、一本の線となって布きれを握った俺の手からガレリアに伸びていく。
突進したガレリアもそれに気が付き、手にした短剣に新たな魔法を付与し防御に備えた。
もしあれが本物の光であれば文字通り光速であり、対応が出来る時間などなかったはずだが、その速度は視認できる程の速さであった。
光の線が短剣に触れた瞬間、蛇のように巻き付き、短剣とそれにかけられていた魔法を「飲み込んだ」。
そして咀嚼するかのように物質とマナを「分解」し、霧散させ、形無きモノへと変えていく。
弾けた光のベクトルが自分へと向けられ、次の獲物が自分なのだと悟ったが何もすることができず、大男は恐怖の表情を浮かべたまま天へと延びる一筋の光に胸を貫かれた。
上空に映された一方の人形が砕け散り、俺の勝利が確定したその瞬間は、同時に伝説の第六属性が多くの人間の前で再現された瞬間となった。




