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鉄火、錆を削ぐ  作者: 津山 みかり
第二部
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41/41

41.唸る鉄

前回のあらすじ――


倉敷駅からJR山陽本線に乗り岡山駅までたどり着いた福山勝(ふくやままさる)竹原一平(たけはらいっぺい)の二人。繁華街とは反対の住宅街方面へと竹原は進み、とんかつラーメンの提供される店へと足を運んだ。提供されたのはまさにラーメンにとんかつがのった「とんかつラーメン」を平らげ、その暴力的なカロリーを冷たいビールで胃袋におさめたのだった。

 あの倉敷将棋センターでの熱闘から早くも一ヶ月が経ち、玉野市も年の瀬に追われていた。

 かく言う俺も熊野金物店の従業員として、年末の御用聞きを行いつつ、若竹での手伝いも日々こなしている。

 いよいよ一年の暮れも差し迫った日のことだった。

 御用聞きの営業から帰ると、熊野金物店の前に一台のバイクが置かれていた。お客さんか?

 俺は軽トラを駐車場に停め、店内に入る。

「ただいま帰りました」

「おお、福山君。ご苦労さん、あの婆さんにつかまらんかったか?」

 あの婆さん。例の強敵だ。俺や熊野さんが来ると二時間近く拘束されるからいつも最後に回るようにしていた。

「ええ、今日は年末で孫が来るとかでおせちの準備がって言われたので一時間で解放されましたよ」

「一時間か、ええのぉ。ワシゃこの前は二時間半じゃ。腰が痛ぇ言うとおのに、聞かんからなあ」

「ところで、この単車お客さんのですか?」

「いいや、ウチの次男坊がいらんから置いていきよった……まったく、取り扱えん言うても聞かんでな」

「ホンダのクラブマンですよね? どうされたんですか?」

 ホンダGB二五〇クラブマン。単気筒エンジンのクラシカルなバイクだ。

「福山君、わかるか?」

「多少ですけど。昔はCB四〇〇に乗ってましたから」

 学生時代に取った免許で初めて買った中古のバイク。それがCBだった。四気筒エンジンでよく走るいいバイクだ。カウルはなかったが、何も手を入れられておらず、そのネイキッドらしいスタイルと四気筒エンジンの突き抜けるような滑らかさに惚れていた。

「……福山君、これいるか?」

「ええ? 急ですね。息子さんのですよね」

「いや、あの馬鹿たれが処分してくれとだけ言うて置いて行きよったんじゃ。親父のとこなら売れるだろう。言うてな」

「それはまた……」

「古物商なんぞないから、取り扱えんと言うたのに、無理やり置いていきよったけん、困っとるんじゃ」

 いるか?と言われて俺は迷った。単車はほしい。この玉野で足がないのは事実だ。こういったバイクや車があると行動範囲が格段に広がる。

 しかし、購入できるだけの資本もろくになく、維持費もかかる。二五〇CCなので車検はかからないが、このバイクも生産終了からすでに三十年近く経っていたはずだ。そうなると最終モデルでもなにかとお金がかかる。

「お気持ちは嬉しいですけど、俺、貧乏ですし」

「うーん。そうかあ、三万円でも無理か? 名義変更の手数料とワシの手間賃。どうじゃ?」

 三万円。破格だ。

「え……三万ですか。動くんですか?」

「ああ、動くぞ。なんせ乗って帰ってきよったからな」

 そう言うと、熊野さんはセルスターターをかけながら、アクセルを開く。

 点火プラグが弾け、エンジンに着火する。単気筒のエンジンが唸りを上げて回りだす。四気筒とはまた違ったエンジン音だ。熊野さんがアクセルを開いていく。いい音だ。

「おお、やっぱりエンジンかかると一気に変わりますね」

「どうじゃ?」

 迷う。三万円は大金だ。もちろん、熊野さんからの給与もあり、貯蓄も多少はできたがまだ日銭暮らしに近い。その中で、バイクはいわゆる贅沢品になる。しかし、これも何かの縁かもしれない。整備などはネットで調べて独学でなんとかするか。四気筒も昔乗っていたし、ある程度はわかるはずだ。

「わかりました。竹原さんに停めるところだけ相談させてもらいます」

「ああ、停めるところはええ。うちの納屋に停めておけばええ、一平のとこはスペースがなかろう」

 そのとおりだ。若竹には駐車場もあるにはあるが、二台しか停めるスペースはなく、お客さん用であり、そこも埋まってしまえばかつかつだ。

「ありがとうございます」

「決まりじゃな。給料から三万は引いとくけん、今週いっぱいは待ってくれ」

 クラブマンのエンジンを切り、熊野さんは店の奥へと消えていく。思い切った買い物をしてしまったが、久々のバイクに俺の心は浮かれていた。

 自賠責に任意保険。ヘルメットというアイテムが痛い出費であることを忘れていたが。

私もかつてバイクに乗っていました。ニーハン(250CC)のバイクでHONDA JADE(CB250F)という車種でした。作中に出たクラブマンは単気筒エンジンでしたが、JADEは四気筒エンジンでした。250CCでしたので高回転域まで回すと確かにしんどかったのですが、エンジン音がまるでモーターのような見た目以上にソリッドなバイクでした。また、時間ができればバイクに乗りたいと思っています。


※先般、新たにブックマークいただいた方、ありがとうございます。

 更新頻度は遅いですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。


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