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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
海の向こうへ

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海への一歩

海の旅支度を済ませたリュクスは、海技術の街を訪れていた。

この大陸で唯一の港町であり、多くのドワーフが造船を含めた技術を高め合っている。

何度か魚介類を買い求めに訪れたことはあったが、この街の冒険者ギルドを訪れるのは初めてだった。


王都の冒険者ギルドもかなり賑わいを見せているが、ここはその比ではないほどにごった返している。

ヒュマは当然多いが、ドワーフの姿も負けず劣らず多く、逆に王都で多かったビスタの姿は少なめである。


番が回ってきたリュクスが証明を提示するだけで、受付嬢はひと際丁寧な態度でギルド長室へ向かうよう促す。

リュクスでなくても冒険者がギルド長に呼ばれるケースもないわけでない。

そのうえ、最高位のSランクであるわけで、賑わうギルド内で誰も不審がる様子もなく、リュクスはギルド長室へ入る。


内装は他の街でも見た作りと同じで、王都で見た以上に大量の書類が山積みとなった執務机が目立つ。

書類の奥からのそりと姿を現したのは、赤と緑のロン毛が特徴的なドワーフだった。

その目線は一瞬、部屋の隅に移動するベードたちのほうを向いたが、すぐにリュクスに向き直る。


「…君がリュクスか。初めましてだな。私が海技術の街ギルド長、名をレシーワという。」


「はい、よろしくお願いします。」


「では、そちらで話を聞こう。」


談話スペースのソファは、一部が明らかに低く、ドワーフのための物なのがわかる。

リュクスが普通の高さに座ると、ギルド長相手なのにやや見下ろす形になるが、レシーワは気にせず話し始める。


「一応、王都ギルドより連絡を受けている。君は従魔を使って外洋に挑むそうだね。」


「はい、そのつもりですけど…」


「はっきり言おう。やめておきたまえ。」


「え…」


まさかここで止められるとは思わず、リュクスは言葉を失う。


「我々も外洋に向けて造船技術を日々高めてきている。だが、ある海域を超えられたためしがないのだ。」


「ある海域、ですか?」


リュクスはむしろ興味を誘われたが、レシーワは少し言葉を探す。


「…君はソナーというものを知っているか?音の波を飛ばし、海中の地形を把握する技術なのだが。」


「知っています。」


「ならば話が早い。魔法によるソナーを行ってわかったことだが、海が急に深くなる二か所確認されている。」


「それって、海溝のことですか?それとも大陸斜面?」


「どちらとも違う。なんと言えばいいのか…陸よりある程度離れると急に深くなる。どれだけこの港から陸沿いを通って離れても、どこかで必ずその深みについてしまう。」


「なるほど…」


リュクスの持つ元の世界の知識は、海ではことさら通用しないらしい。

そして、レシーワが説明をつづけた。


「我々はそれぞれを層と呼んでいる。港を出てすぐの浅層は最も漁業が盛んな層で、襲ってくるやつも少ない。ここの魚介魔獣を倒せないようでは、漁師とは呼べない未熟者だ。」


そこで一呼吸置き、レシーワが指を二本立てる。


「一番近いところで、船でおおよそ半日ほどすると、中層海域に出る。大物がとりやすいが危険も伴う。ここで戦える者は、熟練の漁師だ。」


そして目を細め、三本目の指を立てる。


「深層海域が確認されたのは、中層からさらに船で二日ほど。そこは化け物の巣窟で、中層の魚介魔獣など比ではない。観測結果がギルドへ送られてきたが、そこへ入った船が戻ってくることはなかった。」


「な、何がいるかもわからなかったんですか?」


「一体だけ、種族名の識別結果が確認されている。ガルグイユシーワイバーンという、名前からして海のワイバーンと思われる魔物だ。」


レシーワの顔は畏怖に満ちていたが、リュクスはむしろほっと息を吐いた。


「ワイバーンなら大丈夫ですね。崖壁の向こうで何体も倒しましたから。」


「んなっ!地上と海中ではわけが違う!相手がいかに空に居ようと、地上からならば対処もしやすい。だが、海中より急襲されればその難度は遥かに上がるぞ!」


「…そんなことはないですよ。そもそも、僕はワイバーンたちと空中戦しましたし。」


「…は?」


訳が分からないと顔を歪ませるレシーワをよそに、リュクスはちらりとベードたちに目線を向けた。


「僕の従魔に、ベードを乗せられるほど巨大な鳥になれる子がいるんです。あの、頭に乗ってるフレウですけど…」


「私も君の大狼の気配は感じている。だが、他の気配は混ざっていまいちわからぬ。」


「そうでしたか、姿を見ます?」


「遠慮しておこう。黒竜の子がいると聞いたが、君の従魔は他も規格外のようだな…」


「はい、自慢のみんなです。」


満面の笑みで返したリュクスに、レシーワは頭を抱えつつため息をはいた。


「君があきらめが悪いことはわかった。どうせ準備は済ませている、港へ向かうぞ。」


「えっ、そうなんですか?」


「漁に行く者はどうせ日の出と共に出ている。この時間に残ってる船はもう出航はしない。」


今度はレシーワがにやりと笑う。

リュクスは試されていたのかと軽く頬を膨らませた。


「…というか、レシーワさんが案内してくれるんですか?」


「私がいたほうが騒ぎは最小限に抑えられるからな。」


「なるほど、よろしくお願いします。」


レシーワの後に続き、やってきたのは港エリア。

正面から波打つ海の香りが直に届く。

そこら中に桟橋や埠頭が海に突き出しているが、聞いていた通りそこに船はほとんど残っていない。

海岸線にいくつか船の姿は見えるが、陸には人の行き来も少ない。

受け入れ準備なのか箱を運ぶ者が少し居るくらいで、露店エリアの賑わいが遠くから聞こえてくるほど静かだ。


「それじゃ、大きくなって見せてくれるか?残ってる船はつないでるから、大きな波が立っても平気だ。」


「了解です。ネティス、元の姿に戻れる?」


『りょーかーい!』


ネティスがベードの上からぴょんと飛び出すとともに、全身が白く輝きながら大きくなっていく。

そして、海上に着地したときには、その巨体が大きな水音を立てた。

海面に波を作り出し、周囲の無人船をゆらゆらと大きく揺らす。

箱をどさりと落とし、思わずこちらを見つめる者もいるほどだった。

人がごった返していたら騒ぎは大きかっただろう。


「き、聞いてはいたが、本当に巨大だな。先ほど一瞬見えた姿が嘘のようだ。」


「こっちが本来の姿で、縮む能力を持っているんです。」


「そ、そうなのか。」


唖然とするレシーワをよそに、ベードがネティスの背に飛び乗り、リュクスも少し魔術を使って飛び乗る。


「それじゃあ、出発しますね。」


「おっと、そうだったな。君の海旅がよきものとなるように!」


「ありがとうございます!ネティス、出発して。」


『はーい!』


ネティスがヒレを動かせば、巨体ゆえにあっという間に港の景色が離れていく。

海の上にいた漁師たちが、漁を忘れて唖然と眺める中、リュクスは海平線を静かに眺めていた。

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