第84話
南澤ハルが生み出した共有=シェアマインドは、歴史の表舞台には決して現れない。
しかしこの技がこの国の過去と未来に大きな影響を与えた事実と、そして与えることになろう予見は動かし難い。
いまもこの技は受け継がれている。北島姫花と南澤琴実によって。彼女たちが、この技をこの後どう使っていくのかは、この物語では語れない。
しかし、他人の心をシェアマインドするこの秘術は、欲深い人間には使えないだけに、限定した彼女たちだけに与えられた特権なのかもしれない。
彼女たちが大切に守ろうとしているシェアマインドの掟を、いま一度確認しておきたい。南澤ハルと娘たちが120年前に交わした言葉である。
「これを会得しようとするもんは死を覚悟せんにゃならんばい。これを会得したもんは人を助け高か倫理で異なるものを受け止め超えんといかんばい。ほっでよかか、男にはなにがあっても教えちゃいかんばい」
『ばってん姫ちゃん、カーブの打ち方知っとっと?』
かつて自分が打ったカーブの打ち方をこの段で琴実は教えようとした。
『わかってるわよ、うるさいなー』
が、もう遅い。ピッチャーは投球動作に入っている。
『姫ちゃん』
『なによ!?』
『シェアマインド背負うてつらかことばっかり。ばってん、ちのじ乗り越えていくばい』
『今言う、それ? ちのじ? はじめて聞くわねその熊本弁。どういう意味よ?』
『Togetherたい!』
『どうして英語で言うのよ。そこだけ』
『姫ちゃんと“一緒で”よかった』
『な、なによ、こんな時に』
(でも、確かに・・・。わたしたちは分かち合えるもんね、この宿命を・・・。一緒にいてくれてありがとうね、琴ちゃん・・・・)
(Togetherか。ひょっとしたら、シェアマインドも熊本弁に言い換えればちのじになるのかしらね?)
そんなことを考えていると、琴実が最後までお節介を焼く。
『ぼーとしとらんで、ほらほら、ボールもうそこまで来よっと!』
琴実の言ったとおりだった。ゆっくりと曲がってくるカーブの軌道が姫花にはよく見えた。
『自分から話、引き延ばしておいてなにさー!』
姫花はあの時の琴実と同じように、ボールを引きつけて、せーので力いっぱいバットを振り出した。
初夏の澄み渡った青く黄色い空に、白っぽいボールが吸い込まれていく。
了
最後までお読みいただきありがとうございました。ところどころ違和感もあったのではないでしょうか。
当作品は2012年に筆者が初めて出版した作品『秘伝KYO‐YU 狙われた継承者たち』(文芸社)を大幅に加筆修正したものです。反響よければ、2013年に続編として出版した『秘伝KYO‐YU Vol.2 シークレットスキルズ』(文芸社)も加筆修正してみようかなと思います。
水無月はたち
-筆歴-
2023年4月 『戦力外からのリアル三刀流』(つむぎ書房)発刊
2024年3月 『空飛ぶクルマのその先へ 〜沈む自動車業界盟主と捨てられた町工場の対決〜』(つむぎ書房)発刊
2024年7月 『ガチの親子ゲンカやさかい』(つむぎ書房)発刊
2025年7月 『いまじゃ 殺れ 信長を』(つむぎ書房)発刊
2026年3月 『神より選ばれし偶像たち』(つむぎ書房)発刊




