その2 魔導公爵(デュークウィザード)
トーナメント出場者は俺を含めて49名。俺以外は全て各地の予選を勝ち抜いた腕利きの魔法士だ。
俺は主催者の特別出場枠での参加であるため一回戦はシードである。そのため、他の一回戦を観戦することができたのは幸いだった。
結論から言うと一回戦目から派手な応酬が行われる激戦だった。
ある者が「爆弾を十個ほど同時に爆発させたような炎」を発生させれば、相手も「アイスドラゴンを召喚して冷気のブレスを吐かせ」て防ぐ。
「稲妻を纏った片手剣の一閃」を「地面を再構築して巨大な壁を作り上げて反撃する」。
もしドラクエならレベル60以上じゃないと使えないようなド派手なエフェクトの数々を繰り広げながら戦う世界だった。
「すげぇな……」
見たこともない魔法が繰り広げられる戦いに、思わず言葉を失って見入る。
中央の闘技場――広さは東京ドーム以上ある――は、まっさらな平地ではなく、木々や隆起がある起伏にとんだ地形となっている。それらを利用するのも戦術の一旦なのだろう。
今戦っているうちの一人は中央の大木から枝を伸ばし相手を牽制している。もう一方は炎の魔法で捌いてはいるが、無限の様に湧く枝の触手に少々攻めあぐねているようだ。
「しかし……これって間違いなく死人が出るだろ」
至る所で燃えるわ、地面は抉れるわ、凍るわの本気の魔法を撃ちあっているのだ。魔法障壁で防御し続けられるとは限らないし、直撃すれば「てへ☆足くじいちゃった」で済むとは思えない。
「いえ、それは大丈夫よ」
「リーフさん? ほら! 今炎が直撃したんだけど⁉」
競技場の中央では、黒衣の男と山吹色のコートの男が戦っていたが、黒衣の魔法士が放った業火の球を防ぎきれず、山吹色のコートの男が業火に包まれたところだった。
放たれた業火の球を弾いたものの、死角から放たれたもう一つが躱せずに直撃したのだ。魔法障壁で防御した形跡もない。
どう考えても無事でいられるとは思えないのだが――――しかし山吹色のコートの男は多少ふらつきはしたものの、次の魔法を撃つ詠唱に入っていた。
「出場者には身代わり人形の魔法が掛かっているから」
「スケープドール?」
「十年ほど前に開発された競技用の魔法よ。魔法が掛かった護符をつけていれば本人が直接的ダメージを負う事はないの。試合なのに毎回死傷者を出してちゃ誰も出場してくれないでしょ?」
リーフが観戦しながら簡単に説明してくれる。
身代わり人形は人形と護符がセットになったもので、護符には受けた魔法のダメージをリンク先の人形に負荷を回す魔法がかけられているとのこと。
「だから護符を装備した者への身体的ダメージは95%以上を軽減されるの。競技形式の魔法戦闘では殆どと言っていいほど採用されているシステムよ。大昔は死傷者を出しても戦う本気の争いだったらしいけど、流石にそんな事を試合で毎回死者を出すわけにはいかないと開発された魔法よ」
護符は対象の頭部、胴体、両腕、両足の六ヶ所に付けられ、装備者がダメージを受けると代わりに人形に付加が回る。
で、一定量を超えると人形の部位が破壊され、三つ以上の部位が破壊された方が負け、というのが国際ルールらしい。
なるほどね。
「逆に直接ダメージを受けない魔法、例えば幻影や幻覚、詠唱を妨げるよう口を塞ぐといった補助系魔法は「ダメージ」自体が殆どないから転嫁できない。だから魔法単体としての効果は非常に高いわ。競技形式ではダメージ重視の魔法偏重だったのが見直されているほどよ」
「要するに超凄いガンダムファイト、いやビルドなファイターってとこか。あれ? じゃあもしかしてこの世界じゃ魔法による死人は出ないってことか?」
「いえ、一部実戦配備はされてはいるけど、その殆どはマナの供給が安定している都市内部限定よ。身代わり人形の運用にはSクラスの触媒を常時稼働させるくらいの膨大なマナが必要だから」
「つまり防衛には無類の強さを発揮する、ただし攻めには使えないって事か」
「そう。だからここ十数年は大きな戦争はないの。攻撃側は身代わり人形を使えず不利だから」
宛がわれた五階の部屋から見下ろすと人の流れがよく見える。会場の外には当然のように露天が並び、いくつもの人集りができている。完全にお祭りだ。 観客は魔法による怪我を気にすることなく、ド派手な戦いを全力で楽しむ事ができるって訳か。
その時、競技場から大きな歓声が沸きおこった。決着がついたのだろう。
競技場の上空に投影されていた二つの人形のうちの片方が燃え上がり、その両腕と片足が崩れ落ちる様が表示された。
勝敗が決まった瞬間に沸き起こった大きな歓声が、俺の皮膚を僅かに震わせた。
「……もっと早く作られていれば、マリナお嬢様のご両親も亡くなることはなかったのに」
だから呟きにも似たリーフの言葉はかき消され、俺の耳に届くことはなかった。
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一回戦の最終戦はゼーガミキトの試合だった。
魔導公爵の魔法が見られるという事で、開始時間が近づくにつれて満席の観客からざわめきが大きくなっていく。会場は試合が始まる前から奇妙な雰囲気が支配し始めていた。
時間になり競技場の中央付近へ、二人の魔法士が現れる。
一人はもちろん魔導公爵ゼーガミキトだ。もう一人は白衣のようなロングコートを羽織っている。フードと一体になっているため顔は見えない。
競技場の上空に二つの身代わり人形が表示され、その上に対象者の名前が浮かび上がると、観客席がどよめきで大きく揺れた。
「白き風の侯爵エイリオス=ゾーンバルド⁉」
リーフが驚愕の声を上げる。
「誰だ、そりゃ?」
「エイリオス=ゾーンバルド……。大陸で12名しかいない侯爵の一人よ。しかも彼はその首席で、最も格式高い白の称号を得ているの」
「ふうん。そりゃ魔導公爵とどっちがすごいんだ?」
「格式だけなら魔導公爵。だけど強さで言えばそうとは限らないわ。彼が得意とする風系魔法は大陸一とも言われているし、実際、彼が創った風系上級魔法は教科書にもなっているほどよ。時期魔導公爵に推す声も高いわ」
「つまりゼーガミキトとほぼ同格ってことか」
フードを取り観客に向けて笑顔で軽く手を振るエイリオス=ゾーンバルド。ただ立つだけのガーゼミキトとは対照的だ。
やや白髪が混じった髪をオールバックにしたナイスミドルは観客に向かって恭しくお辞儀をすると、良く通るバリトンボイスで聴衆に語り掛けた。
「観客の皆さま。本日は我が友人が突然の腹痛により出場を辞退せざるを得なくなったため、急遽吾輩のような未熟者が出場せざるを得なくなった事態をお許しください!」
観客席から大きな拍手と共に歓声が沸き起こる。
「若くして魔導公爵となられた氏の相手には不足であろうが、よき戦いができるよう精一杯務めさせて頂くつもりだ」
彼は対面に立つ黒衣の男に向かって、やや挑発的なセリフを投げる。それを受けてゼーガミキトは口を少し歪ませたように見えた。
彼は顔半分を覆うマスクをつけているので年齢は特定できないが、若い事は間違いない。少なくとも20代だろう。実際はもっと若いかもしれない。
つまり壮年期のエイリオスから見れば、ゼーガミキトは十分に若造なわけで。
きっとゼーガミキトが自分よりも格上の称号を持っているのが大いに気に入らないってのが、代理出場を決めた理由なんだろうな。
エイリオスの体つきは魔法士とは思えないほどの屈強なのが遠目でも分る。腰に細身の剣を装着しているので接近戦も得意となのだろう(斬られて身代わり人形が発動するかは知らないが)。
「僕もまさかこんなに早く白き風の侯爵と手合いになるとは思いもよらなかった。非常に残念だ」
抑揚のない声でゼーガミキトが告げる。
「残念……それは意外。吾輩は非常に楽しみなのだが?」
「決勝戦、いや準決勝辺りで当たった方が、お互いの為だっただろうという事だよ」
「ほう。それはつまり、そこであれば仮に負けたとしても負ければ面目も保てるという見解かな」
「いや、こんな序盤では君の強さが皆に知られないだろう?」
「……決勝戦までまだ幾試合もある。無論わざわざ強さを誇ろうとは思わないが、観客に楽しんでもらうには十分な数であると認識しておるが」
「次があるとでも?」
競技場の空気が一気に緊張を孕んだ。
遠くからでは彼らが何を話したかは聞こえなかったが、純白のロングコートをきたエイリオスが笑ったように見えた。
「では今日の今! 魔法士最高峰の戦いを存分に見て頂こうではないか! 参る‼」
そしてエイリオスは大きく後方に跳ぶと同時に詠唱を開始した。




