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春。空は真っ青に晴れて、花の香りただよう清々しい空気が胸を満たす。
まるく珍しい形に整えられたつつじの木が、病院の中庭をぐるりと囲む。真っ白な花が満開に咲いて、やがて訪れる初夏へ気持ちが自然と誘われていく。
「……綺麗だな」
僕は、ぽつ、ぽつ、と等間隔に置かれた茶色いベンチに腰掛けて、コーヒー片手に休憩時間に浸っていた。
あと数分で、昼休憩も終わりだ。午後からも、診療予定が詰まっている。
「マルネス」
その時、さくさくと芝を踏む音が近づいて、よく知る声が鼓膜を叩いた。
「……トーラ」
名前が小さくこぼれると、彼女はぴしっと背筋を伸ばした。
「好きです!」
爽やかな景色に、ある意味相応しい……『青い春』を知らせる言葉を一息に放つ。
……またか。
「……はぁ」
小さくため息が漏れる。
面倒くさい。でも……
俯けた視線を上げて、目の前に立つ女の目をじっと見据えた。
かたい表情、強張った身体、強く握られた拳。
この子は、どうして……。
くっ、と唇を噛んだ。
浮かんだ疑問は、見ないふりをして置いてきた。
「断る」
「……ありがとうございます」
サァッと吹き抜けた風に、背中まで伸びた色素の薄い黒髪がついていく。顔にかかった絹みたいな髪の隙間から、満足げに細まる澄んだ水色の瞳と、控えめに弧を描く赤い唇が見えた。
僕はわずかに目を見開く。
だから……どうして君は……。
「……失礼する」
これ以上向かい合う勇気がなくて、視線を外して踵を返したーー。




