拘束特訓
翌日49層階段前でテントから起床したリュクスは、頭上にレイトがいなく、ベードもいないことに少し寂しさを覚える。
二匹がいなかったことは初めてではないが、送った先がダンジョンの40層なことが原因だろう。もっともレイトがいれば道中の魔物たちは問題にもならないだろうが。
余計なことを考えても仕方ないと、リュクスはミミズ対策をもう少し考え始める。フレイムランスレインでは倒し切れず、逃げられることも多かったのだ。
逃がしたミミズがすぐさま仲間を呼んできて復讐してくるようなことはなかったが、体を休めた後に再びどこかで襲ってきていたかは、リュクスにはわからないことだ。
リュクスがベードやモイザのような拘束系のスキルアーツか、時術で相手の時を止めるようなスキルアーツが使えないかと考えるが、ヘイストの効果時間を考えれば時止めの効果は短いだろうと思い直す。
「うーん、拘束するならスロウダウンで落ちるのを遅くするのもありかな?でも距離がある相手には使えないか。」
「――――。」
「ん?モイザ何か用?」
「――――、――――。」
声をかけられた時点ではいつも通りのモイザの声に聞こえたリュクスだが、そのあとのモイザの発音がいつもと違うように聞こえた。とはいえリュクスは何となく内容は理解できた。
「えっと、モイザが拘束のスキルアーツを僕に教えてくれるの?」
「――――。」
頷いてくれたのでそれで合っているようだ。モイザが粘土をまるで糸のように伸ばし、なぜかフレウを拘束して見せてくれた。
「コ、コココ!?」
「モ、モイザ!的がないからってフレウを拘束しないであげてよ。かわいそうに。」
「――――!」
ついうっかりといった感じのモイザは、即座に拘束を解く。朝食後から寝ていたフレウもさすがに驚いていたのだが、拘束が解かれるとすぐに寝始めてしまった。
「まぁフレウは放っておこうか。でもいつも粘土じゃなく糸を使ってるよね。どうしてなの?」
「――――、――――。」
「えっと、土魔法にまだ慣れきってなくて、粘土はあんまり飛距離が出ない。慣れた操糸術のほうが強度も射程もいいって感じかな?」
「――――。」
モイザが肯定してうなづく。リュクスが使いやすい炎術を使ってしまい、炎ばかり上達しているのと似た状態のようだ。
モイザの粘土の拘束からリュクスは一つ思いつく。砂を使った拘束ならば、砂中のミミズを拘束したまま引っ張り上げれたりするかもしれないと。
土術でできるようになれば、得意な炎術でもできるようになるだろうが、水と風ではうまく行くかと考え、いっそ四属性全部で使えるように練習すればいいと思い至る。
まずは土から始めようと、リュクスは階段前の安全地帯にフレウを置き去りにし、近場の砂地に手をつける。土術を使うときには直接地面に触れたほうがリュクスにはやりやすいのだ。
砂をつなぎ合わせて糸状にすればいいのだろうとリュクスは考え、拘束といえばこれだと魔法を唱える。
「サンドバインド!…あれ?」
砂中から拘束用の砂の糸が出るイメージを思い浮かべたリュクスだったが、何も起こっていないうえに、魔素の消費が起こった気もしなかった。
「――――!」
「ん?まずは糸を出すだけ?」
「――――。」
すぐに拘束までをイメージしたのがいけなかったのかとリュクスはイメージしなおし、糸って英語でなんというかと考える。すぐさま思いついた単語はストリングだったが、紐とか弦といった意味だったようなと思いつつ試す。
「サンドストリング!」
砂からうねうねと一本の紐のような太さで砂がせり出す。ミミズのように見えて少し顔をゆがめたリュクスだったが、ここから砂紐を丸めれば拘束できるだろうと試す。
「サンドバインド。」
うねっていただけの紐が動きを変え、円状にと変化すると、ギュっと空気を縛るように円を縮める動きをする。
「――――。」
「ありがとうモイザ、おかげでうまくいきそうだよ。」
他属性でも試そうと、リュクスはまず炎で紐を作り出す。1本は簡単に成功し、どんどん増やし20本まで一気に作りだし操ることができた。
水でも10本の水紐を操れたリュクス。作り出せた数は20本だったので、操れる数が違ったのは炎調整のスキルの影響だろうと考える。
あらためて土術の紐がいくつできるかをリュクスは試したが、砂に触れながらでも5本作って5本操るのが限界だった。サンドウォールは数を出せたのに、紐の数が少ないのは形が単純でない影響だろう。
そして最後に回した風術で問題が起こる。ウィンドストリングで風紐を作れてる感触がしたリュクスだが、紐の形がまったく見えないのだ。
フレウの風魔法はきれいな緑をしていて、風の力が集まってるとすぐわかるのだが、リュクスの風術は薄すぎるのだろう。
フレウを起こしてまで風術の確認しなくてもいいかと思ったリュクスだったが、丁度なタイミングでフレウが一人なのに気づき、リュクスに近づいてきていた。
「フレウは僕の風術どう思う?シューズの時は色が薄いとか考えてもいなかったけど、拘束だと色が見えないと拘束するとき難しそうで。」
「ココ…」
「え?ぜいたくな悩みなの?」
「ココ、コココ。」
「へぇ、風は色が薄いほうが純度が高くて威力も出やすいんだ。」
リュクスは込める魔素をできるだけ少なくするように風紐を試すと、少しだけ薄い緑が付いて見えるようにはなった。とはいえ薄い色の方が威力があるならば、薄いまま操れるようにしておいた方がいいだろうとリュクスは風紐の特訓を続ける。
薄い風紐にも慣れたリュクスは、他にも炎紐を増やそうと試したり、四属性の拘束術を同時に操ろうとしてみたり、いろいろと拘束練習をしていたが、急に何かが横切った感覚に振り向く。
「え、なに!?」
「ばぅ!」
「ベード!?帰ってきたんだね。すごい速さでびっくりしちゃったよ。」
リュクスのウィンドシューズもないにもかかわらず、今まで以上のスピードが出ていた。なにより砂漠での特訓をしてたリュクスは、階段付近とはいえサーチエリアを広げていたにもかかわらず、一切ベードの感覚は引っかからなかったのだ。
「きゅ。」
「レイトもお帰り。何をしてきたのかは聞いちゃダメなんだよね?」
「きゅ。」
当然だと言わんばかりにうなづき、レイトはリュクスの頭上にと飛び乗る。ベードの成長を見るためにすぐにでも49層と行きたかったリュクスだが、まずは腹ごしらえと昼飯の準備を始めた。




