戦車前進
おはようございます。
すみません、昨日に予約投稿するのをすっかり忘れていました……
今回は陸軍の視察ですね。
30分ほど街中を走った後郊外へ出た使節団だったが、レイモンドはずっとワクワクしっぱなしである。
「一体どんな車両なんだろうか……あの写真にあった大型戦車は見れるかな?」
レイモンドはオルファスター王国と大日本天皇国の戦いでも登場した『四式中戦車チト』の姿を思い浮かべる。
すると、外務省職員で外洋国家担当官のエメルダ・マーチンソンという女性が、レイモンドの方をつついてきた。
「レイ君。あなたの言うとおり、大日本皇国の海軍と空軍の能力はとてつもないものを感じたわ。あなたは『陸軍も優れている可能性が高い』と言っていたけど、どれほどだと思う?」
「そうですねぇ……僕が見ている限りでは、最低でも20年~30年、それ以上は離れていてもおかしくないのではないかと思います」
グラディオン王国で最も優れた技術士官と言われている彼の忌憚のない言葉に、エメルダの竜人族女性故の整った顔立ちが冷や汗で濡れる。
「艦船もそうですが、先ほど見た航空機や、対空用の高射砲や高射機関砲など、あの長砲身砲はまだまだ我が国では研究中と言っていい代物ばかりです。特に、先ほどの『五式一五糎高射砲』は驚きでした。あれほどの兵器があれば、クレルモンド帝国にかつて存在した、メルフィット・ザンドラでも撃ち落とせるでしょう」
「そういえばあの戦略級魔龍、最近まるで話を聞きませんが……どこへ消えたんでしょうかね?」
これは大日本皇国の国家運営に携わる一部の幹部以外には知らないことであるが、メルフィット・ザンドラは流れ着いた島で海賊に協力していたために大蔵艦隊によって討ち取られている。
そして、その卵は現在もアヅチ城の奥の『精霊の間』に安置されている。
「確かに。クレルモンド帝国も最近は彼女の行動について全く報道しなくなりましたからね……あの国力誇示の権力欲の塊みたいな国が、2年ほど前から急に警戒態勢を強めましたし」
それもこれも、大蔵艦隊がメルフィット・ザンドラを討ち取ったことによって彼女の反応が途絶し、帝国が『あの神龍を討ち取るなんてどこのどいつだ!?』と警戒を強めて『列強国各国』に偵察を放っていたのだ。
そう、圏外国である大日本皇国は全くのノーマークだったのである。
「なんにせよ、今は日本のことです。これほどの技術を、わずか1年から2年ほどでどうやって手に入れたのか……旭日殿の話が本当ならば、旭日殿はもしかしたら……私と同じ転生者か、転移者かもしれません」
「そうね……少なくとも、この日本なら、なにが起きても不思議じゃないと思えてしまうわ」
元々この世界は転移者、転生者が多く、様々な国でかつては日本からの転生者が存在した。
ある者は勇者として名を馳せ、ある者は魔王と呼ばれた時代もある。
ある者は英雄として建国を成し、ある者は奸賊として国を滅ぼしもした。
そのため、多くの国で地球的な文化や設計思想が見られるのである。
実のところ、アイゼンガイスト帝国でも地球のミリタリーオタクが過去に転移したことがあり、そんな人物が戦車を設計し、生み出したという経緯があったりする。
そして、レイモンドもそんな1人である。
すると、運転手が声を上げた。
「間もなく陸軍練兵場です」
レイモンドは身を乗り出して前方を注視している。
すると、あちこちから煙が上がっている様子が見えた。
「これが……この国の陸軍練兵場?」
「我が国の陸軍練兵場よりも広大ですね。それだけ兵器の射程が長い、ということでしょうか……」
技術士官であるレイモンドはこれまでにも陸軍の野砲や、艦船に搭載するための高射砲の開発にも力を貸してきたため、ある程度は砲に関する知識もある。
そんな彼からしても、この練兵場はかなり広いように感じられた。
やがて、1軒の建造物の前で車が停止する。
レイモンドたちが下車し、旭日の案内を受けて付いていく。
建物を抜けると、そこは別世界だった。
「こ……これは……」
自国の戦車に比べると重厚で、より洗練された長砲身の主砲を搭載した、砲塔そのものの大きな戦車が目の前に鎮座していた。
「この戦車……やはり我が国の戦車より遥かに重厚で強そうに見えますね」
「『やはり』ということは、どこかで情報を掴んでおられましたか?」
旭日の言葉にレイモンドはうなずくが、その視線は戦車から全く離れていない。
「貴国がオルファスター王国と戦った際、我が国の情報官がたまたま旅行していましてね。写真を撮っていたんですよ。扶桑殿のこともそれで知りました」
「そうでしたか。では改めて説明しましょう。この戦車は『四式中戦車チト』と言いまして、現在の我が国における主力戦車です」
「主要箇所の装甲厚などは……教えてもらえますか?」
旭日はニヤリと笑ってレイモンドを見る。
「主要装甲厚は75mm、主砲の口径も75mmとなっています」
「な、75mm……」
レイモンドの前世における記憶が正しければ、日本の戦中の戦車は57mm榴弾砲や47mm対戦車砲、そして軽戦車の37mmが中心だったはずだ。
それから比べれば遥かに大口径砲であり、戦後にアメリカから供与された『M4シャーマン』と同等だった。
いや、主砲の長さだけで言えば、それを上回っているように見える。
それもそのはず。
このチト車の主砲である75mm砲は、中国で鹵獲されたボフォース社製の長砲身75mm高射砲をコピーしたものなのだ。
高射砲が元というだけあって初速は速く、連合軍戦車相手にも十分な戦果を出せる……と考えられていた。
実際にはその前にわずかに作られただけで終戦になってしまったのだが。
「最高時速は45kmまで出せます。貴国の戦車がどのくらいの能力かは窺い知りませんが……戦艦や航空機を見れば、ある程度の水準は予測できます」
「え……」
レイモンドは真っ青になる。
グラディオン王国の主力戦車である『トリケン型戦車』は、旧日本軍の『八九式中戦車』とほぼ同等の存在だ。
まだ王国の車両生産技術が低いこともあって対戦車能力はないに等しいが、クレルモンド帝国の魔光銃弾は弾けることもあって、王国軍の大事な機甲戦力であった。
しかもエンジン『だけ』は強力で、200馬力のディーゼルエンジンを使用していることから時速40kmを出せるのだ。
そのため、現状の軍からは特に改善要求などは来ていなかったのだが、これは一大事かもしれない。
航空機でも負けていて、戦車でも負けているとなれば、制空権を奪われた時点で地上での戦いは敗北が決定しているようなものである。
「恐らく……これくらいでは?」
旭日が差し出した性能は、『九七式中戦車チハ(旧型)』とほぼ同等のスペックだった。
チハはいわゆる八九式の装甲強化型と言ってもよい車両で、主砲に至っては全く同じと言っても過言ではない。
そのため、『ほぼ正解』と言っても過言ではなかった。
旭日は戦艦が初期の超弩級戦艦に近いものだったことから、本音では八九式レベルの能力じゃないかと踏んではいた。
あえてそれに毛が生えたくらいの能力の戦車を示したことで相手の出方を窺ったのである。
「……これ、だとしたら……どうでしょう?」
もちろんいきなり『正解です』などと言うわけにはいかないので、相手の回答を誘う。
いわゆる話術だ。
「そうですね……ま、これくらいなら背後に回られない限りはほぼ大丈夫でしょう。あ、強いて言うなら履帯をやられるとキツイかな?」
逆に言えば、『正面装甲を叩かれる分には屁でもない』ということである。
戦艦もそうだが、戦車……特に対戦車能力のある戦車は自分の砲弾にある程度耐えられるだけの正面装甲を持っているものだ。
九七式中戦車はそもそも戦車と撃ち合うための戦車ではなく歩兵支援を目的としていたため、装甲厚は50mm前後しかない(それでもノモンハン事件で参加した戦車の中ではかなり厚めの装甲だった)。
つまり、そういうことである。
『トリケン型戦車』がこの『四式中戦車チト』に戦いを挑めば、多少こちらの数が多いくらいであればあっさりと全滅してしまうに違いない。
「そう、ですか。我が国の戦車とそん色ない能力をお持ちのようで……ハハハ」
引きつりそうな笑顔を見せつつ、レイモンドは精一杯の返答を見せた。
すると、チト車の隣から別の車両が出てきたのだが、その車両は異様な姿をしていた。
「あれも……戦車ですか?回転砲塔がないように思えますが?」
「あれは私が原案を担当して陸軍技術者に設計してもらった、『四式歩兵支援突撃戦車』という兵器です」
「突撃戦車……これって、自走砲?」
レイモンドの前世では、回転砲塔を備えた『75式155mm自走榴弾砲』という兵器が陸上自衛隊の特科部隊に配備されていたが、それとは全く異なる趣の戦闘車両であった。
この『四式歩兵支援突撃戦車』こと、『四式突撃戦車』は、四式中戦車の車体を用いて開発された、歩兵支援のための火力戦闘車両。モデルはドイツの『Ⅳ号突撃戦車ブルムベア』であり、短砲身の15cm榴弾砲を装備する。
ブルムベアよりも砲身長はわずかに長いため、接近戦であればHEAT弾(タ弾)や対戦車榴弾による対戦車戦闘も行える。
それでいて前面を100mmという装甲で覆っているのみならず、横部分は被弾経始とシュルツェンでカバーしているというおまけつき。
つまり、敵の野砲やちょっとした対戦車砲をガンガン弾きながら前進し、歩兵の通る道を開けるための車両という、『突撃戦車』の名に相応しい車両となった。
ちなみに、回転砲塔にしなかった理由としては『第二次大戦水準の技術ではトップヘビーになってどこぞの〈かーべーたん〉のようになるから』と旭日が考えているからであった。
「こんな……こんな車両と真正面から打ち合ったら、ウチの戦車は……」
レイモンドの脳裏に、正面から対峙せざるを得ない状態で『トリケン型戦車』とこの『四式歩兵支援突撃戦車』が向かい合っている姿を思い浮かべた。
『トリケン型戦車』は56mmという、砲弾としては軽量なことを活かして立て続けに砲撃を見舞うが、『四式歩兵支援突撃戦車』の正面装甲は短砲身56mmの榴弾程度ではビクともしない。
100m以下という至近距離まで迫られても有効打を与えることができず、発射された155mm砲の一撃で車体ごと吹っ飛ばされてしまうというオチが見えた。
150mmという威力の高い砲弾の爆発で、命中した車体は吹っ飛ばされてしまう姿まで想像できている。
「あぁぁ……」
レイモンドはずるずると力なく座り込んでしまった。
これでは、たとえチハでも勝ち目はない。
旭日自身の言うとおり、背後に回ってエンジン部分に一撃を叩きこめばどうにかなるかもしれないが、機動力もほぼ同等と来ている。
流石に小回りだけならばトリケンの方が上だろうが、最高速度でもし負けていれば、開けたところであろうとも勝ち目はないに等しい。
「な、なるほど……車両の運用思想においても、日本の方が上のようですね……」
すると、四式突撃戦車の砲身から、轟音と共に砲弾が飛び出した。
少し仰角を付けて放たれた155mm砲弾は目標の的に命中し、大爆発を起こした。
あのような威力の爆発を受けては、歩兵も戦車もたまったものではない。トーチカがあろうとも、成形炸薬弾頭があれば突破できてしまうのだ。
流石に成形炸薬弾頭のことは知らないとはいえ、どうやら、また日本から仕入れるべき技術がありそうだとレイモンドは覚悟するのだった。
すると、小高い丘の上にもう1両別の車両が見えた。
車体から4本の筒のようなものが突き出ており、どれも上空を向いている。
それを見たレイモンドは、それがなんであるかにすぐ気が付いた。
「ま、まさか……対空用の自走砲!?」
「おぉ、流石ですね。その通りです。この車両は『四式対空自走砲』と言いまして、歩兵に随伴できる対空車両です」
こちらも四式中戦車の車体を利用して開発された、対空自走砲である。
モデルはドイツの『ヴィルベルヴィント対空自走砲』で、20mm4連装機関砲を用いて敵航空戦力を迎撃する対空自走砲である。
装備する機関砲は二式二〇粍機関砲をヴィルベルヴィント同様に四連装としているが、発射の際は1門ずつ順番に発射することで弾幕を途切れさせないようにする、という二五mm三連装機関砲と同様の仕組み。
本当であればエリコン系列を生産したかったのだが、すぐによういできるものということでこちらに白羽の矢が立ったのだ。
ちなみにこれ、水平射撃に切り替えることで、対歩兵戦闘も可能という一面がある。
ぶっちゃけた話、当たらなくてもいいから牽制するのが目的なので、間に合わせのこれでも十分。
「ちなみに現在では対空・対地用の噴進砲……わかる人にわかるように言えば、ロケット砲を搭載した車両も作る予定です」
「え……」
対空型は近接信管を搭載したロケット弾を使用し、対地向けはクラスター弾のようにしたいと考えているが、クラスター弾はまだ研究段階なので、ひとまずは単弾頭のロケットの大量斉射による面制圧という形になる。
対地型は『MLRS』、大戦時で言えばソビエトの『カチューシャ』ロケット砲のような兵器である。
「そ、そうですか……我が国ではロケット弾は命中率も悪いし射程もそれほどないので重要視されていませんでしたが……そんな使い方があるとは……」
「モノは使いようですよ。レイモンド殿も仰っていましたが、射程が短いロケット砲だって、奇襲的に物陰などから敵の歩兵部隊に向けて発射すれば、大きな戦果になります。広い平原でもそうですね。敵がわらわらと向かってきたところで発射すれば、大打撃です」
すると、陸軍将校の1人が駆け寄ってきた。
「これより、発射実験を行います」
「お願いします」
振り返った将校が合図を出すと、装置に乗った兵士が素早く準備を進める。
「多目的噴進砲、斉射!」
――バシュッ‼バシュッ‼――
連続で発射されたロケット弾は次々と3kmほど離れたポイントに降り注いだ。
確かに着弾地点もバラバラな上、1発1発の威力はお世辞にも高いとは言えないだろう。
しかし、それを一気にバラまいて投射することによって、面制圧を可能としているのだ。
着弾ポイントで次々と発生する爆発を見て、レイモンドは真っ青になった。
あんなものを上空から落とされたら、防ぐ手立てはない。
こんな兵器を配備しているならば、中央大陸の下位列強であるオヌワナ帝国はもちろんだが、規模で上回るヴェルモント皇国でさえも圧倒できるだろう。
「まさかこれほどとはな……恐ろしい限りだ」
その夜、使節団一同は軍の食堂である『間宮』へ行ってみた。
今日も大繁盛のようで、多くの軍人たちが色々な食事にありついている。
旭日は食習慣に関しての話として、幹部食堂と兵卒食堂に分けてはいるが、基本的にそれほど変わらないメニューを提供できるように間宮に頼んでいた。
船の上ではさておき、陸の上でくらいはウマい飯を食ってもバチは当たるまいと思ったのである。
それに、『食』を充実させることは軍隊の士気を保つ上でも、とても重要なことである。
ロシアの話だが、戦艦ポチョムキンで腐肉入りのボルシチを出したことによって、水兵たちが反乱を起こしたというのは有名な話だ。
それもあってか、現代軍隊及び日本の自衛隊の食事は非常に恵まれている。
特に海上自衛隊のカレーに対するこだわりは尋常ではないのは、知識ある諸氏ならばご存じだろう。
そんな知識のある旭日が充実させた『食』は、第二次大戦中レベルを通り越して1970年~80年代水準に近いものを生み出していた。
しかもそこに、平成・令和の時代を生きていた旭日の『料理に対する情熱』もあり、とても賑やかなことになっている。
「……」
昨日までとは異なり、黙りこくったまま食事を進めるレイモンドに、エメルダが恐る恐ると言わんばかりに声をかけた。
「レイ、日本に転生者・転移者が現れていたとして……どれほどのものだと思う?」
レイモンドは旭日がそうであると確信に近い感覚を持っていたが、そう決めつけるだけの証拠はなにもなかった。
後で旭日とどんな話をするか、とにかくそれで頭が一杯なのである。
すると、調理場に立っていた20代後半くらいの女性が入口の方を見て声を上げた。
「あら司令、お疲れ様です」
「「お疲れ様です」」
レイモンドがハッとして入口を見ると、旭日が何人もの女性を従えながら店に入ってくるではないか。
女性の年齢は言葉通り様々で、小学生くらいにしか見えないような者もいれば、20代前半くらいの見た目の人物もいる。
そしてなにより、その中には扶桑や大鳳の姿があった。
使節団の一部は旭日を『女を侍らせているハーレム野郎』というようなイメージをここで抱いたが、レイモンドは違った。
「(恐らく旭日殿が従えている女性は皆扶桑殿や大鳳殿のような軍艦の艦長、或いは幹部に相当する存在なのだろう。あの年齢で艦長や幹部というのは信じがたいが……転生者や転移者であるというのであれば、納得はいく)」
そんな旭日はレイモンドの姿を確認すると、女性たちの内、扶桑ともう1人を連れてレイモンドに近づいてきた。
「お疲れさまでした、レイモンドさん」
「いえいえ旭日殿。本日は色々と貴重なものを見せてもらい、勉強になりました。ところで……そちらの女性は?本日は見かけませんでしたが」
「あぁ、こいつは空母機動部隊指導教官を務めている雲龍と言います」
旭日は座ると海軍服の上にエプロンを付けた女性……間宮に『水とオムライスよろしく』と注文をした。
ちなみに扶桑は肉じゃが定食を、雲龍はハンバーグ定食を頼んでいた。
一方、レイモンドも雲龍という名前には聞き覚えがあった。
「確か……特攻兵器を積んで出撃し、米国の潜水艦に撃沈させられた空母、でしたね?」
その一言を聞いた旭日は、ニヤリと笑いながらレイモンドの顔を見た。
「薄々感づいてはいましたが……やはりレイモンドさんは転生者、それも日本からの転生者でしたか」
ここでようやく腹蔵ない話ができると判断したのか、レイモンドの顔も明るくなった。
「仰る通り、私はかつて、昭和の日本を生きた造船業者でした。もちろん、周囲の者も知っていますし、他にも転生者は多くいました。まぁ、旭日殿ならば知っているでしょうが」
「えぇ。大日本皇国も転生者が多い国でしてね。江戸時代や明治時代はもちろんですが、大正や昭和、平成という時代を生きていた人物までがいました。中には昭和の軍工場に勤めていたような人や、技術者だった人もいたのでそういった人たちの知恵もお借りしましたよ」
旭日たちが異様なまでに早くこの世界の日本に拠点を築き、生産設備まで整えることができたのはそこにも理由があった。
『日本人の転生者が多い』ということによって、昭和の武器なども作りやすい状況が整っていたのである。
旭日たちの輸送艦にそういった武器を製造するための機材一式が揃っていた(さすがに艦載砲に関しては旋盤などの部品と設計図、鋳造方法などがメインだったが)こともあって、建物と電源さえ確保できれば、あっという間に生産を開始させることができたのである。
もっとも、旭日がその中で気を付けさせたのが、『日本並みの職人技を以て、アメリカに匹敵する大量生産を実現させる』ということであった。
当然ながら『んな無茶な』という意見が噴出した。
なので旭日は、当面の間生産する兵器を、完全に1つの規格に統一するという指示を出したのだ。
そもそもこの世界の日本に民営の工場が存在しないこともあって、全てを軍の統括の下で製造を行わせているものだから、全ての規格を統一したうえで大量生産を行う、という無茶ができるのである。
オマケを言うならば、軍人経験者も多く転生していた(この場合は明治~終戦まで)こともあり、その経験、記憶を活かして軍に入隊した者も多かったのだ。
おかげで生産しまくった弾薬や兵器も無駄にならずに使用できている。
現状の大日本皇国の総人口が4千万人であるのに対して、軍人総数は40万人(現在の日本の自衛隊の総数より多い)である。
内訳は陸軍が15万、海軍が15万(飛行隊及び陸戦隊を含める)、独立させた空軍が5万(基地事務員や対空兵器要因も含める)、そして後方支援の兵站部隊が5万、さらにオマケで予備役が4万である。
元々は江戸時代初期くらいの水準しか技術のないこの世界の日本だったが、ここ数十年ほど平和だったことと食料自給率が高い土地柄だったこともあって人口はそれなりに増えつつあったのだ。
閑話休題。
「なるほど。私は中途半端な知識しかなかったものですから、この世界に来てから勉強したことも多いですね。特に軍事技術は、列強入りして間もないグラディオン王国で学びましたから」
グラディオン王国はレイモンドが転生してきた頃は日本で言う明治時代に入り、鋼鉄軍艦(敷島型戦艦など)が建造できる水準に達しようとしている時代だったため、レイモンドがわずか15歳で基礎学校を卒業してすぐに技術士官として軍に入隊し、昭和のあれこれを含めてわずか十数年で大正時代レベル(超弩級戦艦)まで発展させたのである。
これだけでもレイモンドがいかに『とんでもない』存在かがうかがえる。
旭日からすれば、自分の方がよほど半端者でしかない。
「旭日殿は?旭日殿はいったいどういう人物だったのですか?」
「私はただの兵器マニアの船員ですよ。陸海空問わず、そして国籍も問わないような兵器マニアでしてね。中でも船が大好きでしたが……それもあって海軍の強化には力を入れているんですよ」
「ははぁ、なるほど……」
レイモンドは旭日の顔色を窺いつつ、疑問に思っていたことを『ズバリ』と口にした。
「旭日殿。扶桑殿や雲龍殿は、記憶と人格を持った兵器、なのではありませんか?」
旭日は無言でレモン水をすする。
「先ほど雲龍殿の名前を聞いた時、確か特攻兵器『桜花』を搭載して出撃し、撃沈された空母の名前だった、と思い出しましてね。もしや、と思っていたのですが……」
旭日はコップを置くと、『はぁ』と息を吐きながら顔を上げた、
「仰る通りです。私が今連れている女性は全て、船の記憶を持った精霊のような存在です」
旭日がチラリ、と別の机の方を見ると、メイド服を着た女性が次々と料理を運んできているテーブルが目に映る。
扶桑に顔立ちの似た、しかし快活そうな女性が唐揚げにビールで舌鼓を打ち、雲龍に似た雰囲気の2人の女性が刺身をつまみながら日本酒を口に含んでいた。
他にも数十人もの女性がワイワイと宴会をしている様は、なんとも言えず姦しいの一言に尽きる。
「やはり……そうでしたか」
「この扶桑も、『扶桑型戦艦』の1番艦、扶桑の記憶を持った存在なのですよ」
「はい。西村艦隊として妹の山城と共に奮闘し、レイテ沖海戦にて没した船。それが私です」
扶桑が頭を下げると、ポニーテールが『ふわり』と動き、豊満な胸部装甲も『ゆさり』と揺れた。
使節団の中で何名かの男が『おぉ』と思わず目を見張るが、扶桑は気にもせずに続ける。
「私たちは太陽神様の計らいによって旭日司令の指揮の下、異界の日本を守るべく日々を過ごしております」
「太陽神?」
「まぁ、我が国風に言えば、天照大神様、と言ったところですかね。私が神様の手違いで早死にしたことから、その転生特典に艦隊をもらったんですよ」
「なるほど……それで扶桑殿たちのような強力な船がもらえるとは……羨ましい限りです」
だが、旭日も扶桑も、雲龍までもが苦笑いをしていた。
「え、え?なにかおかしなことを言いましたか?」
「ははは……実はですね。私の『大蔵艦隊』は、どいつもこいつも一癖ある奴らばっかりなんですよ」
「え?どういうことですか?」
レイモンドの言葉を受けて、『まずは』と言わんばかりに扶桑が話し始めた。
「私たち扶桑型戦艦は、日本で言えば1915年……大正4年に竣工した、国産では初となる超弩級戦艦でした。ですが……当時の日本の技術が未熟だったこともあり、建造当初から問題が山積みだったのです」
「と、言いますと?」
扶桑は自分の図面を取り出した。というか、そんなものを持ち歩いているのかとレイモンドは呆れていたが。
「私は主砲として35.6cm連装砲を6基搭載していた、当時としては重武装の戦艦でしたが、装甲が薄いことによる防御力の低さに加えて、主砲の発砲炎が照準を妨げたり、爆風で船体が捻じ曲がったりするというような設計の未熟さが際立ったのです」
実際、そんな事情があったからこそ扶桑型は『欠陥戦艦』の烙印を押されて太平洋戦争の渦中でようやく使用されるという状態まで練習艦扱いされていたわけだが。
「扶桑だけじゃありません。急降下爆撃への防御は完璧だったのに、魚雷1発でガソリンが気化して大爆発を起こした結果轟沈した装甲空母や、最新鋭空母だったにもかかわらず、燃料も艦載機もない状態だったために1番艦の雲龍が特攻兵器の運搬に使われた以外は戦中に出番のなかった雲龍型3隻や、酸素魚雷の開発に伴って『魚雷大量に搭載した船があれば戦艦も倒せる』と考えられた重雷装巡洋艦とか……我が艦隊でまともな船、と言えば阿賀野型軽巡洋艦くらいですよ」
「ははぁ、なるほど……言われてみればその通りですね」
「艦載機だって、完成したはいいものの空母がなくて限定的な活躍しかできなかったものと、終戦間際に完成したものがメインですからね」
「そうでしたか……しかし、その割に装備は整ってますよね?」
「神様特典で色々許される改装を施した上に、戦車や自走砲、輸送艦を含めた陸軍装備までつけてもらったんですよ。ありがたい限りです」
そんな工作艦の明石の中に、様々な設計図が大量に収容されていたこともあって現在の開発万歳状態が続いているわけだが。
旭日は『とりあえずこのくらいでいいだろう』と言わんばかりにレモン水を煽ると、そこからは扶桑と雲龍と共に食事を進めるのだった。
「明日は外務大臣のエンドウ・ナオツネ殿とのご対面ですね。首都であるアシタカノウミの美しさを、どうかお楽しみに」
「はい。よろしくお願いいたします」
レイモンドたちとは、そこでお別れだ。
……正直、もっとましなもの思いつかなかったのかと今になって思う日々ですが、多少の修正だけで済ませてあります。
次回は5月23日に投稿しようと思います




