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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
最後の大樹へ

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侵食される防衛線

デモナと従魔たちの防衛線は、夕焼け頃になってもなお続いていた。

いくつかの防壁がすでに破滅の地に飲み込まれ、遠目に魔王城が見えるほどまで押し込まれていた。

砂のキメラもいまだ健在だが、大きさは出会った頃より三分の一ほど削れている。


キメラに対応する魔王とレイトだけでなく、デモナたちもリュクスの従魔たちも明らかに疲労の色を濃くしていた。

対して、キメラは体格を削り、魔法やブレスの威力こそ落ちたが、疲労の兆しは一切見えない。


初めこそ砂のキメラは自身の強大な力で強硬する策をとっていたのだが、二人に何度か阻まれると砂の魔物を増やすほうに注力するようになった。

当然、魔王とレイトが阻止しようとしたが、崩れる前に何百という数を一気に生み出し始めた。


一度せりあがり、魔物化を始めた砂を止める手段はない。

たとえどんな攻撃を浴びせようとも、破滅の地の砂である間はすべてを飲み込む。

魔物の姿に形を成した後は、崩すのはそれほど苦ではない。

しかし、砂の魔物は崩れながらも無理やり前進し、大地を侵食していった。


砂の地と共にキメラも侵攻してくる。

キメラの強力な攻撃が届く距離まで防壁に迫られては、部下を守る魔王も、他従魔を思うレイトも引き下がるほかなくなる。

魔素を含んだ青いレンガの防壁は、多少なりとも侵食が遅いが、彼らが休憩をとる時間を稼げるわけではない。

防衛線を築き直す時間を稼ぐための処置であり、ここまで長期戦を想定したものではなかった。


魔王とレイトが力を合わせ、再び砂のキメラを打ち崩したが、どれだけ細かい砂に砕いても、砂は集まり再びキメラの姿を形作っていく。


「…いい加減、止まってくれぬか。」


「同感だが、言葉を理解する相手ではない。」


「まったく、安請け合いするべきではなかった。」


レイトは魔王城方面に視線を向け、大樹の麓で癒しを続けているだろうリュクスを思う。

あちらに付き添っていれば、これほど疲れることもなかっただろう。

もっとも、そんなことをしていれば、キメラが蹂躙し、破滅の地は今よりも侵攻を速めていたのは想像に難くない。


それに現在も砂の大地の進行速度は衰える気配がない。

むしろキメラが復活する度に生み出してくる砂の魔物が多すぎるうえ、疲れもあいまって対処が間に合わなくなってきている。


魔王もレイトもそちらに力を裂く余力などない。

キメラが復活したとき、万全かつ迅速に潰さなければ、さらに砂の魔物を増やされてしまうからだ。


「この調子では、ここの防壁ももう捨てなくてはならなそうだ。」


「やはり翼があっても、着地しなくては疲れるか。」


「あたりまえだ。鳥ですら羽を休めるだろう。我らは人型で、飛び続けるには体力も魔素を使うのだぞ。」


「…それもそうか。」


デモナは背の翼によって空を自在に飛べるわけだが、その際に消耗するのは体力だけでなく、魔素も使い飛ぶ力に変えている。


「レイト殿こそ、よくそれで宙を維持できるな。」


「…これは純粋に魔素のみで浮いている。雷の応用だ。とはいえ、消耗も決して軽くはない。」


青い雷を纏うレイトの足は、不思議と何もない宙を踏みしめている。

さすがのレイトでも、こんな超常現象を何の消耗無しとは行かない。


雑談していた二人だが、キメラの再生直前になり、即座に意識を切り替える。

砂のキメラは姿を形成し終えた直後、前足を大きく持ち上げた。


「またこれか!ライトニングエッジ!」


「今度こそ、地に着く前に飛ばす!空閃!」


下は黒ずんだ雑草の生える、まだ侵食の及んでいない地。

砂の上で魔物を呼ばれるくらいならと、釣りだしたのである。


レイトは大地より雷をせり出し、踏みしめようとする足を突き刺して防ごうとする。

魔王はその足を斬撃波で切り飛ばそうと試みる。

斬撃は確かに馬型の足を切り裂いた。

雷は確かに蹄を貫いた。

だが、相手は砂でできており、多少かき飛ばされ、穴が開こうとも、痛覚など存在しないかのようにまっすぐ大地を踏みしめる。


背後に広がる破滅の地の砂が大量にせりあがり、魔物の姿をなしていく。

二人が歯噛みする中、砂のキメラの顔は苦痛に歪むが、やり遂げたかのような笑みすら浮かべた。


「くそやろうが。また消えておけ。ジャッジメント。」


「ここで粉々にしなければ、どうせ素早く修復するからな…虚千斬!」


二人の強力な攻撃により、砂のキメラは跡形もない砂と化す。

しかし、細かな砂の粒子は再び集まり始める。

こうなればどんな技を打ち込もうとすべてが飲み込まれ、もはや手の施しようがない。


ここまでも様々手を二人は試した。

前足を踏みしめられると、魔物を作り出される。

ならば生かしたまま前足を落とし続けるのはどうかと。

結果は悲惨なもので、前足だけの再生は全身生成より早く、魔物を相当数増やされた。


他の手もいい結果にはならず、結局全身をつぶし切るのが最も時間を稼げると知ったときには、この状況に至っていた。


「仕方ない。再生成のうちに前線をひく。」


「…そうするしかなさそうだな。」


防壁からの魔法は明らかに威力が落ち、総数も減っている。

以前よりもまだ破滅の地との距離はあるが、これ以上は耐えられないと魔王が撤退指示を上げた。


飛んで逃げるデモナたちも、走り去るベードたちも疲労の色は濃く、撤退の速度も明らかに鈍っている。

それでも辛うじて、防壁が飲み込まれ切る前に、皆で次の防壁に布陣し終えた。


「…限界か。ここを最終地点とし、守り切れない場合、魔王城まで撤退する。」


「待て。それではリュクスが癒しに集中できないやもしれん。」


「そうは言うが、これ以上は我らも…」


魔王は平然と振る舞っているが、サイスを握る指先はわずかに震えている。

恐怖よりも疲労からくる現象だろう。

かくいうレイトも足に纏う雷は明らかに薄くなり、金色の体も輝きが明らかに褪せている。

そのうえ、耳はいつも以上に垂れ下がり、持ち上げることすら困難だった。


だが、そんな疲労などお構いなしに破滅の地は防壁を飲み込み、砂のキメラが姿を現す。

キメラの体格自体はさらに削られ、全盛期と比べおよそ半分になっていた。

しかし、伴う砂の魔物は弱そうなものばかりとはいえ、数だけは数え切れぬほど膨大。

魔物が黒ずんだ草原を踏みしめると、そこを喰らうように破滅の大地の白い砂が広がっていく。


「もうだめだ…これが終わりなんだぁ!」


「おい、そこ!持ち場を離れるな!」


いくら倒しても尽きぬ敵と、徐々に世界が侵食されていく恐怖に耐えきれず、魔王の指示すら聞かず逃げるデモナすら現れ始める始末。

もはや前線を維持しきれるなどとは思えなかったが、それでも魔王はサイスを強く握りしめた。


「…無理もないか。吾だけでも食い止めに行く!残れる者は防壁よりできうる限り食い止めよ!」


「はっ!」


気丈に振る舞う魔王に感化され、残ったデモナたちは再び魔法を打ち出し始める。

伏せていたベードたちも立ち上がり、加勢し始めた。


「では、己らはキメラを止めに行くか。」


「…そうだな。…ぬ?なんだ?」


レイトも気を入れ直し、キメラへ向かおうとしたが、足が止まる。

魔王も軋む体に鞭を打つかのように羽ばたこうとしたが、砂のキメラが今までと違う様子であることに気が付く。


まるで時が止まったかのように、あるいは力が抜けたかのように、砂のキメラは立ち尽くす。

いつの間にか周囲の魔法も撃ち止む。

キメラ以外の砂の魔物たちも、同じように動きを止めていたからだ。

あれだけ侵攻していた砂の魔物の動きとしてはおかしい。

そう皆が思う中、砂の魔物は姿を維持できなくなったかのように、ただの砂と化して崩れていく。


「こ、これは…」


「ふっ、リュクスが間に合ったようだな。」


「っ!そうか!癒し手が大樹を癒し終えたそうだ!我々の勝利だ!」


デモナたちが歓喜に沸き立つ中、レイトは少し宙に浮き、魔王に耳打つ。


「すまないが、リュクスの身が不安だ。己らは先に戻りたいと思う。」


「待て。そういうことなら、我も行こう。医務室に運ぶにも手間がかからない。」


「…そうか。助かる。」


レイトは着地すると元の毛色に戻り、魔王と共にへたり込んだベードのもとへ駆け寄った。


「おい、ベード。リュクスの元へ行くが、どうする。」


『っ!す、すぐ立ちます!』


「走れるか?」


『主に会えると思えば、まだいけます!』


ベードの上でぐったりとする従魔たちも、足やヒレや翼を上げて答える。

そしてレイトが先行し、魔王とベードがそれに続いた。


大樹の防壁を守るデモナはおらず、魔王が扉を開く。

力の大樹はその葉の美しい赤みを増し、より生命力にあふれるように輝かせていた。

しかし、リュクスはその麓に力なく倒れこみ、微動だにせずにいた。

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