七十五話 広野の野宿は危険
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「水が欲しい……ユウキ、もう無いの?」
「だから計画的に消費しろと言ったんだ。自分の分しか無い。残念だけど我慢しろ」
「はぁ。運良く商人と会えないかな」
俺たちは歩いていた。ミロコヴィルに言われた通りに進み、シャンデラ王国を目指してだ。
道中には集落が山のようにある。そんな集落で休ませてもらうこともあった。
もちろんタダで貰える物資など無い。大概は各集落の困り事を解決する事と引き換えである。
一昨日に訪れた場所では井戸が機能しなくなっていた。石を詰め込まれて誰も直せないということだったが、飲料水を手に入れられるチャンスだと俺は張り切った。
水筒が重いと思ったのは、この時が初めてだった。
「あとどれくらい歩くかわかる?」
「分からない。が、教えてくれた事が事実だったとしたら、今はこの辺だ」
「真ん中ってところか……まあ普通よりはだいぶ早いね」
井戸を直した集落で、どの地点か聞いておいたのだ。彼らが地図の読み方を知っていて助かった。
度は、ゴールが見えないより見えている方がずっと心強い。
「シャンデラ王国に向かってるわけだが、これと言った目的が無いんだよな…………」
惰性で続けている旅である。強いて言うのなら王都に近い事か。
「お頭に会ってみたらいいよ。ロスメリスについてよく知ってるからね」
「そうだな。こんな場所でくだを巻いてることが一番の無駄か」
炎天下の元、俺はベルローと共に歩き続けた。どうしてだかここの所、日差しがやけに熱い。季節が巡っている証拠か。
ベルローが水を欲しがる理由もわかる。
随時休憩を取りながらゆえに、一日で進める距離には限度があった。徐々に日が暮れる。
ああ、今日も夜がやってくる。
「火をつけてくれ」
「火属性の魔法なら、君の出番でしょ? 」
「…………じゃあパン取ってくれ。バッグにあるだろ?」
「これは私の。君のは君ので、持ってるでしょ。そっち食べて」
わがままに見える。これが平常運転だと気がつくのには、それほど時間を必要とはしなかった。
自分本位でしか動かないベルローはこのようにして、いつも勝手であり、かつ気儘に振る舞おうとする。
そして俺自身、夜には火が必要である。それは絶対だ。彼女が使えないなら自分でやるしか無い。
「お前……仲間といっしょにいる時もこうなのか? 愛想尽かされそうだが」
「お頭もランスもチャランポランだから別に。何があるわけでもないからね」
「適当に生きるのが楽なのは分かるが……それでもお気楽に生きられるとは限らないのにな」
草の上にダイレクトに座り焚火を囲う。パチパチと小気味良い音が絶え間なく聞こえる。心を落ち着かせるような音。眠気を誘われる。半目になりつつ頭を上下に揺らしていると、何かの気配を感じた。
一気に目が覚める。獣の目線かそれとも人間か。どちらにせよ、敵意を持っている事は確実。
「おいベルロー。何かいるぞ……」
そう言った瞬間、俺の背中を突き刺す何かがあった。眠気が無かったら、もしかしたら避けられたのかもしれない。何を考えても無駄か。すでに一撃貰ったのだから。
振り向くよりも先に前に踏み込んだ。直後、鋭い剣先が目のまえに現れる。髪の先端が切れた。それだけだ。姿を全て視認する余裕はない。短刀に手を伸ばし、構える。切先がもう一度、俺の鼻先を狙う。殺す気の一刀。
手に握った短刀で弾く。刃を刃に沿わせ、撫でつけるような。
体を逸らして転がり側面へと回る。脇腹が空いていた。ここに刺し込む隙がある。
一点のみを狙って刃を突き立てる。だが何か胸騒ぎがする。いや、気にしている場合でもない。
「ちょちょちょっとまってください、お頭ぁ!」
後頭部に強い衝撃が加わる。頭蓋が割れたか。脳全体に沸騰するような強烈な熱を感じる。がまだ動く。なら選ぶ選択肢も限られる。意識がある内は抵抗してやろう。
片腕を地面に付いたと同時に、俺は衝撃を生み出す魔法を使った。地面と手のひらの接点を基準に。イメージは半円。吹き飛ばす対象には無論、俺も含まれている。
頭の次は体全体を揺さぶる衝撃に襲われる。それでも立ち上がるしかない。どうにかして、逃げる手立てでも考えなければ。脚が震える。
限界のようだ。意識はまだぼんやりと残っているのに、体が言う事を聞かない。
これでは、死を待つ家畜と同じだ。現実問題、俺は立ち上がるだけで精一杯だった。
すると話し声が聞こえてくる。まだ会話の余地があったのか?
「お頭……彼は友人ですよ。ここまでいっしょに歩いてきた、仲間です」
「お前なぁ騙されるぞ? そんなんじゃ」
「私の事見捨てましたよね? 転んだ時助けてくれなかったですよね?」
そんな会話が耳に届く。ぼんやりと。けれど確かに”お頭”と聞こえた。
言葉から察するに、俺はベルローの頭目に襲われたのか。なんというとばっちり。
ここのところ本当にツイていない。
「ほらユウキ。こっちに来て弁明してください」
「ユウキ? お前ユウキか! こりゃあマズいな。おいランス、俺たちやっちまったな!」
「敵か? それとも仲間か? どちらかで変わるであろう」
「いやいや、前に助けてもらったろ。覚えてないか? フクスイラの街に行くとか息巻いてた青年をさ」
立っていられなくなり、片膝を付いた。再開を祝うか助けるかどちらかをしてほしい。少なくとも長話する状況ではないだろう。はやく助けてくれ。
そんな俺の想いが伝わったのか男が一人、小走りで近づいてくる。
「おーい、聞こえるか? 感覚は残ってるよな?」
「ほ、包帯か何かないのか……? 頭がガンガンしてずっと血流してるんだが」
「そうだった。悪い悪い。ほら、包帯だ」
「巻いてくれないか……? 後頭部は見えないんだよ。知ってるだろ」




