10 魔道具と魔法陣
「瓶に移すのは冷めてからですねー。その後、グレードボードで確認しましょうか」
「グレードボード?」
首を傾げると、ハミルミーは腰に下げた小さめのバッグから、本二冊分くらいの大きさの板を出した。
「え、ええ!? は、ハミルミー、明らかにバッグより大きい板が出てきたんですけど……」
「マジックバッグですよー」
「マジックバッグ……。それってお父様のような、アイテムボックス的なのと違うんですか?」
お父様は確か指輪を光らせて、空間を開いていた。
「ああ、姫様はレジェ様の物しか見たことなかったんですねー。どちらも用途に変わりはないですよー。こういった形の物が別名でマジックバッグと言われているだけで。まぁ、こっちのタイプの方が一般的なんですけどねー。レジェ様はバッグを持つのが嫌だということで、ああいう形になっているんです」
お父様が変わってただけなのか。みんなああやって亜空間開くのかと思っていた。
「マジックバッグもですけど、このグレードボードも魔道具の一種ですねー」
机の方に移動して、置かれた板をじっと見る。中心には黒い石がはめられていて、それを囲むように紋様が描かれている。縁には六種類の色の魔石と少し大きめの水晶が埋め込まれていた。
「グレードって商品の価値みたいなものですよね? それをこれで調べられるってことですか?」
ゲームではアイテムに必ずグレードがあった。
Fから順番にE、D、C、B、A、Sと希少なものになると上がっていき、商品として価値がつかないものはグレードが表記されない設定だ。
「ええ、その通りです。グレードのことまで知っているとは、本当に姫様は勉強熱心ですねー」
「あ、はは……」
ゲーム内じゃグレードボードなんてものはなかったけどね。
アイテム欄を開けばグレードは表示されているのが仕様だった。でも、ここじゃウィンドウ画面なんて出ない。だから価値を調べる道具が必要なのだろう。
「このグレードボードは、商品にグレードを付ける時などに使います。例えば……」
「わ……」
机に残っていたヒール草を手に取り、板の中心に置いた。すると紋様が灯り、青と黄の魔石が光った。
そして水晶の中には、Fという文字とヒール草の名前などの詳細が浮かび上がっている。
「この様に、グレードFのものだということが分かります」
「この光った魔石は何なんですか?」
「調べた物の属性を表しています。青は水属性。黄は土属性ですねー」
「じゃあ、ヒール草には水と土の属性があるってことですね」
「その通りです。この魔道具はいくつか型があり、それによって性能は違います。これは大きなお店で使われることが多い型ですねー。これより下だと、グレードと属性を判定する型。グレードだけを判定する型なんかがあります」
「へぇ……これより性能の良い型はないんですか?」
「ありますよー。属性の割合だったり、使われた材料や制作者なんかまで判定する型などが。けど、こちらは主に王族関係の方々が使うぐらいで数は少ないですねー」
「なるほど……ん? じゃあもしかしてこの城でも使われています?」
生粋の王の血筋で成り立った訳ではないしにろ、魔王も王であることに変わりはない。ハミルミーに視線を向けると、肯定するように微笑んだ。
「レジェ様や姫様に何かあったらいけませんからね。この城に運ばれるものは、厳重に検査をしていますよ」
うわぁ……それは大変だろうな。
この城にどれだけの物資が運ばれてくるのか知らないが、規模と人の多さを思えば相当だろう。それを一つ一つ調べ続けるのは根気がいりそうだ。
そのグレードボードを見せて欲しい……っていうのはわがままだよね。多分頼めば見せてくれるだろうけど、邪魔をしたくはないし……
「納品日でなければ、気兼ねなく見に行けますよー」
「え……」
私、口に出してた……?
ぱっと口元に手をやると、ハミルミーはくすくすと笑った。
「見たいなーって顔に出てました」
またか!
前の世界じゃ人前でのポーカーフェイスは得意……というか愛想がないと言われるぐらいだったのに、こっちじゃ全然だ。まだ私が子供だから感情につられやすいんだろうか。
見透かされていて否定しても意味がないし、それに上位のグレードボード。見れるなら見てみたい。断る選択肢はない。
「じゃあ、機会があればお願いします……」
「はい。確認しておきますねー」
ハミルミーは話しながら、ボードに乗せてあったヒール草をどかす。すると、すうっと光と文字が消えた。どうやらあの真ん中の黒い石がセンサーの様になっているみたいだ。
「この黒い石は? 魔石とは違いますよね」
「はい。これは魔核石と言って、グレードボードの動力源となっています。ちなみにマジックバッグには魔核糸と呼ばれる糸が使われていて、これが動力ですねー」
腰に下げたバッグを外し、私に見えるようにして革の繋ぎ目を指差した。そこには黒色の糸がしっかりと縫い付けられている。
「こういった核があるお陰で、魔力を消費することなく使えるんですよー」
「魔道具って便利ですね」
「ええ。ですが良いことばかりではありません。核の力も無尽蔵ではありませんから、使用を続ければ底を尽きます。その場合は新たな核と取り替えるか、魔道具を買い直す必要がありますねー」
「消耗品ってことですか……」
「逆に先程釜の台に描かれていた様な魔法陣は、陣を壊さない限り、半永久的に使えます。
ただ、こちらは作動させるには自身の魔力を消費しなければいけませんねー」
「どちらにも良い面もあれば、悪い面もあるんですね」
「その通りです。なので、用途用途で使い分けているんですよー。例えば、鍛錬場には自動修復の魔道具が使われています。壊れた的や傷ついた壁や床などを元に戻してくれる機能ですねー」
「そうだったんですね! いつも綺麗だから、どうしてなのかなーと思ってたんです。確かにそういったことに使うには、魔法陣だと不便ですね」
常備作動する物が魔法陣の場合、誰かが魔力の配給をし続けなければならないってことだ。それは非効率的すぎる。
「この城には他にどんな魔道具や魔法陣が使われてるんですか?」
「そうですねー……」
その後も色々な話を聞かせてもらい、気が付いた時には結構な時間が過ぎていた。
「つい話が盛り上がってしまいましたねー。もうポーションも冷めたでしょうし、瓶に移し替えましょうかー」
「はい」
ハミルミーに言われ、また釜の前に移動する。釜の中のポーションから湯気は消え、手をかざしても温もりは感じられない。
用意してもらった瓶に円錐状の道具を差し込み、レードルでポーションをすくって流し込む。瓶の八分目まで液を入れたら、次の瓶を手に取る。
それを数回繰り返した所で、釜の中はからっぽになったので、瓶に蓋をしていく。
「うん、きっちり五本分ですねー。では、グレードボードで確認してみましょうか」
「はい。真ん中に置くだけでいいんですか?」
「ええ、それだけで作動しますよー」
少し緊張しながら、グレードボードに作ったポーションを置いた。するとヒール草の時と同じ様に紋様が灯り、水晶に文字が浮かんだ。
グレード:E
ポーション:軽傷を回復させる薬。疲労も多少回復する。飲料用だが、傷に直接かけても多少の効果あり。味は美味しいとは言えない。
「魔石は青と白が光ってるので、水と光ですね」
「調合すると変化しますからねー。問題なく出来上がったようで何よりです。今日はここまでにしましょう」
「えっと、このポーションはどうすればいいですか?」
「姫様が初めて作った調合品ですから、自由になさって結構ですよー。自分で使うも良し、誰かにあげるのも良し、です」
私はまだマジックバッグを持っていないし、五本とも持ち歩くのは重いだろう。疲労にも効くみたいだから、ダリアやオルガ、お父様にもあげるのがいいかもしれない。
授業が終わってハミルミーと別れた後、三人に自作のポーションを渡しに行った。ダリアとオルガは「大事に飲ませていただきますね」と言って受け取ってくれる。
そしてお父様はというと、「家宝にしよう」と厳重にしまいこもうとするので、全力で止めた。




