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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
最後の大樹へ

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混沌の象徴

リュクスたちはねじれた木の元へ帰還したが、周囲に魔物の気配はなく、予定通り静かな再出発となった。

汚染地帯から離れると、再びベヒモスの縄張り上空を飛ぶマンティコアの気配を捉えたが、戦いに巻き込まれることもなく順調に旅は続いた。


休憩から三日が過ぎた朝方、また魔物たちの気配が少なくなる。

リュクスは濁った魔素に汚染された地があるのだろうと考えたが、レイトは耳を上げ、従魔たちもいつも以上に進む先に意識が向いていた。


「みんなどうしたの?」


『…この感覚、お前にはわからないか。ベード、速度を落としていいぞ。』


『了解です。』


レイトの指示でベードは走る速度を極端に落とす。


「え?どういうこと?」


『新たな魔物の縄張りだ。だが、今までのやつとは明らかに違う。』


『そうですね。感知に優れない私ですら嫌なものを感じます。』


『ニも嫌な感じぃ。』


『ドラゴンではないようだが、少し似た感じがするな…』


「何がいるっていうの…?」


グラドも感知に優れているとは言いがたいが、アイスドラゴンの存在を感じ取ったことは記憶に新しい。

だが、今回はベードもモイザもネティスも嫌な感じという漠然としたものだが、魔物の存在を感じ取っているようだ。

リュクスも不安になって地平線を望むが、魔物らしき姿は見えない。


従魔たちはいつもより昼食のサンドが喉を通りづらかったようだが、食事を終えたころにリュクスも魔物の気配を捉える。

先ほどまでのベヒモスより二回り以上大きいことはわかったが、いまその全景はいまいちつかみきれない。


「…近づいて平気なの?」


『わからん。だが、遠回りしたとしても、背後から襲われれば、対処が遅れそうだ。』


「それって、こっちに気づいてるってこと?」


『だから、それすらわからん。その可能性は考えたほうがよさそうな気配を持っているがな。』


「な、なるほど。ベード、気を付けてね。」


『はい。慎重に近づいてみます。』


ベードの足ならば、あっという間に姿が見えるほどに近づける。

そして、魔物の歪な巨体を目にし、ベードは足を止め、リュクスも従魔たちも息をのんだ。


頭部は三つに分かれ、首元に赤い獅子の頭が埋められるように鎮座する。

その上から二方向に黄色い鷲の頭と、青白いドラゴンの頭が伸びていた。

正面を睨む赤獅子は怒るような表情を見せ、口からは炎が漏れている。

青白い竜はそれをあきれるように見下し、ため息は白く凍結の力を感じさせる。

黄色い鷲は他の二頭にかまわず、周囲の警戒を怠らない。


胴体は筋肉質な茶色い馬そのもので、巨体のほとんどを占めている。

その背中から生える黒く巨大な翼は力強く、ブラックドラゴンを彷彿とさせる。

羽ばたきは最小だが、巨体でも悠々と飛べるのだろう。


そして尾は緑の鱗模様に変異し、先端は蛇の顔となっている。

ちょろちょろと舌を伸ばし、三つ首が捉えられない背後をじっと見つめている。


さらに、キメラの周囲は黒ずんだ雑草すら枯れ落ち、黒い地面もさらに黒く変色している。

魔素汚染されたねじれた陽だまりの木の周囲と同じような状況。

魔素汚染を嫌うはずの魔物が、さらなる魔素汚染を引き起こしていることがわかる。


全身ちぐはぐな色味、様々な種族の混ざる様相。

初めて見る形相なのに、リュクスはこの種族に心当たりがあった。


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対象:カオスキメラ

混沌を象徴する合成魔獣

濁り淀んだ不浄の魔素が織り交ざり、生み出された生物

三つ頭はそれぞれ思考が違ううえ、肉体の担当も異なる

ばらばらでありながら、不思議と噛み合う戦術となる

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「やっぱり、キメラだ…」


『キメラというのがあの魔物の種族名か。以前見たような頭もついているが…』


「そうだね。でも、どういう技を使うのかはわからなかった。役に立ちそうな情報は、濁った魔素の影響で生まれたってことと、あの三つの頭がそれぞれ違う思考してるってくらいだね。」


『まぁ、識別などなくとも、われでもわかる。あのドラゴンの頭はフロストドラゴンより強力な冷気を有しているだろう。』


グラドの言葉に、リュクスも軽く頷く。

本来、属性が混ざり合えば、反発する炎と氷ではどちらかが弱くなるだろう。

しかしキメラから感じ取れる気配はフロストドラゴンより強大で、炎も冷気も弱まっているとはまったく思えない。


『とはいえ、こちらに気づいている気配はないな。』


「そうだね。警戒はしてるけど…」


フロストドラゴンは縄張りに侵入したベードを完全に捉えてきた。

それに対し、キメラは侵入されたことには気が付いているようだが、どこにいるかまでは捉えられていないという様子である。


『このまま通り過ぎていいですか?』


『そうだな。気づかれないのであれば、戦う必要もないだろう。』


『あれは吾も戦いたいとは思えん。』


「そうだね。識別できるくらい近づけただけでもよかったよ。」


ねじれた木よりは汚染範囲は狭いようだ。

キメラの巨体が横たわれる程度にしか広がっていないため、ベードも問題なく近づけたのだろう。

とはいえ、濁った魔素を従魔たちは嫌い、戦い好きのグラドですら避ける選択を押した。


ベードが身をひるがえし、キメラから離れつつ通り過ぎようとする。

その背後に回った途端、蛇の尾がシャアと一鳴きした。


『まずい!気づかれた!ベード!足を止めろ!』


『えっ!?りょ、了解です!』


ベードが足を止め振り向くと、キメラもリュクスたちに振り向く。

怒った獅子の顔も、笑みを浮かべる竜の顔も、冷酷な鷲の顔も、尾の蛇すらもベードに視線を向ける。


竜の口がうっすらと白く光り、鷲の口が何か唱えるかのように動く。


『リュクス!モイザ!グラド!正面からくるブレスを防げ!』


「うぇ!?りょ、了解!フレイムウォール!」


『手伝います!ストーンウォール!』


『吾も手伝おう!ブラックブレス!』


青白い竜の口より、白く凍てつくブレスが激しく吐き出される。

対抗するようにグラドが黒炎のブレスを放つが、押し返されてしまう。

しかし、多少は威力が弱まったのか、リュクスの炎の壁とモイザの石の壁に阻まれた。


『ライトニングウォール!』


同時にレイトが上空に雷の壁を展開すると、降り注ぐ雷の槍を防いだ。

そして忌々しそうに竜と鷲の顔がゆがむ。


「ど、どういうこと?」


『ブレスと魔法の同時攻撃だ。そういう魔物らしい。』


「…なるほどね。」


三つの頭がそれぞれ思考するという意味を、リュクスはようやく理解した。

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