蛇を追いかけたら
首都に入る前に、リッターさんにいろいろと話を聞いておいた。
まず、自分の待遇について。
こちらはまだ村を襲わせようとした『容疑』であるため、酷い扱いは受けないそうだ。
しかも、逆に『幻獣』と契約し、追い払った人である可能性のほうが高いため、少し良待遇にしてくれるらしい。
他には魔法についての話ももう少し聞いた。
魔法の属性は火・地・風・水・雷の基本属性と、特殊属性に分けられるそうで、適性がないと使えないらしい。多くはないが全属性持ちもちらほらいるレベルなんだとか。
「しかし自分がどの属性を持っているかわからなければ意味がない。そこで出てくるのがこの『属性の羅針盤』だ」
そう言いつつ馬車の奥から古めかしい羅針盤のようなものを取り出した。
「この羅針盤に魔力を込めれば、六ケ所に刻まれている各属性に対応した模様が属性の象徴色に光る」
そう言ってこちらにその羅針盤を渡し、
「記憶が無いのなら使える属性も忘れているだろう?試しにやってみてはどうだろうか?」
爽やかスマイルが眩しい。いい笑顔過ぎて直視できない。
気持ちは嬉しいのだが…
「俺、魔力の通し方とかも忘れてて…」
というか、まず知らない。
すると、リッターさんはまるで何も知らない教え子を見るような顔で、
「安心したまえ。なんとなくのイメージさえ持てば、指向性のない魔力の操作など勝手にできるものなのだ」
どうやらこの世界の魔力はイメージ等が大切なタイプらしい。
「それならお言葉に甘えさせていただきます」
因みに、中央にはギフトの所もあるそうで、極稀にギフトの位置が光らない人もいるらしい。
魔力の流れがいまいちまだわからないけど、とりあえず全ての属性とギフトを光らせることに成功した。
ギフトがどんなものなのかは、『判定師』なる職業の人にしか分からないそう。自覚する場合もあるらしいが、極稀だとか。
しかも、複数のギフトを持つ場合、『判定師』でも一つしかわからないんだとか。
もし自分の無実が証明されたら、時間を取ってしまったお詫びに腕のいい判定師に判定してもらえることにもなった(リッターさんは、もう人の性格を見て無実だと判断したようだ。ならこのまま解放してくれてもいいんじゃ…とも思うが口にはしない)。
(俺、自分でギフトの名称わかったんだけどやっぱりこの鑑定能力やステータスウィンドウは他の人とは違うのかもな…)
そんなことを話していると、首都の入り口に着いた。
「そうだ、トウキ殿。その模様は隠したほうがいいかと思います」
手首の契約印を指しながらリッターさんが忠告をくれた。
「どうしてですか?」
「主獣契約者は良くも悪くも目立ちます。このタイミングで近衛騎士団に連れられているのです。いい方に解釈されれば『幻獣』を降した英雄として騒がれますし、悪い方に解釈されれば村を襲おうとしていた犯人と思われて過激な人に命を奪われる可能性も出てきますので」
なるほど。確かに面倒臭そうだ。
「けど隠し方がわからないんですが…」
「それなら簡単です。模様を意識して消えろと念じればいいだけですから」
試してみると本当に消えた。
「出したい時はその逆をすればいいので覚えておくといいと思います」
「教えもらいありがとうございます」
「いえいえ、大した事でもないですので」
爽やかイケメンスマイル炸裂。
すると、馬車が止まった。
「付いたようですね。トウキ殿、目的地までここから少し歩きますのではぐれないように注意してください」
はぐれる?確かにここは知らない地だけど、人通りも少ないし、はぐれるなんてことないだろう。
―――そんな自分の考えが、どれだけ浅はかだったのかということに気付くのに、そう時間は要さなかった。
―――――――――
大通りはすごい人混みで溢れかえっていた。それも、渋谷のスクランブル交差点など比べ物にならないほどだ。
―――確かに関門付近の人通りは限りなくゼロに近く、廃れた印象を覚えたが、よくよく考えればそれもそのはず。何故なら外には危険な『幻獣』が居た訳で、余程の物好きでなければ街から出ようとは思わないはずである。
早速リッターさんとはぐれたので、街の様子を観察する。
建物はゴシック式に似ていて、道路はレンガ製。石レンガで出来た城や城壁。―――多少の違いなどはあれど、さながら中世である。
こういう所に一度は来てみたいと思っていたのですごく心を踊らせていると、何やら足に絡みついた。
なんだろう?と確認すると、
シャァァァ!
ヘビが威嚇していた。
「わ!?」
と驚いていると、ヘビは気がついたことに満足したように威嚇を辞めた。
そして、1つの路地の方へ進み、
―――クイクイ
と頭を振ってきた。
付いて来いってことかな?などと思い、付いていく。
しばらくの間、入り込んだ薄暗い路地をヘビを追って進む。どこまで行くのかと思いながら歩いていくと、日が漏れて来て…
「………!」
少し開けた人の居ない小さな小さな噴水のある広場に出た。
建物の間を縫って降り注ぐ陽の光。
どこからともなく反響する鳥の囀りと噴水の水の音。
まるで、大通りの喧騒の中、時間を切り取られ忘れられてしまったかのような。元の世界じゃ絶対に見れない、目を見張る景色がそこにはあった。
その風景に見惚れていると、ヘビが一人の少女の前で止まった。
少女はヘビに一言二言声をかけると、こちらを向いてきた。
そして、
「こんにちは。ご主人様」
綺麗な笑顔を向けて、拙い喋り方で、そんなことを口走った。
―――――――――
「…どうしたの?ご主人様」
綺麗な赤色の瞳で覗き込まれた。衝撃で固まってしまっていたようだ。
「ご主人様?俺が?」
人違いとかじゃなくてか?
なんて疑問に思っていると、
「あなたの手首を見せて」
そう言って右手を取ってくる少女。
何をするんだ?と聞こうとしたその時、
あむっ
少女が手首に軽く噛み付いてきた!
驚いて振りほどこうとするも、少女が両手で抑えてきて振りほどけない。細い腕のどこにこんな力があるのか…
「んっ…」
ピチャクチュ…
そのまま艶めかしい声と音を立て手首を舐めてくる。
思春期男子には少し(どころでなく)毒である光景が展開されていた。
しばらくすると少女は手首を解放してくれた。(その間の悶絶等は都合上割愛されました。)
一体何が目的だったのかと少女の唾液塗れの手を見ると、
「なんで…」
ヘビの幻獣の契約紋が浮かび上がっていた。
浮かび上げようとは思ってなかったので、なぜ浮かび上がったのか少し真剣に考えていると、
「それは私との契約の証。だから、あなたは私のご主人様」
…目を逸らしていた最も可能性の高かった回答が与えられた。
「…人の姿になれたんだ?」
「姿を変えるギフトは私達には多い。全てはそれぞれのご主人様に必要以上の迷惑をかけない為」
ギフトって人間以外にもあるのか。
というか、
「ご主人様って呼ぶの、責めて人前ではやめて欲しいんだけど…」
そうすると少女は髪を揺らし、
「なら、他の呼び方を教えて」
「トウキって呼んでくれると嬉しいかな。あと、君の名前は?」
「私の名前は無い。トウキが決めて」
…ネーミングセンスのない俺に名前を決めろだと…!?
勢い良く頭を抱え思考する。
昔読んだ本の知識等を総動員して名前を考えていると、その様子にヘビの少女は首を傾げていたが。
…決めた。
「メアリー。メアリー・ヴィペール、ってどうかな?」
すると少女は少し俯き、
メアリー…ヴィペール…
と、少し吟味した後。
「うん。いい。私の名前はメアリー・ヴィペールでいい。とても気に入った」
すごく可愛い笑顔を向けてきた。
…この笑顔の破壊力といったら凄まじかった。
本当に心から気に入ったらしく、すごくニコニコしている。
―――――――――
その後、ステータスが更新されていないか気になり開いてみたのだが。
―――――――――
ステータス
名前 : トウキ・スルガ
称号 : 異世界転移者
レベル : 1
《魔法適性属性》
全属性
《スキル》
無限異空間収納
《種族固有能力》
人種系固有
・オルタナティブコネクト
《ギフト》
エルデアの加護
メアリーの加護
《主獣契約》
メアリー・ヴィペール(従)
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能力値表記が消え、レベル、魔法適性やアーキタイプの欄が増えていた。
もしかすると自分が意識していないと出ないのか…?
因みに人種系固有は、人型(人型になれる魔物などの一部を含む)種族が持つ固有能力で、人によって後につく名称が変わっており、それによって効果も変わるのだとか。
そんなこんなで日が暮れてきて、そろそろリッターさんを探さないとなぁなんて考えているうちに思い出した。
「なあ、メアリーと結んだ主獣契約ってどんな内容なの?」
すごく気になっていたので、銀髪長髪の少女に尋ねる。
「私が結んだ契約は、大体―――」
1.トウキを主と認め、ある程度の意思決定権を委ねる。
2.契約内容の変更は両者の合意のもとでのみ行われる。
3.契約期限はどちらかが死ぬまでとする。
4.主を傷付ける行為をしない。
5.主が必要とするのならば意識同士を繋げ、直接意思疎通出来るようにする。
6.他、私の力を加護として分け与える。
「―――こんな感じ」
あれ?かなり相手の許可無く結ぶには重い気が…いやまあでも、契約内容を変えれるって条件もあるし平気か…?
「メアリーの加護ってどんなものがあるの?」
ちょっとというか、大分気になる。
「ん…例えば、近くにいる蛇を従えれたり、蛇毒が効かなくなったり…」
それはすごいのかすごくないのか…多分すごいんだとは思うが。
「他にもあるけど、使えそうなのはこのくらい」
他にもあるけど説明しないってことは、多分本当に使い道がないのだろう。
リッターさんを探さなければいけないので、これ以上立ち話はやめて、歩きながら話すことにした。
「ヘビを従えれるって言ってたけど、そのヘビが知らない人を探すことは出来るの?」
俺もヘビに案内されていたが。
「トウキが知っていれば可能。探させる蛇に必要な情報を開示しようと思えば出来る」
それはラッキー。リッターさんを探すのを手伝って貰おう。
「従わせる方法は?」
「蛇に呼びかけるの。して欲しい事を念じて心の中で呼びかければ、周囲の蛇が応えてくれる」
呼びかけるって…どんな風に?と思ったが、習うより慣れろである。ぶっつけ本番の勢いでやってみる。
(近くにいるヘビたち。リッターさんを探すのを手伝ってくれ)
すると、『りょーかいでーす』と、間の抜けた声が頭に響いた。
…今のは近くにいたヘビの声か?俺っていつの間にヘビの言葉がわかるようになったんだ?なんて考えていたが、きっと隣の銀髪少女の加護だろうと納得する。
そういえば。
「ヘビって俺の位置分かるのかな…」
今から自分たちでも探すのだから、そうなると移動することになる。
その時ヘビがこっちを探せるのだろうかと思っていると。
「大丈夫…、従えてる間は簡易的な契約を結んでるのと同じ。契約を結んでいる同士は意識してれば場所がわかる。…なんとなくだけど」
そんなものなのか。
「って言うことは、俺もメアリーの場所がわかるの?」
「可能…だと思う」
なぜ自信なさ気なのか。…まあいいや。
探している間。話すこともなくなったのでメアリーについて聞くことにした。
「どこで人の言葉を覚えたの?」
「トウキの言語語学中枢とか、他の人のそれを覗いて覚えた」
なんかやだなそれ…
拙い喋り方なのはまだ慣れてないからか?
そんなことを思いつつ、次の質問へ。
「他の姿になれるの?」
すると、メアリーは首を振り、
「少なくとも私は無理」
少なくとも、ってことは、他はできる可能性があるのか。
「トウキはこの姿、嫌い…?」
そんな悲しそうな目でこっちを見ないで!
「そんなことないよ!?すごく可愛いと思う!」
慌てて弁解。
「可愛い…そっか…」
頬を少し赤くしたメアリーが嬉しそうに笑う。
落ち着け俺の自制心。
そんなことをしていると、
『みつけましたー』
という声が頭に響いたので、意識を集中させ、場所を探してみる。
なんとなくこっちかな?という感じがする方向へ向く。
「見つかったらしいから、行こうか?」
「…ん、わかった」
歩いて行くと、メアリーが手に絡みついてきて、すごく緊張した。
―――――――――
「リッターさーんっ!」
歩くこと10分ちょっと。ようやくリッターさんを見つけた。
「おお!トウキ殿!よかった。もし見つからなければどうしようと考えていたところです」
普通、逃げようとしたのではないかと疑うものだろうに、リッターさんはそんな素振りすら見せない。
『ではわっちはここでー』
(ああ、手伝ってくれてありがとうな。助かった)
『どういたしましてー』
そう言って、リッターさんの足元にいた蛇は去っていった。
「ところでトウキ殿。その後ろに居る御仁は?」
しまった。考えてなかった。
「ついさっきそこで知り合いまして―――」
そこから先をどうしようかと考え、メアリーの方を向くと、
「…メアリー?」
メアリーは俺の後ろに隠れて怯えるようにしてリッターさんを睨んでいた。
…あー、こっちも忘れてた。
幻獣であるメアリーを討伐しようとしていた人のリーダー的存在なのだ。傷がなくて忘れていたが、相当怖かったはずである。
その様子を見たリッターさんは鋭く、
「トウキ殿。人の少ない路地に入りましょう。そこではぐれている間にあった事を包み隠さず聞かせていただけますか?」
この人にそう言われては、拒否することなど出来るはずがなかった。




