プロローグ
-2年前、カント大平原-
朝から降り続ける雨の中、血と泥にまみれながら南州候は剣を振るい続けていた。
昼頃に始まった北の魔女が率いる軍勢との戦いは、周囲が薄暗くなった今もなお途切れる事無く続いている。
もはや敵からも味方からも雄たけびや鬨の声など聞こえず、とりつかれた様に皆一声も発する事なくただ剣を振り下ろし、無言で地に倒れていった。
……この地獄はいつまで続くのか
ぼんやりした頭でそんな事を考えながら、南州候は目の前に現れた異形の者を無感動に斬り捨てる。
辺りは更に暗くなり、降りしきる雨で敵と味方の区別もはっきりとせず、ただ黒い塊がうごめいているようにしか見えない。
まるで白黒の世界で亡者達が喰らい合うようなその凄惨な景色の中に埋もれ、南州候も亡者の一人として視界に入る敵をただ斬り倒し続けていた。
その白黒の視界の隅に、ぽつん、と輝く光が見えた。
黒い塊達の隙間から僅かに見えるその黄金の光は、きらり、きらりと踊るように揺らめいている。
一瞬戦場にいる事も忘れ、思わずそちらを眺める南州候。気付けば周囲の者達もまた、同じように呆然とそちらを眺めている。
そこには黄金色の髪をなびかせた、一人の女がいた。
灰色のマントをはおった黒猫をお供に付け、まるで白黒の世界を断ち割るように拳を振り続けて前へと進む。
その横顔は泥にまみれながらも、うつむく事なくただ真っ直ぐに前を見据え続けている。
「美しい…」と誰かが思わず呟く。行かねば、立ち上がれ、剣を取って、彼女に続かなければ
誰とも無く呟かれたその言葉は、さざなみのように広がり、やがて一つの大きなうねりとなる。
皆の瞳に色が宿る。そのうねりが爆発し、一つの塊となって、彼女の前に立ちふさがる敵を飲み込むように突き進んで行く……




