第66話_悲劇の引き金
――祝日。
時空管理局日本支部。
重要施設である支部には、連休中であっても受付と警備を兼ねた
管理局員たちが勤務していた。
受付カウンターの奥。
そこには、でっぷりとした中年男性が座っている。
管理局一筋、勤続二十年。
自称ベテラン局員。
若い頃は戦闘部隊にも所属していた男だ。
そう――、祐司の上司である。
現在は、受付兼、警備担当。
魔力ランクC。総合評価D。
本人は、
「歳で身体が動かなくてなぁ」
などと語っていたが、
祐司からは、
「その贅肉のせいだろ……」
と冷静に突っ込まれていた。
とはいえ、腐っても元戦闘部隊。
施設内には、彼以外にも複数の局員が常駐しており、
有事の際には戦闘要員として動ける者もいる。
平和な祝日。
そんな一日のはずだった。
――
――――
最上階、局長室。
机に向かうミスティ・オーレリア提督は、
祝日など関係なく書類の山と格闘していた。
そんな彼女のもとへ、
ニコ・ラズパレードがお茶を運んでくる。
「艦長、休憩っす」
湯気の立つカップを差し出す、ニコ。
しかし。
ミスティは書類から顔を上げると、じろりと睨んだ。
「……」
「艦長、そんな顔してると彼氏も逃げるっすよ」
一拍。
「あ、いませんでしたね」
「お前――」
低い声。
だがニコは慣れたものである。
こうした軽口は、二人の日常だった。
平和な日本支部。
何事もない祝日。
――そのはずだった。
最初に異変へ気づいたのは、ミスティだった。
ぴくり、と眉が動く。
「……ニコ」
声色が変わる。
ニコも即座に反応した。
「はい?」
「警報準備」
その一言で空気が変わった。
ミスティは探知魔法を展開する。
そして。
次の瞬間。
表情が険しくなった。
「ニコ! 緊急事態よ! 警報を鳴らして!」
「了解っす!」
ニコも同時に探知魔法を展開する。
その顔から笑みが消えた。
「これは……」
施設周辺で急激に高まる魔力反応。
異常な規模。
ただ事ではない。
直後――
支部全体に警報が鳴り響いた。
『警告。警告。侵入者反応を確認――』
そして。
「何かが来る――!」
次の瞬間。
――ドォォォォォォォォン!!
轟音。
建物全体が激しく揺れた。
地上入口付近にて。
――爆発。
「あー……」
急いで、監視モニターを確認したニコが顔をしかめた。
「入口とエレベーター、壊されてるっす」
「……」
局長室から地上までは、
通常ならエレベーターを利用する。
魔法文明ではない地球製設備。
魔力攻撃への耐性は低い。
重要設備には魔導バリアが張られているが、
建物全体を守れるわけではない。
(目的は……、現時点では不明。)
ミスティは即座に判断した。
「警備局員は戦闘準備。侵入者を迎撃するわ」
指示が飛ぶ。
日本支部が一気に戦時態勢へ移行した。
――
――――
地上入口。
瓦礫が散乱する中。
祐司の上司であるベテラン局員は、破壊された入口を見ながら呟いた。
「おいおい……」
警棒型デバイスを構える。
「どこのどいつだ。管理局に喧嘩売る奴がいるとはな」
周囲には警備局員たちも集まり始めている。
だが彼は思っていた。
(後輩の祐司が、休みの日で良かった。)
(まだ、学生バイト。魔法戦闘は出来ないだろう。)
(ぼーっとしていて、話を聞かない後輩だが、
戦闘に巻き込まれることはない。)
――案外、面倒見の良い上司である。
「さて……」
警棒型デバイスに魔力を流す。
現役には及ばないが、
それでも魔法生物や野良魔導士程度なら十分対処できる。
そう思った。
――その瞬間。
目の前に巨大な影が現れた。
巨大なハンマー。
そして。
「唸れ――《トールシュテンプファー》」
轟音。
視界が白く染まる。
彼の意識はそこで途絶えた。
「時間がない」
少女が呟く。
守護騎士レギ。
彼女は倒れた局員を見下ろしていた。
手には黒い紙片。
《宵闇の書》のページ。
黒い紙片が生き物のように蠢く。
気絶した局員から魔力が吸い上げられていく。
まるで喰らうように。
「足りない……」
レギは歯を食いしばる。
まだ、足りない。
――楓を救うには。
《宵闇の書》を完成へ近づけるには。
もっと魔力が必要だ。
視線を上げる。
駆けつけてくる局員たち。
「ごめんな」
小さく呟く。
だが、躊躇はしない。
次々と局員を気絶させ。
断章が魔力を吸収していく。
しかし。
本命は別にいる。
「楓の……、主の為だ」
レギは拳を握った。
「やるぞ、シエル」
彼女の役目は、――陽動。
できる限り暴れ、戦力を引きつけること。
その間に。
もう一人の守護騎士が動く。
――最上階。
――局長室前。
コツ――。
コツ――。
静かな足音が響く。
まるで処刑人が歩いてくるかのような重い気配。
――その足音が止まった。
局長室。
ミスティとニコが、扉へ視線を向ける。
そこに立っていたのは、一人の女性。
長い蒼髪。
軍服と鎧を組み合わせたような魔導衣。
腰には剣型デバイス。
「貴方は……」
ミスティが問いかける。
女性は静かに答えた。
「守護騎士――シエル」
短い名乗り。
報告書に記載されていた存在。
魔法少女カエデに付き従う守護騎士。
その一人。
問答は不要だった。
互いに魔力を解放する。
空気が震える。
ニコが思わず息を呑んだ。
(無理っす……)
(これは完全に戦闘職の領域っす……)
だが逃げるわけにはいかない。
ここは、時空管理局、日本支部。
そして、局長室だ。
ミスティ・オーレリアが一歩前へ出る。
シエルも剣へ手を添えた。
日本支部襲撃。
その真の目的。
それが今、姿を現そうとしていた。
――戦いの幕が上がる。
作者( ゜Д゜):アリスたちが……すぼら生活してる間に大変なことに……。
オコジョ:お、俺っちが……戦うぜぇ(ガクブル)




