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第二十一話『敵』

本日二本目の投稿です。予定通りにできて良かった。

   第二十一話『敵』



 攫われたのは琴房も知っている通り、体育の授業で絹衣を刀の状態で一人教室に残してきた時間。

 その誰もいない教室に虚屋辰朔と左奈江がそれぞれ二本の刀、計四本の刀を持ってやってきた。

 形状からして銀鬼との戦いに使用していた四神刀であろう。

 この時点で危険を感じた絹衣は人の状態に戻った。


「あなたたちはいったい何をしているのですが」

「現れたな妖刀」


 辰朔は憎悪の孕んだ目で絹衣を睨む。


「お前さえいなければ、ボクがあんな木行使いに負けるはずがない」

「そちらも数郷の刀を使っていたでしょ」

「うるさい!! 道具の分際で口答えするな!!」


 自分が負けたことを認めたくない辰朔は、言い訳の矛先を絹衣にむける。


「どうだ妖刀。ボクの物にならないか」

「ふざけて事を、突然になにを言いだすのですか」

「ボクは優秀なんだ、あんな木行使いよりキミを使いこなせるよ」

「お断りします」


 考えるそぶりも見せずに即答で断る。言葉の刃が辰朔の誘いを一刀両断にした。


「あなたには私を使いこなせん、私の唯一の使い手は琴様だけです」


 過去数百年、絹衣を使い命を落とさなかったのは琴房一人、浄化の力を持たない人間には絹衣を使うイコール命を落とすに直結している。


「……そうかい、だったらしょうがないな」


 気に入らないことが起こればわめき散らす辰朔が静かに納得した。

 激怒して攻撃してくると予想していた絹衣は、辰朔の大人しい反応に疑問を覚えた。

 しかしその疑問にとらわれ瞬間が隙になってしまった。


「左奈江」


 辰朔たちは持っていた四神刀を教室の四隅に投げる。絹衣を囲むように突き刺さり、左奈江が刀印を切る。


「怨・青龍・朱雀・白虎・玄武」


 描かれる五芒星、左奈江の言霊に反応して四本の刀が反応する。


「これは――」


 絹衣は左奈江が発動した術を瞬時に理解した。それは彼女の主がもっとも得意とする浄化の術。


「浄化の術が使えればお前を使えるのだろう。四神結界発動」


 術を発動させているのは左奈江であるが、辰朔はあたかも自分が発動させかたのように術を宣言した。

 四神の力を模した刀。当然かもしれないが結界の媒介として十分に機能する。琴房ほどではなくても浄化の力、それが攻撃性を持って絹衣一人に集中する。


「あああぁぁーーー!!」


 絹衣があまりの激痛で悲鳴をあげた。


「アハハハ~ ボクに逆らうからそんな目にあうんだ。無理やりでもボクに物になってもらうぞ」

「お、お断り、です」


 苦痛のなかでも絹依は拒絶する。


「道具の意思なんて必要ないんだよ、強制発動せよ義人刀」


 義人刀を刀の姿にする言霊、辰朔は四神結界の力を使い強制的に発動した。

 絹衣は持てる全力で抗った結果。


 ――爆発――


 教室の窓ガラスが割れ、机やイスが吹き飛び壊れる。

 たちこめる黒い煙のなか、力を使い果たした絹衣が刀の状態でおちていた。


「無駄な足掻きをしやがって」


 あらかじめ服に仕込んでいた呪符で無傷な辰朔がガレキをかきわけ玄三日月を拾いあげようとする。

 だが、強力な妖気を内包している玄三日月は辰朔の手を放電するように強く弾いた。


「なんだこれは」

「正式に契約を交わした義人刀は使い手以外には使用不可能と聞きます」

「冷静に解説するな! 知っているならもっと早く教えろ」

「申し訳ありません」


 術者の間では常識的なことであった。知らない辰朔の方が恥ずかしいのだ。


「チッ」


 舌打ちした辰朔が絹衣を足蹴にする。


「使えないならいらない、銀鬼のエサにでもしろ」

「わかりました」


 左奈江はガレキの下から鞘をひろい術加工された手袋をはめ絹衣を鞘に納め封印を施した。




 絹衣が思い出せる限りのことを琴房に伝えた。

 鞘に封印された後の記憶はないらしく、目をさましたのは琴房に救出された時だった。


「虚屋のヤロウ」


 琴房の肩が怒りに震える。

 絹衣の話を聞き、辰朔が義人刀を物としか思っていないことがよくわかった。


 琴房は自分に問う。

 そんな奴が蓮の使いっ手になっていいのかと。

 それで蓮が幸せになれるのかと。


 昨日まであんなに笑っていたのに、今は笑っているだろうかと。


 一緒に買いに行った蓮の携帯、琴房の携帯には蓮の番号が登録されている。

 携帯を取りだし電話帳を開く。

 あとは通信ボタンをおせば蓮に電話がかけられる。

 だが、琴房がボタンを押すよりもはやく、着信を告げるメロディが流れた。


 表示された名前は『蓮』という漢字一文字だけ。


「蓮か!」


 着信から数秒も経たずに電話にでる。


「東夷、琴房か」


 電話から聞こえてきた声は蓮のものではなかった。

 聞き覚えのある声、この街で琴房の事をフルネームで呼ぶ人物は一人しかいない。

 

「メッセか」

「刻継様を助けてくれ」

「蓮がどうかしたのか!?」


 携帯からかすかに爆発音が聞こえてきた。


「虚屋が乱心した。刻継様を手にした瞬間から暴れだしたんだ、体からは妖気も噴き出している」


 なんだそれは。


「意味がわからないぞ」

「私にもわからない、ときかく奴は屋敷で暴れまわっているんだ!」


 爆発の音にまぎれて人の悲鳴までもが聞こえてきた。


「追い出しておいて頼める義理もないことはわかっている。だが、奴を止められるのは同じ義人刀を持つ者だけ」

「蓮を使って人を襲っているのか!?」

「刻継様が必死で抵抗しているおかげで死人はでていないが――」


 時間の問題。


 継承者に選ばれ契約を結んでしまったがために、蓮も抵抗するのがやっとに違いない。

 このまま辰朔が暴れ続ければ間違いなく死人はでる。


「蓮は人を守るための存在だぞ」


 蓮の存在意義を揺るがす行為、琴房の耳には蓮の悲鳴が聞こえた気がした。


「すぐに戻る」

「ありがとう」


 メッセが初めて琴房に礼を述べ通話を終了させる。


「引き返す理由ができた」

『すでに引き返す気になっていましたよね』

「なにか言ったか」

『いいえ何も、主が望むままに』

「おう」


 琴房はリュックを背負い直して屋敷へ。

 改札を飛び越え屋敷までの道を走る。


 この五岬街に初めてきたときに蓮に案内された道筋。

 はじめて蓮と出会ったコンビニを通り過ぎひたすらに足を動かす。


 屋敷の近くまでくると強力な結界で屋敷が覆われているのがわかた。中の出来事を外にもらさない結界、校舎裏で辰朔が使ったものと同種のモノだ。


「解除しているヒマはない、突き破るぞ」

『御意』


 琴房が絹衣を鞘から抜く。


「結界を破ってはいけない」


 結界の中から体を引きずるようにメッセが這いだしてきた。


「来てくれたか、東夷琴房」


 メッセは右肩を斬られ足には火傷を負っていた。


「これを使えば中に入れる。結界は壊さないでくれ」


 血で汚れたお札を差し出してきた。

 琴房は黙ってお札を受け取る。こんな不祥事がバレたら数郷名が地に落ちる。そんな打算ではなく、ただ蓮のためにメッセは痛む体を支えながら琴房を待っていたのであろう。


「刻継様を助けてくれ」

「ああ、まかせろ」

「頼みました一発芸」


 呼び方を元に戻したメッセは、安心した表情で眠るように意識を失った。




 琴房はメッセから受け取ったお札で結界を潜る。

 すると外からは一切見えなかった火の粉が顔に吹き付けられた。


『酷い』


 絹衣があまりの惨状に憤る。

 結界の外からはいつもの屋敷に見えていたが、中に入れば門はくずれ屋敷は炎に包まれていた。

 崩れた門を飛び越え屋敷の中へ。


「蓮!!」

 琴房は蓮の名前を呼ぶ。


「絹、蓮の位置はわかるか」

「探す必要はないよ、お目当ての物はこれだろ」


 上から見下したような声が降ってくる。見上げれば燃え盛る屋根の上に蓮珠丸を持った虚屋辰朔が立っていた。両脇には右緒太、左奈江兄妹が控えている。

 三人は禍々しい黒い妖気を放っており、辰朔以外は意識がないのか視点が定まっていなかった。


「来ると思っていたぞ木行使い、決闘のやり直しといこうか、キミも妖刀使うがいいボクもコレを使うから」


 辰朔が自慢するのは当然蓮珠丸、だがその刃は琴房が使っていた時の輝きはなく曇りきっていた、手入れが全くされていないナマクラ刀のようであった。

 あの美しかった輝きがまったくない、琴房のなかで今度こそ本当に辰朔が敵になった。絹衣をさらい蓮の輝きを奪った者。


「蓮を放せ、おまえに蓮の使い手は務まらない」

「負け犬が吠えるな、継承の儀で正式に任命されたのはボクだ」

「まわりが何と言おうが、刀本人が認めない限り使い手にはなれない」

「うるさいよ木行、お前はボクの焚き木なんだよ」


 炎は木を燃やし大きくなる。

 自然の摂理。

 だが、そんなことは琴房には関係ない。


「俺の木は、腐った炎には焼かれない」

「だったら証明してみろよ!!」


 辰朔の合図で脇に控えていた兄妹が四神刀を両手に持ち襲い掛かってきた。

 琴房に迫る四つの凶閃を絹衣の黒い刃で打ち返す。


『以前より動きが早い、妖気で身体能力が上っています』


 迫る刃を交わしながら絹衣が相手を分析する。


『ただ、思考が行われていないので動きが単純です』


 左奈江を受け流し、右緒太の刃を受け止める。


「おい右緒太」

「おうお~」


 襲いくる右緒太にダメもとで呼びかける琴房だが、予想通りまともな反応は返ってこなかった。


『完全に妖気に飲まれています。琴様にとっては抜群に相性のいい相手です』


 妖気で正気をなくしているなら、妖気を浄化すればすむ。浄化はもっとも琴房の得意とするところ。

 右緒太を蹴飛ばしリュックに手を伸ばしたが――


「させないよ」


 気づかぬウチに背後に回り込んでいた辰朔が斬りつけて来た。妖気によるブーストで辰朔の素早さも格段に上がっていたのだ。

 完全に斬られるタイミングの斬撃、琴房は全力で真横に飛び、ゴロゴロと転がりながら距離を取った。


「よく今のを交わしたね、絶対に斬りつけたと確信したのに」


 琴房自身も完全に斬られたと覚悟したが運が良かったのか、体には傷はついていない。


「まあ、コレを奪えただけで一撃目は良しとするか」


 虚屋の足元には琴房のリュックが落ちていた。

 体は無傷だったが、リュックの肩紐が斬られていた。


「動くのに邪魔だから下ろそうと思っていた」

「負け惜しみだな、見苦しい、こいつがセコイ木行の術の媒介だと知っているのだぞ」


 確かに浄化の術には神樹の腐葉土を用いると便利だが、それがどうした。


「見苦しいのはコッチだ、仲間まで妖気で汚染するなんて術者のすることじゃない」


 言葉すら話せなくなっている右緒太たち。


「こいつらはボクの下僕だ、どう使おうと勝手だろ」

「そうかい」


 話せば話すほどに意見が食い違う。虚屋辰朔は本当に腐った野郎であった。

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