23 アイテムボックス改
目の下のクマが酷い大人たちには仮眠をしてもらい、僕らは王都に旅立つジュストを見送った。
ジュストも自宅に一泊でまた旅とは、若いエリートも大変なものである。
ジュストは部下2人と護衛2人と御者1人を連れて、馬車1台、馬2匹での移動だった。
ジュストがメインの旅でその人員配置なら、僕がメインのこの前の旅の人員配置は大袈裟ではなく適切だったのでは?(暴論)
さて。グランは寝てしまったし、兄様と姉様は勉強中だ。
ところで兄様と姉様は学校に行かないのかという疑問だが、行かないという答えが正しい。
もちろん平民のための学校は存在し、6歳から15歳までは学校で勉強をする。前世でいうところの小学校と中学校が一緒になっている感じだ。
卒業すると親の後を継ぎ農家や職人になったり、お店自体を引き継ぐ者もいたりする。そういった人たちが大多数だが、そこから医者、内政官、法務官、大手の商会員になる人たちは見習いとして働きながらさらに勉強をする。
一方、貴族は基本的に自分たちで先生を用意する。
用意できない貴族のために王都に貴族の子息専門の政治などを教えてくれる学校もあるのだが、大体は伯爵家以上なら自前で用意できるし、子爵家以下であればよほどのプライドがない限り平民と同じ学校に通う。
しかし、伯爵以上の貴族の子息子女は学校に行かない代わりに年に2度ほど王都で交流会に参加しなければならない。
これは同年代の貴族と交流することが一番の目的ではあるのだが、参加条件が9歳以上の貴族子息や子女なので普通に30代がいたりする。なんなら妙齢の男女が参加するので、婚活パーティーみたいな側面もあるのだとか。
今年からルーク兄様も条件に当てはまるので参加予定だ。モテるんだろうなぁ。
なお、その年に2度の交流会だが、夏と冬に開催される。
なんでそんな時期にと思うが、王都近辺がロクセン王国内でも一番気候が安定しているらしく避暑と避寒も兼ねているらしい。
もうそろそろ6月だから兄様の王都デビューも近いな〜。
グランと勉強したロクセン王国の教育や王都での交流会のことを記帳したノートを整理しながらそんなことを考えていた。
「「失礼します」」
ノート整理が終わり、メイミとシズクとフブキとティータイムをしているとグランとシリュウがほぼ同時に入室してきた。
メイミとシズクとフブキには倒れた時にたくさん心配をかけたみたいだし、いっぱい頭をなでなでしておきました。
入室してきたグランはスッキリした顔をしていたので労いの言葉をかけておく。
今回はシリュウの報告の方が大事だ。
「シオン様、《赤き竜の爪》のお三方を連れて参りました、裏庭でお待ちいただいております」
シリュウの報告に大袈裟な感謝をするとシリュウは泣きそうになる。
あぁ、そういえば復活してからまだシリュウとまともに会話してなかったね。シリュウもありがとう、あとで教会に謝りに行くように。
絶望顔になったシリュウを部屋に残し、裏庭に出る。
裏庭ではジークさん、ザクさん、メグさんが待機してくれていた。
「シオン様!元気になって何よりです!」
「1日で回復するとは、さすがシオン様ですね」
メグさんは素直な心配ありがとう。ジークさんは僕をなんだと思っているのかな?
「それで、今日はどのような依頼ですか?」
さすがザクさん、話が早い。今日3人を呼び出した理由を説明しよう。
「実はアイテムボックスが強化されたみたいなんだけど、ザクさんに意見が欲しくて」
リアクションは三者三様。素直に喜ぶメグさんに、青ざめるジークさん、そして片手で眉間を押さえるザクさん。
「ちょっと待ってください。すでに規格外なシオン様のアイテムボックスが更に強化されたと?」
ザクさんのリアクションが楽しくてニヤニヤと返事をする
「そうみたい、なんか名前も変わってアイテムボックス改だって」
「では、もう私が知っているスキルではないですね、他を当たってください」
おぉう、逆に諦めがついたのか爽やかスマイルで宣言されてしまった。ザクさんもメンタルが強い。
しかし、それでは呼び出した意味がなくなってしまうので
「そう言わず、とりあえず一緒に考えてよ」
とアイテムボックスを使おうと両手を掲げると、なんかブラックホールみたいなものが出てきた。
しかし、球体ではなく円盤状である。遠目から見たら模様付きの黒い丸い板を持っているようにも見えそう。
「うわ、なんだこれ」
「シオン様…なんですかそれ」
自分でも驚いたが《赤き竜の爪》の3人もドン引きである。
それに対して身内は対して驚いてはいない。え?超常現象よりもウチの子すごいでしょが勝つの?
「なんかあたり一面吸い込みそうな見た目してますけど、…風は出てないですねぇ?」
不思議そうにブラックホールに手を近づけて確かめるメグさん。使っているのが僕だから安心しているのかもしれないが、何かよくわからない物体に手を近づけるメグさんもメンタルが強い。
「とりあえず、それもアイテムボックスなんですよね?小石でも投げ入れてみますか?」
ジークさんの提案に僕が許可をすると、ジークさんは落ちている小石を拾って下手投げでブラックホールに投げ入れた。
すると小石がブラックホールに当たった瞬間消えた。僕は自分のアイテムボックスに入ったのが分かったが、この空間からは小石が消えたように見えていた。
普段のアイテムボックスと同じ要領でブラックホールから小石を取り出すと、壁に当たったかのように小石が飛び出してきた。
正確には壁に当たった時のように運動エネルギーが減った状態ではなく、まるでブラックホールでそのままUターンして来たかのような挙動で地面に落ちた。
この不思議現象にグランとザクさん以外は「ほぇ〜」状態になってしまった。いわゆる現実逃避の思考停止である。
グランは経験と知識からある程度の推測はできているのだろうが、静観を決め込んでいるあたりわざわざ自分が説明する必要はないとか思ってそう。
ザクさんは考え込んでしまった。そして
「シオン様、その丸いものを体の横に持ってこれますか?」
よくわからない質問をされた。ブラックホールは僕の両手の間にあるので横を向いて両手を伸ばせば体の横に持ってこれる。実践してみると
「ではそのままあの弓の的の前に立ってください」
変な指示だと思ったが、ザクさんが弓の準備をし始めたので分かった。ザクさんはブラックホールの中に自分が射った矢を入れてみるつもりなのだろう。しかし、細かい部分ではあるが気になったことがあったのでイタズラ心で質問してくる。
「僕に矢は効かないし、別に僕の正面にコレがあっても良くない?」
「シオン様に向けて攻撃する意思はないという建前なので気にしないでください」
さすザク。頭も切れるし配慮もスマートだ。
納得したので、「いつでもど〜ぞ」と声をかける。
ザクさんは少し目を閉じ集中した後、ゆっくりと目を開けブラックホールをめがけて矢を放った。
完全に目で追えたわけではないが周囲や的の後ろの木の壁に矢が刺さっていないのでザクさんが放った矢はブラックホールに吸い込まれているのだろう。
あえてアイテムボックスの中を確認せず、周囲の確認をしているとザクさんに呼びかけられる
「では、シオン様、こちらへ」
ブラックホールを一度しまい、ザクさんが矢を放った位置までくるとザクさんは僕を的の方に向ける。
ブラックホールを再び出現させるとザクさんが後ろから僕の両手を掴み、位置調整をしてくれる。
ザクさんの弓を放った位置に5歳児の僕が合わせようと思うとほぼバンザイになってしまった。
「よし、これで。シオン様、どうぞ」
ブラックホールからザクさんの矢を取り出すと、そのままブラックホールから放たれ、的に命中した。
「これはつまり?」
メグさんが首を傾げてザクさんに話しかける
「シオン様は攻撃手段を身につけたってことですかね」
ほへ〜、なるほど。
と、僕はまるで他人事のように納得するのであった。
次回投稿日は5/16(土)です。
次回は初めての試み「番外編1 父の苦悩」です。
お楽しみに〜。




