エドワードの思い
エドワードがあんなに与えた仕事場に戻った時にはすべてが遅かった。
アンナとゴロウアキマサが拉致されたのは間違いない。
周辺には大型竜の足跡がいくつもついていた。
「少年少女二人を拉致するのに一部隊使ったか」
エドワードはその件についてはあきれ返った。
そして、ここまでわかりやすい証拠を残すうかつさも。
大型竜の足跡などという唯一無二の証拠を持ってどうごまかすつもりなのだろう。
すでに機関車の製造段階に入っている。この状況で妨害を行うとしたら国家反逆罪ものだ。
「どうするんだ」
いち早く現場に駆けつけて一部始終を報告したチャールズが尋ねる。
それほど荒らされていないのは二人がろくに抵抗せず連行されたからだろう。
武装し、魔術も使えるような人間が複数いる状況で抵抗するのはほとんど殺してくれと言っているようなものだ。
よって二人の判断は間違っていない。
エドワードは見慣れない甕を見つけた。葡萄酒を入れる甕に似ているが。そう思って蓋を開けると漂ってきた臭いに顔をしかめた。
「ビネガーか」
「それなら、近所の醸造所で失敗作の葡萄酒だといわれてもらって帰ったようですね」
チャールズが周りにいた養豚場の職員から聞き出した話をする。
「ああ、さっそく作ったピクルスがあるな」
アンナが作ったありあわせ野菜のピクルスが瓶の中で漂っている。
「これは肉の酢漬け?」
「肉の酢煮込みを作るつもりだったようですね、ドイツの定番料理ですよ」
エドワードはため息をつく。アンナのせっかくの手料理が未完成で終わるのはあまりに惜しい。
「二人を取り戻さなければな」
エドワードのこれからの展望にどうしても必要な人材と、今まで支えてくれた、彼がいなければ計画の進行はもっと遅かったはずの人材。
この二人を手放すわけにはいかない。そして見殺しにもしない。
「これからどうするんですか」
「決まっているだろう、連中の非道を宣伝し、二人を取り戻す」
「勝算はあるのですか?」
「あるに決まっているだろう」
エドワードは不敵に笑う。今までゴロウアキマサが築き上げてくれたこと。そしてアンナがこれからしてくれること、それ自体がエドワードを支える力になる。
「アンナの作った食品庫はどこだ」
エドワードは燻製がつるされた倉庫に向かう。
豚だけでなく鳥も魚も燻製になっていた。
熱燻、温燻、冷燻だけはまだ完成していなかったが。
「弾丸としてこれだけあれば上等だ」
エドワードはそれらを眺めながらこれからの段取りを考え始めた。
アンナは取調室のような場所に連れてこられた。
周囲にはいかにもいかつい筋骨隆々の男たちが立ち並んでいる。
体格にお世辞にも恵まれていないアンナはおどおどと周囲を伺うしかなかった。
そんな態度のアンナにくみしやすしと見たのか正面に座る老人はにんまりと笑う。
「お前は何のためにあちらにいたんだ?」
「ええと、料理をしていました」
アンナは正直に答えた。
あまりに意外な答えに周囲もざわめく。
「鉄道とやらで仕事をしていたのではないのか?」
「いいえ、そんなの知りませんよ、あたしはそんなもの一度も見たことがないんです。できることは料理だけです」
アンナはどこまでも正直にそれに答えた。




