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わからないことから

 夕方,まだかなり明るい時間帯であった。早めの電車に乗れたのである。夕日がまだ黄色く見える。玄関のドアを開けて,いつも通り部屋に入ったその瞬間だった。

「おねーーーーーちゃーーーんっ!!ヘルプ!!ミーー!!!」

 二階から中1の妹の「凛都りと」のとんでもない声が聞こえた。私は帰ってきたばかりなのに。

 渋々私は気が抜け始めている制服を着たまま,二階へと向かった。リボンが取れかけている。凛都の部屋に行くと,投げ捨てられたように黒い通学かばんがほったらかしになっており,そこから教科書などが出された跡があった。凛都は机に座っており,数学の勉強をしていたようだ。様々な符号が混ざった計算のようだった。

「あ!おねーちゃん!!見てよこれ!!答えが合わないの!!符号もバラバラだし,なんで-1+-6が-7になって……あーーーわかるかぁ!!」

 私は頭を抱えている凛都を眺めていた。おそらく符号の仕組みを区別できていないようだった。

「落ち着いて凛都,鉛筆借りるよ」

 私は凛都がやっていた問題集の空白に,ちょっとした絵を書いた。マイナスとマイナスだったらプラスに,マイナスとプラスだったら数字の大きいほうの符号になるということを示す簡単な絵のようなものだった。

「これ見て。符号にはちょっとした仕組みがあってね,同じ符号だったら二つの数字は仲良くなれるんだ,だから必ず数字は足し算される。逆に,符号が違うと,二つの数は殺し合いをする。で,数字の多いほうの符号が付くんだ。これを踏まえて解きなおしてごらんよ。」

 凛都の眉間にはまだしわが寄っていた。無理もない,式のこうの数が多いのだろう。凛都の手はすぐに止まった。

「ねーじゃあさ,この-(-1)はどういうこと?」

「それはマイナス符号を分配してくださいねって意味だ。要するに,カッコの中の数字にマイナスつけてくださいってこと。で,カッコの中にある数字はなんだ?」

 凛都は素直に答える

「-1」

「うん,でマイナスを分配するといったよね,マイナスはカッコの中の数字の符号を逆転させる力があるんだ。さ,やってみ」

 凛都は私が書いた絵を見ながらゆっくりだが確実に解きなおした。

「できた!おわったぜぇぇぇぇ!!!」

「よかったね」

 凛都が喜んだのもつかの間,すぐに顔が曇った。凛都の視線は目の前に貼られている,中間テストの時間割に向いていた。

「私もう少ししたら,中間テストがあるんだよ,はぁ,どうしたらいいんだろう。こんなんじゃまたママに怒られる。」

 それを聞いた私は過去の自分を思い出した。昔私は勉強ができなかった。成績は普通よりちょっと下で,何をやってもそこから動くことはなかった。父には少し呆れられたようなことを言われたことも,あった気がする。その時私はずっと重い鎖で足をつながれている感覚だった。そんな記憶を思い出した。特に数学はできず,常に平均点より低かった。

(あの時は,私も……鉛筆持つだけで……)

 そして私は少し真剣な顔になった。

「凛都,大丈夫さ。凛都にはわからないことを『わからない』って言う力がある。一番ダメなのは,わからないことを自分の中に隠して,内側に仕舞い込んでしまうことだ。だから,わかんないって思ったときは,どこでもいいからどっか外にそれを出すようにしな。」

 急に私が語り始めたからであろう,凛都は引いていたが,聞いてた。

「うん,わかった。」

 凛都はストンと落ちたように言った。私は続ける。

「別に他人に『わかんないから教えて』って頼まなくたっていい。勇気いるし。だた言葉にして外に出せばいいんだ。だから別に,枕に向かって叫んだっていいし,独り言で言っていいし,もっと言えば紙に書いて,それを紙飛行機にしてぶん投げたって良い。わからないっていうことが感情に変わってしまうと,結構重さを持つんだ。だからとにかく,言葉にして出すんだよ!」

 凛都の顔は相変わらずあまり変化がないようだが,少し安心しているように私は見えた。

「じゃ,私は今日の分の勉強は終わりなんで!ありがと!ねーちゃん。」

 そういうと凛都はあっさりと一階へ降りて行った。その背中を眺めていた。

(まぁ,凛都は私とは違う奴だしな,大丈夫だろうな。)

 そう思いながら私はようやく,完全に気の抜けた制服のリボンに手をかけることができた。

ご覧いただきありがとうございます。ポン太です。今回はまさに「勉強」についてですね。わからないことがあると,きっと焦ったり,なんでできないんだといったような怒りを感じたり。私もありますし,どうやら結都にもあるようですね。ですが,やはりわからないということを自分の中で完結しようとすると,限界はあるでしょう。ですから結都は,紙飛行機でもいいからぶん投げとけ,と言ったのかもしれません。…少し例が極端な気もしますけど(笑)結都らしい話ですね。もしかしたら誰かその紙飛行機を拾ってくれるかもしれません。外は案外広いです。外に出してしまいましょう。そのために窓があるのかもしれませんよ!それではまた次の異世界でお会いしましょう!またね!

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― 新着の感想 ―
凛都は凄く大切なことを教えてもらいましたね。感情を表に出す。どんな方法でも。 無意識に溜め込んだりしてることありますもんね。いいお話でした!! 「そのために窓があるのかも」←発想がいい!!
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