通信魔道具
リュクスは宿の部屋で椅子に腰かけ、通信魔道具を2度突くと、トレビス商長とアーバーギルド長の名前が表示される。トレビス商長の名前に触れると、通信開始までお待ちくださいの文字が表示されたが、すぐにトレビス商長の顔が通信魔道具に映る。
「お待たせして申し訳ありませんでした。どういった話ですか?」
「こちらこそ突然申し訳ありません。今は宿ですよね?」
「そうですね、今は僕とレイトたちだけです。」
「でしたら気兼ねなくお話しできます。お話はリュクス様の従魔の子蜘蛛達が成体に成長したことの報告です。お伝えするように伺っておりましたので。」
「おぉ、その話ですか!詳しくお聞かせいただいてもいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。大雨のあと問題がないか確認に行ったところ、成体に成長しておりました。20匹のうち13匹はレッサースパイダーのままですが、4匹がレッサースカウトスパイダーとなり、3匹がレッサーハウレッジスパイダーに進化しております。どちらも糸玉を作らない個体のようですね。」
「レササがマザーとして役割分担したのですかね?」
「たしか新しいマザーの子ですね、モイザ様の子たちにもしっかりと役割分担しているようでしたよ。」
種族が変われば意識も芽生えるのか、引継ぎの短い間にモイザに叩き込まれたか。どちらにせよレササもマザーとして頑張ってるようだ。
「しっかり見ていただいてるようでなんだかすいません。」
「いえいえ、いいのですよ。むしろ蜘蛛達のおかげでさらにこの街がにぎわったと言えますからね。拡張区画の住居にも新たな人が増えていますし、採石作業者もリュクス様の店の商品を買うために、より多くの採石をしていただけるようになりました。近々もう一つ採石洞を掘る予定になったほどですよ。」
「それはすごいですね。どんどん賑わいを増していくんですね。」
「そうです!リュクス様のおかげでこの街がさらに発展したのです!もちろんリュクス様や他の来訪者の方々だけに頼らず、私達住人でこれからも発展させるつもりですよ。」
「そういえばリンゴからつくる酢やオイルも来訪者の発明でしたっけ。」
「そうなのですが、リュクス様の利益は一番多いでしょう。そして私達の街が発展すればさらにリュクス様の露店収入が上がります。そうすれば商業者ランクを上げて、店舗を所有することもできますので、露店が人混みになる心配もなくなりますよ。」
「そうなんですか?むしろ店になると逆に人混みになりそうですが。」
「いえ、金商となると店舗をもてるだけでなく、コネクションボックスやコネクションストレージという、別の場所からそこに入れた素材や製品を取り出せる、収納箱か収納倉庫を持つことができるのですが、新しい商品でなければそちらに商品を入れることで店舗に商品を補填することができますよ。」
「コネクションボックスですか?もしかしてそれって、低位の空間術とかでもその中身を取り出せるのですか?」
「低位の空間術ですか?私ですとそこまで詳しくお答えできませんが、アーバーギルド長は空間術をお持ちなので、伺えばわかると思います。おそらくこの時間なら通信できると思いますよ。アーバーギルド長に通信をかけてみてください。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「いえいえ、では私はこれにて失礼いたしますね。」
トレビス商長との通信が切れて、リュクスは通信魔道具を再び2度突く。アーバーギルド長の名に触れてかけ始めたが、すぐにアーバーギルド長の顔が浮かび上がってきた。
「なんじゃ、おぬしから通信してくるとはの。儂になんのようかの?」
「アーバーギルド長、おひさしぶりです。今日は空間術について聞きたくて通信しました。実はコネクションボックスのことを聞いたんですけど、コネクションボックスからなら、僕くらいの空間術でも遠くから取り出せるようになりますかね?」
「ほぉ、まさかもう金商になったのかの?儂もだいぶあの露店に世話になってるからの。」
「いえ、まだ金商ではないのですけど、今日トレビス商長との話で聞いただけなんですよ。」
「なるほどの、ならば結論を教えると、今のおぬしでもコネクションボックスから取り出せるはずじゃが、そんなことをせずとも専用のアイテムポーチがあればそこから取り出せるぞ。トレビスも知っておるじゃろうが、あえていわなかったのかの。」
「そうなんですか?詳しく知らないといっていたので。なんかこんなことだけで通信かけてしまいすいませんでした。」
「別にええんじゃよ。空間術の資料は数人規模で展開する術式ばかりで、個人のスキルアーツなどの資料はほとんどなかったじゃろ?」
ギルドの資料に書かれていたのは、空間術は術式を組むことでスキルのないものでも使用できる状態にすることが基本で、アーバーギルド長のような個人で持ってる人はいるのだが、後天的に覚えることはないと記載されていた。個人で使えるスキルアーツまで資料として残しているのは王都だけとも。
「アーバーギルド長がいらっしゃるんですから、南端の街だけでも資料で残せばいいと思うんですけどね。」
「すまぬのぅ、儂の空間術も師匠からの教わったのじゃが、師匠はそのさらに師匠からの教えで、むやみにスキルアーツを書き残さぬようにとのことなんじゃ。既に必要最低限は王都に残したから、それ以上は不要ということらしい。」
「なるほど、そういうことだったんですね。」
「まぁの。じゃが師匠は空間術の才あるものには、知っている範囲でよく教えるようにとも言っておった。せっかくじゃから、今どのくらいなのか教えてもらおうかの?」
「わかりました、あれだけで通信終了というのもなんですよね。今は空間術でフリップスペースというスキルアーツを使えるようになりました。」
「フリップスペース?なんとなくはわかるが、儂は使えぬ術法じゃの。一応どのような技か聞いてもよいかの?」
「大丈夫ですよ。今は杖を用いて技を使用しているのですが、杖の先に弾き飛ばす意識を集中させます。そうすると杖先に歪みのある空間ができる感じです。」
「なるほどの。その空間は吹き飛ばし能力のある空間というわけじゃな。それだけできるのじゃったら、転移まではもう少しじゃろうか。時術についてはどうかの?」
「時術については一切使えてないですね。僕のスキルは時空術なのでもしかしたら空間術を使うことで時術も自然に上達しているかもしれませんが。」
「ふーむ、時空術については儂も知らぬからのぉ。」
「ちなみに転移の術ができるようになったかどうかは、どうしたらわかりますかね?」
「そうじゃの。簡単なところから始めるのじゃったら、右手に握ったものを、握った左手に移すことから始めるとよい。それならおそらく今のおぬしでもできるじゃろう。あとはだんだんと距離を離していくのじゃ。楽に遠くに移動させる場合にはおぬしの家の簡易神殿に物を送るのじゃ。送れなければ手元に残るからの。送れるようになれば、逆に簡易神殿の部屋にあるものを、手元に転送することもできるようになるじゃろうな。」
「そこまでできたら便利そうですね。」
「うむ。素材のような物を送れるようになったら、次は生物じゃな。おぬし自身から始めるとよい。ただし、一番容易なのは教会内からおぬしの簡易神殿に送ることじゃな。どこでもできるようになるのは少し時間がかかるじゃろう。」
「わかりました、ありがとうございます。とりあえず手から手に移動できるかやってみますね。」
「ほほっ、頑張るのじゃぞ。もしイメージだけで発動しなかった場合は、トランスポートと言葉に出すとよい。簡易的な転移、転送はこれで大丈夫のはずじゃ。」
まとめて簡易的といったアーバーギルド長の言葉に、リュクスは簡易神殿と教会間の空間転移も難しいことではないという意味だろうと考えた。
今日はまだ雨なのでこの後に練習するかと思いつつ、雨が止めば出発する予定を変更するつもりはリュクスにはない。そこで一つ聞きたいことを思い出す。
「ありがとうございます、それともう一つ聞きたいのですが、従魔に苦味草の丸薬って食べさせてもいいんですかね?」
「ふむ、使われた記録はないが、苦味草の丸薬はどんなものにも効果はあり、ただ苦いだけなので体への悪影響はない。問題はないじゃろう。」
「そうですか、ありがとうございます。それなら眠りの地で眠ってしまいそうになったら食べさせてみます。」
「ほほっ、あの味は従魔にもきついじゃろう。儂とて使いとうないわい。」
「それほど苦いんですか。でも明日走り抜けるためにも使わなきゃダメそうなんですよね。」
「ぬぅ、そうじゃの。おぬしができるかどうかはわからぬが、フリップスペースという技を大きく広げて、自分を包むようにイメージするのじゃ。もしうまく作ることができれば、羊の眠気をはじいて守ってくれる空間になるはずじゃ。そうすれば苦味草なしで突破できるぞ?」
「なるほど。まずは技なしで行きますが、突っ切る時はやってみたいと思います。いろいろありがとうございました。」
「ほほっ、別に良い。もしまた聞きたいことがあれば、大体今と同じ闇十の刻を目安に通信するとよい。ではまたの。」
「はい、またよろしくお願いします。」
アーバーギルド長との通信を終了し、転移できるまでもう少しかもしれないとリュクスは期待する。育ったレササの子供たちとも会いたい気持ちもあったリュクスは、その日の残りは食事の時間以外を空間術の訓練に割いた。




