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 アンナは台所に連れてこられた。料理人なら料理が作れるはずだと。

 ここにあるのは野菜と卵だけだ。肉は傷みやすいのでたまに生きた鳥を持ってくるのが限度なのだという。

 じゃがいもに似た芋を見つける。そして林檎に似た味がするが、林檎とは似ても似つかない洋ナシのような形状の果物。

 これがあれば作るものは決まっている。ちょうど塩もあるのを確認した。

 すりおろす道具がないので、適当な金属片に釘で溝を何度も刻む。芋と果物ぐらいならこれですり下ろせる。

 すりつぶした芋と果物に卵を擦り混ぜ塩で味を調える。

 そして、鉄製の平鍋に油を引いて火にかける。

 温まったかを確認した後、生地を流し込む。適当に焦げ色がついたところで出来上がりだ。

 ドイツ名物じゃがいものパンケーキだ。リンゴで甘味をつけるのが特徴だが、似た果物しかないのでそれは仕方がない。

 それをさらに盛り付けて差し出した。

「手早いな」

「早いほうがいいと思いまして」

 アンナは澄まして言った。

 パンケーキを口に入れるとしばし味わう。

「確かに料理人のようだ、まあ、あいつらも故郷の味が懐かしいという奴だろう」

 そう言って、アンナをこの基地内で自由に動けるようにと言い出した。

「単なる使用人に責を負わせるつもりはない」

 アンナは実際鉄道にはかかわっていなかったので使用人として雇われたのだろうかと首をかしげた。だが実際アンナは料理を作っていただけだ。

「お前は哀れだからここで料理人として雇ってやる」

 そう言われてアンナは首をかしげる。しかしアンナに選択の余地はない。

 どう考えてもここから単身脱出できはしないのだから。

 そのままアンナは厨房に放り込まれ、料理人として雇われることになった。


 ほかの料理人に紹介されたが、とにかく材料の種類が乏しい。日持ちする芋類と葉野菜は裏の畑で作っているらしい。だが、後は定期的に運び込まれる生肉と卵だけだ。

 生肉は届いたその日に使い切ってしまうので本当に数日に一度のごちそうとなる。

「せめて塩漬けにすればいいのに」

「そんなことをしたらしょっぱくて食べられないだろう」

 ほかの料理人に言われてアンナはあきれた。

「肉の塩漬けをおいしく調理する方法ぐらい知っています」

 アンナの言い分にできるならやってみろと言ってきた。

 そして肉を半分だけたっぷりの塩に漬けこんでしまった。

「肉がだめになったらお前どんな目に合わせられるかな」

 どうやらこの厨房を預かる料理人もアンナのような異邦人を毛嫌いしているらしい。それをいきなり雇うと言われて反発が起きているようだ。

 厨房に連れてこられてから、ゴロウアキマサに会わせてもらえなくなっていた。

 それがどんな理由があるかは知らないが。

 肉は本当にしょっぱく味付けされていた。だがそんなものは簡単に薄められるのだ。

 アンナは芋を大量に煮込んだ。そして、そこに塩漬け肉を細かく刻んでさらに煮込む。

 塩気が溶けてちょうどいい味付けになるのを確認した。

 塩辛すぎる塩漬けは水分を与えて塩を抜けばいい。それをスープにすれば味付けをする手間も省けるのに。

 アンナはそうした知識がここの料理人にないのが不思議でならない。



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