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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
最後の大樹へ

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沈んだ休息

キメラとの戦いは長くはなかったが、帰還したリュクスたちは疲弊していた。

何匹かはいつもの戦いほどしか動いておらず、魔素の消耗も多くはない。

それでも、キメラからあふれ続けていた濁った魔素の影響が大きいのだろう。


特にリュクスは物憂げな表情のまま、食事を用意し始める。

昼食自体はキメラ戦の前にサンドイッチで済ませたが、従魔たちはキメラの気配の影響であまり食が進んでいなかった。

そのため、従魔たちに意見を聞いたうえで、改めて昼食を取ることになった。


もっとも、リュクスとしても軽い気晴らしになるかという狙いもあった。

キメラとの戦いの最後に扱った魔素を愛でる手。

あの時は覚醒の影響もあったはずだが、今ではリュクスが少し意識すれば発動できてしまうことがわかる。

キメラの暴走した魔素すら吸い込み、そのうえで吸収した魔素をそのまま打ち込んで強靭なキメラを砕き散らしたのだ。

容易に扱えてしまうが、危険な力であるとリュクス自身も理解していた。


結局、食事が出来上がってもリュクスの気持ちは晴れずにいた。

料理中も陰鬱だったはずだが、味にも手さばきにも影響は出ておらず、従魔たちはみな美味しそうにありつく。

レイトは春巻きをパリパリと音を立てながら食べ、モイザは静かにフルーツのコンポートをすする。

フレウは煮魚をついばみ、ネティスはカレーに突っ込んだのか、口の周りを汚す。

ベードとグラドが食べているのはごまタレをたっぷりかけたゆで豚肉で、リュクスも同じものを食べていたが、二匹と違いもそもそと口を動かす。


『主、大丈夫ですか?』


「え?あー、うん。大丈夫。心配かけてごめん。」


不安げに顔を覗いてきたベードにリュクスは笑みを返し、残る肉を一気に平らげていく。

元々量は少なくしたのだが、やはり昼食を済ませた後だからか、はたまた気分が優れないからか、どことなく食が重くなってしまった。

そんなリュクスを見て、レイトは呆れるように鼻息をついた。


『まだ引きずっているのか。』


「…まぁね。」


『…うぬの言葉も悪かったな。少し二人で話そう。』


レイトが寝室に顔を向ける。

リュクスは困ったように他の従魔たちを見回すが、彼らも軽くうなずいてリュクスを促す。

あまり乗り気にはならなかったが、リュクスは重い腰を上げて寝室に向かった。


戸を閉じればリュクスとレイトの一人と一匹きりになる。

リュクスはベッドに座りながら、レイトと二人きりなどいつぶりだろうと少し思い返したが、レイトもベッドに飛び乗るとすぐに語り始めた。


『リュクス、己は先代より聖族の覚醒は各々一度しか起こらないと聞いていた。だが、お前の覚醒はすでに何度か発動しているな。』


「…うん。そうだね。」


リュクス自身、覚醒についてよく理解していなかった。

とはいえ、キメラ戦の最後のように自身の瞳が光を増すと、頭が冴え体内の魔素が増し、全身を万能感がめぐりあらゆることができるとさえ思えるようになる。

これが覚醒なのだと理解はもちろん出来ていたが、それが他の聖族には一度しか起こらないという点はいまだにわかっていない。


『以前はお前の覚醒は来訪者特有のものなのだと思っていた。だが、今の見解は違う。お前の覚醒は、おそらく無意識に抑えたが故のものなのではないかと。』


「それって、僕が無意識に抑えたってことだよね?」


『そうだ。聖族は覚醒すると種族も進化し、能力も異常に向上するが、大抵は性格も変わると聞いている。』


「え?そうなの?でも、僕は変わってないと思うけど…」


『その通りだ。己もお前は覚醒しても性格まで影響がなかったパターンだと思っていた。だが、無意識に覚醒を抑え、自身の心を守ったのであれば話は変わってくる。』


「…なるほどね。」


リュクスもレイトの話に心当たりがあった。

覚醒の光が現れるのは、感情が強く動いた時だった。

初めての覚醒は黒竜の戦いで、負けたくないという気持ちから発動した純真なものだった。

だが、キメラ戦で覚醒した原因は、怒りによるところが大きかった。


『つまり、これ以上覚醒の光が起きれば、お前の精神が壊れる可能性がある。もう使わないようにするべきだな。』


「…わかった。もう魔素を愛でる手は使わない。」


『違う。そちらはむしろどんどん使え。そして、覚醒になど頼らず完全に扱えるようにしろ。あんな覚醒の仕方はキメラの暴走とさほど変わらんぞ。』


「あっ…うん。わかった。」


レイトの言葉で、リュクスも忌むべきは他者の魔素すら自在に操れる力ではなく、怒りに任せて力を使うことだと理解する。

リュクスは自身の手を見つめながら、力強く握りしめた。


『…お前がお前でなくなるのは避けたいからな。』


「え?何か言った?」


『少しマシな顔になったと言っただけだ。戻るぞ。』


「ちょ、ちょっと!」


レイトは器用に戸を開けてリビングへと戻る。

リュクスも追いかけると、他の従魔たちに囲まれてしまう。


『主!いつもの表情に戻りましたね!』


『よかったです。主の不安が取れたようで。』


『コッ!なんだよ、俺も相談に乗ろうと思ってたのによ!』


『ニはいつもの主が好きー!』


われも安心したぞ!あの程度で落ち込みすぎだ。』


「みんな…ありがとう。もう大丈夫!明日には戻ってまた南を目指すよ!」


従魔たちの言葉に、リュクスは少し感極まりながらも決意を高める。


『おそらくだが、大樹までそう遠くないだろう。ベードの足ならば十日はかからないと思われる。』


「え?そんなこともわかるの?」


『さすがに三度も大樹と触れたのだ。似たような存在ならばかなり離れていてもほのかに感じる。つまり、そのくらいには近づいたということだ。』


「さ、さすがレイト。じゃあもう一息だね。頑張ろう!…明日からだけど。」


大樹を癒す旅も最終地点にかなり近づいたことを知り、リュクスは改めて決意を固めた。

しかし、従魔たちが疲弊していたことを思い出し、少し拍子抜けした締めになったが、明日の出発まで英気を養ったのであった。

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