友だちのかたち
午前十時。高校にいる中で一番無気力な時間と言っていい,そんな時間のこと。周りの子たちは談笑していたり,寝ていたり。騒がしくしていた。そんな見慣れた光景だからか,私の耳にはただの雑音としてしか知覚されなかった。授業合間の休み時間のときだった。私は教室の自席で暢気にブドウ味のグミを食べていた。酸っぱいけど後味が甘い見た目に反して優しい柔らかさ,非の打ち所がないグミだ。私はこのグミが好きで,よく食べていた。大体気づけば残り2個しかないことなんかもざらにあった。グミを咀嚼しながら机にふと視線を落とした。私の机の上に置いてあった現代国語の教科書が視界に入った途端,私はあることに気づいた。
(あ,そういえば次の授業タブレット端末使うじゃん,取りに行かないと)
そして私はグミが入ったかわいいパッケージの袋をポケットにしまい,廊下に置かれているタブレット倉庫に向かった。その時のことだった。近くにいた一人の女の子と目が合った。向こうも目が合ったことに気づいていたようだが,あまりにしっかり目が合ってしまったので,目を逸らしづらいといった,気まずさを醸し出していた。私も気まずいと思ったが,平然を装うべく,涼しい顔を作ろうとしていた。その女の子は同じクラスの子ではないようだ。初めて見る顔をしている。ミディアムボブぐらいの髪をしていて,目がぱっちりしていた。私は意図せずこう言っていた。体が先に動いたっといった感覚だった。
「……グミ,食う?うまいよ。」
となぜかポケットにしまってあったグミのパッケージを取り出し,その子に見せた。
「……え,いいの?ありがとう。……おいしい。」
その女の子は戸惑ってこそいたものの嬉しそうにグミを食べた。
「……私は結都。1組の人間だ。このグミうまくね?」
そういうとその女の子は目を一瞬光らせた。
「え,わかる。このグミうまい。わたしこのグミよく食べるの。あ,私はひな。3組の人間だよ。」
ひなと名乗ったその女の子の顔からは,すでに気まずさと戸惑いはすっと消えていたように見えた。そんなひなの様子を見ていた私に,謎の直観が走った。
(……この子とはなんか合いそうだな。なんでかわからないけど)
「ほー,同士だね。ともかくよろしく。」
あっさりと私はそう言った。
「うん,またここ来るわ。あ,そろそろ授業始まっちゃうね,3組に戻るよ,じゃあね結都ちゃん」
「うん,まったねー」
ご満悦そうに自分のクラスに戻っていくひなの後ろ姿を見ながら私は思う。
(……友達って,作るというよりできるものかもな。「釣り」とよく似ている。私がなにか「餌」なるものを垂らし,それに誰かが食いついてくる……。そんな感じの,気楽なものなのかも。……今回はなんかグミで釣れたけど。)
私はタブレットとあと1つしか入ってないグミのパッケージを持って教室に戻った。なんとなく,このグミは食べたくなかった。「餌」として持っておきたかった,これが理由なのかもと,私は考えていた。またなにかおもしろいものが釣れるかもしれない,そんな期待があったのだろう。この後ひなと私はつかず離れず最高のマブダチになったということはまぁ後日談なのだ。
ご覧いただきありがとうございます!今回は「ひな」と「結都」の馴れ初めの話です。まさかひなは結都が出したグミに釣られただけだったという,なんともしょうもないきっかけから友達になっています。結都らしい話ですね。皆さんも「友だち」については,悩むことがあるかもしれません。でも,皆さんも「餌」としてなにかお持ちになると,何か勝手に釣れるかもしれませんね!それでは今日も気長にお過ごしください。次回またお会いしましょう。




