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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
最後の大樹へ

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砂のキメラ迎撃戦

新たな防壁の門を閉じ再び破滅の地を押しのける防衛線が始まる。

防壁を飲み込んだ白い砂が様々な魔物の姿を再び象り、黒ずんだ草原へ侵攻を始める。

デモナたちが魔法で魔物を砂に崩していくが、徐々に徐々に砂の大地は防壁との距離を詰めてくる。


「いつ見ても不愉快だ。生物の姿をなしているのに、生命としての気配が一切ない。」


「同感だ。」


頷いた魔王だが、レイトからすれば隣にいる彼からも気配を一切感じ取れない。


「…魔王よ。言っておくが、お前もあれに似ているぞ。」


「やめろ。あんなものと一緒にされたくはない。」


魔王が睨みつけてきたが、レイトはどこ吹く風といったように疑問を投げかけた。


「それでは、お前の気配遮断はどうやっているのだ?今もまったく気配が捉えられないのだが。」


「これは気配を消しているのではない。気配を悟る方法は基本、魔素をぶつけた揺らぎだろう?」


「そうだな。うぬも風の魔素を当てて感知している。」


「我はそういう薄い魔素を通り抜けるようにしただけだ。」


「っ!それは相当な修練が必要だっただろう。デモナの肉体は魔素の影響を受けやすいはずだ。」


デモナは魔に属する魔族人種であり、魔物や魔獣も含め、魔族は総じて魔素の影響を受けやすい。


「そのデモナの性質を逆に利用している。とはいえ、魔王である我以外にこの技法を使いこなせるデモナもいないだろうがな。」


「なるほど。己がマネできそうな技ではないな。」


雑談を切り上げ、レイトは睨みを強める。

先ほどまでいた防壁が砂に沈み切り、キメラの姿を捉えたからだ。


砂のキメラは防壁のほうを睨むと、両前足で大きく大地を踏みしめる。

リュクスが大樹を癒し始めた時と同じ規模の大地に揺れが発生し、キメラの背後で砂が盛り上がり、巨大な四つの山となる。

そして、砂が魔物の姿をかたどっていく。

それは先ほど魔王が倒したはずのアイスドラゴンそのもの。だが、今回は四体も出現したのだ。


「…さすがに来るものがあるな。」


「魔王ともあろうものが、動揺してるのか。」


「他の者には伝えるなよ。」


レイトは軽くあおったつもりだったが、魔王は表情一つ変えなかった。

しかし、サイスを握る手に力が入っていると、距離が近いからこそ気づいた。


「…当然だな。さて、あのキメラをどうする?」


「無対応は愚策、しかし寄るまでは様子見だな。あまり打って出ると退却に遅れが出る。」


「先ほどと同じか。ならばブレスか魔法の対処をお前に頼む。」


「魔法のほうがまだ対処できそうだ。そちらは五体分のブレスを防げるか?」


「あまり気は進まぬが、対処法はある。」


レイトの気配が強く深く変わる。

茶色の毛はすべて黄金に輝き、雷を纏うがごとく光り輝く。


「…それが本気か。」


「かなり疲れるのだが、今はそうも言ってられないだろう。」


準備万端なレイトを感じ取ったからか、はたまた他の要因か、砂のキメラは咆哮でも上げるかのように天を仰ぐ。

そして、砂の翼を広げ飛び立ち始める。


「まさか、一気に攻めてくる気か。」


「ならば、我らの共闘で落とすというのはどうだろうか。」


「…空を飛ぶのは苦手なのだがな。」


レイトは四つ足に青い雷を纏うと、空を蹴るように駆け進んでいく。

あまりにも容易に動くそのさまを見て、どこが苦手なのだと魔王は思いつつ、すぐに羽ばたき後を追う。


レイトと魔王という存在に、砂のキメラも侵攻を止め、二人と空中で真正面から対峙する。


魔王はごくりと喉を鳴らす。

レイトは元四魔帝であり、この距離まで砂の魔物と接近した経験があったため、それほど緊張はない。

しかし魔王は普段、砂の魔物との戦いを部下に任せていた。

魔王自身が戦うのは、今のような本当にいざという時に限られる。


こっそり城を抜けて、普通の魔物と戦ったりしているので、戦闘経験が薄いわけではない。

また、距離の離れた砂のドラゴンを二匹同時に葬れるくらいの実力を有している。

だが、砂のキメラにここまで近づけば、そんな差は些末なものに過ぎない。


「先ほどの技は見た。お前はとにかく切り伏せ、細切れにしろ。牽制と防御はこちらが受け持つ。」


「…承知!」


魔王が肩で息をしてサイスを構えると、砂のキメラは対抗するように翼を振りかぶる。

同時に空に巨大な雷の槍が作り上げられ、魔王めがけ落とされる。

しかし、ひどく分厚い雷の盾が槍を防ぎ、バチバチと激しい音を鳴らしながら防ぐ。


魔王がサイスを振りかぶろうとすると同時に、砂のキメラも翼を羽ばたかせようとした。


「マジックツイン。ライトニングショット!」


レイトの前足より青い雷が一閃し、砂の翼を貫く。

もし砂のキメラが声を出せたのであれば、悲鳴の一つも出ていただろう。

それでもなお、空では雷の槍と盾がせめぎ合っていた。


「虚千斬!」


魔王のサイスがたった一度振りかぶると、砂のキメラは幾千もの斬撃を受けたように細切れになる。

キメラの周囲の空間までも切り刻まれたように、一瞬歪んだような錯覚を覚えるほどに。

雷の槍はかき消え、砂のキメラは原形もわからないほどバラバラになった。

しかしキメラだった砂は地に落ちず、未だ宙に浮き続けている。


「しぶとい…真なる雷にて堕ちろ。ジャッジメント。」


はるか上空より白い雷が一閃し、砂を巻き込みながら地に落ちる。

あまりの威力に空気が揺れ、黒ずんだ草原は、円状に真っ黒に焦げていた。


雷と共にキメラだった砂はボロボロに崩れ、地に散乱する。

いまだにほかの砂の魔物が残るがデモナたちからは勝利の歓声が上がる。


しかし、レイトも魔王も宙より見下ろしながら顔を歪めた。

まだ砂のキメラを葬り切れていないと直感でわかったからだ。

そしてその感は当たり、ほのかに残った馬の蹄の欠片らしきパーツに砂が集まっていく。


「…この状態からも、また形どる気か。」


忌々しげにレイトがつぶやくと同時に、背後より砂がキメラの形を成すのを妨害しようと、デモナの一部が魔法を浴びせた。

しかしその魔法は、他の魔物なら通じるはずの一撃であるにもかかわらず、キメラの欠片へ集まる砂に飲み込まれてしまう。

すぐさま他のデモナが魔法を放ったデモナを咎めた。

砂のキメラが余計に力を増すかもしれないと。

魔王はその様子を遠目に、口を開く。


「今のうちに一つ、愚問してもよいか。」


「この状況でか?…まぁ、どうせ戻り切らなければ技も通らぬようだしな。」


「あの破滅の地は全てを飲み込む砂の地だ。生物も、建築物も、魔法すらも今のようにすべて飲み込む。だが、魔物の姿を象れば攻撃が通るのはなぜだ?」


魔王からの質問にレイトはわずかに目を丸くする。

こんな時にする質問としてはあまりにも唐突な内容だったからだ。

しかし、少し間をおいて答えを返す。


「…仮説だが、あれは生命になりたがっているらしい。だから魔物の姿をかたどっている間は多少生命に近づく。」


「それは、君の見解か?」


「とある蛇爺が唱えた仮説だ。何にせよ、攻撃が通るほうが己らにとっては都合がいい。」


「なるほど。打開策とはならそうだ。イグニッションランス!」


魔王は今まで魔物と化した砂も、大地を進む砂も同じものに思えていた。

しかし、今にも再生しそうなキメラに業火の槍を放つも一切効かず、明確に何かが違うと改めて理解した。


「完全復活までは無駄だといっただろう。だが、安心するといい。よくあのキメラの体を見ろ。」


「…ん?先ほどより少し小さくなっている?」


再生しきったはずの砂のキメラは、よく観察しなくてはわからないくらいだが、ごくわずかに縮んでいる。

そのうえ、迫力も先ほどよりは多少ましに思えた。


「急に暴れだした時よりも、今は多少無理に動いているようにも見える。攻撃が効いたのか…はたまたリュクスの癒しが影響しているのかもしれん。」


「…どちらも希望的観測だが、続けるしかないようだな。」


魔王とレイトは、砂のキメラを抑えるため、再び相対し始めた。

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