初めてのデート(今度こそ?)
……24日に投稿すると言っておきましたよね。
誠に申し訳ございませんでした。
少々あれこれあって、予約投稿をするのを忘れておりました……予約の意味がない……
旭日とエリナの両名は明治天皇の命を受け、『休暇』という名目で汽車に乗って北方港湾都市・オオミナトへと向かっていた。
とはいえ、大日本皇国の国土は旧世界の日本と比較するとはるかに広く、距離があることもあって、時速80km近くを出せる最新鋭の機関車でも、1500km近く離れているオオミナトまでは3泊はかかるのだ。
なので、汽車の中には寝台車が存在する。
これも元々は転生者が考えたものらしく、昭和のブルートレインが引いている客車・寝台車にそっくりであった。
もっとも、引いているのが『C62』に酷似した大型かつ大馬力の蒸気機関車なのが大きな違いだが、前も述べたように旭日が現在ディーゼル機関車及び電気機関車の研究をさせているため、そう遠くないうちに実用化できると考えられている。
その当の旭日はといえば、寝台車の揺れで眠くなってしまったのか、乗ってから1時間足らずで轟沈……いや、爆睡していた。
「zzz……」
見た目も精神も含めて年齢以上にあどけない、と言っていいほどに無邪気な寝顔を見ていると、エリナも思わずクスリと笑ってしまう。
「日頃の激務でかなり疲れているのだろうとは思っていましたが……まさかここまでとは思いませんでした」
「仕方ありません、姫様。旭日殿は常日頃から各地を巡っておられた方なのですから。激務による疲労は尋常ではなかったものと考えられます」
ちなみに一応エリナ皇女が旅行に出るために従者ということで私服姿のメイドとボディーガード(ボディーガードは女性)が付いているのだが、その懐には浜田式自動拳銃と短刀が収められている。
「実際、彼の部下が作り上げた重爆撃機『富嶽(と言っても見た目はB―29に近い)』を改良して、武装旅客機にしようという動きもあるようですからね。彼の存在がなければ、我が国はまだまだ弱小国だったでしょう」
なぜ武装が必要なのかと言えば、この世界には野良のワイバーンを含めた飛行系の魔獣が多数存在しているため、海外に進出して空の旅をしようと思うならば武装は欠かせないのだ。
実際旅客輸送を実用化している国でも、航空機や飛行船に自衛用の武装を施すのは『当たり前』となっているあたりで事情が伺えると思う。
「ですが、そんなしわ寄せが現場の人たちと旭日様にばかり集まっているようでは、よくありません。そういう意味でも、今回の旅行はいいことだと思います」
「確かに。ハチノヘの温泉は様々な精霊の加護もかかっていることから疲労やケガによく効きますからね」
エリナの言う通り、ハチノヘは様々な精霊の加護を得ている火山の影響で、そこから湧き出した温泉も強い精霊の加護を得ているのだ。
それにより鉱泉水・温泉水としての効能が、日本人が現実に認識している『温泉』よりはるかに高くなっているという特徴がある。
各国及び転生者から付けられたあだ名が『ポーション温泉』と言われるほど、と言えばわかりやすい。
「実際、休暇を取った労働者の方にも大人気ですからね、ハチノヘの温泉地は。あそこは魚介類も豊富にとれるオオミナトが近いですから、車で運ばれてきた新鮮な海産物をふんだんに用いた料理も出せますし」
実際、旭日が来るまではエビやサンマなどの足が早い魚介類を運ぶのに機関車を用いた大掛かりな輸送でも鮮度を保つのには足りなかったが、旭日が科学で作れる自動車やトラックを大量生産し始めたことで、機関車の貨物車に比べて細分化し、迅速な輸送が可能となった。
これには人々も大いに喜んでおり、サービスの向上につながっている。
現在では冷凍・冷蔵保存しながら輸送可能な車両も制作させていた。
「しかしお父様も少々強引だったのではないかと思いますが」
「強引を通せたのは、旭日殿が姫様のことを憎からず思っている、という確証を得たからでしょう。そうでなければ今回のことを強引に押し通そうとしたかは怪しいです」
「確かに。休ませるだけならば中央保養地のカルイザワ辺りでもよかったはずですからね。あそこは豊かな森林と高原地帯ゆえの過ごしやすい環境、そしてそれに伴う山の幸もあって保養所としては最適ですし」
このように、女性3人が姦しく話をしているにもかかわらず、旭日はベッドでぐーすかと眠りこけている。
この時点で彼がどれほど疲れているのかわかるというものだ。
一応夜に仕事をしたことはほとんどなく、就寝も基本的に夜10時には布団に入るようにしているなど、かなり規則正しいのだが、なにせ忙しすぎる。
そんな女性たちの思いを乗せながら、汽車は北へと向かう。
その頃、南部の港湾都市キイでは扶桑と撫子が様々な書類を整理していた。
内容は、主に『海軍増員計画』、つまり海軍陸戦隊(要するに海兵隊)の増員計画や『防衛空軍配備計画』と題されている。
しかも、配備される兵器は互換性を持たせるために陸軍のモノと同じ……例えば八九式重擲弾筒(本当は迫撃砲もあるのだが古いくせにこっちの方が使い勝手がいいと評判がいい)や上陸した際の支援砲撃をするためのカノン砲など、陸軍との折衝が必要な部分もある。
どれもこれも軍司令部のトップに等しい旭日に見てもらわなければならないものではあるのだが、一応名目上の旭日の立場は『第0艦隊司令』である。
にもかかわらず、中間管理職のみならず上位管理職たちの処理能力が足りないからということで様々な書類が舞い込んでくるのだ。
ちなみに、陸軍関連はあきつ丸たち陸軍特殊船舶関連の者を含めた陸軍官僚たちが対応しているが、海軍との互換性を含めたあれこれをなんとかする必要があるため、こちらも毎日苦労しているようだ。
特に今揉めているのは『海軍陸戦隊の対空砲をどうするか』というところで、陸軍の四式七糎半高射砲か、海軍の60口径8cm高角砲を機動型高射砲と同じような構造にしたものを使用するべきではないかという点であった。
四式高射砲は機動性と量産性に問題があり、8cm高角砲は整備性に難がある上に散布界が荒いという一面があるため、どちらも一長一短なのである。
だが、今後のことを考えると現在量産が進んでいる7.5cm砲弾を流用できる四式高射砲を陸海共に採用するべきと旭日は以前言っていた。
「ひー君の言う通り、予算の都合と扱いやすさを考えると7.5cm高射砲の方がいい気がするわねぇ」
「確かに。海軍の高角砲を改造するよりは設計図をほぼそのまま流用できるので予算的にも手間としても優しいです。幸い、技術も進歩していますから機動型の高射砲にすることも十分可能ですし」
そもそも旧世界では工兵隊及び戦車連隊の一部を除いて日本軍の機械化が遅々として進んでいなかったためにわざわざ車両牽引型の砲を『機動』などと仰々しい呼び方をしていたのだが、アメリカ及びドイツなどはこういったことを実行する速度が非常に早い。
狭い島国の中で生きてきたとはいえ、日清・日露戦争に加えて日中戦争などで広い大陸で機械化を進めた方が便利だろうという認識はあったはずだが、頑迷かつ保守的な陸軍はそうもいかなかったようだ。
その点海軍は『多少は』マシで、特二式内火艇のような水陸両用車を用いる発想があった(ただし正しく使えていたかと言えばその限りではないが)。
「じゃあそれでいいわね」
その書類に『認可直前』の判子を押した。最終的には旭日に判断してもらうからである。
そんな書類を片付けること、2時間が過ぎた。
扶桑と撫子は飛鷹と隼鷹からお茶とお茶請けをもらいつつ黙々と作業を続けていたが、やがて扶桑が撫子の方をチラリと見た。
「?どうしたの、扶桑さん?」
「あ、いえ……撫子さんのことで気になることがありまして……」
「私の?」
撫子はよくわからないようで、可愛らしく小首を傾げていた。
一方の扶桑はと言えば、普段の凛々しい武人然とした雰囲気はあまりなく、なんとなく言いたいことが言えない、というべき雰囲気を放っていた。
「なにかしら?なんでも聞いてくださいな」
一方の撫子は余裕というべきか、『ほわほわ』と言うべき感じである。
某艦艇擬人化ゲームで例えるなら、『ぱんぱかぱーん』とでも言いたくなるような感じのゆるふわ系だ。
だが、そんな風にしているからこそ、旭日に関すること以外では基本的に本心を見せていないように見えるという一面もある。
扶桑はそんな穏やかな慈母の如き彼女の顔を改めて見直すと、意を決したように深呼吸して口を開いた。
「正直に申し上げますが、撫子さんの司令に対する態度は『弟・家族への愛情』だけではないように思えまして……」
その瞬間、扶桑の顔が険しいものとなった。正面に座る撫子は表情こそ変えていないが、なにか圧倒的なオーラを放っていたのだ。
『藪蛇だったか』と扶桑は一瞬後悔したが、もう口に出してしまったことは戻せない。
撫子はそんな扶桑を見ながら、ゆっくりと口を開く――
翌日、舞台は再び移って最北端のオオミナトの駅。
旭日たちは寒々しい風が吹く大地に降り立っていた。
「ここがオオミナトか。転生前の東北を思い出すなぁ」
旭日が子供の頃は、両親が『震災復興に少しでもできること』と言って東北によく連れて行ってくれたことがあった。
海の幸も山の幸も味わい、色々な観光名所も回った。今となっては、とても懐かしい思い出の1つである。
そんな家族の思い出をふと、思い出したのである。
「旭日様?」
「ん、悪い悪い。エリィは北に来るのは初めてだっけ?」
「はい。お父様が漁業振興のお言葉をかけるのに来たことがあるそうですが、私はその時同行しなかったものですから」
「なるほどな、それじゃしょうがない」
2人が駅の外へ出ると、黒塗りの高級車が止まっていた。
「皇女殿下、艦隊司令殿、お待ちしておりました。どうぞお乗りくださいませ」
「ありがとうございます。さぁ、旭日様、参りましょう」
旭日とエリナが車に乗り込むと、車はエンジンをふかしながら走り出す。その走り方は流石に平成・令和の世を生きていた旭日からするとうるさい上に振動もかなりのものなのだが、転生以来何度も乗ったことですっかり慣れていた。
見た目は生産のしやすさと性能の良さという点が評価されたからか、フォルクスワーゲンに酷似している。
港を見れば、多くのトラックが開発に成功した発泡スチロールに氷の精霊の力で作り出した氷を詰め込み、その中に様々な魚を入れている。
冷蔵・冷凍車は存在しないが、これだけでも大きな進歩だ。
まだ航空機の民間利用はほぼないに等しいものの、いずれは大型飛行機による様々な輸送も確保したいと考えている旭日としては、そんな未来を創造できる光景であった。
日本の近代化は、間違いなく進んでいるのである。
「ふふっ」
「どうかしましたか?旭日様」
「ん?いや、段々色々な物が発達してきたなって思ってさ。昭和水準の技術とはいえ、中期頃から平成初期に生きていたような人物も結構転生しているお陰で機械化に違和感を覚えない人が多いっていうのがなんともね」
日本人は文明開化後の明治時代の時には最新鋭の機器(当時のモールス信号など)をどしどし取り入れて富国強兵に勤しんだことで当時世界最強とうたわれたロシア帝国のバルチック艦隊に勝利することができたという一面があったが、その後の日本軍はそれに酔いしれ、様々なものを蔑ろにしてしまった。
結果、アメリカおよびイギリスとの激戦であった太平洋戦争どころか、それ以前の日中戦争及びノモンハン事件の頃でさえ正面兵力という以前に補給や兵器の開発面などで様々な苦戦を強いられることとなった。
特に悲しいのは、以前からよく述べている電波兵器に関する不勉強ぶりである。
『自ら電波を発するなど闇夜の提灯』などと言って陸海軍共に戦前はほとんど興味を持たなかったという話だが、そもそも論を言えば、八木・宇田アンテナという、レーダーの先駆けを開発したのは名前通り日本人である。
日本人は専門家を重視するあまり素人、一般人を軽視する癖がある(この点は平成・令和に至る現在も全く変わっていない、日本人の国民性もある)ため、こういった発明にまるで見向きもしなかったようである。
結局この特許権が海外に売り飛ばされた結果、イギリスは第二次世界大戦開戦時に国中にレーダー網を配備し、アメリカはそれを大きく発展させた結果、地上用のみならず艦船に搭載する対空用の高角砲はおろか、ボフォース系列の40mm前後の機関砲にさえ射撃用レーダーを配備するというハイテク・進歩ぶりを見せつけた。
片や日本は太平洋戦争頃にそれよりはるかに劣る21号対空電探や22号対水上電探を配備し、軽量で持ち運びしやすい13号対空電探(ただし欧米のレーダーと比較するとはるかに劣る)に喜んでいる有様であった。
一説によれば、モールス信号は使用しているくせに『電子機器は怖い』という日本人が多かったとか、自動車に乗ることが特殊技能扱いされたため、先ほども述べたように陸軍ではわざわざ自動車牽引式の兵器に『機動』と勿体ぶって付けるなど、しょうもない話が多かったという(繰り返すがこのあたりの妙な精神性の硬直具合は現代日本人も、そして作者たる私もそれほど変わらない気がする)。
突き詰めると国民性への批判になりかねないので程々にするが、逆に言えばそんな不利な状況ばかりで陸海軍で争い、その余力を以て圧倒的な米帝様とブリテンと中華相手(しかも末期になった頃にはまっかっかな共産軍も追加)に様々な時間と形で大立ち回りをやってのけ、それぞれの陣営に消えぬ傷を刻み込んだというのだから恐ろしい話である。
いずれにせよ、日本人は基本的に大きな危機に直面しないと動けないタイプであるということは間違いない。
だが、この世界では覇権国家が多く、古くから隣国のオルファスター王国と小競り合いが多かったことから、戦後生まれの転生者を含めて新しいもの・軍事的な技術を取り入れることに忌避感は薄いという一面もある。
「確かに。旭日様が前世で調べたというお話に加えて、旭日様が連れてこられた軍人の方々の多くも『死ぬまでは電子機器の重要性なんて考えたこともなかった』という方がかなりおられましたからね」
「この世界は魔法・魔導技術があるからか、むしろそれを利用した通信技術はかなり発達しているんだよなぁ……ま、今となっては機械式通信技術もだいぶ国内に広まりつつあるけど、なんでそれを作ろうと思わなかったんだか、そこが逆に疑問に思って仕方がないな」
旭日は国内に電子機器や自動車などの機械を流通させ、日本の機械化を大幅に進めようとしていた。
現在の大日本天皇国は烈風及び火竜を戦闘機として配備しているが、旭日の指示で『安定性の高い草創期のジェット機』を作らせている。
そのジェット機には最新鋭の機上レーダーや、レーダーによる照準射撃を導入する予定であり、さらに小型化が進めば赤外線誘導方式でない誘導弾……セミアクティブ・ホーミング方式の誘導弾も作れると考えていた。
元々精密な技術・精緻な技術というのは日本人の十八番である(ただし兵器に関しては精緻が過ぎて量産に向かなかったという一面も)ため、それをいい方向に進歩させれば間違いなく強力な電子兵器を作れるだろうと考えていた。
また、技術発展の都合上、兵器のみならず船舶や自動車など、共通化できる機械の部品をすり合わせていくことによって、物価をある程度下げると同時に流通を多くする必要もあった。
第二次世界大戦時のアメリカが平然とやっていたことを、ここにきてやらなければいけないというあたりが日本人の難しいところでもある。
「まもなくホテルに到着いたします」
見えてきたのは、小国の人々が見ればお城かと思うほどに巨大な建物であった。
旭日が見た限りでは前世界の松島にあったホテルに外観は似ている気がするが、如何せん昭和初期レベルの技術を用いていることもあって見た目の古臭さは否めない。
それでもかなり大きな建造物となっており、ハッキリ言って水準だけの問題で言えば戦後20年近く……東京オリンピックの技術となっているのではないかと思わされていた。
それもそのはず。
これまた戦後の復興及び高度経済成長の際に職工関連で勤務していた人々も転生していたため、そういった人たちの意見を取り入れた上で機械を作り出したからに他ならない。
よく述べているがこの大日本皇国という国では、様々な時代の転生者がいるお陰で、それらを行くべき職場に活かせていることがこのわずかな年数での大発展を促している。
というか、『こうすればイケる』とか『このように発展させればいい』という方向性もあって、大蔵艦隊が持ち込んだ最新機材(ただし大日本帝国基準)を駆使して新たな機材を開発、それを用いて、さらに昼夜問わずのシフトを組んで『できる者たちによる仕事』をこなした結果の発展ということでなければ不可能である。
フロントに入ると、上品な和服を着た仲居たちが『いらっしゃいませ』と一斉に頭を下げてくる。
このあたりも昭和終盤~平成に至るまでの観光立国としての能力が活かされており、高いおもてなし能力を獲得している。
2人は受付を済ませると最新鋭のエレベーターに乗った。流石に電子画面表示ではなくライトで回数表示がされている古い型だったが、一般人がエレベーターを使えるくらいまでになっているのだ。
荷物を持ってもらうと、最上階のスイートルームへ案内される。
「おぉ~……」
部屋の中へと入ってみれば、スイートルームと言うだけに内装もかなりのもので、工夫の粋を凝らしたのだろうと伺える。
「これが旭日様の生きておられた世界・時代の宿泊施設なのですね。これほど豪華とは思いませんでしたが……」
「うん。俺もこんな豪勢な部屋に泊まったことはないな」
旭日は前世においてまごうことなき一庶民だったため、こんな豪勢な部屋は宿泊した経験がない。
それもあって、むしろたった2人でこんな豪華な部屋を使ってしまっていいのだろうかという貧乏性すら出ていた。
やがて仲居たちが退室したあと、さりげなくメイドとボディーガードの女性2人も忽然と消えた。
なんでもこの部屋、高貴な人が宿泊することを想定してすぐ隣に従者などお側仕えの人が10人は入れる部屋を備えているとのこと。
というか、その部屋の時点で下手な一般人向けの部屋よりはるかに広い。
すると、いきなりエリナが『えいっ』と言いながら旭日に抱き着いてきた。
「ちょっ、エリィ!?」
エリナはメリアとの話から、『もっと自分から積極的にいかなければ旭日の心を引き寄せることはできない』と気づいていた。
それもこれも、旭日がいわゆるヘタレチキンなのがよくないのだが、周囲の女官たちからもそういう話を聞いていたエリナは旭日の臆病さを日本人にある『奥ゆかしさ』という形で解釈し、自分から積極的に仕掛けることにしたためである。
「旭日様ときたら、いつもお仕事ばかりで艦長の皆さんとべったりでしたから、私のことももっと構ってほしかったのです」
「そ、それは悪かったと思ってるよ……」
そして同時に、『エリナが旭日を憎からず思っている』ことを知っているという話もちゃんと知っていた。
この辺りは艦長娘との交流がある軍人や女官たちから聞き出したことである。
旭日が転生前によく読んでいた物語では『男性が極端に鈍い』、『女子のアプローチがわかり辛い』といった点からすれ違う男女のラブコメディーが人気であったことを聞いていたが、確かにそれを物語としてみるならばともかく、自分が当事者になったら大変な迷惑としか言いようがない。
そもそも、鈍い男性がモテ続けるというのにはそれだけ人間性に優れているか、男性としての魅力があるかどうかというところなのだが、それもあくまで物語として見ることで成立する話である。
そしてそういった物語においては女性も素直になれないところから男性へのアプローチを間違えているなどの話を聞き、自分はそうであってはいけないと考えたのだ。
「私はこれほど旭日様のことをお慕いしているのですから……旭日様ももうちょっと考えていただきたいのです」
このド直球極まりないセリフも、『思わせぶりな発言ではダメだ』と考えたエリナなりの想いである。
一方の旭日はと言えば、抱き着いているエリナの豊満な胸元の感触に、流石に照れているらしく顔を真っ赤にしていた。
いくら混浴に慣れたと言っても、実際に女性の部位に触ったことはないのだから当然と言えば当然だ。
え、混浴に慣れている時点で『普通じゃない』って?
まぁ、そうなるな。
「いや、エリィが俺のことを慕ってくれているのはなんとなくわかっていたんだけど……本当に俺なんかでいいの?」
「まぁ、これほどまでに積極的になっても、旭日様は私の気持ちがわかって下さらないのですか?」
「いや、その……エリィが俺のことを慕ってくれているっていうのはなんとなく分かっていたんだけど……」
「けど?」
「……俺、前世では特に女性と縁もなくて、撫子姉さん以外の女性のことなんて全然わからなくてさ……それもあって、太陽神様から預かった扶桑たち以外の女性のことって、あんまり分からないんだ……」
これは旭日の偽らざる本音である。何分撫子がベタベタしすぎた上に旭日も『それでいいか』という雰囲気をずっと続けていたものだからか、自然と他の女性に全く縁がなかったのだ。
同僚などからは姉とのイチャイチャぶりから余裕があるように見えたらしく、『あいつすっげぇ美人の彼女がいるらしい』とまで誤解されていたために、本来呼ばれてもいいはずの合コンなどのイベントにもほとんど呼ばれた覚えはないほどである。
なので、本気で『姉以外の女性』については分からないことだらけである。
艦長娘に関しては太陽神の計らいで『旭日と波長が合う』ようにある程度人格の調整が施されているが、純粋なこの世界の住人であるエリナに対してはどう接したらいいのかよく分からない部分もあったらしい。
「そうでしたか……それは、なんとなくわかります」
当のエリナとて、皇室という閉じられた世界の中でわずかな人物を相手にしていたこともあって、異性との交流などないに等しかった。
それを考慮すれば、旭日の気持ちも分からないことはないのだ。
だが、この大日本皇国に流れ着いてから1年以上に渡って一緒にあちこちを巡っていたこともあって、気づいていないわけではなかった。
それでも自分からエリナの気持ちを確かめることができない辺りがかなりのヘタレと言わざるを得ないが、『あまりがっついた姿勢を見せて女性に嫌われるかも』と及び腰になってしまうのも無理はない。
だが、だからと言ってエリナもこのままでいるつもりはなかった。
「旭日様は、やはり扶桑様たちの誰かがお好きなのですか?」
「うぅ~ん……意識していないと言えば嘘になるけど……どうだろうなぁ……」
艦長娘の中でも旭日に『思いを寄せてくれているらしい』雰囲気の子は何人かいる。
北上、香椎、伊400(ヨー)、雲龍、天城、葛城、そして扶桑と山城も。
山城は両刀使いの気があるようでよく夕飯に近所の可愛い女の子を誘ったり飲みに連れて行ったりした挙句『お持ち帰り』していることもあるようだが……男性では旭日に対して『だけ』とてもおおらかで開放的な一面を見せている。
扶桑は旭日の中で艦隊旗艦・秘書という役割と感覚もあってか、なにかと交流は多い。
一見すると凛々しい扶桑だが、その実旭日には結構甘い一面も見せる。
北上やヨーは自分に自信がないのかあまり自己主張はしてこないものの、特に北上は旭日が他の女性と話をしているとムスッとした顔で睨んでくることが結構ある。
ヨーはその点愛情表現はどちらかというと豊かな方だが、『潜水艦の自分が抱き着くと暑苦しいのでは』と思うらしい。もっとも、そんなヨーの心中を察している旭日の方からスキンシップをしてあげることもあるのだ。
雲龍とはヴェルモント皇国への偵察の際にググっと距離が縮まったが、それ以後は照れ臭いのかあまり積極的には来ていない。
天城と葛城は元々インドア派に近いものの、最近では旭日から漫画やアニメの話を聞いて楽しむなど、『同志』としての一面もある。
だが、それは彼女たちがあくまで太陽神の計らいで『作られた』存在だからだ。
やはり普通の女性(エリナを普通の女性と言っていいかどうかはさておき)に対応しようと思うとどうしてもうまくいくばかりではない。
「それに、さ。今はこの国の守りを盤石にするのが第一だからさ……その、結婚とかって言われると……」
「ピンとこない、ですか?」
旭日が『コクリ』と頷く。
旭日は旭日なりに『自分の新しい居場所』を守るために奮闘していた。
そんな旭日だからこそ、オルファスター王国に対する超・電撃戦を成功させ、今ヴェルモント皇国にも余裕をもって対抗できるだろうと言われるほどの戦力を整えつつあるのだ。
だが、間違いなく一皮むけば彼も普通の男性だ。
エリナもまた、『押してダメなら引いてみろ』という昔からの言葉に倣うことにした。
「わかりました。困惑させて申し訳ありません」
「エリィ……」
「その代わりというわけではありませんが……間もなくヴェルモント皇国と衝突するのでしょう?それが終わった後に、旭日様のお返事を聞かせていただきたいです」
それが、エリナの出した妥協点だった。
旭日からすればある意味厳しい『お願い』だ。
ただでさえ忙しい旭日に、この上『自分とのことまで考えてほしい』と言っているのだから当然と言えば当然なのだが。
「ダメ、ですか?」
だが、意識している女性からそのように言われて『ダメです』と言えるようであれば、旭日とエリナの関係はまるで違ったものになっていただろう。
だからこそ、旭日もちゃんと彼女に向き合うことにした。
「わかったよ。皇国とのゴタゴタが片付いたら、ちゃんと返事する。それまでにちゃんと自分の心を整理するよ」
「今はそれで充分です」
そういうと、エリナは再び旭日の胸に顔を摺り寄せた。
この2人がどのような道を歩んでいくのか、それは神のみぞ知る話である。
次回は11月の28日に投稿しようと思います。
今度はホントに!




