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終末の太陽  作者: 大窟凱人


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7/9

不在の眼

 SNSでのいじめ動画アップや身元晒しの私刑が多発している。サイバー犯罪課でも悩ましい問題だ。気持ちはわからないでもない。私も人間だから。

 

 とはいえ、私刑が許されざる邪悪な思想に基づいているのは明白。いじめレベルの話では気付きづらいが、私刑は暴走すれば大量虐殺につながってしまうのだ。魔女狩りからナチスまで歴史を振り返れば事例は山ほど。いずれも、個人、または一組織だけのロジックで敵を作り、裁いた結果だ。誰もが自分が正しいと思って断罪した。だから法による手続きがいる。


 我々サイバー犯罪課は本腰を入れ、晒し行為に対処した。もちろんいじめを許しているわけではない。同時並行だ。


 粘り強く誠実な我々の仕事と政府による啓蒙活動。そこに法改正と規制強化も加わり、ネットでの晒し行為は数年には沈静化した。


 しかし……


「部長」


「なんだ?」


「最近また、いじめの動画がアップされてます。それもすごい数です」


 私は部下にPC画面を見せられた。胸糞が悪くなるような映像がいくつも流れている。かつて見た光景だ。


「いつもように対処すればいい。何か問題があるのか?」


「それが……アップした端末の持ち主がまるで特定できなくて。それで、動画に映っている人を探して直接調査してみたんです」


「それで?」


「誰も撮っていなかったんですよ。近頃は動画を使ったらどこかでバレるから撮らないって言ってて」


「嘘をついているんだろう」


「いえ、端末を回収して徹底的に痕跡を調べました。少々強引でしたが。しかし動画はありませんでした」


「じゃあどこからだ」


「はい。複数調査しまして、いくつかの動画に共通点があったんです」


「ほう」


「見つかったのは、いじめに参加した全員が運よく映っていた動画5件です。いいですか。これらの動画には、全員が映っていたんです。つまり、誰もいないはずの場所から動画は撮影されていたんです」


「……お前はまさか、幽霊かなにかが映像を撮って、それを拡散しているというのか?」


「事実をありのまま報告しただけです」


「……わかった。下がっていい」


 いじめ動画のアップや加害者の情報公開はなおも続いた。


 数日後、動画を晒されたいじめっ子が一般人複数名に自宅に押し入られ、リンチされて死亡。


 3日後、同じく晒されたいじめっ子が登校中にナイフで刺され死亡。


 1週間後、自作の銃火器をもった男が学校に侵入。いじめを行った生徒をネット中継しながら公開殺害。


 同じような事件が立て続けに起こった。


 日々、規模と残虐さは増していく一方だった。


 さらに、晒し動画はいじめ以外にも波及していった。浮気現場、仕事の不正、ほんの小さな嘘やミスまで、動画が晒され、罪を犯した人の情報が公開される。


 上手くカモフラージュされているが、密室や壁の中など、とうていあり得ない視点からの映像も多数発見された。


 人々はほんのささいなことで憎しみ、潔白な人間と、そうでない人間という分断が、少しづつ起こり始めていた。


 動画を晒し続け、民衆に憎しみを煽り続けている《《そいつ》》は、単に復讐だけが目的なのだろうか。

 

 あるいは。



 それから一カ月が経った。


 サイバー犯罪課にはどうにもできない。《《彼》》は我々の捜査も巧みに妨害するようになった。


 ありもしない罪をでっちあげられて民衆に裁かれた仲間もいる。


 さらには、我々には手が出せないような大物の官僚や政治家の不正まで暴かれた。


 もう、人知を超えている。


 死霊による監視社会、言論と思想の統制。ディストピアが成立しつつある。ここから先は未知の領域だ。


 最後にひとつ謝らせてくれ。


 私は、ネットの晒し行為はなくすことはできても、いじめ自体をなくすことはできなかった。いじめなどなくすことはできないと、心のどこかで思っていたのだ。


 ほんの少しでもことの本質に向き合っていれば、この状況は発生しなかったかもしれない。


 今目の前に《《彼》》が来ている。


 自らの命を絶つことで罪を償おうと思う。それが《《彼》》の望みだから。


 諸君らの健闘を祈る。

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