第46話_海デート
――電車内
ガタン、ゴトン。
規則的な揺れの中、窓の外には夏の青空が流れていく。
「海!楽しみですわ」
俺の隣で、エリザが楽しそうに笑う。
その反対側――
「……二人が良かったのに」
アリスが、小さく呟く。
そのまま、そっぽを向いて窓の外を見る。
「……」
俺は何も言わない。
(アリス、絶対楽しみにしてたよな)
(夏休みに海に行こうって、約束してたし)
(……でも)
エリザとの関係も、ここで外すわけにはいかない。
(魔法少女オタクとして――)
(これはダブルデート・ミッションだ)
電車がトンネルに入る。
一瞬、光が消える。
その直後。
ガタン――
大きく揺れた。
「っ!」
バランスを崩したアリスが、こちらへ倒れる。
「おっと」
反射的に受け止める。
距離が、近い。
「……!」
アリスの顔が、一気に赤くなる。
「は、離して……!」
「いや倒れるって――」
その瞬間。
「……あぁ~れぇ~」
今度は反対側から、エリザが体を預けてくる。
「……!」
左右からの圧。
近い。近すぎる。
視線の先で――
アリスとエリザの目が、ぶつかる。
バチッ。
見えない火花。
(……いやこれ完全にわざとだろ)
だが――
小さく息を吐く。
戦いも、魔法も関係ない。
ただの――日常。
(……悪くは、ないな)
――海
駅を出た瞬間。
潮の香りと、強い日差し。
「わぁ……」
思わず声を漏らすアリス。
広がる青。水平線。白い波。
「……暑いですわね」
エリザは日傘を差している。
完全防御。
三人で砂浜へ向かう。
――更衣室を出た後。
「……」
思考が、一瞬止まる。
アリス。
白と青のシンプルな水着。
細身の体。透き通るような肌。
少し恥ずかしそうに、腕を組んでいる。
「……見ないで」
「見てない」
「今見た」
「見てないって」
「嘘」
一歩、詰め寄られる。
逃げ場がない。
その時――
「ふふっ」
横から、エリザ。
黒を基調にした水着。
「殿方というのは、正直ですわね」
「これは普通の反応だ」
「否定はしませんのね」
「しない、二人とも可愛いぞ
少し、大胆過ぎだが……。」
即答。
一瞬、沈黙。
「……っ」
なぜか、二人とも少しだけ赤くなる。
――波打ち際。
水が足元をさらう。
「冷たっ!」
アリスが声を上げる。
「はしゃぎすぎですわよ」
エリザが呆れる。
だが――
「……!」
アリスは、少しだけ笑っていた。
次の瞬間。
ぱしゃっ。
「っ!?」
水が飛ぶ。
「……やりましたわね」
エリザの目が細くなる。
ぱしゃっ!
反撃。
さらに――
「やる気ね。祐司にも――」
ぱしゃっ!
巻き込まれる。
「ちょ、待っ――」
完全に水遊びへ。
笑い声。
水しぶき。
夏の光。
その中で。
三人の距離が、確かに縮まっていた。
少し疲れて、砂浜に座る。
「……楽しかったな」
「……うん」
アリスが頷く。
「……とっても楽しかったですわ」
エリザも、素直に言う。
風が吹く。
髪が揺れる。
遠く、波の音。
その中で――
「……ねえ、祐司」
アリスの声。
少しだけ、真剣。
「また……来てもいい?」
時間が、止まる。
迷いはなかった。
「……ああ」
「何度でも来よう」
その言葉に。
アリスが、柔らかく笑う。
エリザも、何も言わずに目を細めた。
(……いいな)
空を見上げる。
(こういうの)
だけど――
胸の奥に、違和感。
思い出せない何か。
欠けた記憶。
(……ま、いいか)
今は。
この時間があればいい。
波の音だけが、静かに続いていた。




