近隣国家の事情
今月の投稿になります。
今回は変革するべき箇所の検討、といったところですかね。
翌日、使節団一同は旭日、大鳳と共に機関車に乗り込むと、首都のアシタカノウミへと向かった。
前世で上京する際に乗っていた機関車とほとんど変わらない雰囲気を見て、レイモンドは思わずホッとしてしまっていた。
それから2時間後、アシタカノウミの最終駅へ入った一同は、改めて駅の中を見渡す。
そしてレイモンドが気づいた。
「蒸気機関車特有の煤煙や煤が少ない……なにか理由があるのですか?」
「これは精霊のおかげですよ。『煙の精霊』の加護によって、排出される煤煙を浄化しているんです」
「そんなことが……精霊の加護が強い日本ならではですね。では、速度が速めに感じたのも……」
「そっちは魔法陣学でボイラーを強化してあるんですよ。そのお陰で既存の機関車よりも高い出力を出せるようになりました。今はディーゼル機関車を研究しているところです」
試作車は既に完成しているのだが、量産のための設備の方が未だに完成しておらず、コストも高くなりそうというところから総数は蒸気機関車ほど造られない予定だ。
「我が国も魔法陣学と精霊の加護があれば……探求心をより強く持っていれば、もっと発展できていたのでしょうか……」
「それは一概には言えませんね。ちゃんとしたアイディアとそれを活かせるだけの技術的下地、そしてそれを受け止められるだけの人々がいるかどうか、というところが大事になりますから」
「そうですか……」
「幸いなことに、我が国は様々な時代の日本からの転生者がいましたが、技術者や科学者、設計技師といったような人々も多かったので早々と態勢を整えることができましたけどね」
レイモンドは考え込んだ。
自分だけでなく、市井にはそういった隠れた才能を持った人物が気づかれないまま存在しているのかもしれない。
だとすれば、そういった人材を発掘できる制度を作り出し、国の発展のために役立てるべきではないかと。
実際、古い時代には勇者と呼ばれる転生者・転移者たちが大暴れした時代もあったのだから、それに近いことはありうるはずだ。
もっとも、旭日としては軍人や科学者も大事だが、本格的な外交経験のある人物に転移・転生してほしかったと思うところである。
現在大日本天皇国で外務大臣を務めているエンドウ・ナオツネは戦国時代の人間の転生者であり、アイゼンガイスト帝国の影響もあって明治時代レベルの外交能力は持っているものの、それ以上の近代的な外交能力は旭日が来るまではないに等しかったのだ。
だからオルファスター王国との交渉では旭日が本業でない(そもそも軍人も本業でないと言っちゃいけません)外交官をやらざるを得なかったのだ。
一同は船でアヅチ城へ渡ると、旭日とは城内で別れた。
「私はこれより陛下にお目通りし、今後のことについて話し合う予定になっておりますので、これで失礼いたします」
「色々とありがとうございました。もし我が国に来られることがあれば、その時は歓迎させていただきます」
2人は別々の部屋へと向かう。
旭日は天守閣の最上階……皇の間の前に立った。
「陛下、大蔵旭日、参りましてございます」
『うむ、入るがよい』
旭日、扶桑、大鳳という『いつもの3人』が入室してくると、明治天皇は顔を綻ばせた。
「旭日、何度も呼び出してすまぬな」
「いえ。ことは国の一大事でございますので。それで、本日は?」
「うむ。ケナシュルム王国に派遣していた我が国の輸送艦が戻ってきたのだが……なんとかケナシュルムの国王一族を乗せてきておった」
「国王一族……亡命、ということですね」
「うむ。ヴェルモント皇国によるいきなりの襲撃もあったのだろうが、家臣や領民たちによって王族だけがなんとか逃がされたらしい。とはいえ、当代当主であったケナシュルム12世殿は殿を買って出たので、恐らく討ち死にされただろうが……」
つまり、戦争状態にある国の王族を保護した、ということである。
この意味が分からない旭日ではなかった。
「ヴェルモント皇国も自分たちより速い船に乗って逃亡したなどとは考えてもいなかったようで、対空見張りをしていた兵士からは『見つかった様子はない』との報告であった。相手に潜水艦のような存在があって、水中からずっと監視していたならば別の話かもしれないがな」
「まずないと思われますが。ヴェルモント皇国の設計思想を見れば、生物兵器以外で水中に潜れる、高速航行可能な船というのは存在しないであろうと考えられますので」
旭日としては水中行動可能なワイバーンのように人が手なずけられる存在がいないかどうかが疑問だったが、これまで集めた情報を精査するに、海に潜む魔獣たちはそのほとんどが気性の荒さ故か、基本的に手なずけるという発想に至らないのだそうだ。
そしてそれ故に、『水中に潜って戦う』という概念が薄いのだ。
「うむ。お主としてはもう少し時間が欲しいと言っておったが……今来ておるグラディオン王国を引き合いに出せば、皇国との戦争までに時間は稼げぬか?」
「難しいかと思われます。グラディオン王国は東のクレルモンド帝国とにらみ合っており、常に緊張状態が続いております。性能的にはグラディオン王国が勝っている部分の方が多いですが、国力的にはかなり近いです。ヴェルモント皇国がその情報を持っていれば、我が国とグラディオン王国が結んでいると言ってもそれほど脅威には感じないでしょう」
「なるほどな。では、現在我が国が全力で戦闘すると仮定して……耐えきれるか?」
旭日はこの質問を想定していたので、これについては自信たっぷりに答える。
「ご安心ください陛下。以前も申し上げましたが、『守ることならば』現状の我が国の戦力でも余裕です。西と南の守りを固めておけば、それだけで十分でしょう」
「敵の戦力が我が国の兵器を上回るモノがあったらどうする?」
「海上戦力に関しましては、我が国の『薩摩型巡洋戦艦』が1隻あるだけで100隻以上を相手にしてもお釣りがくるでしょう。砲撃による制圧能力の差もそうですが、主砲だけでなくても両用砲として確保している長十糎砲だけでも装甲戦列艦程度であればたちまち海の藻屑ですからね」
「陸軍戦力は?」
「制空権さえ取れれば全く脅威ではありませんね。彼らの主力がマスケット銃の延長線上であるゲベール銃からスペンサー銃モドキ、野砲がアームストロング砲モドキですので、制空権を取って野砲を先に潰すか、機甲部隊で押し潰すのがよろしいかと」
アームストロング砲レベルでは四式中戦車もその派生型の四式歩兵支援突撃戦車も倒せないのは明白だ。
後装式の大砲はあるくせに歩兵の銃が一部前装式という皇国の物理的な基準が不明な部分はあるものの、アームストロング砲は薩英戦争時に不調を起こしたり爆発したりと、当時としては先進的な機構を多数採用していたにもかかわらず問題も多かった砲だ。
まだ実用化されて間もないのだとすれば、納得できないわけではない。
ただ、ここは魔法技術で強化されている可能性も否めないので、一概には言えないことだが。
「航空戦力はどうだ?敵のエアロ・ホークの最高速度は300kmを超えるというが……」
「我が国では制空戦闘機より足の遅い攻撃機である流星でさえ500km以上の速度を出すことができます。それを考慮すれば、高度と速度で十分振り切れるかと。ましてや烈風及び現在配備が始まったジェット戦闘機『橘花改』や『閃電改』の敵ではありません」
烈風も巡航速度で500kmを超え、閃電に至っては加速能力と運動性能に難があるとはいえ、800kmほどの最高速度を出すことが可能だ。
そんな存在が九六式艦上戦闘機より足の遅い航空戦力に負けては、かの人殺し多門丸に怒られるだろう。
明治天皇は珍しく弱気になっているようであった。
だがそれは仕方あるまい。
旧世界で言えばロシアかアメリカと戦うようなイメージなのだろう。
それこそ、日露戦争中はずっとこのような気持ちだったのかもしれない。
「陛下、慢心はいけませんが、相手を過大評価しすぎるのもよろしくありません。相手との戦力差を測り、的確な評価を下すことによって軍は戦えます。私は現在軍人という立場でございますが、前世は一般人として、スペックから図れる限りの様々なデータを収集しておりました。そのデータであれば、『2020年頃までの』近代兵器に関してであれば、ある程度正確に想定できると思っております。もちろん、魔法による強化がされている可能性も考慮してはおりますが……」
自分たちも魔法陣学の技術を用いることで技術を10年分以上飛ばしているところがいくつか存在している。
自分たちにできて他の国にできない、とは考えるべきでないだろう。
「それを加味したとしても、我が国の現状水準であれば十分に勝てると考えております。我が国にアルモンド王国、さらに今回のことでもしもグラディオン王国が加わってくれるようなことになれば、鬼に金棒です」
アルモンド王国は戦艦こそ建造できないものの、大正時代水準であれば軽巡以下は建造可能な域に達しているため、『天龍型軽巡洋艦(ただし対空火器増量、主砲を55口径12.7cm連装高角砲に換装)したものを作らせており、同国の主力軍艦となりつつある。
ただし、ブロック工法と電気溶接技術があるとはいえ、建造速度は大日本皇国より少し劣るため、現在は量産型海防艦の設計図も併せて渡してある。
小型で海防ができるレベルの艦が複数あるだけでも十分防衛には使えるからだ。
速度もディーゼル機関を用いているとはいえ20ノットは出せるので皇国の戦列艦よりはるかに速い。
主砲を単装にした長十糎砲にしているため、限定的ながら対空戦闘も可能だ。
なにせ長十糎砲こと65口径10.5cm高角砲は最大射程18kmほど、最大射高は1万3千mにも及ぶ旧海軍の傑作砲である。
初速が速いことから威力も高く、命中率と射程を重視しながら強力な大砲だ。
「アルモンド王国は明治時代後半から大正時代半ばくらいの能力を手に入れました。我が国と組めば、十分な防衛力を発揮してくれるでしょう。地理的にも近いので、組みやすい存在です」
「確かに、我が国との距離は南東に300kmほどだからな。近いと言えば近い」
「グラディオン王国との距離は2千kmを超えるので、もしも国交を締結し、軍事同盟を結んだとしても迅速な援軍という意味では難しいでしょう。しかし、既に大海洋共栄圏に入会しているアルモンド王国は別です。我が国に距離も技術も近く、我が国から様々な兵器を購入しています。この点からも、ひとまずはアルモンド王国との連携を密にする、ということでよろしいかと」
もっとも、海軍で戦力として使えそうなのは『天龍型軽巡洋艦』モドキくらいであろう。
駆逐艦も『神風型駆逐艦』レベルの船を建造できるようになりつつあるらしいが、主砲の一部には日本から輸出した55口径12.7cm連装高角砲を用いている(前甲板の主砲はというと、連装は無理なので単装で配置するという『松』型駆逐艦に酷似)ため、旧式の12.7cm砲と比較すれば遥かに使い勝手はよくなっているという一面もある。
「そうだな……アルモンド王国国王、アルモンド13世に改めて親書を送っておかなければなるまい。苦労を掛けるが……」
「それがよろしいかと思います。また、もし我が国とグラディオン王国が国交を締結し、軍事同盟を結んだ場合はアルモンド王国にも紹介できるようにしたいと思っております」
「うむ、それは大事だな」
実のところ、大艦巨砲を製造する技術がないことと航空機技術がないことを除けば、アルモンド王国の技術力は既にグラディオン王国並みとなっている。
もちろん、人口や国力が違いすぎるので一概には比較できないが、『近いものを作れるようになっている』というだけでも大きな進歩だ。
ここにはやはり転生者の尽力があったらしく、地球からの転生者である技術者が協力したらしい。
転生者がいかに造船などの重要な知識を持っていたとしても、道具や環境がなければ話にならない。
そんな道具が旭日たちからもたらされたこともあって、日本周辺の国家は転生者を重職に取り込み、勢いよく文明開化を成し遂げつつあった。
中でも造船業と航空機産業は今後の発展に大きく関わるということから、どの国も大きく力を入れ始めている。
中には日本以外の地球国家からの転生者もいたらしく、シェフィールド王国は『遠洋航海に向いている、ディーゼルエンジンを搭載した、戦艦に近い火力を有する重巡洋艦』を提案し、大陸に近いボンパコ共和国は『18インチ砲を搭載した、対地攻撃向けの軽巡洋艦』を提案した者もいたとか。
前者は小規模国家の切り札として使いやすそうなので『海防戦艦』として採用されたが、後者はあっけなく不採用を食らったという。
むべなるかな。
「旭日よ、航空機の技術に関してだが……お主としては他国にどれほど提供してよいものと考える?」
これに関しても旭日は既に答えを出していた。
「敢えて、と申しましょうか。島嶼国家が多いですから、空母艦載機になるような戦闘機は提案せずに、本土防衛として、制空・対艦・対地の全てに使えるような多用途機がよろしいのではないかと。その代わり、高性能機体を最初から作れるかどうかを調べたいです。各国の転生者からなる技術者を招聘し、その辺りの水準を探るべきかと愚考します。強いて言うならば、『瑞雲』や『晴嵐』のように強力な水上爆撃機・水上攻撃機を輸出するというのもありかと」
「うむ。その辺りはエンドウにやらせよう。我が国の戦力拡充についてはどうか?」
「はい。水際で相手を食い止めるという観点から海軍の増強に力を入れておりますので、海軍の増強は著しいものがあります。しかし、相手の拠点を叩くための陸軍の制圧力が未だ不足していると言わざるを得ません。軍事費を多く捻出することは国家に大きな負担を与えますので、これ以上の歳出は控えたい、と思ってはおりますが……中々うまくはいきません」
軍事というモノはとにかく金食い虫だ。
常に新たな装備を開発せねばならないこと、兵士たちの給料や待遇のための資金、補給路の確保のための船舶、兵器の補修整備など、とにもかくにも湯水のように金がなくなる。
不幸中の幸いなのは、大日本皇国は旧世界で言うアメリカのように燃料・鉄鋼資源の類が産出するという土地柄もあって、国内生産する兵器はそれなりに安くできる。
しかし、だからと言ってアメリカのように燃費やデカさを気にしないわけではなく、むしろ旧世界以上に気にするようになっていた。
『友鶴事件』も転生者たちにはトラウマとなっているため、船体の頑丈性や艦橋の小型化など、気にするべきところはかなり気にしている。
「そうだな。だが、今は……いや、我が国は常に非常時のようなモノだ。国がなくなっては他の諸費も無駄になる。国を守ることと国内の整備を最優先に費用を振り分けさせよう」
「ですが、それで他の部署に穴が開いても困ります。ミズノ財務大臣には私からも頭を下げますので、戦時国債などを発行してもらえる準備をお願いしましょう」
明治天皇がミズノ・タダクニの方を見ると、ミズノも『致し方ありませんな』と言って了承してくれた。
ミズノは手続きのためにその場を離れていく。
他の大臣たちも、間もなく起こりうるであろう戦争に備えてあれこれと動き始めていた。
やがて、部屋には明治天皇と娘のエリナ、そして旭日の3人だけとなる。
「旭日よ、お主には色々苦労をかけるな」
「なんの。艦隊をもらって転生した時点で戦に巻き込まれることは覚悟のうえでございました。でなければ、海賊退治を請け負う前に逃げておりました」
そもそも旭日はミリオタの一般人だった。
しかし、転生が許されるならばと今までの自分にない人生を歩みたかったことと、大好きな第二次大戦時レベルの軍艦に乗りたかったこともあってお願いをしたのだ。
軍艦に乗るということは、そもそも倒すべき相手がいなければ意味がない。
艦隊司令になるということは、そういうことだ。
すると、エリナが恐る恐るといった様子で旭日に話しかけた。
「旭日様、私は実際に山城様に乗せてもらいましたので『戦艦がすごい』、『航空機がすごい』ということは十分に理解しました。ですが、それならば旭日様自らが現場へ出て指揮をすることはないのではないでしょうか?」
エリナはメルフィット・ザンドラとの戦いを間近で見ていただけでなく、彼女の咆哮を聞き、精神の一部がマヒしてしまった1人だった。
そんな彼女だからこそ、『実戦の恐ろしさ』は身に染みてしまっていた。
旭日にそんな危険な場所に行ってほしくない、旭日には安全な場所にいてほしい……そんな感情が渦巻くようになっていた。
だが、旭日は笑顔を見せる。
「だからこそ、ですよ。船の指揮は艦長たちが取れますが、航空機、潜水艦、さらに艦隊運動や陣形調整など、司令官でなければできないことはいくらでもあります。姫様の仰る通り、本当は安全なところから指示を出すだけでもいいのでしょう。しかし、戦いは相手の動きを見る現場指揮官が必要です。その現場指揮官の報告を受けて、作戦参謀本部がどうすればいいという作戦を立てる……まぁ、私の第0艦隊は参謀本部からは離れた遊撃部隊……という名の自由部隊ですが」
扶桑たち二次大戦水準の戦法はまだ完全に浸透しているとは言い難い部分が多いため、旭日たち第0艦隊は未だに遊撃部隊扱いで、旭日の一存で出撃できるようになっている。
「現在香取型3隻は各地で訓練航海中でありまして、多くの新兵を育成しております。砲の扱い方、魚雷発射、対空戦闘など、様々なことを教えております」
香取型練習巡洋艦は元々実戦向きではないため、今も各地で月月火水木金金の超弩級訓練の日々を送っているが、それでもまるで足りない。
旭日は『練習艦を増やすか』と言って『香取型練習巡洋艦・改』とでも言うべき船を、夕張や当の香取たちと共に設計した。
その結果、以下のような船が誕生した。
安達太良型練習巡洋艦
基準排水量1万2000t
全長140m
全幅20.2m
缶数 ホ号艦本式専燃缶8機
主機 艦本式オールギヤードタービン4基
軸馬力 15万馬力
最大速力 34ノット
航続距離 14ノットで8000海里
兵装 60口径15.5cm三連装砲5基
55口径12.7cm連装高角砲4基
九二式61cm四連装魚雷発射管2基
ボフォース40mm連装機銃4基
25mm三連装機銃4基
搭載機 瑞雲2機
同型艦予定 熱田、北野、櫛田、寒川、住吉、諏訪、湯島、氷川
モデルは最上型軽巡洋艦であり、練習用という割には重武装が目立つ、重巡並みの軽巡洋艦である。
香取型も悪くはないのだが、如何せん速力が遅く、高速化する艦隊運動を学ぶには適していない。
武装も高角砲ではないので仰角をつけての対空戦闘ができなかった14cm連装砲では頼りないので、大口径かつ自動装填装置付きの60口径15.5cm三連装砲を採用した。
対潜戦闘に関してはあえて考慮しておらず、アルモンド王国に造らせている『量産型海防艦・改』に搭載する爆雷及び対潜迫撃砲で訓練させようと旭日は考えていた。
要するに、あんまり余裕のない船に詰め込んでもしょうがないと思ったのだ。
多機能型も大事だが、あまり機能を持たせすぎると今度は『器用貧乏』に陥ってしまう。
実際、旧世界の軍艦でも『帯に短し襷に長し』と言うべきどっちつかずの船、というのはたまに存在した。
旧海軍で言うならば、『大淀』や『阿賀野型』だろう。
どちらも建造されたころには活躍の場がなくなっている船であった。
以前も説明したが、『大淀』は元々潜水艦隊の旗艦となるべく開発された軽巡だったが、太平洋戦争での海戦の在り方が変わってしまったことによって潜水艦隊の旗艦にはなれなかった。
日本海軍の軽巡としては砲力に優れていたものの、魚雷発射管を搭載していなかったことから水雷戦隊の旗艦にもなれなかったのだ。
阿賀野型の場合は、完成するのが遅すぎたことで水雷戦隊の活躍できる場がほとんど残っていなかったことが影響している。
ついでに言うと、主砲も戦艦の旧式副砲である50口径15cm砲を転用して砲塔状にしたもので、装填装置がなく人力装填というなんともお粗末な大砲であった。
主砲だけで言えば大淀の方が遥かに優秀である。
閑話休題。
「もっとも、金も人も船も足りなければ、造船所も手一杯で毎日てんてこ舞いですがね……」
旭日が少し前に視察した日ノ本造船所(要するに国営の造船所)では、昼夜を問わずにすさまじい勢いで人が働いていた。
一応旭日が提言した通り、昼勤・夜勤に分けて交代はしているようだが、それでも種族を問わずに血眼になって働いている。
今が非常時だと皆考えているからだろうか。
この感覚の半分でいいから旧世界の日本人1人1人がそう思ってくれたら、と旭日は考えてしまっていた。
「まぁ、知識を持った転生者に道具さえ持たせればちゃんと教えてくれますからね。造船所や飛行機工場に就職する人もずいぶん増えました。この国に失業者、というのは今、ほとんど存在しないレベルですよ」
「そういえば、経済産業省に調査させたところ、失業率は1%を切ったそうだな」
あまり普通の仕事に向いていないような人物でも、掃除や洗濯くらいはできる場合はある。
工場で働く人たちのための雑用や掃除などでも人出は欲しいので、ぶらついている暇そうな人がいれば声をかけて働いてもらっている。
学校帰りの子供にちょっとしたお小遣いを握らせて大量の洗濯物をしまわせたりするのも日常茶飯事だ。
まだ戦争に突入していないにもかかわらず国家総動員態勢のような状態であり、経済も物資も日々あちこちを動き回っている。
また、そんな日本の『モーレツ』な働きぶりは大海洋共栄圏の加入諸国にも広まっており、『九九式小銃』や『九〇式野砲』のノックダウン生産、さらには小さな国でも原材料を輸入して弾薬やちょっとした小さなパーツの製造などをやらせている。
まるで下請けの町工場みたいな状態になっているが、金払いもいいので自然とあちこちで経済が回っている。
流石に航空機や電子機器類は難しいので日本とアルモンド王国くらいしか製造できていないが。
「また、最近では我が国の隆盛を見た第三世界大陸の文明諸国も我が国に労働者の派遣という形で我が国の実情を探ろうとしております。彼らを引き入れることができれば、ヴェルモント皇国と言えども簡単には手出しできなくなるでしょう」
と言っても、大陸国家群の中では弱小の方だが、それでも国によっては日本の江戸時代中期レベルの生活水準を持つ国もある。
きちんと文明開化さえできれば、あっという間に工業化は進むだろう。
「あとは、現在ケナシュルム王国を攻撃しているヴェルモント皇国が、オルファスター王国を含めてどこまで時間をかけるか、ですね。それによって我が国に攻め込む時間が変わるでしょう」
「そうだな。では、今後はどうするべきと考える?」
旭日は『急ごしらえではありますが』と前置きしながら続けた。
「小型でいいので潜水艦を建造し、偵察に用いるべきかと。基本的にこの世界には潜水艦の概念はないようですから、飛行機を用いるよりよろしいかと思います」
「確かに。なにかいい船の案はあるか?」
「はい。我が国が大戦中にドイツより譲り受けたUボート、『呂号第500型潜水艦』を参考にするとよろしいかと。静粛性に優れているのみならず、水上であれば10ノットで1万3450海里という絶大な航続距離を誇りましたので。こちらも設計図が存在します」
「『伊400型』ではダメなのか?」
「大きすぎますね。本来『伊400型』は潜水空母と言うべき存在でして、秘匿攻撃に用いる決戦兵器です。それに、我が国が国産した潜水艦は、アメリカのモノに並んで騒音が酷かったらしいですから」
「そうか。それはマズいな」
日本とアメリカの潜水艦は、ドイツとイギリスに言わせれば海の中で(以下略)。
「なので、呂号を参考に静粛性の高い、しかも小型の潜水艦を多数建造し、諸国を探らせるべきかと」
「ふむ。その案も覚えておこう。だが、潜水艦の建造は難しいのでは?」
「いいえ。新たに建設した潜水艦用の工廠があるのですが、旧世界でUボートに携わったことのあるドイツ人の転生者を『ようやく』見つけることができましたので、そういった者たちを優先的に雇い入れております」
強いて言えば魚雷の規格が合わないが、そこはなんとか調整するしかあるまい。
53cm魚雷……つまり酸素魚雷を使えるようになればかなり有力な兵器となるはずだ。
「旭日よ……誠にすまぬな」
「それ以上申されますな、陛下」
「平和になる日がワシの目の黒い内にこようものならば、お主に最大限報いると誓おう」
旭日はそこでニコリと微笑みを見せた。
「そのお言葉だけでも嬉しゅうございます、陛下」
そして、そんな風に頭を下げる旭日を、エリナが心配そうに見つめるのだった。
……妄想丸出しと笑ってください。
でも、色々考えてみた結果ですね(笑)
次回は6月27日に投稿しようと思います




