エルフのギルド長
バンダー商長を先頭にリュクスたちが人の多い通りを従魔三匹連れ歩く。レイトはリュクスの頭上でモイザはベードの上なので、実質道の幅をとってるのはベードくらいだが、そのベードもリュクスの後ろについてあるいているため問題は起きないとリュクスは思っていた。
「んげっ!なんだ!?」
唐突に横道から出てきた人がリュクスの真後ろを走り抜けようとし、ベードに気が付かずにぶつかってしまったのだ。気配を消して歩いていたことが災いしたのだろう。
ベードに怪我はなくぶつかった人も転んだだけですんだようだが、ベードとモイザはと困り顔で転んだ人を見つめていた。
「あの、大丈夫ですか?」
「お前の従魔か!?こんなデカイの連れ歩いて何様のつもりだ!でかいのは外で待たせておけよ!じゃまなんだよ!王都じゃあるまいし、この街にはこの街のルールがあるんだぞ!」
喚き散らすぶつかった人にリュクスはいやな感じだと顔をしかめつつも、謝っておくかと考えたのだが、先を歩いていたはずのバンダー商長がスっとリュクスと喚く人の間に割り込んだ。
「あなたは何を勘違いしているのですか?この街のルールはわたし達3人にゆだねられています。あなたが決めることではないですよ?それにあなた、本当に気が付かなかったのですか?」
「なっ、バンダー商長さん!?いえ、そんな、俺は、ただぶつかっただけで。」
さきほどまでのバンダー商長とは全然違うオーラがあった。リュクスとの会話中ずっと両手をにぎにぎしてた時とは別人。じっとぶつかってきた人をにらむ姿から長と呼ぶにふさわしい圧をリュクスは感じた。
「今回は見逃します、わたしたちも忙しいのでね。行きましょう。」
「あ、はい。」
ぶつかった人は膝をついた姿のまま放心してしまったのだが、後ろ目に見ながらリュクスはバンダー商長についていく。有無を言わさずついていくしかない雰囲気だったからだ。しばらく重い雰囲気が続き少し早めに歩きある程度現場を離れると、バンダー商長の歩く速さが元に戻った。
「このあたりなら大丈夫ですかね。申し訳ありませんでしたね。まさかまさかあのような方がいるとは思いませんでした。」
「あの、まさかと思うんですが彼わざとぶつかってきたのですか?そのようには見えなかったのですが。」
「さてさて、そこまではわかりませんね。ですがワザとであれなかれ、非は向うにありますねよ。わざわざ狼のベード様は気配を消して、おびえさせたりしないように気を使っていただいていますからね。気配が読めなかったとしても、そもそもあんな風に走って人のすぐ後ろを通るべきではないわけですし。」
「たしかにそう言われるとそうかもしれないですね。」
「リュクス様は先ほど謝罪しようとしたようですが御忠告いたします。もしももしも今後似たようなことが起きた際には絶対に謝ってはいけませんよ。向こうに謝罪させてください。それがそれこそが街を守るためなのですよ。ぶつかった相手が人種の場合はぶつかってきた側の問題で、従魔も同じように対応するというのが基本の街の規則ですからね。」
バンダー商長はリュクスが謝ろうとしたのを感じ圧のある態度をとってまで対応したようだ。リュクスは謝ってはいけないという言葉を強く受け止める。謝ってしまうことでベード達の立場にも問題が出てくるのだろうと。せっかく聖族人種と同等の立場として扱われてるのだからそれを維持できるようにしようと。
「わかりました、ありがとうございます。」
「ひと悶着あってしまいましたが、もうすぐ冒険者ギルドですよ。」
バンダー商長が指さす先には南端の街の冒険者ギルドとうり二つの建物。北門大通りを進んできたリュクスは門のあるだろう石壁との距離的に、ちょうど中央と北門の真ん中あたりかと場所を把握する。
ギルド内の作りも一緒かとリュクスは思ったのだが、受付カウンターの大きさは同じなのだが7列分ある。それ以外は一階の見た目は机や階段の場所もほぼ一緒なのだ。
冒険者はかなりの数いたが、受付に並ぶか依頼を選ぶか何かを話してるようでリュクス達を気にする様子はない。バンダー商長も特に気にせず階段で3階まで上がる。
ギルド長室は少し場所がずれていた。おそらく部屋が大きいのだろう。だがおおよそつくりは同じで、他の街も同じなのだろうかと考えつつリュクスはバンダー商長に続きギルド長室にお邪魔する。
「よぅバンダー、来たか。お連れさんもどうも。」
「どうも、よろしくお願いします。」
金髪の長い髪から見えるとがった耳と座っていてもわかる高身長に、顔のほほにあるタトゥーのようなとても濃い緑の星のマーク。エルフの特徴が色濃く出てる人だ。エルフの顔にマークがあるのを初めて見たリュクスだったが、ギルドの資料で情報だけは知ってはいた。
顔のマークや色は人によって変わるのだが、ドワーフの手のライン模様と同じで色が濃い人ほど、才能や力のある人らしい。イリハアーナ様に教わればよかったとリュクスはほんのり思ってしまった。
「なんだ?珍しそうに見て、エルフは初めてか?」
「遠目にエルフかなと思う人は見たことあったんですが、こうして話すのは初めてです。」
余りに渋いボイスはイケメン顔に似合わず、リュクスの中の美しい声のエルフのイメージが崩れそうになる。
「まぁエルフは外にはあんま数いないからな。ほとんどが里籠りだ。まぁそんなことより、今は君の話だ。」
「はい。まずは自己紹介させていただきます。リュクスといいます。」
「俺が南肉の街冒険者ギルド長ミエスレネアンだが、長すぎる名前なんでミエスと呼べ。今回の要件はわかってるか?」
「えっと、新しい魔物の情報ってことですよね?」
「はいはい。そうなりますね。わたしは管轄外なのでお話を聞くだけにとどめますよ。」
「おぅ、バンダーが珍しく魔物について聞きたいっていうくらいだからな。ちょっとそこの狼さんと蜘蛛さん、識別させてもらうぜ。」
リュクスの後ろにずっといたのでベードは気配を消してたはずだが、さすがにギルド長は感づいていたようだ。おそらくレイトにも気が付いてるだろうと思ったリュクスだが、指名されなかったので今回の調査外かと二匹に声をかける。
「ベード、モイザ大丈夫だよな。」
「ばぅ。」「――――。」
二匹ともリュクスの横まで出てきてうなずいた。ミエスギルド長はじっと見つめ識別し始める。ベードも指名されたことからモイザと同じように未確認の種族なのだろうとリュクスも今一度軽く識別した。
----------
対象:べード・アルイン
種族:グレートディープナイトウルフ
主人:リュクス・アルイン
スキル:〈牙技〉〈爪技〉〈聖族言語〉〈潜伏〉〈影術〉〈夜陰〉〈騎狼〉
対象:モイザ・アルイン
種族:クラフタースパイダー
主人:リュクス・アルイン
スキル:〈操糸〉〈牙技〉〈毒生成〉〈統制指示〉〈分担指示〉〈聖族言語〉〈料理〉〈裁縫〉〈糸術〉〈契約借技〉〈生産技術〉
------------
「はーなるほどな。こりゃすげえ。」
「ミエスギルド長からみて二人はどうでしたか?僕も能力は見ているんですが、詳しく知っているわけではないんですよね。」
「結論から言うがどっちも未確認種になるな。スキルまで見たわけじゃないが体つきを見た感じ思うのはまだ二匹とも自身が育ちやすい時期なんじゃないか?特に狼くんの進化はかなり早すぎる進化のように感じるな。」
「おそらくですけど二人ともまだ成長段階なはずです。」
「やはりそうか想定通りだわ。めんどくさいが報告書はしっかり書かないと後でぼやかれるんでね。」
「なるほど。それと実は今僕が識別しようとすると二人ともスキルだけ見れてしまって、種族についての詳しいところも聞いてみたいんですが。」
「なるほどんじゃ教えとくか。狼くんのほうはグレートディープナイトウルフで狼種でもグレート種だからその大きさなわけだ。ディープナイトは夜とか影とかに関係する部分を指してるみたいだな。そういう場で気配を消しやすいだとか、戦いを上手く運びやすいとか言われてるみたいだぞ。
蜘蛛さんのほうはクラフタースパイダーだ。生産活動を重視した種族のようだな。できる糸も生産専用の糸といっていいようだし、もしかしたら今持ってないような生産スキルも覚えさせるのもいいかもな。あとでバンダーから何か紹介してもらえよ。」
「なるほど、ありがとうございます。バンダー商長ももしよければ、何かモイザに新しい生産スキルをお教えいただけますか?」
「はいはい!もちろんもちろん大丈夫ですよ。わたしの得意分野である製薬や合成がおすすめですね。」
「モイザ、やってみたいか?」
「――――。」
どうやらやってみたいようでモイザもうなずく。マザーであったときに持っていた技術貸借は今はなくなってしまったのだが、代わりに新しく契約借技と生産技術というスキルがあるので覚えられるだろうとリュクスも聞いてみたのだ。
「ほんとは従魔たちのスキルも見せてもらいたいところだが、先に報告書まとめなくちゃなんねぇし、あんま詮索するのもあれだろ?俺は終えたら飲みに行くしここでは始めるなよ?」
「お手数ですがここでは生産具も広げられませんし時間も遅くなってまいりました。また明日にでも商業者ギルドのほうで製薬と合成をお教えする形でもよろしいでしょうか?」
「かまわないですよ。ではミエスギルド長、失礼します。」
「おう、俺も忙しい身だがまた来いよ。」
まだ夕食というほど空腹感はなかったリュクスだが、それは朝も昼も遅かったからで早い人なら既に食べ始めているような時間だ。リュクスたちは一度バンダー商長とともに宿まで戻る。
眠りにつくまでモイザが少しそわそわした様子だったのをほほえましく見ながら、リュクスはかなりさっぱりした気持ちでベッドに入る。念願の石鹸をつかい風呂に入ったのだ。泡立ちはお世辞にもいいものではなかったがそれでもかなり身をきれいにできたと眠りについた。




