第十二夜 階段
「ねぇ、“夜”も気合いでなんとかならない?」
「ん~……たぶん無理ですねぇ」
「なんでそんなほのぼのしてるのよ……」
「まぁまぁ、なんとかなりますって!」
てこてこと廊下を歩きながらそんな風に十夜と話している訳だが、なかなか“十夜立ち入り禁止エリア”が見つからない。
十夜自身が自制してくれれば済む話なのだが、変な方向に自信満々なためにそれも無理だった。……幽霊になってからほんと、オープンすぎないか?
今は特別棟の6階から5階に降りて探索しているのだが、ドアが閉まっている部屋とシャッターの降りた通路ばかりだった。
急がないと、気を失って“夜”を迎えてしまう。そう焦りだしたところで十夜がポンと手を打った。
「お嬢様、華道部室にいたのは御桜春彦なんですよね?」
「うん。それがどうかした?」
頭上にひらめき電球マークを浮かべた十夜が、指をぴんと立てた。
「御桜を含む生徒会の役員達って、まるで漫画の登場人物みたいだったじゃないですか。主要メンバーは全員イケメンで、名前に季節の文字が入ってて、部活の部長してたりエースだったりして」
まぁ実際、乙女ゲーの登場人物だからね……とはさすがに言えないが、こっくりと頷く。
「脱出するために倒す必要があるボスが生徒会メンバーだと仮定すると、それぞれに一番縁のある場所を探すのが手っ取り早いんじゃないでしょうか?」
「な……るほど」
確かに。当てもなくうろうろするよりは良さそうだ。
「となると、ここから1番近いのは……」
十夜も同時に思い至ったのだろう。
同時にゆっくりと同じ方向を向いた。
それは、やや前方に見える下の階への階段。
「一番近いのは、この下の階の……生徒会の書記、冬野目雪柊が料理部で活動していた場所……家庭科室ね」
「はい。5階の探索は切り上げて、降りてみましょう」
知らず生唾を飲み込んでしまう。
御桜はある意味チュートリアルというか、ほとんどギャグみたいな存在だったからあまり怖くなかったけど……。
それでもワイヤーが肉を引き裂いてくい込んでいる首元や、死人とはっきり分かる青白い顔は、ほとんど直視出来なかった。
次に会う幽霊がまともな姿をしている可能性もほとんどないだろうし。……ほんと帰りたい。無理。
そんな風に挫けそうになりつつも足を進め、階段の前に立った瞬間。
「お嬢様っ!!」
「あ、れ?」
ぐらりと体が揺れ、視界がぼやけた。
次いで落下しようとする体が十夜の腕により抱きとめられる。
ふつりと意識が途切れ……たと思ったのだが、ゆっくりと一度目を瞑ったもののすぐに目が覚めた。
「危なかった……」
はたと気がついてみれば、床に座り込んだ十夜に抱きしめられている。
何事かと視線を巡らせれば、周囲は“夜”になっていた。
「あ……」
明るかった昼間の光景から一変して、視線を向けるのも怖い程の暗闇が広がっていた。
その光景にぶるりと全身の毛が逆立つ。……が、それよりも。
「と、十夜! 助けてくれてありがと、私もう行くわ!」
がばりと立ち上がって階段へ駆け出そうとするも、片手をがしっと握られる。
それにギクリとして振り返る。……今は、“夜”だ。
しかし予想とは違う視線が返ってきて、私は目をぱちくりとしてしまった。
「お嬢様……」
そこには心底不安そうな、私を案ずる目があって。
「今、俺がいなければ……お嬢様は気を失ったまま、この階段を転げ落ちていました」
「あ……」
そっか、確かにそうだ。
“昼”と“夜”の境目は強制的に意識を失って無防備になる。
今、私、階段に頭から落ちそうになっていたんだよな……。
それに思い至って遅ればせながら青くなっていると、十夜が酷く苦しげな声を出した。
「どうして俺は、お嬢様の行く先に着いていけないんでしょう。……多分その階段から先には俺、行けませんし。……こんなに危なっかしいのに」
悔しそうな十夜の声。
最近、こんな声ばかり出させているなぁ。
ここに来てからも。……ここに来る直前も。
「大丈夫よ、十夜」
離したくないと言うように握ってくる手をそっと外し、俯いたその頭をぽんぽんと叩いた。
「行けないと思うってことは、ここに謎バリアがあるのね。……ちゃちゃっと行って解決してくるから、待っていて?」
しょぼくれた様子がちょっと可愛くて、子供をあやす様にそう言えば……十夜はややしてから、しぶしぶと頷いた。
◇
「あひぇぇぇ、こここここわ、怖いって無理無理無理、十夜、とおやー!! ぎゃぁぁー!!」
ちょっとこう、主ぶって余裕かましたのがいけなかったのかもしれない。
階段を降りた先の4階は……もはやおばけ屋敷だった。
「ひっ!!」
物陰に隠れていれば、真横の壁にダダダンッ!と音をつけて赤い手形がつく。
「ぎゃー!!!!」
焦って走り出せば、廊下の窓が一斉に軋んで真っ黒に染まる。
「はぁっ、はぁ、こんちくしょー……これ、冬野目がやってんのかしら?」
冬野目の悪口を言えば、今度はどこからともなく笑い声が響き、廊下に血糊がぶちまかれた。
「ぴぇ……」
そんな阿鼻叫喚の状態に白目をむきながらひた走る。
……これなら、謎バリアに十夜を蹴っ飛ばして突撃させて、無理やり突破できないかとか試せばよかった……。
そんな外道なことを思いつつ、私は家庭科室のドアを開けた。
やっとこステージが進みました。
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