Pro 英雄達の帰還
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
今日は世界の歴史が変わる日だった。
人類最大の敵。
百年前より人類を脅かし続けた魔王。
その討伐に向かった勇者一行が帰還したのである。
王都は熱狂に包まれていた。
広場には民衆。
城には貴族。
玉座の間には王族と重臣が集う。
そんな中。
俺はいた。
部屋の隅に。
できるだけ目立たない場所に。
柱の陰。
最高である。
ここなら視線を感じない。
安心だ。
落ち着く。
帰りたい。
◇
「よくぞ帰った!勇者たちよ!」
王の声が響く。
歓声。
拍手。
称賛。
勇者は胸に手を当てる。
「ありがたきお言葉」
隣には魔法使い。
神官。
武闘家。
それぞれが誇らしげだ。
当然である。
魔王を倒したのだから。
俺ならたぶん恥ずかしくて死ぬ。
◇
「さあ申せ!」
王が笑う。
「褒美を与えよう!」
再び歓声。
「ありがたき御言葉、痛み入ります」
だが。
勇者は首を横に振った。
「ですが」
ざわり。
空気が変わる。
「本当に魔王を倒したのは我々ではありません」
沈黙。
誰も喋らない。
王すら固まった。
「どういうことだ?」
王が問う。
勇者は振り返った。
嫌な予感がした。
すごくした。
俺を見るな。
頼むから見るな。
「こちらです」
やめろ。
「彼こそが真の功労者」
やめろ。
「魔王を倒したのは彼です」
やめてください。
全員が振り返る。
俺を見る。
やだ。
怖い。
吐きそう。
「……誰だ?」
王が言った。
そりゃそうだ。
「彼です!」
勇者が指さす。
「だから誰だ?」
勇者が固まった。
「共に旅した仲間です!」
「いたか?」
貴族たちが顔を見合わせる。
「見たことがないな」
「勇者殿の従者では?」
「荷物持ちかもしれんな」
違う。
違うんだけど。
訂正する勇気がない。
「彼は私たちより強いのです!」
勇者が叫ぶ。
「俺は彼に勝ったことがありません」
ざわり。
「剣も」
ざわり。
「魔法も」
ざわざわ。
「模擬戦も」
ざわざわざわ。
「一度も勝ったことがありません」
静寂。
王が頷いた。
「疲れているのだな」
なんでだよ。
勇者が絶望した顔をする。
「本当なのです!」
「ならば証明してみせましょう!」
やめろ。
「彼一人に対し、我々勇者パーティー全員で挑みます!」
「なん……だと……!」
騎士団長が立ち上がる。
「無茶だ!」
「それほどなのです!」
勇者も譲らない。
おい。
お前。
善意しかないのに何でそんなに人を追い詰められるんだ!
◇
そして。
訓練場。
観客席満員。
国中王族。
騎士団。
貴族。
民衆。
全員いる。
最悪である。
俺の精神は限界を迎えていた。
(帰りたい)
心の底から思った。
(ゲームしたい)
切実だった。
審判が前に出る。
「両者準備はよろしいか?」
勇者。
こくり。
俺。
(はやくしろぉぉぉおおお!!)
審判。
確認するようにもう一度見る。
(そのタメいらねぇぇぇぇぇぇぇ!!!)
会場中が息を飲む。
ごくり。
緊張。
期待。
熱気。
(あああああああああああああ!!!!!!)
「始め!!」
勇者が動いた。
魔法使いが詠唱した。
武闘家が跳んだ。
神官が支援した。
ように見えた。
次の瞬間。
全員。
倒れていた。
地面に。
ぺたりと。
静寂。
「……」
「……」
「……」
審判が勇者へ近づく。
「勇者殿?」
返事なし。
「勇者殿?」
審判が勇者の呼吸、脈拍を確認する。
「なっ……」
審判が青ざめる。
「どうした!?」
王が叫ぶ。
「そ、それが……」
一拍。
「寝ています」
沈黙。
「……」
「……」
「……」
誰も理解できない。
すると。
どこからともなく声が上がった。
「勇者殿達はお疲れでしたからな」
「ああ」
「魔王を倒した直後だ」
「限界だったのだろう」
「眠気の」
王も頷いた。
「うむ」
また頷く。
「当然であるな」
さらに頷く。
「長旅に魔王討伐」
納得したらしい。
「心身ともに限界だったのであろう!」
完全に納得した。
「勇者殿達を運べ!」
兵士が動く。
「丁重にな!」
勇者達が担架で運ばれていく。
勇者が途中目を覚ました。
「か、彼は……!」
「お休みください勇者殿!」
「違う!」
「無理をなさらず!」
「彼を!」
「眠れていないのですな……可哀想に……」
連れて行かれた。
俺は周囲を見た。
誰も見ていなかった。
誰一人。
俺のことを。
(帰ろ)
そっと城を出る。
兵士とすれ違う。
しゅばっ!
「ん?」
通り過ぎる。
数歩。
兵士が振り返る。
「あれ?」
首を傾げる。
「今誰かいたか?」
隣の兵士も首を傾げた。
「気のせいだろ」
「そうか」
帰ろう。
部屋でゲームしよう。
本日の日記。
勇者パーティーと試合した。
一秒で終わった。
誰にも信じてもらえなかった。
いつものことだった。
少しだけ泣いた。
お読み頂き、ありがとうございます。




