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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
南端の街

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閑話:冒険教官と商業教官

ドーンの同僚である冒険者教官のクエルムと商業者ギルドでリュクスの教官をしたキャロラインの話。

光十の刻の時間帯になれば納品報告も少なくなり、後は面倒な書類整理だけになる。冒険者教官であるクエルムにとって疲れる仕事だが、誰かがやらなくてはいけないことだ。彼はドーンさんがいると早いのにと考えたが、ドーンは今日は朝から出かけているのだ。


「おう、もどったぞ、といってもどうせすぐ出るだろうけどな。」


「お疲れ様です、どちらに行ってたんですか?」


「あぁ、ちょっとな。」


噂をしたら丁度ドーンが帰ってきたのだが、どうも顔色が優れないようだ。はぐらかすということは、ドーンにとって恥ずかしいことなので聞かれたくない事情。つまりはお気に入りの新人のとこだとクエルムには理解できた。クエルムに範囲術の教え方まで聞きに来てるので、食事に誘った彼に期待を寄せてるのはバレバレなのだ。


「せっかく自分が範囲術のこと教えてあげたのに、隠しちゃうんですか?」


「うっ、お前な。まぁお前なら口は堅いか。そうだな、少し相談に乗ってもらおう。」


「えっ。」


ちょっとちゃかしたつもりだったクエルムだったが面倒ごとに巻き込まれそうで顔をゆがめる。しかし他の職員もいないのに防音の魔道具まで用意されたら聞くしかない。何より先輩の話なのだから。


「お前、サチュレイトフォーチュンラビットって見たことあるか?」


「見たことがあったらおそらく自分はここにいませんよ。」


見ただけでとてつもない幸運をもたらすという魔物。確か金鉱山の話が有名だったはずだと教官としての知識で思い出す。


「伝説通りならそうだろうな。正直にいう、俺はそいつのせいでこの後どうなるかわからない。」


「え、どういうことですか?」


「つまり見たんだよ、サチュレイトフォーチュンラビットを。」


「そ、それ、すごくまずいじゃないですか!すぐにギルド長、街長に報告しないと。」


「わかってる!でも、問題はそれに納まってねぇんだよ。」


「というと?」


サチュレイトフォーチュンラビットは危険性が冒険者ギルドで認知され、脅威度Bに指定された魔物だ。街付近で見つけられたなんてそれだけで一大事だというのに、それ以上の問題があるのだろうか。


「お前、脅威度Bに指定された魔物と戦った経験は?」


「あるわけないじゃないですか、自分はこの街以外行ったことないんですよ。私が相手にしたのは近くの森の狼くらいです。」


北にまっすぐ進んだ林の狼が多くなり、草原まで被害が広がり始めたころに、そのリーダーとパーティーで戦った記憶をクエルムは思い出す。


「あいつか、じゃあ無理だろうなぁ。それじゃあもう一つ、この街の戦力で勝てると思うか?」


「どうでしょう、街の中ならおそらく弱るので行けるでしょうが、もし外で戦うとなれば、かなり難しいと思います。しかも相手が相手ですからね。」


正直なところ伝承でしか知らない相手と戦うのはクエルムには無理だ。相手の情報を知らずに戦うのはそれだけ危険が伴う。この街にサチュレイトフォーチュンラビットの情報を知る人がいればいいのだが、ギルド長でも知っているかは怪しいところだろうと目を伏せた。


「まぁそういうこった。慌てても仕方ないのさ。そしてサチュレイトフォーチュンラビットは今は街の聖域内にいるからな。危険と判断したら何とか対処するしかないんだよな。」


「っ!?」


危険と判断したらなんて悠長なことをいってる場合じゃない。危険に決まっている。街中に魔物がいるなんて。しかも脅威度Bに認定された存在。すぐにでも討伐したほうがとも思うが、討伐できる相手かは不明。先輩の判断を間違っているとは言い切れなかった。


「大丈夫だ、まぁなるようにしかならねぇよ。ところでこんな辺境に王都から従魔証ってもらえると思うか?」


「従魔証ですか?王都の冒険者ギルドでしか作られてないですよね。なんでそんなものを?まさか!」

魔物が街の中にいる理由として従魔となったならば、クエルムもなるほどとはなる。そして先輩が疲れた表情だが不安も緊張感も感じないのも同じ理由だ。


「察しがよくて助かる、それで行けそうか?」


「どうなんでしょう?そもそも従魔証を他の街に卸したことがあるかさえ不明ですからね。」


「だよなぁ、はぁ、あの偏屈に頼むしかないか、街長よりは話がとおる。」


クエルムもこんな話だなんて想像もしなかったが、先輩の肩の重しが少し軽くなったようなので聞いて良かったと思う。


「まぁ聞いてくれて助かった。正直、直接話に行くより気が楽になった。しょうがないからとっておきを一つやるよ。」


「えっなんです?アタックラビットの料理ですか?先輩が自分に料理をくれるなんて珍しいこともあるもんです。話を聞いてよかった。」


先輩がポーチから出したのはアタックラビットの肉に薬草をまぶして焼かれた料理。アタックラビットの看板がある料理店の商品だろうが、見たことない識別結果で新商品かと納得。アタックラビットは食べ飽きたものとは言え、せっかくのもらい物だからとクエルムは腰のポーチからお箸を取って一口食べた。


「っ!美味しいですね!あの店の新商品ですか?これはいいですね、このノビル?の食感のアクセントもいい。」


「あぁやっぱあの店の料理だと思ったか。うまいよなこれ、ところでこれが調味料なしで野外で取ったものだけで作ったと言ったら、お前どう思う?」


「え?何を言ってるんですか。どんなふうにしたって、野外でここまでのもの作るなら、ちゃんと調味料をそろえてるでしょう?」


識別結果では詳しい調味料まではさすがにわからない。香草焼きの薬草のように目に見えるほど使っていれば識別結果にも出るのだが。


「やっぱそう思うよな。自然の味だけでここまでやられたら、あの店はもうつぶれるかもしれねぇよな。

はぁ、もう二皿食べたかったんだがこれも偏屈行だな。」


「えっと、つまりギルド長を通したほうがいいほどこの料理は問題になるかもしれないと?」


「言っただろ?野外で取れたものだけって。しかも南兎平原で取れたものだけだ。もちろん西の野菜は使ってないぞ。」


嘘ではなさそうだ。防音の魔道具まで使ってクエルムにそんな嘘をつく必要がないのだから。もちろんこれ以上においしい料理はある。問題は外で取った素材だけで作られた料理でこの味であること。

素材そのものの良さがいいのか、料理の仕方がいいのか、おそらくギルド長ならばそこまで見抜けるということを、先輩もクエルムもわかっている。この街にいる中で、もっとも視ることに長けている人物なのだから。


------------



商業者ギルドで教官として働くキャロラインが冒険者ギルド長に呼ばれたのはこれで3度目だ。普通は冒険者ギルド長に呼ばれること自体珍しいのだが、キャロラインが作った料理を偶然口にしたらしく、料理に対する意見を聞きたいと2度も呼び出しを受け、今回で3度目となるわけだ。

冒険者ギルドの3階は事務室や情報室がまとまっており、ギルド長室も3階の一角にあるのは南端の街の特徴ともいえる。キャロラインはしっかりと身だしなみを再度整え部屋のドアを3回ノックをした。


「失礼します。」


「入れ。」


低いギルド長の声を聞いてからキャロラインが室内にと入ると、ギルド長らしい大きな机には山盛りの報告書や始末書などの書類が両端に積まれ、白い髪と白い髭の特徴的なギルド長の前には、コーヒーとアタックラビットの肉料理が一つ置かれていた。

今回はギルド長室にもう一人、スキンヘッドがいる。以前はキャロラインとの一対一の意見交換だった。そしてスキンヘッドは確か冒険教官の一人だったはずだとキャロラインは思い出していた。


「すまないな、また呼んでしまって。今回はこの料理を食べて率直な感想がほしい。」


「あの3度目なのですが、一応聞かせていただきます。私の感想は本当に必要なのでしょうか?その、ギルド長には分析眼があると聞いていますので、私の感想よりもご自身で見て食べれば分析できると思うのですが。」


1度目と2度目は雰囲気に押され、キャロラインは踏み込んで聞けずにいたのだが、今回はもう一人いたことで何とか聞きだせたようだ。


「それはもっともな意見であろう。だが儂はこの眼だけに頼らず、多数の意見を聞くことが必要だと思っている。そなたの料理に対する感想は非常に有意義なものになる。商業者ギルドに無理を言って呼ぶかいのあるものだとな。」


「そこまで仰るのであれば、やらせていただきます。ただできれば当日の呼び出しでなく、事前にご連絡ください。」


「はっ、言われてるぞ!」


「なんじゃ!そなたのせいだろ!わかっておる。事前に伝えたいとは思っておるのだが、今回は幾分急なことだったのだ。今後は事前に伝えられるよう努力する。」


ギルド長に対しての態度としてどうかとキャロラインは眉をゆがめたが、雰囲気が柔らかくなったので今回はよかったと思って、とりあえずは料理に集中することにした。


「ありがとう存じます。ではいただかせていただきますね。」


----------

対象:アタックラビットの挟み香草焼き

アタックラビットの肉にレモングラスとノビルの葉をまぶし薫りよく焼き上げられた一品

添えられたノビルの根が食感と風味にアクセントをもたらす

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識別を持つものならまず貰い物は識別する。料理はどうやら香草焼きのようだ。レモングラスとノビルというのはキャロラインにとっては初めて見る素材で、新しい輸入品かとも一瞬思ったが、それならば商業者ギルドに情報が来るだろう。まずは一口大に箸で切り分けて口に運んでみる。


「広がる青青しくもすがすがしい風味。アタックラビットの肉の独特の臭みなどを感じさせないどころか、肉の良さを存分に引き立てています。このノビルの根も食感としてのアクセントだけでなく、味のほのかな変化も楽しめます。素晴らしい逸品ですね。」


純粋においしく店で出しても遜色ない料理をしっかりと食べきり感想を述べるのが今回のキャロラインの仕事だ。


「そうだな、素晴らしい逸品だ。さて、これに何が使われているのか君は見れたか?」


「はい、アタックラビット、ノビル、レモングラスですね。ノビルとレモングラスは初めて見る素材です。」


「そうだな、そしてその料理、その3種の素材しか使われていない。」


「3種しか、使われていない?」


それでこれだけの味を作り出したと驚愕するキャロライン。いったいどこの料理人の方がこの料理を作ったのかと考え、最近似たような感覚を覚えたことを思い出す。彼はどこかの料理人だったのかと思ったことを。


「まさかリュクスさん…」


「ん?」


「おまっ!なんでっ!おっと。」


キャロラインが名前を出した瞬間、スキンヘッドがすごい動揺し、それに合わせてギルド長が睨む。キャロラインには冒険者ギルドのことは詳しくわからないが、スキンヘッドが隠し事をしているのはすぐにわかってしまった。


「はぁ、そうだよ。リュクスの料理だ。なんでわかったんだ?」


「本来個人の情報を出すべきではないのですが、喋らないわけにはいきませんね。私は商業者ギルドで彼の料理審査を担当しました。それほど珍しい素材を使ったわけではないのですが、初めてとは思えない手際で作られたのです。どこかで料理を習い続けていた方なら、商業者ギルドは初めてでも手際がいいのだろうと考えたのです。」


キャロラインは初めての体験だったが、その日に他の街の商業者ギルドでは事前に金銭の発生しない場所で生産を経験し、かなりの腕をもってギルドに入る人もいると聞いた。そちらに該当する方なのだとキャロラインは考えていた。


「思わぬところから引き出せたわい。やはり眼だけに頼らず、色々な意見を聞くのはよいものだ。」


「ちっ、よくいう。」


「おっと、儂らの話にこれ以上つき合わせるのは悪いな。大変貴重な時間だった、協力感謝する。」


「はい、では失礼いたします。」


頭を下げてキャロラインはギルド長室から退出する。どうやらキャロラインが出した名前により話し合いが再開するようだ。空気を読んで退出したキャロラインだったがリュクスのことは商業者ギルドでも少し目を付けておいたほうが良いかもしれないと、自身のギルド長に話を通すために商業者ギルドにと戻った。

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