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第59話 番外編 ミアの観測記録:お嬢さまと公爵様は、たぶん相性がいい

 ミアは最近、北方契約局で一つ確信していることがある。


 レティシア様とルシアン様は、たぶん相性がいい。

 すごく分かりやすくいちゃいちゃするわけではない。むしろ逆だ。二人そろって書類を見て、同じタイミングで眉をひそめ、同じところで「その条文は危ない」と言い、定時になると一緒に帰る。

 地味だ。

 でも、地味な相性の良さほど長持ちしそうだと、ミアは思う。


 たとえば昼休み。

 レティシア様がうっかり食事を後回しにしそうになると、ルシアン様は黙ってカップを置く。逆に、公爵様が壁の報告で無理をしそうになると、レティシア様は静かな声で「睡眠時間は?」と問う。

 どちらも命令口調ではない。けれど、ちゃんと効いている。


「見ました?」

 ミアがエマへ小声で言う。

「今日もお茶が無言で置かれました」

「見ました!」

「やっぱりあれ、愛ですよね?」

「たぶん!」


 新人たちはそういう話が好きだ。

 ベルンハルトさんは聞こえないふりをしているが、たまに口元が少しだけ緩んでいる。


 ミアが一番好きなのは、定時の瞬間だ。

 レティシア様が板の札を確認し、「今日はここまでです」と言う。皆が帰り支度を始める。すると少し遅れてルシアン様が顔を出し、「終わったか」と聞く。

 毎日ではない。でも、来る日はだいたいそのまま一緒に帰る。


 最初の頃、ミアは“公爵様って怖い人だな”と思っていた。

 今も怖いときは怖い。でも、レティシア様を見るときだけ少しだけ空気がやわらぐのを知っている。

 たぶんそれを、ミアは好きだ。


 だから今日も、二人が帰ったあとで板を見ながら思う。

 北方契約局は忙しい。

 でも前よりずっといい職場だ。

 たぶんそれは、上にいる二人が“無理を美徳にしない”と決めているからだろう。


 ミアは明日も早く来るつもりだ。

 そしてきっと、また何か観測する。

 地味だけど、たしかに幸せそうな、あの二人のことを。

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