40話『ミッション:佳奈とのデート』
佳奈によるミッションを遂行する日。
ミッションと称すると重々しく思えるが、ただのデートである。
約束した日のことを考えると、純粋にデートをしたがっているように感じられた。
もっとも、女性の考えていることなんて分からないのだけれど。
あの人たち嘘吐くのすげぇ得意だからね!
特に佳奈。
アイツ嘘に嘘を塗り重ねるやべぇ奴だから。
駅に到着し、辺りを見渡す。
駅ナカのコンビニ近くに立って、スマホを触る佳奈の姿があった。
集合時間まではまだ二十分ほど余裕がある。
一旦引き返して、五分前くらいになったら声掛けようかなとか立ち止まって考えていると、あちらが俺の方に気付いた。
視線をこちらに向けて、はにかみながら、手元で小さく手を振る。
俺も周りの視線を気にしつつ、小さく手を振り返す。
「おはよう」
「けーちゃん、おはよう。早いね」
スマホをしまった佳奈はパタパタとこちらへ駆け寄ってくる。
「早いのはお互い様だろ」
「えへへ、それもそうだね」
指をくるくるさせている。
「で、俺は特にプランとか考えてないけど大丈夫なんだよな?」
今日は佳奈が誘ってきた。
デートプランは任せて! と、言われたので特に何も考えていない。
故に大丈夫じゃなかったとしても困るだけなのだが……。
「大丈夫! ちゃんと考えてきたから」
胸をポンっと叩く。
Bカップのお胸が揺れる。
「そうか、じゃあ任せた」
「うん、任せて!」
こうして、佳奈プレゼンツのデートがスタートしたのだった。
何度も一緒に隣を歩き、何度も共に眠ったような関係。
であるのに、なぜか今日佳奈を隣に歩くのは新鮮に思えた。
新鮮さなんてどこにもないはずなのに。
◇
まず向かったのは映画館だった。
どうやら、映画を観るらしい。
付き合っている時に使っていた映画館である。
思い出の場所とでも言うべきだろうか。
「じゃじゃーん!」
という掛け声と同時に、ヒラヒラと二枚のチケットをまるで諭吉さんのように揺らす。
「前売り券……か」
「正確には招待券ね」
んだよ、今の訂正必要だったか?
そんなことを心の中でぶつぶつ文句を垂れながら、佳奈から招待券を受け取る。
『自殺しようとしていた学年のアイドルに告白してみた結果』
という作品である。
確か……ライトノベルから映画化に至った珍しい作品だったと認識している。
しかも、ドラマ形態である。
二次元ではなく、三次元で作品か描かれていく。
アニメやライトノベルが好きな層とドラマが好きな層を取り込むことに成功し、一躍有名作品へ名乗りを上げた。
っても、そこまで詳しくないのでどこかでそんな話を聞いたような気がするな……程度だ。
「なんで招待券なんか持ってるんだ? しかも、期限今日までじゃん」
「バレちゃった?」
てへっという感じで誤魔化す。
デートに誘われた理由が何となく分かった。
この招待券を消化したかったのだろう。
友達を誘えば良かったんじゃないかと思うが、俺との関係を少しでも修復したいと考えているのであれば、これに託けて外出に誘うっていうのは合理的である……と、少なくとも俺は思う。
「友達から貰ったんだよ」
なるほど。
これ、お友達様から貰ったチケットだったんですね。
それじゃあ、少なくともその友達周りの人を誘えないよなぁ。
多分、二枚貰ってるってことは『彼氏と行ってきなよ☆』って誘われているんだろうし……。
そもそも誘う相手俺しか居なかったんじゃないだろうか。
もう、やめておこう。
深いことは考えないでおこう。
「ま、それじゃあ有難く受け取って……と」
ポップコーンと飲み物を購入し、レッツゴー。
劇場内へと入場し、某映画泥棒や、映画の予告などを眺めつつ、時間を潰し、本編を観たのだった。
映画が終わり、俺たちは場外へとやってきた。
外の新鮮な空気を吸いつつ、今はある目的地へと向かって歩いている。
モノレールの駅近くにあるフードコートだ。
ここもある種、思い出の場所と言えるだろう。
映画を観たあとは毎回同じフードコートでご飯を突っつき合いながら、映画の感想を語り合っていた。
「なぎちゃんの演技凄く良かったよね」
「なぎちゃん……?」
そんな登場人物居たっけ。
俺は首を傾げるが、すぐに答えへ辿り着く。
「女優さんか」
「え、うん。そうだよ」
何言ってるんだお前?
そう言いたげな視線を送ってくる。
しょうがないだろ。
芸能関係に俺は疎いんだよ。
最近流行りの俳優とか女優って分からないし、俺の中では十年前くらいの記憶でストップしている。
俺の知っている女優さん大体結婚しちゃってるしな。
もう、何度ニュース番組で悲しんだことか。
「ちゃんとラブコメしてたね」
「そうだな。コメディ要素は薄かったような気もするけど」
「コメディ要素が濃いラブコメなんてそれこそ珍しいでしょ?」
「ま、それもそうだな」
俺は頷き、氷の入ったグラスを呷る。
「私が正しい選択してたら、あんな感じの恋愛になってたのかな? 私たちって」
突然倒置法を活用してきた。
「どうだろうな」
と、声を漏らし、瞳を閉じる。
付き合っていた時のことを思い出す。
外で……少なくとも周りに目があるところで、イチャイチャしたりはしなかった。
精々隣を歩くくらい。
少なくとも、手を繋いだり、抱擁したり、接吻を交わしたり……そういう濃密なことは見せつけていなかった。
あくまでも、こっそりとやっていた。
「まぁ、あれはどちらにせよやってなかったと思うぞ」
結論に辿り着き、呟く。
あぁ、結局佳奈と一緒にいた時って幸せだったんだなと振り返りと同時に思い知らされる。
浮気された、間男と性交した映像を見た。
この二つで俺の幸せは綺麗に崩れた。
幸せと同時に信用も失った。
この事実も同時に再認識し、幸せだったという過去の話……で処理をする。
決して、もう一度味わいたいなどとは思わない。
「それもそっか」
佳奈はうんと頷く。
俺たちはしばらく感想を語り合った。
数時間が経過する。
日差しが眩しく、サングラスを欲してくる頃合。
あと数十分もすれば、黄昏色に空は染まるだろう。
モノレールに乗り、揺られる。
富士山が綺麗に見える。
天気が良いとモノレールに乗りながら、富士山が見えるのだ。
やはり、日本人は富士山に心を奪われるそういう宿命なんだな……。
とか、変なことを考えながら揺られ、最寄り駅へと到着する。
そのままの足で向かったのは大学。
まだ、デートは終わっていないらしい。
俺はてっきり終わったと思っていた。
もう帰るつもり満々だったのだが、それを口にしたら佳奈は不機嫌になるだろうし黙っておこう。
十数分歩くと、大学へ到着する。
今日は休日な上に、もう夕方。
当然ながら、門は閉まっている。
「流石に開いてないよな」
「そうだよね」
佳奈はそう言いつつ、門をよじ登った。
ファンキーすぎやしませんかね。
いくらここが八王子だからって、ファンキー過ぎるでしょ。
「何してんだ」
「何してるって……。学校に行くんだよ?」
佳奈は門の上に乗って、しゃがみながら首を傾げる。
まるで、当然というような表情。
それどころか、手を伸ばしてくる。
何これ? 来いよ高みへってか。
やかましいな。
「不法侵入しろと」
「むー、けーちゃんが嫌がるなら良いけど」
佳奈は頬を膨らませる。
「ま、良いか。
どうせバレても退学にはならないだろうしな」
押しに負けて、俺は佳奈と一緒に門を飛び越える。
もちろん、佳奈の手は借りない。
流石に女の子の手を借りるのは恥ずかしいからね。
つかつかと佳奈は進んでいく。
歩き慣れた道。
人が居ないだけで、道自体はもう何年も歩き続けている。
だからか、これからどこに連れて行かれるんだろうという不安もそこまで大きくならない。
学校内であれば大抵の場所は分かるからだろう。
知っている場所という安心感があるのだ。
きっとね。
「一体俺は今どこへ連れていかれるんでしょうか」
この状況を楽しみつつ、ちょっと丁寧に聞いてみる。
「なんで敬語」
「深い意味は無い」
「変なの」
変人扱いされてしまった。
なんでだよ、たまには敬語使ったって良いだろ。
「どこに連れていかれると思いますか?」
佳奈も楽しくなったのか、ニマニマし始める。
で、悪戯っぽい口調だ。
「なんで敬語」
「もー、なんで真似するの?」
「したのはそっちだろ」
不満なのか口を尖らせている。
薄井だったら「深い意味は無い」って返してくるところだったな。
やはり、女の子の扱いは難しい。
「忘れ物でもしたのか?」
「忘れ物したら普通に一人で取りに行くから」
「じゃあ、俺には分からん」
両手を上げて、お手上げのポーズをする。
「連れてきたかったのはここ」
と、佳奈は先の方にある教室を指さす。
俺はここを知っている……って、それは当然か。
しばらく歩くと見えてくる513教室。
俺たちにとっての思い出の場所。
出会いの場所である。
大体わかった。
今日のデートは思い出の場所を巡っているのだと。
それなら俺の家や佳奈の家へ連れて行ってくれれば、すぐに把握出来たのにとか思ったが、初っ端から分からせるつもりは無かったのだろう。
別れてからも俺の家や佳奈の家にはちょくちょく行っているわけで、あまり味気ないってのもあるのだろうし、後は純粋に俺と両親を会わせたくないっていう佳奈の思惑もあるはずだ。
ってなると、これが最善ルートになるだろう。
ま、一つ忘れられている所があるけどな。
「佳奈も粋なことするじゃん」
「えへへ、けーちゃんとデートするならね、けーちゃんとじゃないと出来ないデートしたかったから」
俺とじゃないと出来ないデート……か。
ま、確かに俺とじゃないと出来ないというか成立しないな。
違う男と同じ場所を巡ったところで、意味が分からないという感想を持たれるだけだろう。
少なくともこの場所はそうだ。
他の人間からすれば、ただの教室他ならない。
「懐かしいね」
佳奈は教室の扉に手をかけながら、そう呟く。
「そうだな。
ま、俺はこの間佳奈を探した時にここ来たんだけど」
「え、ここまで来てたの?」
「言わなかったっけ?」
「聞いたような……」
佳奈は口元に手を当てる。
どうやら覚えていないらしい。
「ここで私たちは出会ったんだね」
佳奈は教室の中を見つめながら、微笑む。
どんな感情を抱きながら呟いたのだろうか。
彼女の表情から感情を読み取ることは出来なかった。
ご覧頂きありがとうございます!
引き続きお付き合い頂けると嬉しいです!
これからもよろしくお願いします。




