大雨
リュクスは夜の料理の際、フレウに油術で出した油を料理に使えるか聞いたのだが、微妙な顔をしつつ拒否されてしまった。料理には適さない油なのだろう。
フレウはすぐに申し訳なさそうに卵を1つ産んでリュクスに渡した。任意に卵を産めるのかと驚いたリュクスだったが、産みたいときに産んでくれればそれでいいと伝え、産んでくれたときにおいしくいただき、必要な分は買えばいいと考えていた。
そして翌日は窓に当たり続ける大きな音を聞きながらリュクスは目を覚ます。何事かと外を見るといつもの明るさはどこに行ったのか、闇七の刻に近いほどなのに宿の近くの街灯がついている。それにもかかわらず外が暗いのだ。
音と暗さの原因は雨である。台風でも来たのかと思うほどの大雨に、リュクスは20日晴天が終わり大雨になっているのかと理解する。
「どうしたもんかねこれ。」
「きゅ。」
「え?魔法の練習でもしてとってこと?まぁ僕はそれでもいいけど、みんなはどうするの?ここでベードとフレウの魔法は危ないよ。」
「ばぅ。」
「ベードは寝てるって感じかな?」
「コ。」
「フレウもそれでいいの?モイザは、まぁ合成かな。」
「――――。」
「うん、それにしても結構作ったね。」
モイザの作ったものは毒液瓶と毒対抗薬液がどちらも200を超えるほどであった。これは今日もまた増えるだろうとリュクスは考える。
「作ったのは売っちゃってもいいのかな?」
「――――。」
「いいんだね。わかった。家に戻った時に露店で売るか、バンダー商長に売るかだよね。まぁどっちにしろ今日は無理か。」
外の雨はいつから降っているかリュクスにはわからなかったが、今日中に止むような気配は全く感じなかった。仕方なしにリュクスはその日は一日、スペースボールを維持したり、より大きくしたりする練習に取り組んだ。
翌日になると少しばかり雨は弱まり外には出れそうだったが、狩りに行くような状態でもないだろうと次に目指す眠りの地とさらに先への準備を済ませてしまおうと商業者ギルド直轄店に行くことに決めた。
「僕は買い物してくるけど、まだ雨だからベードとフレウは宿に残る?」
「ばぅ…」「コ…」
「いいよいいよ、無理しないで。レイトも濡れちゃうとあれだから待ってれば?」
「きゅ。」
ベードとフレウは宿に残るようだが、レイトはリュクスの頭上から退く気配はなかった。濡れてもいいのかとリュクスはそのまま宿の入り口へ。そこには貸し傘と書かれた箱に元の世界で見たような黒い布傘がいくつも刺さっていた。
貸し傘の文字の下の説明をリュクスが読むと、5の刻がすぎると自動的に手元から消えこの箱に戻ってしまうようだ。いくつか濡れたままの傘があるのはそのせいかと思いながら、リュクスは受付水晶に5000リラを払って傘を一つ取りだした。
「高いけど濡れるよりはましだよね。直轄店になら売ってるだろうし。」
「きゅ。」
「えっと、こんなのなくても濡れなかったって感じ?いや、レイトは濡れないのかもしれないけど僕は濡れちゃうよ。」
リュクスの言葉にレイトはフスンと鼻息を上げただけだった。まさかリュクスごと雨をはじくような力でもあったのだろうかと考えたリュクスだったが、外に出ると人通りは少ないが、同じような黒い傘をさす人や盾を頭に進む冒険者らしき人を見て、街中で傘も持たずに雨をはじいていたら不思議に見られただろうと思い直した。
商業者ギルド直轄店にきたリュクスはまず3種の肉と野菜の購入にと2階へ向かった。特にキャベツは多めに買う。レイトの興味がノビルからキャベツにとうつったからだ。
兎といえばニンジンと細切りにしてみたりもしたのだが、キャベツの葉のほうがおいしいようだ。ノビルの根のほうがもっと嬉しいようなのがリュクスには不思議だったが。
ベードの好みは今のところ豚肉のようだ。生でもいいけど、焼いたのも好みのようで、リュクスの作った豚肉サンドを一緒に食べたりもする。
モイザ用にリンゴも買い足しておく。南端の街で買いためておいたが、料理に使いたくなるかもしれないうえに、ここでは購入制限もないと大量型の袋の一つをリンゴ用にした。
結構な額になったのだが、リュクスの手持ちは余裕がある。それもこれも、無人露店の収入のおかげだ。毎日収入結果を水晶から遠隔で証明にリラを受け取ることで見ているリュクスは、大体毎日5万リラ以上稼いでいることを知っている。少し前には10万を余裕で超える額も入っていた。
どの商品がいくつ売れてるのかまで詳しくわからないが、どうしても知りたければ、リュクスは通信魔道具でトレビス商長に聞くこともできるだろう。だがトレビス商長も忙しい可能性もあるとリュクスから連絡は入れていなかった。
次に一階で自分用の黒い布傘と、眠りの地で必要となる苦味草の丸薬を購入する。いわゆる眠気覚ましの効果のあるもので眠りの地に住むスリーピングシープ対策の商品だ。これで買い物は終わりと店を出ようとするところにちょうどバンダー商長と他にも10人ほどの店員が店に入り、商品の補填を始めるようで2階にと上がっていく。
「おやおや、リュクス様、ご来店していただいてたんですね。ありがとうございます。」
「どうも。一応買いたい物は買ったので、ちょうど店を出るつもりだったんですけどね。」
「そうなのでしたか。お買い上げありがとうございます。こんな雨なのですが届いていた南端の街から輸入品を補填しているのですよ。普段わたしは付き添わないのですが、今回は新商品が数点ありますからね。」
「新商品ですか?」
「えぇえぇ、新たな食用草の2種、さらにさらに数は少ないですがレッサーマザースパイダーの糸玉、そしてそして加工済み食品となる茹で緑甘樹の実です。他にも以前から仕入れていたものよりも形も大きさも良いレッサースパイダーの糸玉もありますので、雨上がりの客を見越し、これから陳列作業を行うのです。」
「な、なるほど。」
どれもリュクスが関連する商品であり、こんな雨の中作業させてしまったかとリュクスは思わずたじろぐ。
「それにしても、やはり食用草は一見は雑草にしか見えませんね。このあたりの雑草と思っていた草花にも、素材となるものがあるのでしょうか。これはこれは詳しく見て回る必要が出てきましたね。」
「あの、ちょっと疑問だったんですけど、そういうの調べたかたっていないんですか?僕的には見つかっててもおかしくないと思ったのですが。」
「そうですね、雑草識別をする方がいないとは言い切れませんが、おそらく数30も行えば識別内容も良くなるので、大体の方は飽きるかと思われます。どうやら南端の街も街外でこちらの野草素材を探しているようなのですが、どうにもうまくいってないようで。わたしたちの商品はリュクス様の露店から購入させていただいたものになりますね。」
「そ、そうなんですか。なるほど、収入が多い原因が少しわかった気がします。」
ノビルやレモングラスを見つけた場所を教えるべきだったかとリュクスは悩む。見つけたのは草原の奥地で見つけづらい場所だったことを思い出したからだ。
丁度その時、リュクスの鞄型アイテムポーチからピピピピピと目覚ましでもなったかのような音が鳴り響く。何の音かとリュクスは首をかしげたがすぐに何か気が付く。
「通信魔道具が鳴ってるみたいです。」
「何かを気にしていると思えばそういうことでしたか。通信魔道具は所有者以外には音が聞こえない仕組みになっています。雨なのでお客様は少ないですが、来店するお客様がいないとも限りませんし、わたしどもにも内容が伝わってしまいます。一度通信を受けていただいて、再度折り返すよう伝えていただいたほうがいいですね。」
「わかりました。」
リュクスが通信魔道具を取り出すと連絡はトレビス商長からのようだった。着信中の文字とトレビスの文字が浮かび上がっている。リュクスが魔道具を2度突くと魔道具にトレビス商長の顔が浮かび上がってきた。
「リュクス様、お久しぶりです。今お時間大丈夫ですか?」
「お久しぶりです。申し訳ないですが、今出先なので、一度宿に戻ってからかけなおします。」
「お忙しいところでしたか、申し訳ありません。こちらは用事が済み次第で大丈夫ですよ。」
「こちらの用事は終わっていますので、すぐに宿に戻れますよ。ではいったん切らせてもらいます。」
「了解しました。ではお待ちいたしますね。」
通信魔道具を3度振ることで通信終了し、リュクスは改めてバンダー商長にあいさつする。
「そういうわけなので、僕は宿に戻ります。雨が引いたらこの街を出るつもりなので、ありがとうございました。」
「おやおや、そうなのですか。この様子だと明日には引きそうなので少し残念です。ですがですが、またのお越しをお待ちいたしますね。」
「はい、またこの街に来た時には必ず。」
軽くお辞儀した後、リュクスは急ぎ足で商業ギルドから近い宿にと借り物の布傘をさして戻った。




