聖技場 イゴ・ナウナの選択
『選手に『結界』を二重に張ります。内側の結界は選手を護る為のもので、ダメージは通りません。外側の『結界』は、『致命打』で一発、それ以外の『有効打』だと三発で壊れるようになっています。外側の『結界』を壊せば、勝利となります』
『なるほど。ただの力比べではなく、戦略戦術も必要になるということですな。弱い『聖語』をあえて受けつつ、強力な『聖語』を打ち込むーーなどの方法も考えられると。それにダメージはないとなると、回避や防御にも工夫や創意が入り込む余地がありそうですな』
『学園生の『読刻』は一定水準に達しているので、『結界』を断続的に張って固定砲台になるというのは悪手となる場合があります』
『対抗策を講じられるということですな。必ずしも完璧に防ぐ必要はない。『致命打』とならないよう軽減しつつ、反撃の手を放つ、と』
アリスとマホマールが「対抗戦」のルールや、それらがどのような意味を持つのか説明してゆきますが、イゴの耳には届いていません。
いえ、届いてはいるのですが、頭がその言葉の意味を理解してくれないのです。
アリスが「対抗戦」の開始を宣言してから、ずっとそうでした。
選手席からフィールドへ。
感覚に乏しい足で歩いてゆきます。
「邪聖班」の皆が声をかけてくれましたが、小さく頷くだけで精一杯でした。
ーー仮病。
イゴは本気で、真剣に悩みました。
ただ、わかってしまうのです。
それを実行できるほど、意志が強くもなければ無責任にもなれず、実際に実行すれば、絶対に罪悪感で圧し潰されてしまいます。
表向き、活発で粗野な性格を隠していませんが。
半分は、弱気を隠す為の演技でした。
なるべく人と係わらないようにしていたのも、ボロがでないようにする為。
もう一つ、改めて実感します。
本番に弱い。
入園後の試験でも、もっと良い点数が取れていたはずでした。
焦りや緊張、だけでなく、もっと別の何かがイゴの大切なものを奪い去ってしまうのです。
その後も試験の度に、正解できるはずの問題を幾つか間違えてしまいました。
世界の中で、たった独り。
観客席にたくさんの人がいるというのに、イゴはぽつんと浮かんでいます。
いえ、たくさん居るからこそ、イゴは独りであることを自覚してしまうのです。
風の壁で世界と隔たれているかのような、不安感と現実感のなさ。
まるで別世界での出来事のようです。
見えているもの、聞こえているものーー何もかも。
わかっているはずなのに、心まで届いてくれないのです。
ーーイゴ・ナウナ。
ーーファロ・ファーブニル。
空に大きく刻まれた名前。
勝手に動く足が運んでゆく先には、緊張の欠片さえ見られない緩んだ表情の少年。
恨めばよいのか、羨ましがればよいのか、対戦相手のファロが何かを聞いてきたというのに、渇いた口からでるのは言葉ではなく空気ばかり。
これはもうーー。
「兄ちゃ~ん! がんばれ~っ!!」
その瞬間。
イゴは着地しました。
元から地面に立っていたというのに、今やっと、しっかりとこの世界に立ったのです。
「羨ましいなぁ。家の弟二人は、地竜組の催し物で優勝できなかったからって、ま~だ拗ねているみたいだ」
ーー図太い性格。
ーー「後継者」ではなく、無気力で、覇気が感じられない。
ーールッシェルを気にしている。
イゴは、対戦が決まってから聞いた、ファロの情報を思いだしました。
イゴより身長の低い、小太りの少年。
ファロを見ながら、もう一つ思いだしました。
ーーファーブニルは応用が得意。
ただ、「後継者」となれなかったファロも、そうだとは限りません。
他に、ファロをーー正面から見て気づいたことがあります。
図太い性格ーーというのはその通りなのでしょうが。
無気力でも、覇気がないわけでもなく、表情から自信、いえ、自負のようなものが垣間見えました。
「こんなこと言われても困っかもしんねぇが、謝っておきてぇ。ーーすまねぇな」
口は渇いたままですが、言葉はでてくれました。
握り締めた両手から伝わる感触。
そうです。
弟の声援を聞き、イゴは思いだしました。
前に進む為にーー。
自分から踏みだしたのだと、イゴは心に刻みます。
「いきなり謝られても、わけわからんーーと言いたいところだけどな。まぁ、僕もこの学園で学んだからわかる」
「……わかるのか?」
「って、オイオイ、そんな意外そうな顔すんなって。僕も『八創家』の人間だ。色々考えた。この学園の意味とかな。僕たちは今、『聖語』の最先端にいる。その『聖語』で競い合うーーそれも意味のあることかもしれないけど。それだけじゃあ、何か弱い。学園長やベズ先生は、きっと、もっと先を見ているはずだ。この『対抗戦』。何かがあるんだろう?」
正面から見詰めてくるファロ。
イゴは。
少しだけ嬉しくなりました。
イゴが皆と接して変わったように、ファロもまた学園で多くのものを得たのです。
卑怯だとか罪悪感だとか、そんな面倒なものは捨てることにしました。
自分がやるべきこと。
まだ朧げな未来と、皆の期待に応える為に。
心が前に進みます。
イゴとファロから、やや離れた場所に立っている判定役のベズが「聖語」を刻み始めます。
二人の体に纏わりつくように、二重に「結界」が張られ、透明になって見えなくなります。
ベズの高等すぎる「聖語」に観客たちがざわついていますが、イゴにはそんな余裕などありません。
「イゴ! そのぽっちゃり、しばき倒してやれ!!」
イゴは、自分より短気な兄たちが余計なことを言わないか、心配で仕方がありませんでした。
心が軽くなりすぎてもいけない。
家族の姿を見ることなく、イゴのほうから先に動き始めます。
『それでは、一試合目。ファロ・ファーブニルとイゴ・ナウナの試合を開始します』
20歩。
お互いに離れてから、「聖技場」に鳴り響く鐘の音。
始まってしまった。
そんなことを考えながら、イゴは冷静にファロの「聖語」を見ました。
「ろいな、ろろくろろ!」
ファロが「火弾」の「原聖語」を刻み始めるのを確認してから、イゴも刻み始めます。
指先が紡ぐ、淡い光。
先に「聖語」を刻み終えた、その瞬間。
ファロは眉をひそめました。
牽制の為の「火弾」でしたが。
「読刻」で読み取ったイゴの「聖語」は「火矢」。
明らかな悪手。
でも、手を抜くなど相手に対して失礼になるというもの。
敵が「的」になってくれるというのなら、それを狙わない手はありません。
「ひだん!」
「ごごささ、くろごじなーー」
イゴが刻んでいるのは、ファロが「読刻」で読み取った通り「火矢」でした。
「火弾」は、「火矢」の半分ほどの「聖語」を刻むだけで済みます。
「火弾」では「致命打」にはなりませんが、当たれば「有効打」。
その後、「火矢」への対処を行えば問題ありません。
これでファロが先制。
アリスとベズ、「邪聖班」以外の誰もがそう思ったときーー。
「ろなろ、ろろくいろごさい」
「なっ!?」
ファロと観客たちは息を呑みます。
イゴは「火弾」を避けました。
「聖語」を刻むのをやめ、避けたのではありません。
「聖語」を刻みながら、歩いていたのです。
「ひや」
イゴが刻み終えると。
刻まれた「聖語」が淡い光を散らすと同時に、現出した炎が収束し、「矢」が形成されます。
「火弾」と威力はさほど変わりませんが、速度は段違い。
即座に、三本の「火矢」が射出されます。
形が整った綺麗な「火矢」ーー技倆の確かさに、観客たちは目を瞠ります。
すべて直撃すれば、ここで試合が終わってしまうところでしたが。
「くっ!」
とっさに、左に体を投げだすことで回避に成功。
同時に、ファロは理解します。
今の「火矢」は、拡散させるのではなく三本ともファロ目がけて飛んできました。
そう、ファロが避けられるようにです。
一気に勝負を決めにきたようにも見えますが。
ファロはイゴが謝罪していたことを思いだし、警戒心を高めます。
これが役割。
ファロと同様に、観客たちの間にも動揺が拡がっていったので。
イゴはいったん、ファロから距離を取りました。
『アリス殿……、今の、動きながら『聖語』を……?』
『そう、動きながら刻む、『動刻』。どう? 面白いでしょう?』
揶揄うようなアリスの笑顔が、上空に映しだされます。
観客席の皆の視線がアリスに奪われますが、それも長くは続きませんでした。
「ひだん!」
「ひや」
覚悟を決めたファロは、防御よりも攻撃を選択。
フィールドでは「火弾」と「火矢」の撃ち合いが始まりました。
ファロは、イゴの進行方向を予測し、「火弾」を放ちますが。
イゴはくるりと回転、逆方向に歩いていってしまいます。
まだ「動刻」への対処法がわかっていないので、ファロは強力な「聖語」を刻むことができません。
戦術を変更し、「火弾」で相手の出方を探りながら、防御を心がけます。
そろそろでしょうか。
イゴは、次の技を披露することにしました。
制服の、両方の袖をめくります。
『腕に『聖語』がーーとなると、あれも?』
『ええ、あれは『刻印』。『聖板』にも、応用の技術が使われているわ』
観客たちから見え易いように、イゴは両腕を上げているのですが。
勘違いした馬鹿野郎。
自分を客観視してしまったイゴは、何だか、ちょっと恥ずかしくなってきました。
「刻印」を見たファロは驚き、警戒して様子見を始めたので。
イゴは内心で溜め息を吐きました。
得意も不得意もない。
イゴは早々に、自分の才能に見切りをつけました。
ティノは論外ですが。
メイリーンやソニアの太陽のような輝きに比べれば、イゴは取るに足らない外灯のようなもの。
それでも、どんなに光が弱くても、照らすことはできるのです。
得意分野を伸ばしたリフとナイン。
それを活かして戦う二人に、イゴは試合で勝つことはできないでしょう。
イゴは覚えたことを頭と体で理解しているから、間違えないんだね。
ティノが言った、何気ない言葉。
それが指針になりました。
「聖休」で家に戻った際、イゴは弟たちに「聖語」を教えました。
ティノが言った通り、学園で教わった「聖語」を正しく教えることができました。
新しい「聖語」を刻めるようになったときの、弟たちの顔ーー。
イゴは凄いね、先ず、心が先に前に進むんだ。
そんなことをティノに言われた日の夜。
あまりの恥ずかしさに、男子寮を抜けだし、ぶっ倒れるまで空に向かって「聖語」を放ち続けました。
「ごごささくろごじなろなろろろくいろごさい」
思いだしたら、恥ずかしさがぶり返してきたので。
イゴは羞恥心を誤魔化す為に、新しい技を披露しました。
「ひや」
『今のは『縮刻』。『縮刻』と、それと『刻印』は、その性質上、通常より威力が落ちるわ』
ーー間違えない。
こちらもティノの言葉通りでした。
イゴは、覚えた「聖語」を正しく刻むことができるのです。
それが長所だというのなら。
ただ、観客を驚かせるだけの、新たな「聖語」を刻むだけでは何も変わりません。
皆がそうであるように、イゴもまた前に進まなければいけません。
「ひだん!」
「ふうへき」
ファロに向かって歩きながら、右腕の「刻印」に触れ、「風壁」を発動。
威力は半分になりますが、彼の「火弾」を防ぎます。
「ひや!」
「すいへき」
「火弾」ではなく、攻撃に変化を持たせてきたファロの「火矢」を左腕の「刻印」、「水壁」で防ぎます。
ここまでの戦いで、ファロは劣勢を覆す策を思いつきました。
いえ、「策」というほど上等なものではありません。
相手は何をしてくるかわからないのですから、答えは単純明快。
そう、力で圧倒する、一撃勝負に持ち込めば良いのです。
ファロとの距離は、5歩。
イゴもファロも、「聖語」を刻むのをやめました。
「はぁ、覚悟を決めないといけないってことかぁ。僕が近づくのを許したってことは、そういうことでいいのか?」
「まぁ、そんなもんだ。俺ぁ『復刻』使うからよ。ファロも最大火力お見舞いしてくれや」
「あー、『復刻』、『復刻』ねぇ。『結界』はこっちで張らせてもらうとしても、あんま気が進まないなぁ」
フィールドの中央で相対し、会話を交わすイゴとファロ。
観客たちが戦況を理解できるように、アリスは二人の姿を上空に映しだします。
でも、二人はもう、相手しか見ていません。
暗竜に呑み込まれたかのように、静寂に傅く「聖技場」。
特に何かの兆しがあったわけでもなく、ファロはおもむろに「結界」の「聖語」を刻み始めました。
「ごごろななろさ、くじじにいいいじろさ、いいろくろさ」
上位の「聖語使い」であれば、「結界」の持続時間をある程度、操ることができます。
「けっかい」
当然、ファロは間違えない。
イゴは、「読刻」を行わず、ファロを信じることにしました。
彼の「聖語」の実力は、確かなものです。
本来なら、イゴなど到底敵いません。
得意分野がないイゴには、最大火力による撃ち合いは不利。
それでもイゴは、この決着を望みました。
「はろじじさ、さろろにくごくはくいろ、じごさごさ」
ファロより早くイゴが「聖語」を刻み始めると、選手席のティノが立ち上がりました。
ティノの隣のソニアも気づいているようです。
無茶、というより、無謀。
それを知って尚、ーーイゴは前に進みました。
威力が高くない、学園生なら誰でも使える「風牙」でさえ、イゴの「復刻」の限界は3回。
右の人差し指で刻んだ「聖語」を、次は左の人差し指でなぞってゆきます。
「はろじじさ、さろろにくごくはくいろ、じごさごさ」
「いごじなろは、ごごろくろごじく、じささろくろごじく」
ファロが「聖語」を刻み始めます。
彼もまた、刻み始めるのが早く、「読刻」でファロの「聖語」を読み取ったマホマールは驚きの声を上げます。
『これは!? ば……』
『いけませんよ、マホマール様。ここで『聖名』を言ってしまっては、ファロ選手の不利となってしまいますわ』
『うっ……』
マホマールが言葉を詰まらせると、「聖技場」も水竜の息吹で水底に沈んだかのような重たい沈黙。
いえ、まるで炎竜が潜んでいるかのような、熱気を孕んだ胎動。
「結界」を挟み、二人は互いの存在を忘れたかのように、「聖語」を刻むことに集中しました。
「はろじじさ、さろろにくごくはくいろ、じごさごさ」
「ろごじじろいごいろな、ごさいろいろなごじくい」
3回目の「復刻」。
刻んだ「聖語」が揺らぎますが、イゴは最後まで刻み終えました。
でも、まだです。
「結界」が解けるまで、まだ時間があります。
「復刻」を行うイゴと、一つの「聖語」を刻み続けるファロ。
いったい何をやっているのか。
そう思いながら、イゴは左手の人差し指で4回目の「復刻」を行います。
「はろじじさ、さろろにくごくはくいろ、じごさごさ」
「いろろくろごじごろくなささ、じろくろ」
限界を超えた、4回目。
刻み始めた瞬間、揺らいだ「聖語」はさらに乱れ、光を放ち始めます。
溢れた淡い光に埋もれ、「聖語」が見えなくなってしまいました。
ーーイゴは凄いね、先ず、心が先に前に進むんだ。
たった一言でした。
言ったティノは、きっともう、覚えていないでしょう。
ーーイゴは覚えたことを頭と体で理解しているから、間違えないんだね。
こんなときだというのに、イゴは頭と体に刻みました。
ティノは、間違えない、と言いました。
イゴはこれまで、自分を信じたことは一度もありません。
でも、生涯で一回くらい。
ティノが認めてくれた自分を信じても良いかもしれない。
イゴは。
心に浮かび上がってきた「聖語」を、発光する淡塊の内に刻みました。
「はろじじさ」
すると、まるで周囲の光を吸い取るかのように、強い光がーー「聖語」が刻まれました。
「さろろにくごくはくいろ」
淡い光の塊が、心の色彩を溶かしこむように。
間違えないーーそれは正しいということではありません。
不思議と、ファロの「聖語」も聞こえてきます。
「なろなさはさごくろろ」
見てみれば。
ファロもイゴを見ています。
「聖語」を見ずとも。
最後まで刻めるという「確信」。
「じごさごさ」
「ろろいいろろいごろくじろじ」
イゴは、「復刻」の5回目を刻み終えました。
「結界」が解け、二人の声がーー「聖名」が重なります。
「ばくえん!!」
「ふうが!!」
刹那。
爆炎に風の牙が深く突き刺さりました。
メチャクチャに入り乱れる風と炎。
理解を超えた、というか、馬鹿げた光景。
もう、わけがわかりません。
イゴは目の前の光景を、ただ見ているだけでした。
炎から新たな炎が生まれるような爆風を伴い、鮮烈な赤が拡がってゆきます。
そう、拡がっているということは、風の牙が食い散らかしているということです。
紅蓮はその色を薄め、その先に明確になってゆくのは、ファロの姿。
彼の姿が鮮明になると同時に。
決着がつきました。
「『致命打』と判定。勝者、イゴ・ナウナ」
硝子が割れるような音とともにファロの体に張られた「結界」が弾け飛ぶと、ベズは勝者の名を告げました。
その瞬間。
火がついたように「聖技場」が歓声と喚声で溢れ返ります。
「はぁ、敗けたか。まぁ、それは良いとして、最初に謝っていたよな。許してやるから、教えてくれ」
「あ? 教えてくれって、何をだ?」
「しらばっくれるな。僕が色々と考えたように、君だって何かーー決めたことがあるんだろ? ーーそういう、目をしている」
こいつも恥ずかしい奴だ。
ティノといいファロといい、どうしてこういうことを臆面もなく正面から言ってくるのでしょうか。
ほんの少しだけ。
イゴも恥ずかしい奴らの仲間入りをしても良いような気がしてきたので、素直に話すことにしました。
「俺ぁ得意分野がねぇ。だけどよ、苦手もねぇ。ティノが褒めてくれたがよ、俺ぁ覚えたことは忘れねぇ。そんで、『聖休』んとき、弟たちん教えてっときに思った」
「教える? ーーてことは、学園の教師になるのか? 今周期と来周期、生徒数が増えるだろうから、何人かは必要になってくるだろう」
イゴも始めはそう考えました。
弟たちの姿。
「聖語」に触れて喜ぶ笑顔を見て、靄がかかっていた「未来」に風が吹き込みました。
「俺ぁ今周期、じゃあなくて、先周期、学園に入園すっことができたけどよ。今周期、たぶん入園試験があんだろぉけど、今周期受けてたんなら、たぶん落っこちてた」
「まぁ、成績からすれば、そうなっていただろうなぁ」
「で、なぁ、思ったんだよ。この学園一つじゃ、あぶれる奴がでちまう。いつか別の学園ができっかもしんねぇが、すぐってわけにはいかねぇんだろ?」
「ーーそうだな。『八創家』で足の引っ張り合いをしていれば、いつになるか、或いは学園は一つで、それを拡張する案もーー」
ファロは思案顔で考え込んでしまいました。
試合は終わったので、あまり話し込んでいる時間はありません。
仕方がないのでイゴは、とっとと結論を言うことにしました。
「で、だ。ちっさい学園、ってか、ちっさい学び舎? まぁ、場所なんてどーでもいーんだけどよ、あぶれた奴に『聖語』を教えてやりてぇ、って思ったんだ。入園試験に落っこちた奴ん中にだってよ、『聖語』が好きな奴もいりゃ、才能って奴を持ってる奴だっていんだろ。そいつらん中に、『聖士』や研究者になれっ奴もいっかもしんねぇ」
「ああ、それは良い案だと思うがなぁ」
「あん? 何か駄目なんか?」
「それ、それだ。教える立場になるのなら、言葉遣いくらいきちんとしろ」
「え、あ…、って、そりゃ……」
痛いところを突かれました。
確かに、教わる側からしてみれば、言葉が乱れた者から「聖語」をーー「聖なる言語」を教えてもらいたいとは思わないでしょう。
「まぁ、あと一学周期ある。それまでに何とかするんだな。それにーー『対抗戦』も卒園前にもう一度あるはずだ。勝負というのはな、最後に勝った奴が勝ちなんだ」
イゴが答えられないでいると、ファロは喋りながら地竜組の待機所へ戻ってゆきました。
望むところです。
二学周期目の学園生たちは新たな「聖語」を学ぶことになるので、イゴたちの優位はなくなります。
今度こそ、正面から堂々と戦い、敗けてみせる。
イゴはファロとの再戦を誓いました。
「ん。ティノ、教える。イゴがさっきやったのは何?」
「え? と、あ、イゴ、おめでとう」
態とでしょうか。
選手席でイゴを待ち構えていたティノが掌をだしてきたので。
それも良いかと、彼の手を叩こうとしたところでタイミング良く、或いは悪くソニアが聞いてきました。
「えっと、4回目の『復刻』。あれは一応、『光刻』ーー光を刻む、という、技術なんだけど」
「ぷ。イゴは光。光はイゴ。『光の聖語使い』爆誕」
恥ずかしいの禁止。
そろそろ限界だったイゴは、二人を黙らせようとしましたが。
続くティノの説明で、イゴのほうが言葉を失ってしまいました。
「『光刻』と言うと、聞こえはいいんだけど。光を溢れさせるーーつまり暴走させるってことで、あれは自爆技なんだ」
「『光刻』が自爆技なら、どうして自爆せずに済んだのだ?」
「そうだね。名前をつけるなら、『心刻』ーーかな? 僕は知らないし、たぶん、アリスさんも知らないんじゃないかな。つまり、アリスさんが言っていた、『聖語使い』のその先、に一番に足を踏み入れたのがイゴだったってことだね」
ティノとリフが話していますが、耳には届いても、頭までは届いてきませんでした。
もうすべてのことがどうでもよくなるくらい疲れていたので、選手席にどかっと座りたいところでしたが。
そういうわけにもいきません。
「イゴ。がんばったんだから、休んでいていいよ」
「そーゆーな、ナイン。手伝いくらいさせろ」
「邪聖班」は全員(メイリーンを除く)立ち上がって、試合に必要な「武器」を運んでゆきます。
本当は「武器」として使いたくない。
ナインがそう考えていることをイゴも知っているので、皆と協力し、フィールドに並べていったのでした。




