北熊壁街
リュクスは他の熊と出会うこともなく、北の壁にと到着するまで森を歩いた。門の正面ではなかったが、何とか門の見える位置で、門に着いたリュクスは門を3回ノックした。
「冒険者です!南から抜けてきました!」
街中に聞こえるほど大きな声をリュクスがあげると、ガガガと門が開いたが、リュクスが通り過ぎるとすぐに門が閉められた。すぐにリュクスは門兵たちに証明を見せ、レイトの従魔証を識別してもらう。
「けったいな従魔がいるんだな。他の街でも問題は起こしていないようだし、入ることは構わないが。」
「レイト以外にも実は3人従魔がいるんですけど、街中を歩かせていいですか?」
「今ここにいない従魔か。この街を歩くなら冒険者ギルドで従魔証の提示をしてくれ。」
「わかりました。そしたら冒険者ギルド、商業者ギルド、教会の場所を教えていただけますか?」
「教会なら丁度もう見えてるあの建物だ。商業者ギルドは北門前の一番でかい建物、冒険者ギルドは中央看板交差路の北西の建物だな。」
「ありがとうございます。」
いつもならベードに門兵が過激に驚いたりする場面だが、今はレイトしかいないので、すこし不思議がられた程度で終わり、リュクスはすぐに門兵が指さした教会を目指す。
教会は門から右に少し進んだ壁の向かい側の建物。屋根に十字架はついておらず、かわりに入口上に大きな時計が付いてる。
リュクスが中に入ると神官の人が入り口横にいて会釈してくる。リュクスもお辞儀は返したが、話もせずに教会内から自宅にと帰還転移した。
転移して帰ってきた簡易神殿には誰もおらず、ベードはリビングのほうにと移動していた。伏せてモイザの糸で腹巻されてるが、顔は元気そうだとリュクスも一安心する。
「モイザとフレウは看護ありがとう。ベードは大丈夫?というかなんかいろいろごめんね。僕の対処もよくなかった。」
「ばぅ。」
そんなことはないと言いた気なベードだったが、リュクスは今更思い出す。直線的に来てたのだからスロウダウンをかけれただろうと。思いついたのが壁で防ぐことで、突破されて焦って忘れてしまっていたのだ。
「そもそも僕たちが乗ってたら、ベードだって動きにくいよね。」
「ばぅわぅ!」
「え?むしろ乗られながら戦うのは楽しいの?」
リュクスの言葉にベードは強くうなずく。騎乗戦の方が楽しいようだ。モイザがベードの様子を見て糸をほどくと、ベードは元気よく立ち上がる。
「もう動けるの?じゃあ騎乗戦でもちゃんと動けるようにもっと練習しないとだね。とりあえず次の街に進んじゃったから、そこでいい練習場を探そう。モイザとフレウも動ける?」
「ばう。」「――――!」「コ。」
「よし、僕の魔素的にも北熊壁街に戻れそうだし、早速行こう。トランスロケーション。」
自宅から視界が白転して、さきほどまでいた北熊壁街教会の風景にと変わるが、魔素消耗による疲労と気持ちわるさがリュクスを襲った。
「うっ…」
「くぅん?」
「大丈夫だよ、ベードの怪我に比べたら全然だからね。まずは宿を取りたいけど、先に冒険者ギルドに行かないとだね。ベード達自宅の3人は後で冒険者ギルドで従魔証の提示しろって、門兵の人に言われちゃったから。」
丁度門兵の目の前を通り過ぎたのだが、すでに町中に入ったリュクスたちの対応までは管轄外なのだろうか、特に反応もしなかった。リュクスも気にせず、門向かいの中央へ突き抜ける大通りを進む。
中央看板のある十字路の大きな広場に到着し、北西の形は他の街と同じだが、一回り大きい冒険者ギルドにと入る。
受付の数が9つもあるうえ、どの列も8人は並んでる。見ててもしょうがないとリュクスも並ぶ。列の進み具合は速くすぐにリュクスの番になる。
「らっしゃい。冒険者ギルドへ。依頼を受けるか?依頼するか?」
「いえ、ちょっと違うんです。転移で従魔を街にいれたので、その報告と従魔証識別をしてもらいに来ました。」
「従魔?そりゃ、俺達一階受付には無理だな。二階受付でもきついか。ギルド長につなぐ、少し待ってろ。」
受付は手元の通信魔道具をつかい、ギルド長に従魔証識別がと話し始めたが、すぐに話が付いたようだ。
「今はあいてるそうだ。ギルド長室に上がってくれ。場所はわかるか?」
「他のギルドと同じなら、3階ですね?」
「あぁ、ここも3階だ。」
「なら大丈夫です。ありがとうございます。」
受付が終わるまで隅で待つようと伝えてたベードたちを連れてリュクスは3階へと向かう。他の冒険者ギルドと同じ場所に、ギルド長室の文字看板がある扉があり、ノック3回を入れてリュクスは声をかける。
「失礼します。」
「どうぞ、お入りくださいー。」
「えっと、失礼します。」
リュクスが中に入ると紺色髪の女性が出迎えた。女性のギルド長なのかとリュクスは内心驚く。冒険者ギルド長は今まで男性しかいなかったのも大きいだろう。
「はいどうもー。あなたが従魔契約者の方ですねー。えぇっと、リュクスさんですねー。私はこの北熊壁街のギルド長をしています、アピエといいます。よろしくお願いしますねー。」
「はい、よろしくお願いします。」
気の抜ける喋り方をする人だとリュクスは思い、今まであった3人のギルド長と比べると覇気がないと感じてしまった。
「兎ちゃんもすでにこちらまで情報は入ってるんだけど、よければ4匹皆さんこちらで見てもいいですかねー?」
「えっと、大丈夫ですよ。」
「はぁい、ありがとうねー。じゃあまず兎ちゃんから。頭の上にいて可愛いですねー。」
レイトは完全に気配を消してたはずだが、ギルド長からは見えていたようだ。レイトも少し警戒気味に気配を見せる。
「あらら?うふふ、なるほどね。今はそれでいいということにしておくわねー。じゃあ次狼ちゃん!あらら?持ってる力は体の大きさに見合わない感じね。もう少し今の体に慣れるために、戦っていったほうがいいかもしれないわねー。蜘蛛ちゃんと鶏ちゃんは、まだ進化したばかりなのかしらね?初めて見る種族の子達だけど、これならもう少し能力があってもいいと思うわねー。」
「そんなことまでわかるんですか?」
「これでもギルド長だからねー。これでオッケーよ。みんなお疲れ様。」
はぐらかされたなと思ったリュクスだったが、聞いても答えてもらえるものではないと、この街の拠点となる宿について聞くことに決めた。
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「どうぞー。私で教えられることなら、何でも答えちゃう。」
「ベードも泊まれるような宿はこの街にありますか?少しこの街を拠点にして、本格的な特訓をする予定なんです。」
「あらら?それならちょうどよかったわねー。この街の北には大きなダンジョンがあるのよ。南の熊や東西の魔物にはあまりちょっかい出さずに、ダンジョンにもぐる冒険者がこの街には多いのよ。」
「ダンジョン!なるほど、それは良さそうですね。」
「もしダンジョンに行くなら、ここから北のほうにある山の看板の宿に泊まるといいわよ。生産宿なんだけど、ダンジョンの品をもって帰ってこれたら、店主の人が喜んで買い取ってくれるわよー。」
「なるほど、宿で素材を売っちゃっていいんですか?」
「えぇ、問題ないわよ?ダンジョンは安定した素材がとれちゃう場所だからねー。」
「もしかして、ダンジョンには何かルールとかあったりしますか?」
ダンジョンと聞いて少し気が急いていたリュクスだったが、アピエギルド長の話に準備品が必要かと勘繰る。
「あらら?もしかして今ので気づいちゃったのかしら?そうよ、ダンジョン内は普通の場所とは全然違うの。もしダンジョン内の素材がほしいなら、専用のポーチを買わないといけないわ。」
「専用のポーチですか。」
「えぇ、これが結構お高くてね。それも基本は王都でしか取り扱っていないの。この街で買うこともできなくはないのだけど、なかなか難しいと思うわ。」
「王都でですか?それまたなんででしょう?」
「ダンジョンの向こうが王都だからよ。」
「そうなんですか!実は僕は来訪者なので王都を目指しているんですよね。ダンジョンを抜けれたら王都なんですよね?目標が近い感じがします。」
「あらら?残念だけど王都は全然近くないわよー。北にあるダンジョンは2つ。一つはすぐに見える山、その名もディヴィジョンマウンテン。中央を遮る大きな壁があってー、階層が分断されているの。50階と100階だけが分断されていないから、すぐに向かうなら50階で向う側に降りていくといいわよ。」
「50階ってことは結構遠いんですね。もう一つのダンジョンがあるんですか?」
「えぇ、山の横の谷でバレーカタコンベ。こっちは東西に広いダンジョンで、地下75階の谷底からしか王都方面には行けないわ。この二つのダンジョンのせいでまっすぐ王都には行けないの。もしダンジョンを通らないならバレーカタコンベの谷を迂回するしかないわ。人によってはそっちのほうが早いかもしれないけどねー。」
カタコンベということは出るのはアンデット系なのかとリュクスは考える。アンデットでも出会ったなら戦うつもりではいるリュクスだったが、無理に自分から会いに行かずとも山ルートでいいだろうと決める。
「えっと、王都に行きたかったら、やっぱりダンジョン内で宿泊まりが必要ですか?」
「そうなるわねー。最もテントならどこの商業者ギルドでも売ってるわよー。でもダンジョンに行くだけなら帰還石を持って、日帰りか徹夜2日で入ることが多くて、あんまり買われないんだけどねー。それにある程度まで行くと、階段に転移できるようになるし。」
特訓に日帰り探索法もいいかとリュクスは思ったが、階段への転移ができるということは、階段付近は安全エリアなのだろうと考え、進むならその辺で寝泊まりするればいいかと思い至る。
「宿に泊まって転移で行き来して攻略するのもよさそうですね。」
「そうもいかないのよー、転移にはお金かかっちゃうからね。ってあなたの話を忘れてたわ。あなたならそれできちゃうのよねー。」
アピエギルド長はすこし悩んだようすでリュクスを見つめたり、空を見つめたりする。意を決したのかきりっとした顔でリュクスにしっかりと目を向けた。
「わかったわ。私の持ってるダンジョンポーチ、一つゆずるわ。これでさっき言った宿の店主に素材を譲ってちょうだい。それでいいかしら?」
「別に僕は構わないですけど…」
「そういってくれると助かるわ!あそこの宿は私の知り合いのお店なの。ダンジョン素材を使っていろいろしたい様なのだけど、ダンジョン素材はほとんど王都方面に流れちゃうのよね。この街の人たちは潜って特訓するくらいなのよ。この街は熊減らしの依頼があるから仕方ないんだけどね。」
熊減らしと聞いてフォーアームベアを思い出す。あんな凶悪な熊が放置すると増えるのかと恐れる。危険になる前に減らすことは必要な仕事だろうと納得する。
「はいこれ、ダンジョンポーチよ。これを持ってるだけでいいの。あとはどんな倒し方しても、その魔物の素材が一つ以上ポーチに入ってるはずよ。」
渡された袋型ポーチは今までのハンカチほどの大きさのアイテムポーチよりも大きく、フェイスタオルほどの大きさがある。
「それにはだいたい1万くらいは素材が入るわ。かなり特殊な加工がされてるものなのよ。実はダンジョンの魔物はどんな倒し方しても死体が残らないのだけれど、死体が消える前にそのポーチが素材を拾うのよ。周囲5メートルくらいならポーチが検知して素材にしてくれるわ。たとえ魔物の肉体が燃え尽きていようともね。」
「そんな便利なポーチなんですね。どこでも使えないんですか?」
「残念ながらダンジョン内限定よ。」
「そうなんですね。では魔物の死体が残らないっていうのは?」
「ダンジョンに死体が吸われるというのかしら?どんなに倒しても1日たつと同じ種類、倒したのと同じ量の魔物が、同じ層に配置されてるからずっと減ることがないの。でも逆に配置以上には増えないし、基本的にダンジョンの魔物はダンジョン外には出てこないの。それどころか魔物たちは違う層にも近寄らないわ。だからダンジョンは囲ったりしていないのよね。」
「なるほど、それがダンジョンってものなんですね。」
ゲームならばわからなくもないが、ここは異世界なのだ。どういう原理で魔物たちが層を移動しないのかとリュクスは不思議に思うところもあったが、ひとまず納得した。
「それじゃあ早目に宿に行くといいわよ。なんだかんだ人気の宿だからね。一番の大部屋は埋まっちゃってるかも?」
「おっと、それはいけないですね。それではすいませんが失礼します。」
慌てるようにリュクスはギルド長室を出る。攻略時にはダンジョンで寝泊まりというのも乙かもとはリュクスも思ったが、宿の確保は最優先である。もちろん自宅に転移で戻って寝ることもできるが、宿で寝泊りする方が消耗面でも楽だろうと考えたのだった。




